第9章 災害、事故と警察活動

 平成4年には、雲仙岳噴火による災害が継続したほか、台風、大雨、降積雪による災害が発生した。警察では、これらの災害の発生に際して、各種の装備資機材を活用して、被害の未然防止と拡大防止に努め、被災者の救助に当たった。
 また、警察では、「防災の日」の総合防災訓練をはじめとする各種訓練を行ったほか、余暇、レジャー人口の増加に伴い、雑踏事故、水難、山岳遭難、レジャースポーツに伴う事故等が増加傾向にあることから、関係機関、団体と連携して事故防止の諸対策を推進した。

1 比較的平穏に推移した自然災害

(1) 主な自然災害と警察活動
 平成4年における主な自然災害は、雲仙岳噴火による災害(1~12月)、降積雪による災害(1~3月)、大雨による災害(5~10月)、台風による災害(8~9月)等であった。
 これらの災害の発生に際して、全国で警察官延べ約9万8,000人が出動し、関係機関と協力して、災害情報の収集、伝達、被災者の救出、救護、避難誘導、交通規制等の災害警備活動を行い、被害の未然防止と拡大防止に努め、67人の被災者を救助した。4年における自然災害による被害状況は、表9-1のとおりである。

表9-1 自然災害による被害状況(平成4年)

ア 雲仙岳噴火による災害
 2年に噴火を始め、3年には火砕流等による大災害が発生した長崎県の雲仙岳では、4年も噴火活動が継続し、溶岩ドームの成長に伴う火砕流や降雨による土石流が発生するなどの災害が続いた。特に8月8日には規模の大きな火砕流と土石流が同時に発生し、さらに、同月12日及び15日にも大規模な土石流が発生し、多くの家屋が全(半)壊した。このため、警戒区域及び避難勧告区域の指定が継続され、住民は、1年半の長期に及ぶ避難生活を余儀なくされた。
 この災害に際し、長崎県警察では3年から引き続き災害警備本部を設置し、警察官を動員(4年中は延べ約8万4,000人)して警戒区域の監視、警戒等の災害警備活動に当たっているほか、警察庁及び九州管区警察局に災害警備対策室を引き続き設置し、装備資機材の支援を行っている。
イ 降積雪による災害
 4年の降雪期は、4年連続の暖冬のため、全国的に降雪量が平年の半分以下となったところが多く、降積雪に伴う災害被害は、全国で死者は15人、負傷者は77人、建物被害は4棟で、前年に比べて、死者は10人、負傷者は67人、建物被害は21棟それぞれ大幅に減少した。
 これらの災害に際し、関係都道府県警察では、警察官が出動して被災者の救出、救護活動や雪崩等の発生のおそれのある危険箇所の点検、パトロール、交通の安全の確保等を行うとともに、独居高齢者家庭等に対する除排雪の支援活動、通学路における児童、生徒の安全指導等雪害事故の防止のため幅広い施策を推進した。
ウ 台風、梅雨前線等による災害
 4年には、3個の台風(第9号、第10号及び第11号)が本土に上陸し、2個の台風(第3号、第17号)が本土に接近したが、前線の活動が比較的台風の影響を受けず不活発で、集中豪雨の発生は少なかった。これら台風等の風水害による被害は、死者6人(3年117人)、負傷者93人(3年1,529人)で、前年に比べ大幅に減少した。
 これらの災害に際し、関係都道府県警察では、気象情報に基づき早期に警戒体制を確立し、警察官延べ約1万人を動員するとともに、ヘリコプター、警察用船舶等を活用し、被災者の救出、救護、避難誘導、行方不明者の捜索、交通規制等の災害警備活動を実施した。
(2) 災害警備対策の推進
 警察では、災害から国民を守るため各種の災害対策を推進している。中でも大規模地震対策は緊急かつ重要な課題であり、平成4年は、東海地震対策のほか、南関東地域をはじめ過去に大規模な地震が発生した地域を中心に、関係機関と協力して、防災に関する各種の訓練、行事を行い、国民の防災意識の高揚に努めた。
 9月1日の「防災の日」に行われた中央防災会議主催による東海地震、南関東地震を想定した総合防災訓練では、地震防災対策強化地域とその周辺の都県において、地域住民約414万人のほか、警察庁も関係管区警察局、関係都県警察から、警察官約9万2,000人、ヘリコプター等26機、警察用船舶27隻が参加して、東海地震の判定会招集連絡報等の受理及び伝

達、情報の収集、社会的混乱の防止、交通規制、緊急輸送路の確保、被災者の救出、救護等の各種訓練を行った。これらの訓練では、人命の保護に重点を置いて、高齢者、障害者等いわゆる災害弱者の避難誘導、救出、救護訓練、繁華街、ターミナル駅等不特定多数の者が集まる場所における混乱の防止及び都市型災害への対応訓練を行った。
 その他の地域の道府県警察でも、8月30日から9月5日までの防災週間中に、関係機関と協力して、地震及びこれに伴う津波等を想定した訓練を行い、警察官延べ約3万3,000人、地域住民延べ約53万8,000人が参加した。
 このほか、4年中に、警察では、風水害、火山噴火災害等の自然災害や地下街、石油コンビナート、原子力施設等における特殊災害を想定した訓練を行った。また、前年に引き続き、大深度地下利用における災害対策についての検討を行うとともに、「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」に基づく諸対策の推進を図った。

2 雑踏警備活動

(1) 一般雑踏警備活動
 平成4年に警察官が出動して雑踏警備に当たった行楽地や催物への人出は、延べ約5億8,500万人に上り、警察では、延べ約52万人の警察官を動員して、雑踏事故の防止に努めた。正月三が日の初詣の人出は約8,259万人で、前年に比べ約517万人(5.9%)増加した。一方、ゴールデンウィークの人出は約6,886万人で、東日本の一部で天候がぐずついたことなどから、前年に比べ約1万人(1.4%)減少した。最近5年間の雑踏警備実施状況は、表9-2のとおりである。

表9-2 雑踏警備実施状況(昭和63~平成4年)

 4年の雑踏事故は、7件発生し、死者5人、負傷者82人に上った。このうち、山車(だし)、神興(みこし)等の運行に伴うものが4件、死者4人、大祭に伴うものが2件、死者1人、負傷者75人で、また、コンサート会場等における将棋倒し等の事故が1件、負傷者7人であった。
 これら雑踏事故の多くは、行事の主催者等による自主警備の不徹底や安全に関する配慮の欠如が大きな原因となっており、このため、警察では、行事の主催者、施設の管理者等に対して、事前連絡の徹底、自主警備体制の強化、危険予防の措置、施設の改善等を要請するとともに、混雑する場所等に警察官を配置して、雑踏事故の未然防止に努めている。また、行事に際して発生するすり、小暴力事犯の取締りや迷い子、急病人の保護を行うなど、地域住民の安全の確保に努めている。
(2) 公営競技をめぐる紛争事案と警備活動
 平成4年における競輪場、競馬場等の公営競技場への総入場者数は、延べ約1億8,900万人であった。警察では、公営競技をめぐる紛争事案や雑踏事故防止のため、延べ約11万5,900人の警察官を動員して警備に当たった。最近5年間の公営競技場の警備実施状況は、表9-3のとおりである。

表9-3 公営競技場の警備実施状況(昭和63~平成4年)

 4年の公営競技をめぐる紛争事案は2件であり、その内容はいずれも抗議形態のものであった。これら紛争事案の防止のため、警察では、競技の適正な運営を関係機関、団体に働き掛けるとともに、自主警備体制の確立、施設、設備の改善等を強く要請しているほか、競技開催の都度、警察官を派遣して紛争事案の未然防止に努めている。

3 各種事故と警察活動

(1) 水難
ア 水難の発生状況
 平成4年の水難の発生件数は2,232件、死者、行方不明者数は1,349人、警察官等に救助された者の数は1,199人で、前年に比べ、発生件数は137人(5.8%)、死者、行方不明者数は82人(5.7%)それぞれ減少した。
 最近5年間の水難発生状況は、表9-4のとおりである。

表9-4 水難の発生状況(昭和63~平成4年)

 水難による死者、行方不明者を年齢別にみると表9-5のとおりで、前年に比べ、中学生と18歳以上65歳未満の者の行方不明者が増加している。

表9-5 水難による死者、行方不明者の年齢層別状況(平成3、4年)

 死者、行方不明者を発生場所別にみると図9-1のとおりで、海が最も多く全体の約5割を占めている。行為別にみると図9-2のとおりで、魚とり・釣り中、水泳中、通行中の順に多く、特に川岸や海辺等からの転落や飲酒等の無謀遊泳による事案が目立った。

図9-1 水難による死者、行方不明者の発生場所別構成比(平成4年)

図9-2 水難による死者、行方不明者の行為別構成比(平成4年)

イ 水難の防止活動
 警察では、水難を防止し、国民が安心して水に親しめるようにするため、水難の発生しやすい危険な場所の実態を調査し、その所有者、管理者や関係機関、団体に対し、危険区域を指摘するとともに、危険な施設の補修等を働き掛けている。特に人出や水難の多い海水浴場では、臨時警察官派出所を設置して海浜パトロールを強化するほか、警察用船舶やヘリコプターによる監視を強化し、海水浴客に対する広報、遭難者の早期発見、救出、救護に努めている。また、関係機関、団体と協力して、保護者や児童を対象とした人工呼吸法の講習会、各種の救助訓練を実施している。
(2) 山岳遭難
ア 山岳遭難の発生状況
 平成4年の山岳遭難の発生件数は675件、遭難者数は809人で、前年に比べ、発生件数は67件(11.0%)、遭難者数は75人(10.2%)それぞれ増

表9-6 山岳遭難の発生状況(昭和63~平成4年)

加した。最近5年間の山岳遭難の発生状況は、表9-6のとおりである。
 近年は、幼児から高齢者に至るまでの幅広い人々によって、本格的な登山から軽装のハイキングに至るまでの様々な形の登山が楽しまれるようになってきているが、こうした中には、登山の知識や経験が乏しく、又は無謀な登山をする者も少なくない。
 4年には、前年に引き続き、中高年登山者を中心とした登山技術の未熟や体力不足が原因と思われる転落、滑落等の死亡遭難事故が多発したほか、事前の準備不足による道迷いや無謀な登山による疲労、病気等、登山の基本的な心構えを欠いたことによる遭難が続発した。
イ 遭難者の捜索、救助活動
 警察では、山岳警備隊等を編成し、実践的な救助訓練や研修会を実施して救助技術の向上を図るとともに、救助用装備資機材の整備拡充を行うなど、救助体制の強化に努めている。
 4年に遭難者の救助活動に出動した警察官は延べ約8,000人、警察用ヘリコプター出動回数は延べ292回で、民間救助隊員等との協力による活動を含め、遭難者582人を救助したほか、184遺体を収容した。
〔事例〕 11月、北アルプス剣岳において、京都の山岳会の女性パーティー4人が下山中雪崩に巻き込まれ、2人が死亡した(長野)。
ウ 山岳遭難の防止活動
 警察では、山岳遭難を防止するため、随時、遭難対策検討会を開催して具体的な検討を行っている。特に主要山岳(系)を管轄する警察においては、登山シーズン前に、関係機関、団体と協力して登山道等の実地踏査を行い、登山道標の点検、危険箇所の点検、表示等を行っている。また、登山口や最寄りのターミナル駅等に臨時警備派出所や登山指導センターを開設して、登山計画書の提出の奨励や安全登山のための山岳情報の提供、装備等の点検、指導を行っているほか、山岳パトロール等の活動を通じて安全登山への指導を積極的に行うなど、遭難の防止対策を強力に推進している。さらに、山岳遭難の防止のためには、登山者一人一人の心掛けが不可欠であることから、登山の留意事項や山岳情報を記載したパンフレットを配布したり、山岳に向かう列車の主要出発駅において登山者に対する広報活動を行ったりするとともに、広く報道機関や登山雑誌等を通じて安全登山を呼び掛けている。
(3) レジャースポーツに伴う事故
 近年のレジャーの大衆化に伴い、水上オートバイや超軽量動力飛行機等の新型器具を使った新しいレジャースポーツが次々と登場し、水上、水中、空中、陸上を問わず、様々な形のレジャースポーツが行われるようになってきている。
 平成4年のレジャースポーツに伴う事故の発生件数は335件で、前年に比べ19件(5.4%)減少したものの、被災者数は643人で、前年に比べ24人(3.9%)増加した(表9-7)。
 こうした事故の原因の主なものは、若者による無免許運転や無謀運転、操作技術の未熟等であることから、警察では、事故防止を呼び掛けるパンフレットの配布等の安全広報に努めるとともに、レジャースポーツ現

表9-7 レジャースポーツに伴う事故の発生状況(平成3年)

場におけるパトロール等を通じての指導取締り、関係機関、団体に対する事故防止指導等を推進し、レジャースポーツ事故の防止に努めている。特に水上オートバイの事故が増加傾向にあることから、事故に直結する悪質、危険な行為に重点を置いた取締りを実施している。
〔事例〕 6月、富士山の上空を遊覧飛行中の3人乗りセスナ機が山頂虎(とら)岩付近に墜落し、全員が死亡した(静岡)。


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