第3章 犯罪情勢と捜査活動

 平成4年においては、刑法犯認知件数は174万件を超え、戦後最高を記録し、犯罪の特徴としては、重要凶悪犯罪の多発とともに、都道府県の境界を越えた犯罪、来日外国人による犯罪の増加等犯罪のボーダーレス化(とりわけ広域化、国際化)が挙げられる。
 このような情勢に対応するため、警察では、広域捜査力及び国際捜査力の強化、国民協力の確保、捜査官の育成と捜査力の集中運用、捜査活動の科学化の推進といった諸施策を講じ、「事件に強い警察」の確立を図っている。

1 平成4年の犯罪の特徴

(1) 多発する重要凶悪犯罪等
 平成4年は、捜査本部設置事件、銃器を使用した犯罪、強盗(とりわけ深夜スーパーマーケットを対象とした強盗)等の重要凶悪犯罪のほか、幼児等を対象とした事件や減少傾向にあった侵入窃盗の増加が目立った。
ア 捜査本部設置事件の増加
 4年中の捜査本部設置事件(殺人、強盗殺人等殺人の絡む事件のうち捜査本部を設置した事件をいう。)は140件で、前年に比べ17件(13.8%)増加している(表3-1)。
 これらの捜査本部設置事件の内容をみると、外国人が被害者、被疑者となった事件とともに、銃器を使用した事件、被害者が2人以上の多数

表3-1 捜査本部設置事件の状況(昭和63~平成4年)

人殺傷事件、殺害後死体を切断したり焼燬(き)、隠ぺいしたりした事件等凶悪な手口の事件の増加が目立っている。
〔事例〕 9月、横浜市磯子区内の雑木林内で、バラバラにされた身元不明の男性の頭部、両下肢が発見された。捜査本部を設置して捜査中(神奈川)
イ 銃器を使用した凶悪犯罪
 4年は、警察官に対するけん銃発砲事件等銃器を使用した凶悪犯罪が相次いで発生した。
 なお、けん銃事犯の状況については、第6章1参照。
〔事例1〕 1月28日、身代金目的誘拐事件の被疑者として指名手配されていた男(32)は、潜伏していた大阪市内の内妻方からタクシーに乗って外出した際、捜査員に追跡されたことから、暴力団員から買い受けて所持していたけん銃を運転手に突き付けて兵庫県尼崎市内まで逃走し、車を降りた後、捜査員に対してけん銃を発砲した上、付近の民家に飛び込み、住人の男性(49)を人質に約7時間にわたって立てこもった。同日逮捕(兵庫)
〔事例2〕 11月30日、元暴力団の男(50)は、知り合いの夫婦(48、42)にけん銃を発砲して重傷を負わせ、さらに、逮捕のために同人宅に向かった警察官にけん銃を発砲して1人に重傷を負わせた。同日逮捕(熊本)
ウ 増加する強盗、侵入窃盗
 強盗の認知件数は、元年まで減少傾向にあったが、2年から増加に転じ、4年は2,189件で、前年に比べ341件(18.5%)大幅に増加した(図3-1)。対前年の増加率は、刑法犯総数(2.0%)、凶悪犯総数(5.4%)と比較して極めて高い値となっている。

図3-1 強盗認知件数の推移(昭和58~平成4年)

 また、4年に認知された窃盗犯のうち、侵入窃盗の認知件数は23万3,690件で、前年に比べ5,744件(2.5%)増加した。手口別にみると、空き巣ねらい、忍び込み等住宅を対象とする侵入窃盗は減少傾向が続き、4年も前年に比べ432件(0.4%)減少しているが、事務所荒らし、出店荒らし等事務所、店舗を対象とする侵入窃盗が3年から増加傾向に転じ、昭和59年以降減少していた侵入窃盗総数が平成3年から増加する結果となっている(図3-2)。

図3-2 侵入窃盗認知件数の推移(昭和58~平成4年)

エ 深夜スーパーマーケット対象の強盗
 認知件数が急増している強盗の中で、特に深夜スーパーマーケットを対象とする強盗の増加が目立っている。
 4年の深夜スーパーマーケット対象強盗事件(注)は、認知件数が127

表3-2 深夜スーパーマーケット対象強盗事件の認知、検挙件数の推移(昭和63~平成4年)

件、検挙件数が69件で、前年に比べ、認知件数が34件(36.6%)、検挙件数が19件(38.0%)それぞれ大幅に増加している(表3-2)。
(注) 深夜スーパーマーケット対象強盗事件とは、午後10時から翌午前7時までの間に、スーパーマーケット等の売上金等を目的として敢行された強盗事件(予備、事後強盗を除く。)をいう。
〔事例〕 1月、埼玉、栃木両県下において、深夜スーパーマーケットを対象に、店員をいきなり棒状の物で殴り付けて現金を強奪する2人組の少年(18、19)による強盗致傷事件が連続9件発生した。2月逮捕(埼玉)
オ 幼児等を対象とした各種事件
(ア) 誘拐事件
 4年の幼児等(年齢13歳未満の者をいう。)を対象とした誘拐事件は、認知件数が150件(全誘拐事件の54.5%)、検挙件数が142件で、前年に比べ、認知件数が87件(138.1%)、検挙件数が85件(149.1%)それぞれ大幅に増加している。認知事件の態様をみると、猥褻(わいせつ)目的が103件で、全体の68.7%を占めている。
〔事例〕 2月20日、飯塚市内の小学1年生の女児2人(7)が登校途中に所在不明となり、翌日、約18キロメートル離れた甘木市内の山中において他殺死体で発見された。捜査本部を設置して捜査中(福岡)
(イ) 性犯事件
 4年の幼児等を対象とした強制猥褻(わいせつ)、強姦(かん)等の性的犯罪は、認知件数が1,213件、検挙件数が925件で、前年に比べ、認知件数が29件(2.4%)、検挙件数が68件(7.9%)増加した。
(2) 都道府県の境界を越えた犯罪
 自動車の普及、交通手段の発達により、人々の生活範囲が拡大し、人、物の交流がますます広域、活発化している状況の中で、犯罪についても、都道府県の境界を越えて広域的に発生する事件や、事件の発生は広域にわたらなくとも犯人の割り出し、裏付け捜査等の捜査活動を都道府県の境界を越えて広域的に実施する必要のある事件が増加している。
 平成4年においても、都道府県の境界を越えて敢行された重要凶悪事件、窃盗犯事件や、広域的に捜査を実施する必要がある重要知能犯事件等が発生し、これらの事件の検挙のために、複数の都道府県警察による共(合)同捜査が実施された。
ア 広域にわたる重要凶悪事件
 4年は、東京都内の誘拐犯人が逃走先の関西地方で立てこもった事件、指名手配犯人が神奈川県で警察官等を殺傷した後東京都内で立てこもった事件、殺害した死体を他府県に捨て去る事件等広域にわたる重要凶悪事件が多発した。
 また、被害者や容疑者の生活拠点が事件発生府県と異なる府県であったため、複数の都道府県警察において共(合)同捜査本部を設置して犯人を検挙した事例も多くみられた。
〔事例〕 3月、福岡県に住む男2人(28、26)は、会社社長ら2人(48、40)から、5,000万円の報酬で殺人依頼を受け、沖縄市に住む会社役員(54)を自宅マンションのエレベーター内でナイフで刺して殺害した。被害者、容疑者とも生活拠点が福岡県下であったことから、沖縄、福岡県警察の合同捜査を推進し、7月までに殺害実行者、依頼者を検挙
イ 共(合)同捜査を必要とする重要な窃盗犯事件
 侵入窃盗等の窃盗常習者等が敢行する重要な窃盗犯事件については、主として都道府県の境界を越えて広域的、連続的に事件が発生することが多く、これに対処するため複数の都道府県警察が行う共(合)同捜査実施事件数も増加している。4年中における窃盗犯の共(合)同捜査の実施数は88事件で、前年に比べ24事件(37.5%)増加しており、そのうち広域にわたる金庫破り事件、空き巣ねらい事件、忍び込み事件等73事件

表3-3 窃盗犯の共(合)同捜査実施事件数の推移(昭和63~平成4年)

を検挙している(表3-3)。
ウ 共(合)同捜査を必要とする重要知能犯事件
 近年の経済活動等の広がりに伴い、知能犯罪も広域化、大型化の様相を呈しており、その結果、共(合)同捜査を必要とする重要知能犯事件の増加がみられる。
〔事例〕 ゴルフ場審議会委員(50)らは、ゴルフ場開発に関する建設業者の審査、選定等に関し、便宜を図った謝礼として、県外のゴルフ場開発業者(44)らから現金等合計813万円相当を収賄した。9月検挙(鹿児島、兵庫)
(3) 来日外国人犯罪における特徴的傾向
ア 目立つ国際的職業犯罪グループ等による犯罪
 近年、韓国人グループによる集団暴力すり事件、ペルー人グループ等による特異手口のすり事件、中国人等による貴金属店等を対象とした窃盗事件、台湾マフィアによるけん銃使用殺人事件等、国際的職業犯罪グループ及び来日外国人ぐ犯グループによると思われる犯罪が増加しており、その犯行の凶悪化、広域化が目立っている。
〔事例〕 平成4年9月29日、ペルー人男性3人は、銀行内において、日本人男性に対し、「金が落ちています」と片言の日本語で話し掛け、同人が振り向いたすきに記帳台に置いてあったセカンドバッグから現金約300万円在中の封筒を抜き取った。同日1人を逮捕(京都)
 これらの事犯においては、母国において組織的に準備された偽造、偽名旅券を用いて毎回異なる偽名で入国し、1週間、10日といった短期間に集中的に犯行に及んで出国する、いわゆるヒット・エンド・ラン型の形態が特徴的である。
イ 急増する凶悪事件
 来日外国人犯罪の検挙件数を包括罪種別にみると表3-4のとおりであり、窃盗犯が最も多く、全体の約60%前後で推移しているが、凶悪犯がこの10年間に約12倍に急増しているのが目立っている。
 凶悪犯に関しては、従来、就労のあっせん等に絡む不法就労者同士の

表3-4 来日外国人刑法犯の包括罪種別検挙状況(昭和58~平成4年)

トラブルが原因となった事件が目立ち、日本人を犯行対象とするものは比較的少なかったが、最近になって、日本人を最初から犯行の対象として選定した上で敢行したとみられる強盗事件等が目立っている。4年に凶悪犯罪により検挙された来日外国人185人のうち、日本人に対して被害を加えたものの割合は、殺人事件では39人中14人(35.9%)であるが、強盗事件では117人中69人(59.0%)で過半数を占めている。
〔事例〕 3月20日、マレーシア人2人は、勤務先の社長に勤務態度等が不真面目であると注意されたことに腹を立て、工具で殴るなどして、頭蓋(がい)骨骨折等の重傷を負わせた。同日2人を逮捕(神奈川)
ウ 被疑者の国籍の多様化
 4年の来日外国人犯罪の検挙状況を国籍別にみると表3-5のとおりであり、アジア地域が6,099件(全体の81.8%)、4,759人(同79.8%)と、依然としてその来日外国人犯罪全体に占める割合は高くなっているが、従来その占める割合の高かった中国(台湾、香港を含む。)、韓国・朝鮮の占める割合が低下し、イラン、マレーシア等の占める割合が増加しており、被疑者の国籍が多様化している状況がうかがわれる。
エ 大都市圏以外の地域への拡散
 来日外国人刑法犯の地域別検挙状況をみると、東京、神奈川、大阪等の大都市において多発しているが、その一方で、図3-3のとおり、地方へ拡散しつつある状況がうかがわれる。
〔事例〕 5月3日、フィリピン人男性が、スナック店内において他のフィリピン人男性と口論となり、ナイフで同人の腹部等を突き刺して殺害した。翌日逮捕(長野)

表3-5 来日外国人刑法犯の国籍別検挙状況(昭和62~平成4年)

図3-3 都道府県別来日外国人刑法犯検挙件数の推移(昭和62~平成4年)

2 犯罪情勢及び捜査活動の現況

(1) 全刑法犯の認知及び検挙の状況
ア 認知状況
 平成4年の刑法犯認知件数(注)は174万2,366件で、戦後最高を記録した(図3-4)。
(注) 罪種別認知件数は、資料編統計3-3参照。
 4年の刑法犯認知件数の包括罪種別構成比をみると、窃盗犯が152万5,863件で、全体の87.6%を占めている(図3-5)。
 過去20年間の刑法犯包括罪種別認知件数の推移をみると、粗暴犯、風俗犯、凶悪犯が減少傾向にあるのに対し、窃盗犯は増加傾向にある(図3-6)。
イ 検挙状況
 4年の刑法犯検挙件数は63万6,290件、検挙人員は28万4,908人で、前

図3-4 刑法犯認知件数と犯罪率の推移(昭和21~平成4年)

図3-5 刑法犯認知件数の包括罪種別構成比(平成4年)

年に比べ、検挙件数は1万8,248件(2.8%)減少し、検挙人員は1万1,250人(3.8%)減少した(図3-7)。

図3-6 刑法犯包括罪種別認知件数の推移(昭和48~平成4年)

図3-7 刑法犯検挙件教、検挙人員の推移(昭和21~平成4年)

(注1) 罪種別検挙件数は、資料編統計3-4参照
(注2) 罪種別検挙人員は、資料編統計3-5参照
 なお、検挙人員には、触法少年を含まない。
 過去20年間の年齢層別犯罪者率の推移をみると、近年では、14歳から19歳までの層の犯罪者率が著しく高くなっている(図3-8)。

図3-8 刑法犯の年齢層別犯罪者率の推移(昭和48~平成4年)

(2) 重要犯罪及び重要窃盗犯の認知及び検挙の状況
 警察では、刑法犯のうち国民の生命、身体及び財産を侵害する度合いが高く、国民生活の脅威となっている重要犯罪、重要窃盗犯の検挙に重点を置いた捜査活動を行っている。
ア 重要犯罪
 平成4年の重要犯罪(注)の認知件数は1万114件で、前年に比べ727件(7.7%)増加した。また、検挙件数は7,982件、検挙人員は6,124人で、前年に比べ590件(8.0%)、205人(3.5%)それぞれ増加した。

図3-9 重要犯罪罪種別検挙率の推移(昭和58~平成4年)

 なお、昭和58年から平成4年までの重要犯罪の罪種別検挙率の推移は、図3-9のとおりである。
(注) 「重要犯罪」とは、殺人、強盗、放火、強姦(かん)の凶悪犯並びに略取・誘拐及び強制猥褻(わいせつ)事件をいう。
イ 重要窃盗犯
 4年中の重要窃盗犯(注)の認知件数は30万9,440件で、前年に比べ8,519件(2.8%)増加した。これは、侵入窃盗犯の増加のほか、ひったくりの認知件数が3,044件(27.3%)大幅に増加したことによるものである。また、検挙件数は17万3,802件、検挙人員は2万6,150人で、前年に比べ、検挙件数は2,839件(1.7%)増加し、検挙人員は723人(2.7%)減少したが、成人の検挙人員は633人(4.7%)増加した。
 昭和58年から平成4年までの重要窃盗犯手口別検挙率の推移は、図3-10のとおりである。
(注) 「重要窃盗犯」とは、屋内強盗に発展しやすい侵入窃盗犯、路上強盗に発展しやすいすり、ひったくり及び被害品が金融機関強盗等に用いられやすい自動車盗をいう。

図3-10 重要窃盗犯手口別検挙率の推移(昭和58~平成4年)

(3) 犯罪による被害の状況
ア 生命、身体の被害
 4年に認知した刑法犯により死亡し、又は負傷した被害者の数は、死者が1,324人、負傷者が2万4,802人で、前年に比べ、死者は62人(4.5%)減少し、負傷者は96人(0.4%)増加した(表3-6)。死者数を罪種別にみると、殺人による死者が673人で最も多く、全体の50.8%を占めている。
イ 財産犯による被害
 4年に認知した財産犯(強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領、占有離脱物横領をいう。)による財産の被害総額は約3,204億円で、前年に比べ約527億円(19.7%)増加した。また、このうち、現金の被害は約1,642億円で、前年に比べ約870億円(112.8%)増加した(注)(表3-7)。
(注) 現金の被害総額の大幅な増加は、「茨城カントリークラブのゴルフ会員権販売代名下の詐欺事件」(総額約1,200億円)によるものである。

表3-6 刑法犯による死者と負傷者数の推移(昭和63~平成4年)

表3-7 財産犯による財産の被害額の推移(昭和63~平成4年)

(4) 第16回参議院議員通常選挙の取締り
 第16回参議院議員通常選挙(平成4年7月8日公示、26日施行)は、改選127議席に対し、前回(元年)に次いで多い641人が立候補した。
 検挙状況は、検挙件数が443件、検挙人員が1,017人で、前回に比べ、件数は54件(10.9%)、人員は368人(26.6%)それぞれ減少した(表3-8)。これを罪種別にみると、買収の検挙件数、人員は、それぞれ303件、725人であり、件数で全体の68.4%、人員で全体の71.3%を占めた。
 また、警告件数(投票日後90日まで)は1万940件で、前回に比べ433件減少した(表3-9)。

表3-8 参議院議員通常選挙における違反検挙状況(第15回:平成元年10月21日まで 第16回:平成4年10月24日まで)

表3-9 参議院議員通常選挙における違反警告状況(第15回:平成元年10月21日まで 第16回:平成4年10月24日まで)

(5) 贈収賄事件
 平成4年の贈収賄事件の検挙状況をみると、事件数が70事件、人員が274人で、前年に比べ、事件数は7事件(11.1%)、人員は48人(21.2%)増加した(図3-11)。

図3-11 贈収賄検挙事件数、検挙人員の推移(昭和58~平成4年)

 収賄被疑者の身分別検挙状況をみると、地方公務員が83人(61.0%)と最も多く、次いで特別公務員、国家公務員の順となっている。4年に検挙した市町村の首長4人の内訳は、市長1人、町長3人である(表3-10、表3-11)。
 検挙事件を態様別にみると、表3-12のとおりで、前年と比較して、各種許可、認可等をめぐるもの及び各種物品等の納入をめぐるものが増加した。
〔事例1〕 町議会議長(検挙時町長、53)らは、町有地払下げ議案等

表3-10 収賄被疑者の身分別検挙人員の推移(昭和63~平成4年)

表3-11 市町村の首長の検挙人員の推移(昭和63~平成4年)

表3-12 贈収賄事件の態様別検挙件数の推移(昭和63~平成4年)

の審議、採決に関し、有利な取り計らいをした謝礼として、ゴルフ場開発業者(37)らから現金等合計1億1,700万円相当を受け取った。3月検挙(福岡)
〔事例2〕 市長(50)は、市のコンピューター導入における機種選定等に関し、有利な取り計らいをした謝礼として、電子計算機等販売あっせん会社代表取締役(54)らから現金540万円を受け取った。10月検挙(宮崎)
〔事例3〕 組合立総合病院循環器科部長(42)は、同病院が購入する医療機器の納入に関し、有利な取り計らいをした謝礼として、医療機器販売会社支店長(34)らから現金2,255万円を受け取った。9月検挙(静岡)
(6) カード犯罪
 キャッシュカード、クレジットカードの発行枚数及び現金自動支払機(ATMを含む。)の設置台数は、著しく増加している(図3-12)。4年のカード犯罪(注)の認知件数は1万1,045件、検挙件数は1万1,539件、検挙人員は1,343人であり、前年に比べ、認知件数が3,305件(42.7%)、検挙件数が3,995件(53.0%)、検挙人員が115人(9.4%)それぞれ増加している(図3-13)。
(注) カード犯罪とは、キャッシュカード、クレジットカード及びサラ金カードのシステムを利用した犯罪で、コンピュータ犯罪以外のものをいう。
 4年に検挙したカード犯罪を罪種別にみると、不正に店員等にクレジットカードを提示して金品をだまし取るなどの詐欺が1万70件(87.3%)で最も多く、次いで不正に現金自動支払機を操作して現金を引き出す窃盗が1,469件(12.7%)となっている。
 態様別にみると、窃取したカードを使用したものが4,732件(41.0%)

図3-12 キャッシュカード、クレジットカ-ドの発行枚数及び現金自動支払機の設置台数の推移(昭和63~平成4年)

と最も多く、次いで他人名義で不正取得したカードを使用したものが2,131件(18.5%)、拾得したカードを使用したものが1,436件(12.4%)の順となっている。
 カードを使って現金自動支払機から現金を引き出す場合には、あらかじめ暗証番号を知っていなければならないが、4年に検挙したカード使

図3-13 カード犯罪の認知、検挙状況(昭和63~平成4年)

用の窃盗事件1,469件を犯人が暗証番号を知った方法別にみると、「カードと暗証番号を同時に入手」したものとカードの所有者と「面識があり、以前から暗証番号を知っていた」ものが合わせて742件(50.5%)となっており、暗証番号の設定、管理に甘さがあることがうかがわれる(図3-14)。

図3-14 カード使用の窃盗事件における暗証番号を知った方法別検挙状況(平成4年)

(7) コンピュータ犯罪
 近時、コンピュータは社会の様々な分野で必要不可欠なものとなっているが、他方、最近のコンピュータ・システムの特性を利用した新しいタイプの犯罪が問題となっている。4年におけるコンピュータ犯罪(注1)の認知件数は73件であり(表3-13)、その特徴としては、コンピュータ端末機を操作して、電磁的記録を不正に作出し、多額の現金を横領する事件、事情を知らない係官に電磁的記録である公正証書の原本に不実の記載をさせる事件等が多発していることが挙げられる。また、コンピュータ・ウイルス(注2)による汚染等が社会問題となった。
 こうした犯罪や事故等からコンピュータ・システムを防護する必要性が高まっていることから、警察庁では、部外の学識経験者を加えたコンピュータ・システム安全対策研究会が発表した「情報システム安全対策指針」、「コンピュータ・ウィルス等不正プログラム対策指針」に基づき

表3-13 コンピュータ犯罪の認知状況(平成4年)

 安全対策の指導を行うなど、総合的なコンピュータ・セキュリティの確保に取り組んでいる。
(注1) コンピュータ犯罪とは、コンピュータ・システムの機能を阻害し、又はこれを不正に使用する犯罪(過失、事故等を含む)。をいう。
(注2) コンピュータ・ウイルスとは、使用者の意図に反してコンピュータに侵入し、プログラムやデータを破壊したり、書き換えたりするプログラムのことをいう。
〔事例〕 農協職員(35)は、先物取引による損失を回復するために、昭和63年9月から平成2年10月まで5回にわたり、同農協のオンラインシステムのコンピュータ端末機を不正に操作し、先物取引の相手方の会社の振込指定口座に資金として合計1億700万円の振込みがあったとする虚偽の情報を与えた。4年3月検挙(兵庫)

3 「事件に強い警察」確立のための施策

 近年の情報化の進展や交通手段、科学技術の発達等の社会情勢の変化に伴い、報道機関を意識し、又は利用して国民に広く不安を与える犯罪、犯行の動機を計り難い犯罪等、かつては予測もできなかった新しい形態の犯罪が発生するとともに、犯行の悪質、巧妙化、広域化、スピード化が一層進むなど、犯罪は質的な変化をみせている。特に盗難車両を利用した犯罪が多発しており、平成4年に検挙された刑法犯のうち10.1%(6万4,076件)を占めるに至っている。
 また、都市部においては、犯行にいわゆる都会の死角を利用することが常態化していることや、一般的には、自分に直接かかわりのないことには無関心、非協力的な態度を取る者も多くなってきていることなどから、聞き込み捜査等の「人からの捜査」が困難になってきている。さらに、大量生産、大量流通の一般化が著しいことから、遺留品等の事件と関係のある物から被疑者を割り出す「物からの捜査」も難しくなってき

図3-15 刑法犯発生から検挙までの期間別検挙状況(昭和58~平成4年)

ている。このように捜査活動はますます困難になってきており、捜査期間は長期化する傾向にある(図3-15)。
 このような情勢にかんがみ、警察では「事件に強い警察」確立のため、重要凶悪事件等への的確な対応、捜査力の向上、重要性の高い犯罪への捜査力の重点配分、国民の理解と協力の確保を柱とした施策を積極的に推進している。
 なお、コンピュータ及び通信の活用については、第10章5、6参照。
(1) 広域捜査力の強化
ア 複数の都道府県にまたがる事件への対応
 複数の都道府県にまたがる広域事件においては、広域的な視点に立ち、広域的な連携を保った捜査を行うことが困難であることが多い。こうした問題を解決するため、広域重要事件が発生した際は、警察庁から派遣した広域捜査指導官を現地に駐留させ、捜査の指導、調整を行わせることとしている。また、都道府県警察には、高度な捜査技術と機動力を備えた、広域捜査の中核となる広域機動捜査班が置かれている。さらに、広域事件の犯罪捜査では、各都道府県警察間の積極的な共(合)同捜査の推進に努めている。
イ 各都道府県警察間の常時連携活動の推進~管区広域捜査隊の設置
 経済、社会的な一体性の強い都府県境付近の地域において発生した犯罪に即応するため、都道府県警察の単位を越え、広域的に捜査、訓練等を行う管区広域捜査隊の整備を進め、初動捜査強化のための体制づくりに努めている。
 茨城、栃木、群馬、埼玉の各県警察により北関東広域捜査隊が設置されたのに続いて、愛知、岐阜、三重の各県警察により西東海広域捜査隊が設置され、木曽川流域の県境付近における捜査に当たっている。
ウ 広域的な捜査情報の共有
 広域重要事件においては、警察庁や関係都道府県警察が捜査情報を共有し、組織的な捜査活動を展開することが不可欠であることから、警察庁においては、広域重要事件における捜査の過程で収集された捜査情報等を警察庁で一元的に管理するとともに、関係都道府県警察の間で必要な情報を伝達することを目的とする大型コンピュータを利用した「捜査情報総合伝達システム」の整備を推進している。
 また、今後は、個々の捜査情報を単に管理し、伝達するだけでなく、それぞれの情報の関連等を体系的に整理し、総合された情報として活用することが不可欠となることから、情報形式の標準化、情報の総合化システムの開発等の措置を計画している。
(2) 国際捜査力の強化
 急増する来日外国人犯罪等の国際犯罪に対応するため、警察では、国際捜査官の育成、組織体制の整備、通訳体制の強化及び外国捜査機関等との積極的な連携を図っている。
 なお、国際犯罪への対応については、第2章3(1)参照。
(3) 犯罪捜査に対する国民協力の確保
 警察では、国民に犯罪捜査に対する協力を呼び掛ける方法の一つとして公開捜査を行っており、新聞、テレビ、ラジオ等の報道機関に協力を要請するとともに、人の出入りの多い場所でポスター、チラシ等を掲示、配布するなどの方策を講じている。
 平成4年10月には、全国において「捜査活動等に対する市民協力確保及び指名手配被疑者捜査強化月間」を実施し、ポスター、チラシ等を掲示、配布したほか、都道府県警察の捜査担当課長等がテレビ等に出演するなどして、事件発生時における速やかな通報、聞き込み捜査に対する協力、事件に関する情報の提供等を呼び掛けた。また、警察庁指定被疑者10人、都道府県警察指定被疑者70人について公開捜査を行い、国民の協力を得て、都道府県警察指定被疑者5人をはじめ、1,666人の指名手配被疑者を検挙した。
 さらに、国民の立場に立った刑事警察の運営を推進するために、広く国民と捜査活動等について語り合う会合を開催するとともに、捜査の経過、結果等を被害者に通知する被害者連絡制度、告訴、告発の受理、民事介入暴力事案の相談等を推進している。
 このほか、被害者、参考人その他の関係者に対する適切な応接を推進しているほか、参考人に対して支給する謝金の単価を改定するなどの予算措置を講じることにより、参考人に対する処遇の改善を図り、参考人のより積極的な協力を得ることに努めている。
(4) 捜査官の育成と捜査力の集中運用
 犯罪の質的変化、捜査環境の悪化等に適切に対応し、国民の信頼にこたえるち密な捜査を推進するためには、常に捜査技術の向上を図るとともに、各種の専門的知識を備えた優れた捜査官を育成するなど、刑事警察のプロフェッショナル化を総合的に推進していく必要がある。
 このため、警察大学校等において国際犯罪捜査、広域特殊事件捜査等に関する研究や研修を行うとともに、都道府県警察において、若手の捜査官に対し、経験豊富な捜査官がマンツーマンで実践的な教育訓練を行うことにより、新しい捜査手法や技術の研究、開発、長期的視野に立った捜査官の育成と捜査幹部の指揮能力の向上に努めている。
 また、ベテラン捜査官が有している捜査技術を伝承させるため、捜査官OBを警察学校における教養の講師として招くなどして捜査技術の向上に努めている。
 さらに、航空機事故、列車事故、爆発事故等の大規模事件事故の迅速、的確な処理を図ることを目的として、各都道府県警察の捜査幹部(指定臨場官58人)を他の都道府県で発生した対象事件の発生直後の現場に臨場させて研修を行うなどの指定臨場官制度を発足させるとともに、対象事件捜査に必要な知識経験を有する者をあらかじめ指定しておき、対象事件が発生した際に、都道府県の枠を越えてこれを集中的に運用する指定捜査員制度の運用を開始している。知能犯罪捜査においても、専門的技能を有する捜査官を管区警察局に登録し、これを広域的に運用する制度を開始している。
(5) 捜査活動の科学化の推進
ア コンピュータの活用
(ア) 自動車ナンバー自動読取システム
 自動車利用犯罪の捜査においては、緊急配備による検問を実施する場合、実際に検問が開始されるまでに時間を要すること、徹底した検問を行えば交通渋滞を引き起こすおそれがあることなどの問題がある。
 警察庁では、これらの問題を解決するため、走行中の自動車ナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムを開発し、整備を進めている。
(イ) 指紋自動識別システム
 指紋には、「万人不同」、「終生不変」という特性があり、個人識別の最も確実な資料として有効に活用されている。
 警察庁では、コンピュータによる精度の高いパターン認識の技術を指紋鑑識に応用した指紋自動識別システムを開発し、犯罪現場に遺留された指紋から犯人を特定する遺留指紋照合業務や、犯罪の被害者や災害、事故等による身元不明死体の指紋から身元を確認することなどに活用している。
 このシステムは、大量の指紋資料を迅速に自動処理し、不鮮明あるいは部分的な指紋からも被疑者を割り出す機能を備えているなど、犯罪捜査に大きく貢献している。
(ウ) 被疑者写真検索システム
 警察庁では、都道府県警察で撮影した被疑者写真を一元的に管理、運用し、犯罪の広域化、スピード化に対応した効率的な活用を図ることを目的としたコンピュータによる被疑者写真検索システムを開発し、平成4年度までに全国に整備を図った。このシステムの導入により、全国のどこの警察署等からでも被疑者写真を迅速に入手することができるようになり、犯罪捜査に大いに役立っている。
イ 現場鑑識活動の強化
 近年の都市化の傾向により、聞き込み捜査等の「人からの捜査」が極めて困難になっていることから、犯罪現場等において、各種鑑識資機材を有効に活用して綿密かつ徹底した鑑識活動を行い、犯人が遺留した物的資料や痕(こん)跡等から科学的、合理的な捜査を推進していくことが重要になってきている。
 このため、警察では、科学技術の発展に即応した鑑識資機材の研究開発やその整備充実を強力に推進するとともに、現場鑑識活動の中核である機動鑑識隊(班)や現場科学検査班等の充実強化を図り、効果的に運

用している。
 さらに、犯人が遺留したことに気付かないような微量、微細な資料を漏らさずに採取して、犯人との結び付きを明らかにする「ミクロの鑑識活動(微物鑑識活動)」を積極的に推進している。
ウ 鑑識資料センターの運用
 警察庁では、微物鑑識活動を推進するために鑑識資料センターを設置し、その強化を図っている。
 同センターでは、あらかじめ繊維、土砂、ガラス等の各種資料を収集、分析し、製造業者等の付加情報を加えたデータベースを作り、都道府県警察が犯罪現場等から採取した微量、微細な資料の分析データと比較照合することによって、その物の性質や製造業者等を迅速に割り出すなど、犯罪捜査に役立てている。
エ 鑑定の高度化
 鑑識活動によって採取した資料の分析や鑑定結果は、捜査の手掛かりや証拠として活用されているが、物の多様化等に伴い、鑑定内容も複雑多岐にわたり、高度な専門的知識、技術を必要とするものが多くなってきている。
 このような情勢に対処し、各種の鑑定を一段と信頼性の高いものにするため、警察庁の科学警察研究所や都道府県警察の科学捜査研究所(室)に最新鋭の鑑定機材を計画的に整備するとともに、都道府県警察の鑑定技術職員に対し、科学警察研究所に附置された法科学研修所において、法医学、化学、工学、指紋、足痕(こん)跡、写真等の各専門分野に関する組織的、体系的な技術研修を実施している。
 また、新しい科学技術を取り入れた鑑定法として、ヒトの身体組織の細胞内に存在するDNAを分析して個人識別を行うDNA型鑑定法が実用化され、これによって、今までは解決できなかった事件を解決できるようになるなど、殺人や性犯罪といった凶悪事件の捜査に大きく貢献している。警察庁では、DNA型鑑定法を、4年度に警視庁等の5都府県警察に導入したのをはじめ、5年度には14の府県警察に導入し、7年度までに全国整備を図ることとしている。


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