第2節 暴力団総合対策の推進

 警察は、暴力団を壊滅し、暴力団員等による不当な行為を根絶することによって、国民の生命、身体及び財産等を暴力団等の脅威から保護することを目的として、暴力団総合対策を推進している。
 具体的には、暴力団、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロに対する徹底的な取締り、暴力団対策法の適正かつ効果的な施行及び暴力団排除活動の積極的な推進を三本の柱とし、あわせて、暴力団員の社会復帰の促進と少年の暴力団への加入の防止を図るほか、暴力団等による犯罪等の被害者及び参考人、暴力団排除活動関係者等に対する報復として行われる危害行為を防止し、関係者の安全を確保するための保護対策の万全を期しているところである。

1 暴力団犯罪の取締り

 警察は、「暴力団員の大量反復検挙」、「資金源犯罪の取締りの徹底」、「銃器取締りの徹底」の三本柱を中心にして、暴力団に対する取締りを強力に推進している。
(1) 暴力団員の大量反復検挙
 警察は、暴力団組織の中枢にあって、その運営を支配している首領、幹部をはじめとする暴力団員の大量反復検挙を徹底するとともに、さらに、犯行の組織性を解明し、その常習性、悪質性を立証することなどにより、検挙した暴力団員について適正な科刑がなされ、社会から長期にわたり隔離されることになるように努めている。
ア 暴力団員の検挙状況
 平成4年は、3月1日に暴力団対策法が施行されたのを契機に、警察の総力を結集し、種々の法令を適用して徹底した取締りを実施した。その結果、暴力団勢力の検挙人員は3万2,850人(前年比5.1%増)、そのうち構成員の検挙人員は1万6,306人(前年比0.7%増)に上り、8年ぶりに構成員の検挙人員が前年を上回っている(図1-13、図1-14)。
 中でも山口組、稲川会及び住吉会の重点対象3団体に対しては、都道府県警察が連携して集中取締りを実施し、重点対象3団体の暴力団勢力の検挙人員は2万3,861人(暴力団勢力の総検挙人員の72.6%)で、そのうち構成員の検挙人員は1万1,647人(暴力団構成員の総検挙人員の

図1-13 暴力団勢力の検挙人員(昭和58~平成4年)

図1-14 暴力団構成員の検挙人員(昭和58~平成4年)

71.4%)に上った。特に全国最大の広域暴力団山口組については、暴力団勢力を1万5,021人(暴力団勢力の総検挙人員の45.7%)、構成員を7,316人(暴力団構成員の総検挙人員の44.9%)、直系組長を22人検挙しており、いずれも過去10年間で最高となっている。
イ 暴力団勢力による犯罪の傾向
 4年の暴力団勢力による犯罪の検挙状況については、殺人、強盗等の凶悪犯、暴行、傷害等の粗暴犯の検挙人員が減少したが、恐喝、詐欺、脅迫等の検挙人員が増加し、暴力団勢力による恐喝、詐欺、脅迫等の事犯の検挙人員は、前年に比べ675人(9.5%)増加した。
 罪種別の検挙人員は、覚せい剤取締法違反が6,627人(20.2%)で最も多く、次いで傷害4,995人(15.2%)、恐喝3,190人(9.7%)、賭博(とばく)2,749人(8.4%)、公営競技4法違反(ノミ行為等)2,337人(7.1%)の順となっている。
 なお、罪種別の検挙人員については、統計1-1、統計1-2参照。
(2) 暴力団の資金獲得活動に対する取締り
 警察は、暴力団の資金源を絶つため、暴力団の資金獲得活動に対する取締りを一層強化している。また、暴力団の膨大な収入に対して厳正な課税措置を行うことが極めて効果的であることから、税務当局との連携、連絡体制の強化に努めており、捜査の過程において暴力団の不正な所得を認知した場合には、その内容を税務当局に通報する課税通報制度の一層の効果的運用を図っている。
ア 伝統的な資金獲得犯罪に対する取締り
 暴力団は、依然として、覚せい剤の密売、賭博(とばく)、みかじめ料の徴収等の伝統的な資金獲得活動を活発に行っており、平成4年には、これらの伝統的な資金獲得犯罪のうち、覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博(とばく)及び公営競技4法違反(ノミ行為等)の4罪種で暴力団勢力の検挙人員の45.4%を占める1万4,903人を検挙し、これら4罪種について検挙した暴力団勢力の人員は、前年に比べ592人(4.1%)増加している。
イ 民事介入暴力に対する取締り
 暴力団の民事介入暴力に対して、警察は、種々の法令を適用して、潜在する犯罪行為の検挙を図るとともに、犯罪とならない事案についても、暴力団対策法に基づく命令の活用により、被害を未然に防止するなど民事介入暴力事案の取締りを積極的に推進している。
〔事例1〕 山口組の傘下組織の暴力団員(21)は、4年7月下旬ごろ、被害者が自動車修理業者から借りた車を故障させたことによる損害について、自動車修理業者から依頼を受けて示談に介入し、「組をなめとんかい。お前、どうするんや、誠意見せや」などと告げて、損害賠償として金品を要求した。9月中止命令(大阪)
〔事例2〕 3年9月、工藤連合草野一家の傘下組織の幹部らは、債権取立ての依頼を受けたことから、共謀の上、250万円の債務を負っている元会社役員から債権取立て名下に金員を喝取することを企て、同人をホテルに呼び出すなどして、「利息が付いて1,000万円になっとる。払わんやったらこのままじゃ済ませんからの」などと脅迫して現金1,000万円を要求し、600万円を喝取した。4年6月検挙(福岡)
ウ 企業対象暴力に対する取締り
 暴力団等の企業対象暴力の手口は、工事の騒音に対する迷惑料、政治活動等の賛助金、事業資金の融資等の名目で金を引き出したり、機関紙(誌)を高額で購入させたり、業務の過程におけるささいな瑕疵(かし)に対して因縁をつけたりするなど一層巧妙化している。
 警察は、これら企業対象暴力に対しても取締りを徹底しており、4年は、商法第497条違反(株主の権利行使に関する利益供与の罪)、恐喝等により総会屋等50人(40件)を検挙し、また、恐喝、傷害等により社会運動等標ぼうゴロ694人(675件)を検挙している。
〔事例1〕 3年10月、山口組の傘下組織の暴力団員である政治結社会長(36)らは、四国縦貫道徳島自動車道工事を請け負っている大手建設会社の下請会社に対し、工区内から出た土砂等の投棄方法に因縁をつけ、また、同建設会社の現地事務所に押し掛けるなどして脅迫し、所長から現金1,000万円を喝取した。4年7月検挙(徳島)
〔事例2〕 総会屋である住吉会の傘下組織の幹部(45)らは、大手流通会社が4年7月に開催した定時株主総会を平穏かつスムーズに進行することに協力した謝礼として、同月下旬、東京都内において、同社常勤監査役等から合計2,740万円の供与を受けた。10月検挙(警視庁)
エ 暴力団フロント企業による資金獲得犯罪の取締り
 暴力団フロント企業に対して、警察は、その実態把握に努めるとともに、経済取引の過程における違法行為を見逃さず、種々の法令を適用して強力に取締りを推進し、暴力団への資金供給ルートを遮断するとともに、積極的に課税通報を活用して、暴力団の資金源が絶たれるよう努めている。
 4年における暴力団フロント企業が関係する犯罪の検挙事件数は115事件であり、これらの事件に関与した暴力団フロント企業は141社に上るが、業種別内訳は、土木建設業が最も多く、次いで不動産業、金融業、サービス業となっており、これら4業種で全体の75.9%を占めている(表1-10)。また、罪種別では、労働者派遣事業法違反、詐欺、恐喝等多岐

表1-10 検挙に係る業種別暴力団フロント企業数(平成4年)

表1-11 暴力団フロント企業に係る犯罪検挙事件数の適用罪種別内訳(平成4年)

にわたっている(表1-11)。
 なお、このうち、山口組系の暴力団フロント企業が関係する事件は、検挙事件数が76事件(暴力団フロント企業が関係する全事件数の66.0%)、企業数が91社(事件に関与した暴力団フロント企業数の64.5%)となっている。
〔事例1〕 2年5月から11月までの間、大手運送会社代表取締役(58)らは、稲川会会長と共謀し、9回にわたり、その任務に背いて、稲川会関連会社に対して債務保証や貸付けを行い、同社に対し、総額約157億円の損害を与えた。4年5月検挙(警視庁)
〔事例2〕 山口組の幹部(49)は、阪神地区一円において土木建設請負業を営んでいたものであるが、3年7月21日から4年6月14日までの間、前後260回にわたり、作業員30数名を西宮市内の工事現場等において資材の運搬、現場の清掃、後片付け等の単純労働に従事させるなど、労働者派遣適用対象業務以外の業務について労働者派遣事業を行った。6月検挙(兵庫)
(3) 銃器、薬物事犯の取締り
ア 銃器の取締り
 暴力団による対立抗争事件、銃器発砲事件は、暴力団対策法の施行後相当鎮静化したとはいえ、引き続き発生し、暴力団員によるけん銃の不法所持と対立抗争が発生した場合の発砲も常態化しており、市民の被る危険と脅威は、依然として深刻である(図1-15)。
 このため、警察は、組織的な情報収集活動、効果的な捜索活動等による銃器等の摘発に努めるとともに、税関や海外の捜査機関との連携による水際検挙の徹底を図っている。
 平成4年の暴力団勢力からのけん銃押収数は1,072丁で、暴力団対策法成立以後、暴力団が対立抗争等の過激な行動を慎んでいるにもかかわら

図1-15 対立抗争事件、銃器発砲事件の発生状況(昭和58~平成4年)

ず、前年に比べ118丁(12.4%)増加している。また、そのうち956丁(89.2%)が真正けん銃で、暴力団勢力からのけん銃押収数に占める真正けん銃の割合は、依然として高い水準にある(図1-16)。

図1-16 暴力団勢力からのけん銃押収数の推移(昭和58~平成4年)

 暴力団勢力からの押収けん銃における近年の特徴としては、旧ソ連軍の制式銃であるトカレフ型けん銃の押収が挙げられる。このけん銃については、昭和63年に初めて押収されて以来、年々押収数が増加し、過去最多であった平成3年(265丁)に引き続き、4年においても211丁(総押収けん銃の19.7%)が押収されており、密輸入されたトカレフ型けん銃が広く暴力団に出回っていることが認められる。
〔事例〕 4年11月、山口組の傘下組織の幹部(39)らによるけん銃所持の情報を入手し、綿密な内偵捜査を行った結果、被疑者所有の畑地の土中に隠匿していたトカレフ型けん銃10丁、同実包622発、機関

銃1丁、同実包225発を押収(北海道)
イ 薬物の取締り
 4年の覚せい剤事犯の総検挙人員は1万5,062人に上ったが、このうち暴力団勢力の検挙人員は6,627人で全体の44.0%を占め、暴力団勢力からの覚せい剤押収量は118.5kgと全押収量の72.4%を占めている(図1-17)。また、違反態様をみると、4年中に覚せい剤の営利譲渡事犯で検挙された者の75.2%が暴力団勢力であるなど、営利型の類型に占める暴力団勢力の割合が高く、依然として覚せい剤が暴力団の大きな資金源となっていることが裏付けられている。
 警察としては、このような現状を踏まえ、麻薬特例法(注)で導入されたコントロールド・デリバリー等の新たな制度や手法を積極的に活用し、暴力団等の密輸密売組織の壊滅に向けた取締りを徹底しているほか、我が国で乱用されている薬物のほとんどが海外から持ち込まれていることから、その供給ルートの壊滅を図るため、生産国、仕出国等関係国との緊密な国際捜査協力の推進に努めている。

図1-17 暴力団勢力による覚せい剤事犯の検挙状況(昭和58~平成4年)

(注) 麻薬特例法とは、国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律の略称である。
 なお、暴力団の薬物事犯については、第6章2(1)参照。
〔事例〕 山口組の傘下組織が大量の覚せい剤を密輸入するという情報に基づく内偵捜査により、コンテナ内に隠匿された覚せい剤を発見したため、コントロールド・デリバリーを実施し、4年8月、コンテナ内部から覚せい剤を取り出した台湾人男性(53)ら被疑者3人を検挙し、過去4番目となる覚せい剤115kg(末端価格約196億円)を押収するとともに、5年3月、密輸入に関与した山口組の傘下組織の幹部(47)を検挙(警視庁)
(4) 少年の福祉を害する犯罪、風俗関係事犯等の取締り
 暴力団は、少年に対するシンナー等の密売や少女売春等の少年の福祉を害する犯罪(福祉犯)を敢行していることから、警察では、これらの犯罪に関与する暴力団に対する取締りを推進している。平成4年に福祉犯で検挙された暴力団勢力は1,347人で、前年に比べ230人(20.6%)増加しており、福祉犯検挙人員の13.6%を占めている。
〔事例〕 2月、住吉会の傘下組織の幹部(39)は、顔見知りの無職少女に「スナックで働かないか」などと言って、ソープランド経営者(49)に115万円で引き渡し、遊客相手に売春させた上、その収入の半分を搾取していた。5月検挙(警視庁)
 また、売春事犯、ノミ事犯、金融事犯等の総検挙者数のうち暴力団勢力の占める割合が高く、これらの犯罪が暴力団の資金源になっていることから、警察では、強力な取締りを推進している。
 なお、暴力団の風俗関係事犯、経済事犯については、第6章3参照。

2 暴力団対策法の施行状況

(1) 命令の発出状況
ア 中止命令
 平成4年3月1日に暴力団対策法が施行されてから1年間に、332件の中止命令が発出された。
 これを形態別にみると、資金獲得活動である暴力的要求行為に対する

表1-12 暴力団対策法に基づく中止命令及び再発防止命令件数(平成4年~5年2月)

ものが153件(46.1%)であり、脱退妨害、加入強要に対するものが178件(53.6%)である。また、暴力的要求行為に対する命令のうち、伝統的な資金獲得活動であるみかじめ料、用心棒料等要求行為に対するものは79件(23.8%)である。また、団体別にみると、山口組に対するものが189件で、全件数の56.9%を占めている(表1-12)。
 なお、脱退妨害、加入強要については、4参照。
〔事例1〕 4年7月、相談役になることを承諾したクリーニング店の店長に対し、「店長が暴力団の相談役であることが、社長や家族の耳にでも入ったら大変でしょう」などと告げ、店長が暴力団の相談役であることを公表しないことの対償として金品を要求した山口組の暴力団員(30)に対し、要求行為の中止を命令(11月、北海道)
〔事例2〕 4年8月、顔見知りの者に対し、「お前も一応極道やっとった人間やろ、わしも代紋背負って生きている人間や。これからも付き合いしていかなあかんし頼むで」などと告げ、執ように自らの刑務所出所祝い金名目で金品を要求した山口組の暴力団員(51)に対し、要求行為の中止を命令(9月、滋賀)
〔事例3〕 4年10月、ゴルフ場増設工事を行っている建設会社取締役に対し、「どうしても工事の一部をやらせてくれ」などと告げ、同取締役が拒絶しているにもかかわらず一部の工事の受注を要求した合田一家の暴力団員(45)に対し、要求行為の中止を命令(同月、山口)
〔事例4〕 4年9月、開店準備中のキャバレーの支配人に対し、「付き合え。ほかの店も3万だからお宅も3万だ。毎月3万で盆、暮れも頼む」などと告げ、営業を容認する対償としてみかじめ料を要求した住吉会の暴力団員(36)に対し、要求行為の中止を命令(10月、警視庁)
〔事例5〕 4年7月、スナックの経営者に対し、「さっき事務所から電話した者や、いつものもんもらいに来た」などと告げ、守り料、用心棒料等の名目で金品を要求した山口組の傘下組織の暴力団員(38)に対し、要求行為の中止を命令(8月、大阪)
〔事例6〕 4年8月、山口組の暴力団員から利息制限法に規定する制限額を超える利息及び違約金を支払う約定で金銭を借り入れ、既に所定の元利金相当額を超える額を支払っている者に対し、「お前が金を払えないんなら若頭に顔向けができない。指を詰めて責任を取らなければならない。払わないで済ませるのならやってみろ」などと告げて、支払いの要求を行い、高利債権の取立てを行った山口組の暴力団員(32)に対し、要求行為の中止を命令(9月、北海道)
〔事例7〕 4年8月、自らが宿泊したホテルの従業員に対し、「代紋張って待ってくれと言うたら通るんや。分かって物言うとるんや。だから9月末まで払わへん。9月末やったら払う。そのかわりまけてくれ、頼んどるんや。できんことをなんとかせえ」などと告げ、宿泊代金債務の免除又は履行の猶予を執ように要求した山口組の暴力団員(58)に対し、要求行為の中止を命令(9月、滋賀)
〔事例8〕 4年10月、かつて山口組の暴力団員Aにトラブルの解決を依頼したことのある土建会社の取締役に対し、そのことを口実に、「A親分の代理で来た者だ。A親分が困っている。500万円6箇月据置きで貸してもらいたい」などと告げ、金銭の貸付けを執ように要求した山口組の暴力団員(40)に対し、要求行為の中止を命令(10月、北海道)
〔事例9〕 4年10月、自己の所有する自動車を仕事のために使用することの見返りとして会社からガソリン給油を受けていた従業員に対し、会社の経営者から依頼を受け、報酬を得る約束をして、前記従業員が私用のためにガソリン給油を行って生じたとする損害について示談交渉を行い、組名の記載された名刺を示し、私用で乗った分として288万円となる。250万円でいい」などと告げ、損害賠償として金品の支払いの要求を行った稲川会の暴力団員(24)に対し、要求行為の中止を命令(11月、神奈川)
〔事例10〕 4年10月、ガソリンスタンドの店長に対し、洗車機から出る音に因縁をつけ、「俺の仕事がヤクザだと知っているだろう。お前のところの洗車機がうるさくて眠れない。迷惑しているんだから、俺を洗車会員にしろ」などと告げ、迷惑料名目で洗車会員にしろと要求した稲川会の暴力団員(44)に対し、要求行為の中止を命令(11月、千葉)
イ 再発防止命令
 暴力団対策法が施行されてから1年間に、東京都、大阪府、岩手県、旭川方面、千葉県、埼玉県の各公安委員会において、10件の再発防止命令を発出した(表1-12)。
〔事例1〕 住吉会の傘下組織の組長及びその配下の暴力団員2人が、ビル建設工事現場における売店経営者に、その営業を容認する対償としてのみかじめ料の要求及び販売用の弁当の購入要求を行っており、再発のおそれがあったため、今後1年間、類似の暴力的要求行為をしてはならないことなどを命令するとともに、さらに、組長がその配下の暴力団員に当該要求行為をするよう要求しており、再発のおそれがあったことから、今後1年間、その配下の暴力団員に類似の暴力的要求行為をすることを要求してはならないことなどを命令(9月、東京)
〔事例2〕 山口組の傘下組織A組の組長(48)が、配下の暴力団員4人の脱退を妨害し、再発のおそれがあったため、今後1年間、A組から脱退しようとする暴力団員の脱退を妨害してはならないことなどを命令(12月、旭川方面)
(2) 援助
 暴力団対策法が施行されてから1年間に、公安委員会は、5件の暴力団対策法に基づく援助措置を行い、その結果、指定暴力団員による暴力的要求行為の相手方の被害の回復が図られた。
〔事例〕 (1)ア〔事例7〕において、中止命令を発出した後、平成4年10月、被害者の申出を受けて、債務の履行に関する交渉の場所としての警察施設の提供等の援助を行い、当該暴力団員が債務の全額を弁済したことにより被害者の被害の回復が図られた(滋賀)。

3 警察における暴力団排除活動の展開

 暴力団を壊滅し、その不法な行為を根絶するためには、警察による強力な取締りが必要不可欠であることはいうまでもないが、これに加え、暴力団の存在を許容する社会的基盤を切り崩すための暴力団排除活動を各界各層の力を結集して積極的に展開することも極めて重要である。
 そのため、警察においても、暴力追放運動推進センター等の関係機関、団体と密接な連携を図りながら、暴排ローラーをはじめとする暴力団排除活動に強力に取り組んでいる。
(1) 暴排ローラー
 暴排ローラーとは、暴力団の不当な行為による被害の未然防止を図るとともに、その資金源を封圧するため、警察官が、地域や職域の特性に着目して、暴力団員の不当な要求行為等が行われやすい盛り場、繁華街等の地域や風俗営業等の職域に重点を置いて、それらの地域、職域の営業所、事業所等を個別に訪問し、関係者の被害申告を待たずに、網羅的に暴力団員による不当な要求行為等の実態を把握した上で、潜在被害を掘り起こし、犯罪の検挙や暴力団対策法の適用による規制措置等を講じるという一連の活動を指す実務上の用語である。
〔事例1〕 県下の全警察署がそれぞれ暴力団の資金獲得活動が活発とみられる地区を「縄張り壊滅重点地区」として指定し、同地区内の約8万3,000店舗に対する暴排ローラーを集中的に実施し、平成4年3月から同年12月までの間に、年間約5億3,000万円にも上るみかじめ料の支払実態を解明するとともに、その後の不当要求を封圧した(神奈川)。
〔事例2〕 暴力団の安定した資金源になっていると考えられるぱちんこ業界に的を絞って暴排ローラーを実施し、これに併せてぱちんこ業界の暴力団排除組織の結成を図るなどして年間約3億4,000万円のみかじめ料支払いの実態を解明し、みかじめ料不払いの宣言をさせるとともに、みかじめ料支払いの拒否が確認されたぱちんこ店に対しては店内に掲示する暴力団排除店「適マーク」等を交付して、みかじめ料支払い拒否の徹底を図った(宮城)。
(2) 暴力追放運動推進センターの指定、活動状況
ア 暴力追放運動推進センターの指定状況
 都道府県暴力追放運動推進センター(以下「都道府県センター」という。)については、平成4年3月に広島県及び石川県の暴力団排除組織がそれぞれの県公安委員会から指定を受けたのを皮切りに、暴力団対策法が施行された後半年余りの9月末までに47都道府県すべての暴力団排除組織が都道府県公安委員会から指定を受けた。全国暴力追放運動推進センターについては、4年12月に(財)全国防犯協会連合会が国家公安委員会から指定を受けた(表1-13)。

表1-13 暴力追放運動推進センター(平成5年6月)



 また、都道府県センターはそのすべてが5年3月までに、全国暴力追放運動推進センターは5年1月に、特定公益増進法人の認定を受けた。
イ 都道府県センターの活動状況
 都道府県センターにおいては、暴力追放相談委員として委嘱された弁護士、少年指導委員、保護司、元警察官等が暴力団に関する困りごと等の相談を受け、それぞれの専門的知識、経験をいかして相談者に対して必要な助言や援助を行っており、都道府県センターは、国民の「駆け込み寺」ともいうべきものとなっている。
 また、都道府県センターは、暴力団に関する困りごと等の相談を行うほか、少年を暴力団から守る活動、暴力団から離脱する意志を有する者を助ける活動、民間の暴力団排除活動に対する援助、暴力団を相手取った訴訟の支援、暴力団犯罪等の被害者に対する見舞金の支給等の事業を行うことによって、暴力団員の不当な行為による一般市民や企業の被害の未然防止を図っており、今後の民間の暴力団排除活動の核となるべき存在である。
 なお、暴力団対策法施行後1年間においては、図1-18のとおり、約

図1-18 都道府県暴力追放運動推進センターにおける類型別相談受理件数(平成4年3月30日~5年2月)

8,300件の相談が都道府県センターに寄せられているが、これらの相談については、暴力追放相談委員の助言等により、又は警察等関係機関、団体との連携により迅速かつ適切な処理が図られている。
〔事例1〕 4年12月、「土地を賃貸した不動産会社に対し、地代滞納で賃貸借契約の解除を行ったが、同社はこれに応じないばかりか、同土地にある建物を山口組の傘下組織の暴力団員に賃貸し、事務所として使用され困っている」との相談を受理し、相談者に対して事務所撤去のための民事訴訟の提起等の対策を指導した上、土地及び建物に対する占有移転禁止の仮処分に必要な保証金(100万円)の無利子貸付けを行った(愛知)。
〔事例2〕 4年5月、会津小鉄系暴力団関連業者による建設工事に絡んだ工事妨害等の相談を受理し、警察に対して取締りを要請するとともに、相談者に対して工事妨害禁止の仮処分の申請を行うことを教示した。同人から申請を受けた大津地方裁判所は、工事妨害禁止の仮処分を決定し、工事妨害等による被害の未然防止が図られた(滋賀)。
〔事例3〕 4年11月、「娘と親しくなった暴力団員から、高校生の息子が組員になるようしつこく迫られている」との母親からの相談を受理し、相談内容を検討した結果、加入強要事案に当たると判断して警察に通報したところ、その暴力団員に対し加入強要行為について中止命令が発出され、相談者の息子が暴力団に加入させられることを防いだ(兵庫)。
〔事例4〕 4年11月、暴力団員数人が、入店を拒否されたことから、飲食店経営者等に対し、脅迫し暴行を加え、同店内を騒然とさせて業務を妨害した事案につき、同店経営者に見舞金10万円を支給した(熊本)。
〔事例5〕 4年8月、自治会から住宅地に建設されるビルが暴力団事務所に使用されるおそれがあるとの相談を受けて指導及び助言を行ったところ、同自治会は、全会一致で同ビルの建設阻止を決議し、暴力団事務所建設阻止の署名運動を展開するとともに、市長に対して同ビルの建設阻止を陳情するなど、暴力団事務所建設反対運動を積極的に展開した。2箇月足らずの間に署名者は約3万9,000人(有権者総数約4万2,000人)に達し、10月には市議会が全会一致で暴力団事務所建設阻止・暴力追放都市宣言・暴力追放推進会議の設置を議決するに至った(茨城)。
ウ 都道府県センターの今後の課題
 世論調査において、都道府県センターを知っているかどうか聞いたところ、「名称も活動内容も知っている」者が11.1%、「名称だけで活動内容は知らない」者が29.7%である一方、「名称も活動内容も知らない」者が59.1%に上っている。また、暴力団員から不当な金品等の要求行為を受けたらどうするかという質問(複数回答)に対しては、「警察に相談する」と答えた者が81.4%を占める一方、「都道府県センターなどに相談する」と答えた者は29.2%にとどまっている。また、都道府県センターの活動で力を入れてほしいものについて聞いたところ(複数回答)、「少年を暴力団から守る活動」(49.8%)、「暴力団の実態や被害の予防のための広報活動」(39.3%)、「地域や各業界等で組織する暴力団排除活動組織の支援活動」(32.4%)、「社会復帰対策その他の援助活動」(25.8%)の順となっている。
 都道府県センターについては、積極的な広報により、その利用を呼び掛けるとともに、引き続き国民のニーズに合った活動を展開していくことが必要であると考えられる。
(3) 責任者講習の実施状況
 責任者講習は、暴力団対策法に基づき、おおむね事業所ごとに選任された不当要求防止責任者に対して、都道府県公安委員会又は都道府県公安委員会から委託を受けた都道府県センターが、暴力団情勢や暴力団員による不当な行為に対する対処方法等について行うものである。
 責任者講習は、平成4年11月に熊本で行われたのを皮切りに、5年3月までに全国28都県において実施され、暴力団員の不当要求による被害を受けやすいぱちんこ営業や金融、保険業等を中心として、約1万1,700人の不当要求防止責任者が同講習を受講した。5年度中は、全国47都道府県において、約7万7,500人の不当要求防止責任者を対象として責任者講習が行われる予定である。
 国内企業調査において、不当要求防止責任者の選任状況について聞いたところ表1-14のとおりで、不当要求防止責任者制度について知らないとする会社が35.9%を占めており、同制度の広報及び充実が必要であると考えられる。

表1-14 不当要求防止責任者の選任状況

4 暴力団員の組織離脱支援と少年の加入の防止

 暴力団の組織を壊滅させるには、暴力団員を一人でも多く組織から離脱させるとともに、暴力団に新たに加入しようとする者、特にその大半を占める少年が暴力団に加入することを防止し、暴力団の人的な基盤を切り崩すことが重要である。
(1) 離脱者の状況
 暴力団対策法の施行や国民の暴排意識の高揚等によって、暴力団員の不当な資金獲得活動が困難になるとともに、暴力団の組織内部には動揺がみられ、その結果、最近、暴力団員をやめたいという相談が目立って増加している。全国の警察と都道府県センターの受理した暴力団員の離脱に関する相談件数は、平成3年には260件であったが、4年は1,935件であり、前年に比べ7.5倍になっている。神奈川県警察では、暴力団対策法施行後に暴力団離脱希望者の相談が増加したことから、4年4月に暴力団離脱者相談電話を設置したところ、全国の暴力団員本人、その家族等から多くの相談が寄せられ、4年末までに367件に達し、離脱と社会復帰を真剣に考えている者がかなりいることがうかがわれる。その相談内容をみると、表1-15のとおり、回復困難な身体的特徴として残る指詰めによる手指の欠損や入れ墨の悩みを訴える相談が多く、指詰めや入れ墨が社会復帰のための大きな障害となっていることがうかがわれる。
(注) 暴力団の離脱の障害となる指詰めや少年に対する入れ墨の強要等の不当な行為を規制し、暴力団員の組織離脱を促進するため、5年4月、暴力団対策法の改正が行われた。

表1-15 神奈川県警察の暴力団離脱者相談電話に寄せられた相談の内容(平成4年4月21日~12月31日)

 被疑者調査において、暴力団からの離脱の意志の有無を聞いたところ、やめる意志を有している者は30%を超え(図1-19)、その者にやめる気になった理由を聞いたところ、「家族のことを考えて」(82.6%)、「今回検挙されたこと」(64.4%)、「適当な職業があること」(56.0%)を挙げる者が多い(表1-16)。一方、やめる意志がない者にその理由を聞いたところ、「親分との縁切りはできない」(64.4%)、「自分にはこの世界しかないと思っている」(56.4%)、「今さら人生のやり直しはできない」

図1-19 暴力団から離脱する意志の有無

表1-16 暴力団をやめるつもりになった理由(暴力団をやめる意志のある者477人を対象、複数回答)

表1-17 暴力団をやめない理由(暴力団をやめる意志のない者904人を対象、複数回答)

表1-18 釈放後の組を抜けやすくするための周囲の協力(複数回答)

(49.8%)を挙げる者が多い(表1-17)。釈放後どのような周囲の協力があれば組を抜けやすいか聞いたところ表1-18のとおりで、「就職の世話」(35.8%)、「絶縁するための手切れ金以外の援助」(30.5%)、「何でも話し合える相談相手」(24.4%)の順となっている。
(2) 離脱を支援する施策の推進
 警察では、暴力団員の組織からの離脱を円滑に進めるため、暴力団対策法に基づき、脱退妨害行為に対して中止命令を発している。
〔事例〕 暴力団対策法施行後、縄張内にある飲食店からのみかじめ料徴収が困難になったことなどにより正業に就こうとした住吉会の暴力団員の脱退を妨害した同会の暴力団員(48)に対し、平成4年12月、妨害行為の中止を命令(神奈川)
 また、暴力団員の組織離脱化傾向が顕著になるにつれ、暴力団離脱者に対する雇用の場を確保するための事業等の暴力団員の社会復帰対策が各都道府県で推進され、都道府県センターや職業安定機関等の関係機関及び団体と連携を図りながら社会復帰対策のための組織づくりが行われているところである。5年4月末現在、福島県をはじめとする34都道府県において、警察、職業安定機関、都道府県センター、協賛企業等で構成される社会復帰対策協議会が設立され(表1-19)、企業約2,000社の協賛を得て組織離脱から社会復帰に至るまでの支援事業の推進が図られている。
 世論調査において、暴力団員の社会復帰対策についてどう思うか聞いたところ、「援助は必要であり社会復帰のための効果もある」(68.4%)、「援助は必要だと思うがいつかはまた暴力団に戻ってしまうのであまり効果はない」(17.1%)、「社会復帰させるための援助は必要ない」(4.8%)の順であり、社会復帰対策はおおむね国民の支持を得ているとみられるが、国内企業調査において、暴力団員の離脱者の雇用について聞いたところ、「趣旨には賛同できるが環境整備が必要である」とするものが63.8%を占めている。
〔事例〕 4年2月、警察と(財)暴力団根絶福島県民会議は、公共職業安定所、福島県保護司連盟等の関係行政機関、団体及び協賛企業58社から成る暴力団社会復帰対策協議会を設立、5年3月末までに警察の支援の下に暴力団員7人を離脱させ、同協議会の協賛企業に就職させるなどして社会復帰させた(福島)。

表1-19 社会復帰対策協議会の設立状況(平成5年4月)

(3) 少年組員の組織離脱と暴力団予備軍少年の加入防止
 警察では、少年の健全育成を図るとともに、暴力団に対する人的供給を遮断するため、関係機関、団体と協力して、少年組員の組織離脱及び暴力団予備軍少年の加入防止対策を強力に推進している。また、少年に暴力団への加入を強要するなどの行為に対しては、暴力団対策法による命令の効果的な運用を図っている。
 なお、少年と暴力団の関係については、第1節2(1)参照。
〔事例1〕 平成4年4月、警察官が、窃盗で逮捕され少年院に入院している少年組員(18)に対し、少年院と連携して粘り強く説得を行い、暴力団から離脱させた(京都)。
〔事例2〕 中学時代の先輩後輩の関係をきっかけに配下の暴力団員と行動を共にするようになった少年に、山口組に加入することを強要した同組の暴力団員(50)に対し、4年8月、強要行為の中止を命令(宮城)

5 保護対策の徹底

 暴力団対策法の施行後、暴力団は、暴力団対策法に対する対決姿勢を強めるとともに、暴力団排除世論の急激な盛り上がりに対して反発を強め、暴力団による報道機関等に対する攻撃がみられた。
〔事例1〕 山口組の傘下組織の暴力団員らは、平成4年8月、文京区内の出版社の写真週刊誌編集部に乱入し、副編集長の頭部等を所携の金属パイプで殴打し、全治1週間の傷害を負わせた。同月逮捕(警視庁)
〔事例2〕 山口組の傘下組織の幹部らは、4年5月、民事介入暴力を題材とする映画を製作した映画監督を待ち伏せして襲い、同人の顔面、頸(けい)部等を刃物で数回にわたって切り付け、全治3箇月以上の傷害を負わせた。12月逮捕(警視庁)
 警察では、暴力団排除活動に携わる者その他の暴力団との対決の姿勢を明らかにし、暴力団から見て好ましからざる者の安全確保を図っていくことを重要課題として位置付け、これらの者の自宅や勤務先における身辺警戒やパトロールの強化を実施し、暴力団によるこれらの者に対する危害が発生することのないよう種々の対策を講じている。

6 国民の暴力団総合対策に対する評価

 暴力団総合対策は、現在までのところ国民から良好な評価を受けているものとみられる。
 世論調査において、暴力団に対する取締りとその排除についての警察の取組みについて聞いたところ、「高く評価している」又は「ある程度評価している」と答えた者が71.8%に上っている。
 歓楽街調査において、警察の最近の暴力団対策に関する対応について聞いたところ(複数回答)、「連絡、相談がしやすくなった」とするものが35.3%、「暴力団への取締りが強化されてきた」とするものが34.3%に上っている。
 また、国内企業調査において暴力団対策法の効果について聞いたところ、「大変効果が挙がっている」が33.6%、「多少は効果が出始めている」が57.2%で、合わせて90.8%に上っている。歓楽街調査においても同様の質問をしたところ、「大変効果が挙がっている」が49.0%を占め、「以前とあまり変わらずほとんど効果は感じない」が11.0%、「暴力団には効果があったが他の犯罪集団からの要求等が増加した」が8.6%となっている。


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