第1章 暴力団情勢と対策の現状・課題

~暴力団対策法施行後1年を振り返って~

 暴力団をめぐる情勢は、大きな転機にあると言えよう。
 我が国の法律上初めて暴力団を反社会的団体として明確に位置付けた暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号。以下「暴力団対策法」という。)は、4年3月1日から施行され、施行後1年を迎えた。
 国民各層においては、暴力団対策法の施行を契機に、暴力団排除の気運が飛躍的に盛り上がり、暴力団の壊滅を求める国民の警察に対する期待は、かつてないほどの高まりをみせている。警察においては、その総力を結集し、山口組、稲川会及び住吉会の重点対象3団体を中心として、暴力団総合対策を推進することにより、暴力団の社会的な存在基盤(人、金、物)を切り崩して暴力団組織に壊滅的打撃を加え、もって、暴力団の危害から市民生活の安全や社会経済システムの健全性を確保し、国民の期待にこたえるよう努めている。
 このような情勢の下、暴力団側にあっては、警察による暴力団犯罪の取締りの徹底や国民の暴力団排除気運の高揚等により、構成員の組織離脱傾向の顕在化等組織の動揺がうかがわれる一方、暴力団の看板を外したり、組織を会社や政治結社に変えるなど組織の実態を隠ぺいしようという動きがみられ、また、海外進出等その活動を国際化させる傾向がみられるところである。
 今後とも、暴力団の動向について十分な警戒心をもって監視し、暴力団総合対策を一層強力に推進するとともに、暴力団利用者対策、暴力団不正収益対策及び暴力団海外進出対策に積極的に取り組む必要がある。
○ 暴力団対策法の概要(図1-1)
 暴力団対策法の概要は、以下のとおりである。
1 一定の要件に該当する暴力団を指定し、この指定された暴力団(指定暴力団)の暴力団員(指定暴力団員)を規制の対象とする。
2 指定暴力団員が指定暴力団の威力を示して行う次の11の典型的な不当な金品等の要求行為(以下「暴力的要求行為」という。)を禁止する。
 公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為を行っており、その相手方の生活の平穏等が害されていると認める場合には、当該行為の中止等を命ずることができる(中止命令)。また、その違反行為を行っ

図1-1 暴力団対策法の概要

た指定暴力団員が類似の暴力的要求行為を反復して行うおそれがあると認めるときは、公安委員会は、1年以内の期間を定めて、その再発を防止するために必要な事項を命令することができる(再発防止命令)。
(1) 人の弱みに付け込む金品等要求行為
 一般の人々には知れわたっていない事実を公にしないことなどの見返りとして、口止め料等の金品等を要求する行為
(2) 不当贈与要求行為
 人や企業等に対して、みだりに、金品等の贈与を要求する行為
(3) 不当下請等要求行為
 建設工事等の発注者又は受注者に対して、その者が拒絶しているにもかかわらず、下請をさせること、物品を納入すること、又は役務の提供を受け入れることを要求する行為
(4) みかじめ料要求行為
 縄張内の飲食店等に対して、「この辺りで店を出すならウチにあいさつに来い」などと縄張内で営業を営むことを容認する見返りとして、あいさつ料、みかじめ料等名目のいかんを問わず、金品等を要求する行為
(5) 用心棒料等要求行為
 縄張内の飲食店等に対して、「面倒を見てやる」、「何かあったら話をつけてやる」などと「用心棒料」を要求したり、店の装飾用の造花等の物品の購入や客に出すおしぼりのリース等の役務の提供を受けることを要求する行為
(6) 高利債権取立行為
 利息制限法に定める利息の制限額を超える利息の支払いを伴う不当な債権の取立てをする行為
(7) 不当債務免除要求行為
 「ヤクザに取立てをするなんて筋が違う」などと、みだりに、債務の免除又は履行の猶予を要求する行為
(8) 不当貸付要求行為
ア 金銭貸付業者以外の一般人に対して、みだりに、貸付けを要求する行為
イ 銀行、サラ金等の金銭貸付業者に対して、その者が拒絶しているにもかかわらず、金銭の貸付けを要求する行為
ウ 銀行、サラ金等の金銭貸付業者に対して、無担保での多額融資等、通常の融資条件より著しく有利な条件での貸付けを要求する行為
(9) 不当地上げ行為
 建物やその敷地を正当に使用する権利に基づいてこれらを居住又は事業に使用している者に対し、その意思に反して、これらの明渡しを要求する行為
(10) 不当示談介入行為
 他人の依頼を受け、報酬をもらって、交通事故等の示談に介入して金品等を要求する行為
(11) 因縁をつけての金品等要求行為
 購入した商品や提供を受けた役務に瑕疵(かし)がないにもかかわらず瑕疵(かし)があるとしたり、交通事故その他の事故による損害がないにもかかわらず損害があるとしたり、又は瑕疵(かし)や損害の程度を誇張して、損害賠償その他これに類する名目で金品等の供与を要求する行為
(注) 平成5年4月、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の一部を改正する法律(平成5年法律第41号。以下「改正法」という。)が成立し、一般人等が指定暴力団員が暴力的要求行為を行う現場に立ち会い、その暴力的要求行為を助ける行為が禁止されるとともに、暴力的要求行為に係る行為類型に次のような改正があった。
[1] 競売の対象となるような土地、建物に係る明渡し料等を不当に要求する行為(新設)
[2] 株式会社やその関係者に対して不当に自己株式の買取り等を要求する行為(新設)
[3] 証券会社に対して有価証券の信用取引を不当に要求する行為(新設)
[4] 歌謡ショーその他の興業の入場券やパーティー券等の購入を要求する行為(用心棒料等要求行為に追加)
[5] 手形の割引、売渡担保等の方法によってする金銭の交付(貸付類似行為)又は貸付類似行為の媒介を要求する行為(不当貸付要求行為に追加)
[6] 勧誘を受けて購入した有価証券の価格の下落等による損失の補てんの名目で金品等を要求する行為(因縁をつけての金品等要求行為に追加)
3 公安委員会は、暴力的要求行為の被害者に対し被害の回復等のための援助を行い、事業者に対し不当要求による被害の防止のための援助を行う。
4 公安委員会は、対立抗争が発生した場合において、一定の要件を満たすときは、期間を定めて、事務所を指定暴力団の活動の用に供することなどを禁止することを命ずることができる(事務所の使用制限)。
5 指定暴力団員が行う暴力団への加入の勧誘、暴力団からの脱退の妨害、事務所等において住民に不安を覚えさせるような行為等について一定の規制を行う。
(注1) 改正法により、新たに暴力団員の暴力団からの離脱を阻害する不当な行為(指詰めの強要、少年に対する入れ墨の強要)、人を威迫して行うその密接関係者に対する暴力団への加入の強要等の行為等が規制されることとなった。
(注2) 改正法により、暴力団員の暴力団からの離脱及び社会復帰を促進するため、公安委員会は、暴力団からの離脱を希望する者その他関係者を対象として、離脱を希望する者の暴力団からの離脱と社会経済活動への参加を確保するために必要な措置を講ずるとともに、離脱者に対する援護に関する思想を普及するための啓発を行うこととされた。
6 全国及び都道府県ごとに暴力追放運動推進センターを指定し、暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間公益活動の促進を図る。

○ 本章では、次の五つの調査の結果に基づき、暴力団の情勢、世論の動向等を分析している。
1 暴力団員被疑者に関する調査(被疑者調査)
 警察庁が、全国の都道府県警察の協力を得て、逮捕、勾留された暴力団構成員の被疑者1,440人を対象に5年1月から2月にかけて実施した。
2 全国の歓楽街における暴力団の活動実態に関するアンケート調査(歓楽街調査)
 警察庁及び全国暴力追放運動推進センターが、関係都道府県警察の協力を得て、札幌市、仙台市、東京都(新宿区歌舞伎町、港区六本木)、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、広島市及び福岡市の歓楽街で風俗営業、風俗関連営業又は深夜酒類提供飲食店営業を営む者のうち、5,156人を対象に5年2月から3月にかけて実施し、2,785人から回答を得た(回収率54.0%)。
3 暴力団に関するアンケート調査(国内企業調査)
 警察庁及び全国暴力追放運動推進センターが、日本国内の大手企業3,061社を対象に5年2月実施し、2,359社から回答を得た(回収率77.1%)。
4 暴力団の海外活動等に関するアンケート調査(在外企業拠点調査)
 警察庁及び全国暴力追放運動推進センターが、日本の大手企業の支店、駐在員事務所等の在外拠点1,231拠点を対象に5年4月から5月にかけて実施し、5月末現在662拠点から回答を得た(回収率53.8%)。
5 暴力団に関する世論調査(世論調査)
 総理府が、全国3,000人の成人を対象に5年1月実施し、2,166人から回答を得た(回収率72.2%)。


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