第9章 警察活動のささえ

1 警察職員

 我が国の警察組織は、都道府県を単位としており、都道府県公安委員会の管理の下に警察職務を直接遂行する都道府県警察が置かれている。また、これら都道府県警察を国家的、全国的な立場から指導監督し、又は調整する国の警察機関として、国家公安委員会の管理の下に警察庁が置かれている。
 警察庁及び都道府県警察に勤務する警察職員は、警察官、皇宮護衛官、事務職員、技術職員等で構成され、これらの職員が一体となって警察職務の遂行に当たっている。
 警察が治安維持の責務を全うしていくためには、現在警察で勤務している職員のおう盛な士気を維持するとともに、今後の警察を担っていく優秀な人材を確保していく必要がある。そのため、全国の警察を挙げて、職員の待遇改善、勤務環境の整備等に努めているところであり、現在の職員のみならず、将来警察で勤務する者にとっても、更に魅力のある職場づくりを積極的に推進している。
(1) 定員
 警察職員の定員は、平成3年末現在、総数25万8,948人で、その内訳は、表9-1のとおりである。3年度には、地方警察職員たる警察官504人の増員が行われ、警察官1人当たりの負担人口は、全国平均で557人となった。

表9-1 警察職員の定員(平成3年)

(2) 教育訓練
 警察官には、逮捕、武器使用等の実力行使の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多いので、職務執行を適正に行うためには、高度な実務能力と円満な良識とを兼ね備えていなければならない。このため、警察では、警察学校において、新しく採用した警察官に対する採用時教養、各階級昇任者に対する昇任時教養、専門分野に応じた各種の専科教養等の集合教養を実施しているほか、職場における個別指導を行うなど、あらゆる機会を通じてきめ細かな教養を行い、各階級、各職種において求められる実務能力のかん養に努めるとともに、柔道、剣道、逮捕術、けん銃操法、体育等の術科訓練を通じて、体力、気力の充実と職務執行に必要な技能の習得に努めている。
 警察学校における教養の中で特に重要なものは、採用時教養である。そこでは、新たに採用した警察官に対して、警察官として必要な法律知識や技能を身に付けさせるとともに、部外講師を招へいして情操教育を実施するなど豊かな人間性をはぐくむための教育訓練を行っている。
 また、警察学校における教養効果を高めるためには、教室や生徒寮等の施設の充実をはじめとする教育環境の整備が不可欠である。そのため、学生が、快適な居住環境の下で生き生きと学校生活を送れるように、学生のプライバシーを十分配慮した生徒寮の改善、ゆとりのあるカリキュラムや十分な自由時間の設定等の工夫を行っている。
 このほか、警察では、優秀な人材を育成するため、海外研修制度、各種資格取得奨励制度等の拡充に努めている。特に、海外研修制度については、犯罪の国際化に的確に対応するため、語学能力と実務能力を兼ね備えた国際捜査官の養成を目的として、警察大学校の附置機関である国際捜査研修所において、語学研修を主とした海外研修を行っている。また、都道府県警察においても、海外研修制度を積極的に採り入れている。
 また、警察官に求められる職業倫理の確立と使命感の醸成を図るため、その指針として設けた「警察職員の信条」を中心とする職業倫理教養に力を入れているほか、市民の立場に立って親切かつ適切に職務を行うため、応接態度と言葉遣いの改善を目的に、民間企業への派遣研修、部外講師による接偶マナー講習会、応接指導者研修等を行うなど市民応接教養を推進している。
(3) 勤務
ア 警察職員の勤務
 警察の果たすべき治安維持の責務は、昼夜を分かたぬものであり、24時間警戒体制を確保する必要がある。そこで、地域警察官をはじめ、全警察官の4割以上は、通常、3交替制で3日に1度の夜間勤務を行っている。交替制勤務者以外でも、警察署に勤務する警察官の多くは、6日に1度程度の割合で夜間勤務に従事している。また、突発事件、事故の捜査等のため、勤務時間外に呼び出されることも少なくない。
 このため、警察官をはじめとする警察職員の勤務条件、給与、諸手当等の待遇については、常に改善を検討しており、これまで、駐在所勤務員の複数化、派出所等の勤務環境の改善、階級別定員の見直し等が図られてきたが、職員の待遇を改善することは、優秀な人材の確保にも資することから、今後ともその改善に努めることとしている。
 勤務時間については、平成4年5月1日より国家公務員の完全週休二日制が実施されたことに伴い、警察庁においても、国家公務員たる警察庁職員については、完全週休二日制を導入した。また、都道府県警察においても、必要な条例改正が行われ、平成4年度中に完全週休二日制が実施される見通しである。このため、警察では、治安維持の責務を全うしつつ、週40時間勤務制に対応できるよう、今後ますます勤務制度や業務処理方法の改善、人員の効率的運用を図ることとしている。
 さらに、夏季等における休暇の連続取得の普及や年次休暇の計画的取得の促進を図るなど職員が休暇を取得しやすい環境づくりを積極的に推進しているところである。
〔事例〕 警視庁をはじめとする多くの都道府県警察では、いわゆるリフレッシュ休暇制度を導入し、各種表彰を受賞した者等が、一定期間の連続休暇を容易に取得できるようにしており、さらに、互助会等からは、旅行補助等の金銭上の援助、助成等が行われている。また、いくつかの都道府県警察では、結婚記念日、誕生日等の各種記念日を迎えた者が休暇を取得しやすくする工夫がされている。
イ 警察官の殉職、受傷
 警察官は、国民の生命、身体等を保護し、公共の安全と秩序を維持するために自らの身の危険を顧みず職務遂行に当たり、その結果、職に殉じたり受傷したりする場合がある。例えば、3年においては、警察官がパトロール中に職務質問した不審者により刃物で刺され死亡する事案、雲仙岳噴火に伴う住民への避難広報活動中に火砕流に巻き込まれ死亡する事案等が発生した。このように、職に殉じたり受傷した警察官又はその家族に対しては、公務災害補償制度による補償のほか、各種の援護措置が採られている。
〔事例〕 6月、長崎県警察のA警部補(26)及びB警部補(25)は、雲仙岳噴火に伴う交通規制、避難誘導等に従事していたところ、規模の大きな火砕流に巻き込まれ殉職した。
 同人らの遺族に対しては、弔慰金、遺族年金ばかりでなく、特殊公務災害として法律に基づく各種給付金が支給されたほか、同人らの身を顧みぬ職務遂行をたたえるために、国や県から賞じゅつ金等が支払われた。
(4) 婦人警察職員
 平成3年4月1日現在、都道府県警察には、婦人警察官約4,500人、婦人交通巡視員約2,000人、婦人補導員約950人、一般職員約9,900人の女性が勤務しており、それぞれの分野で活躍している。
 3年度においては、婦人警察官を採用する都道府県警察の数が、前年度の31から32に増加した。また、婦人警察職員の働く分野も次第に拡大されつつあり、現在では、交通指導取締り、少年補導、女子の留置、保護、広報等のみならず、犯罪捜査、鑑識活動、警衛、警護、警備、情報分析等の様々な分野に及んでいる。今後は、警察庁を含めた各警察組織において、更に多くの婦人警察職員が幅広い職域で活躍することが期待されている。

(5) 採用への総合的な取組み
 平成3年度に都道府県警察の警察官採用試験に応募した者は約6万4,600人、合格した者は約7,500人(うち大学卒業者は約2,700人)であり、競争率は8.6倍であった。
 警察官としてふさわしい能力と適性を有する優秀な人材を確保することは、警察力の基盤強化を図る上で極めて重要な意義を有しており、そのため、警察では、これまでも優秀な人材の確保に努めてきた。しかし、今後、警察官の採用必要数が増加していくことが見込まれる反面、若年人口は減少していくことなどから、警察官の採用をめぐる情勢についても、厳しさを増すことが予想される。このような情勢を踏まえ、今後とも優秀な人材の確保を図るため、警察庁に「都道府県警察における総合的人材確保方策推進検討委員会」を設置するとともに、全国の警察を挙げて、派出所等の勤務環境の改善、快適な独身寮の整備、拡充等をはじめとする施設の改善に努め、更に魅力ある職場づくりを積極的に推進している。
(6) 国民の期待と信頼にこたえる適正な警察運営
 警察が治安維持の責務を全うしていくためには、警察活動に対する国民の理解と協力が不可欠であり、そのため、すべての警察職員が職責を自覚して職務に精励することが肝要である。そこで、職務執行をめぐる過去の教訓等を踏まえながら、警察庁及び各都道府県警察に設置している「業務適正化委員会」の活動を更に活発化させ、警察各部門における業務運営や服務に関する問題点を抽出して具体的かつ効果的な改善方策を講ずるとともに、適正な人事管理や職業倫理教養の徹底、組織の活性化、職員の士気の高揚等の各種施策を推進して、国民の期待と信頼にこたえ得る警察運営に努めている。
(7) 階級構成の是正
 近年、社会情勢や国民意識の変化に伴い、警察の職務内容は、あらゆる分野において複雑かつ高度専門化するとともに、警察官の職務執行は困難の度を著しく増している。このような警察を取り巻く環境の変化に適切に対応できる組織をつくるという観点から、平成3年から8年までの6年計画で警察組織における階級構成を抜本的に是正することとなった。
 これは、組織管理、業務管理のかなめとなるポスト、都道府県警察全体の業務を指導、調整するとともに自ら重要事案処理に当たっている警察本部の勤務員のポスト、社会のニーズに直接こたえていく第一線警察署において自らの判断と責任により職務を遂行しているポストについて、より高度な知識と経験を有する上位の階級の警察官を配置することによって、組織内の責任体制の明確化と業務遂行の高度化、専門化を図るものである。
 また、これにより、都道府県警察の階級構成は、図9-1のとおり、「ピラミッド型」から「つりがね型」に大きく改まることとなり、より上位の階級の人数枠が拡張されることとなった。その結果、長年勤務に精励することにより高度な業務遂行能力を身に付けた警察官を能力本位で適正に昇任させることが可能となり、警察官の処遇改善と士気の向上が期待される。

図9-1 都道府県警察の階級構成

2 協力援助者等に対する救済

(1) 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済
 一般の市民が社会公共のため現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して、負傷し、疾病にかかり、障害を負い、又は死亡した場合には、本人やその家族の生活の安定を図るため、その程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成3年に、警察官の職務に協力援助して死亡し、又は受傷した市民は、死者14人、受傷者14人で、前年に比べ、死者は4人増加し、受傷者は6人減少した。
〔事例〕 会社社長(58)は、乗用車で帰宅途中、「助けてくれ」と叫ぶ声を聞いて小学生3人が農業用水でおぼれているのに気付き、着衣のまま飛び込み3人を救助したが、力尽きて死亡した。
 これに対しては、葬祭給付及び遺族給付が支給された(千葉)。
(2) 犯罪被害者等に対する救済
ア 犯罪被害給付制度による救済
 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人や爆弾事件等故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた被害者の遺族又は身体に重大な障害を負った被害者に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が遺族給付金又は障害給付金(以下「給付金」という。)を支給し、その精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとして創設されたものであり、昭和56年1月1日から実施されている。
 被害者又は遺族からの給付金の申請に対する都道府県公安委員会の裁定等の状況をみると、制度創設以来11年間に、2,520人に対して総額約55億1,900万円の給付金が支給されている。
イ (財)犯罪被害救援基金の活動
 (財)犯罪被害救援基金は、国の犯罪被害給付制度を補完し、充実させることを目的として、56年5月に設立された。
 同基金は、国民各層から寄せられた浄財を基本財産として、犯罪被害遺児に対する奨学事業等の救援事業を行っており、基金設立以来平成3年末までに、1,045人の奨学生に対し、約6億8,300万円の奨学金を支給している。奨学金の月額については、これまで4回にわたり引上げを行い、月額9,000円(小学生)から2万9,000円(大学生)を支給しているほか、入学一時金として、昭和59年4月から大学入学時に5万円、小学校入学時に7万円を、61年4月からは高等学校及び中学校入学時にそれぞれ3万円を支給している。
 同基金では、59年4月から重障害を受けた犯罪被害者に対する見舞金の給付事業も行っており、平成3年末までに、35人に対し、1,150万円を支給している。
 また、同基金は、3年10月、日本被害者学会とともに「被害者救済の未来像」をテーマとした「犯罪被害給付制度発足・犯罪被害救援基金設立10周年記念シンポジウム」を開催し、シンポジウムでの提言を基に、被害者救済の新たな在り方について検討を行っている。

3 予算

 警察予算は、国の予算に計上される警察庁予算と各都道府県の予算に計上される都道府県警察予算とで構成される。警察庁予算には、警察庁、管区警察局等国の機関に必要な経費だけでなく、都道府県警察が使用する警察用車両やヘリコプターの購入費、警察学校等の増改築費、特定の重要犯罪の捜査費等の都道府県警察に要する経費や都道府県警察への補助金が含まれている。
 平成3年度の国の予算編成においては、財政改革の推進と内需を中心とした景気の持続的拡大の維持という一つの要請にこたえるべく、「平成2年度当初予算における経常部門経費の予算額から10パーセントを削減した金額と投資部門経費の予算額相当額との合計額」という概算要求基準が設定された。警察庁としては、このような厳しい財政状況の下においても現在の治安水準を維持するため、捜査力の充実強化、重大テロ事件対策の強化、麻薬・覚せい剤事犯対策の強化等について、重点的に予算措置している。
 3年度の警察庁当初予算は、総額2,032億3,200万円で、前年度に比べ、74億1,800万円(3.8%)増加し、国の一般会計予算総額の0.3%を占めている。また、補正後予算の内容は、図9-2のとおりである。
 3年度の都道府県警察予算は、各都道府県において、それぞれの財政事情、犯罪情勢等を勘案しながら作成されているが、その総額は2兆8,050億800万円で、前年度に比べ、1,628億6,000万円(6.2%)増加し、都道府県予算総額の6.2%を占めている。その内容は、図9-3のとおりである。
 警察庁予算と都道府県警察予算の合計額(重複する補助金額を控除した額)を国の人口で割ると、国民1人当たり約2万4,000円となる。

図9-2 警察庁予算(平成3年度補正後)

図9-3 都道府県警察予算(平成3年度最終補正後)

4 装備

(1) 車両
 警察用車両には、捜査用車、鑑識車等の刑事警察活動用車両、交通パトカー、白バイ、交通事故処理車等の交通警察活動用車両、警らパトカー、移動交番車等の地域警察活動用車両等があり、現有警察用車両の用途別構成は、図9-4のとおりである。
 平成3年度は、暴力団対策や広域重要事件捜査等のための刑事警察活動用車両、高速道路用の交通指導取締り用車両、薬物乱用取締り用の車両、駐在所用の小型警ら車等の増強整備を図るとともに、既に配備されている警察用車両についても、耐用年数を経過して特に減耗度の著しい車両を重点に更新整備を図った。

図9-4 警察用車両の用途別構成(平成3年度)



 今後も、警察事象の広域化、悪質化に的確に対応して、国民の負託にこたえていくためには、警察機動力のかなめである警察用車両の整備充実を一層推進していく必要がある。
(2) 船舶
 警察用船舶は、全長5メートル級から20メートル級のものが合計203隻あり、港湾、離島、湖沼等に配備され、多様化する水上レジャーの指導取締り、水難救助、覚せい剤等の密輸事犯の取締り等の水上警察活動に活用されている。
 今後の警察用船舶の整備に当たっては、水上警察事象の広域化、高速化に対応するため、より大型化、高速化、高性能化を図っていく必要がある。
 なお、水上警察活動については、第2章3(2)参照。

(3) 航空機
 警察用航空機は、空からのパトロール、犯人の捜索や追跡等の捜査活動、交通指導取締り、救難救助等警察活動全般にわたる幅広い分野で活躍している。

 平成3年度は、鳥取、佐賀の両県警察に小型ヘリコプター各1機を新規に配備した。この結果、ヘリコプターの配備数は、47都道府県警察に合計62機となった。
 今後とも、高速性、広視界性に優れた警察用航空機の複数配備を推進していく必要がある。
 なお、警察用航空機の活動については、第2章3(4)参照。
(4) 警察装備資機材の開発
 警察では、警察活動の基盤となる装備資機材に、最先端科学技術を導入することによって、警察業務の効率化と高度化に努めている。
 平成3年度においては、第一線警察からのニーズが強いテロ、ゲリラ対策用資機材、個人装備品等の開発改善に努めた。
 今後も、警察装備資機材の科学化、近代化を図るため、研究、開発を一層推進することとしている。

5 警察活動とコンピュータの活用

(1) 犯罪捜査におけるコンピュータの活用
ア 第一線からの照会
 警察庁では、都道府県警察から手配された「人」(家出人等)、「車」(盗難車両等)、「物」(各種盗難品等)に関するデータを大型コンピュータで管理しており、全国の第一線警察官からの照会に対して即時に該当の有無を回答することにより、警察活動を支援している。
 また、自動車を利用した犯罪に対応し、手配車両を早期に発見するため、「自動車ナンバー自動読取システム」や携帯型コンピュータによる「車両検索システム」の整備を行い、盗難車両等の発見に大きな成果を挙げている。
〔事例〕 平成3年5月、駐車中の車両に携帯型コンピュータによる検索を実施した結果、盗難車両であることが判明した。このため、車両に乗り込もうとした男(28)に対し職務質問を行ったところ、犯行を自供したので、緊急逮捕した。この男は、この他、車上ねらい数件を自供した(熊本)。
イ 捜査情報のコンピュータ処理
(ア) 捜査情報交換システムと多角照合システム
 複数の都道府県において発生した犯罪で、同一犯人の犯行と考えられるものについて、各都道府県警察が収集した捜査情報をデータ通信回線を通じて相互に交換し合うシステムを「捜査情報交換システム」といい、これにより集めた情報について、コンピュータを用いて関連性のチェックを行うことにより被疑者の絞り込みを行うシステムが「多角照合システム」である。これらのシステムは、広域犯罪等の捜査支援等に威力を発揮している。
(イ) 捜査資料の解析
 捜査活動で押収した膨大な書類、帳簿等を手作業で分析処理するには大変な人手と時間が掛かるため、これをコンピュータで集計、分析することにより、捜査の迅速化、合理化を図っている。
 また、最近は、企業の会計事務等がコンピュータ処理されていることが多いため、押収した磁気テープ、フロッピー等の解読、分析等にもコンピュータを用いている。
ウ 指紋の照合
 警察庁では、昭和57年10月から「指紋自動識別システム」を導入して指紋の登録を開始し、58年10月から遺留指紋照会を、59年10月からは被疑者の身元や余罪を確認する業務を開始し、被疑者の割り出し、身元確認等に大きな役割を果たしている。
(2) 運転免許業務におけるコンピュータの活用
 全国の運転免許保有者数は、平成3年末現在6,200万人を超えている。これらの運転免許に関するデータは、警察庁のコンピュータで全国的な管理を行っており、都道府県警察の運転免許試験場等に設置した端末装置からの照会に対して即時に回答することにより、次のような業務を処理している。
ア 免許証の交付事務処理
 運転免許試験に合格した人や、免許証の更新を申請した人に対して、必要なチェックを行い、迅速な免許証の交付に努めている。また、都道府県公安委員会ごとに発行される免許証を警察庁で一元管理することにより、免許証の二重取得等の不正を防止している。
イ 行政処分と危険運転者の排除
 危険運転者を排除するために行われる免許の取消し、停止等の行政処分を迅速、適正に行うため、警察庁では、交通違反等に係るデータの集中管理、行政処分の基準該当通報を行っている。
(3) 行政サービスの向上と警察業務OA化
ア 市民応接関連システムの開発
 警察署等における窓口業務は、従来、ほとんど人手により処理していたが、コンピュータで迅速、的確に処理することにより、行政サービスの向上を図るため、各都道府県警察において、遺失拾得物管理システム等の市民応接情報管理システムの開発が進められている。
イ ネットワーク化の推進
 各都道府県警察において、市民サービス、事務能率の向上を目指して、警察署にパソコンを設置し、警察本部の大型コンピュータとデータ通信回線で接続することにより、警察署の端末から県下全域にわたる情報を検索することのできる県内情報ネットワークの構築を進めている。
(4) 情報処理に関する技術的研究
 警察庁では、最近の犯罪の広域化、スピード化、巧妙化等に対応して、警察活動の近代化、科学化を推進すべく、AI(人口知能)技術、パターン認識技術、画像処理技術等、最先端のコンピュータ技術を応用した各種の情報処理システムの開発を推進している。平成3年度には、AI技術、画像処理技術の応用として、「少年相談支援システム」、「個人特徴自動識別システム」等のシステム構築のための研究を行ったが、4年度からは、今後被害の拡大が危ぐされるコンピュータ・ウイルスへの対策に関する調査研究を実施することとしている。
 また、警察官の学校教育の高度化を目指して、元年10月からCAI(コンピュータによる教育支援)システムを警察大学校に導入している。

6 通信

 あらゆる警察活動を円滑に遂行するためには、情報通信の活用を図ることが重要である。このため、警察では、警察活動の基盤となる情報通信施設の整備を進めるとともに、警察活動を支援する各種の情報通信システムの開発、導入を図っている。
(1) 初動警察活動等の迅速化、効率化に役立つ通信
 犯罪、災害、事故等の発生に際して、犯人の早期検挙、被害者の保護、被害の拡大防止等を図るためには、初動警察活動等を速やかに、かつ、確実に行う必要がある。このため、警察では、通信指令システム、警察移動無線を充実、強化するとともに、新しい情報通信システムの積極的な開発、導入を行い、初動警察活動等の迅速化.効率化を図っている。
ア 高機能化する通信指令システム
 警察では、初動警察活動等の迅速化、効率化を図るため、110番の受理により認知された犯罪等に関する情報の伝達、処理をコンピュータによ り行う新しい通信指令システムの整備を推進している。
 また、より効果的な緊急配備を行うために、AI技術により現場周辺の道路状況等から犯人の逃走範囲を予測する「緊急配備指揮支援システム」の開発を行うなど、通信指令システムの高度化を図っている。
イ デジタル化の進む警察移動無線
 警察移動無線は、緊急配備等の機動的かつ組織的な警察活動を展開する上で必要不可欠である。警察移動無線には、パトカー、白バイ、船舶、ヘリコプター、警察署等の警察官が相互に通信するための車載無線、警察署ごとに構成され、パトロール中の警察官や警察署の警察官が相互に通信するための署活系無線、警備実施、捜査活動等の臨時的、局地的な警察活動において使用される携帯無線等がある。
 警察では、これら警察移動無線について、音声通信だけではなく、データ通信等の多様な情報通信にも効率的に対応でき、傍受、妨害に強い高度な通信方式であるデジタル通信方式を開発、導入して活用している。車載無線のデジタル化は既に完了しており、署活系無線、携帯無線等のデジタル化を引き続き推進している。
ウ 整備の進むパトカー照会指令システム
 警察では、パトカーから行う照会やパトカーへの緊急配備等の指令の迅速化、確実化を図るために、「パトカー照会指令システム」を開発し、その導入を推進している。このシステムにより、パトカーに搭載された端末装置から、警察庁のコンピュータに直接各種照会を行うことができるほか、通信指令室からの指令内容を端末装置のディスプレイに表示することができる。
(2) 広域捜査活動をささえる通信
 近年、犯罪はますます広域化、スピード化の傾向を強めてきている。
 このため、警察では、複数の都道府県にまたがる広域事件に柔軟に対応できるよう新しい移動無線を整備することとし、平成3年度から、個別通信機能と一斉指令通信機能を併せ持ち、傍受、妨害に強いデジタル通信方式の「WIDE(Wire-less Integrated Digital Equipment、ワイド)システム」の整備に着手した。
 WIDEシステムの個別通信機能としては、車両に搭載された端末から、全国の他の車載端末、警察電話及び一般の加入電話へ通話する機能のほか、一般の自動車電話にはないホットライン機能(受話器を上げるだけでダイヤルすることなく特定の端末に接続する機能)、空いている通信回線がない場合に他の通話を切断して緊急の通話を接続する機能等がある。また、一斉指令通信機能により、広域事件の発生時等において、関係都道府県警察の車両等の間で専用の通信系を構成し、都道府県境を意識することなく、効果的に運用することができる。警察では、広域事件の捜査をはじめとする警察活動全般に威力を発揮できるように、早期にWIDEシステムの全国整備を図ることとしている。
 このほかにも、広域事件の捜査活動を支援するため、既存の各種情報通信システムの充実、強化に努めている。昭和63年度から整備を始めた「捜査情報総合伝達システム」は、現場の見取図等の情報を関係都道府県警察の刑事対策室間で効率的に伝達するものである。また、平成2年度から整備を進めている「画像情報検索システム」は、警察庁で一元的に管理している被疑者写真等の画像情報を各都道府県警察から照会するものである。
(3) 災害時等に活躍する通信
ア 機動通信隊の活動
 災害の発生時等には、災害対策本部と現場の警察官等との間の情報伝達のために、応急的な通信回線の設定が必要となる。このような場合には、機動通信隊が事案の現場等に出動して、応急用通信資機材等により応急通信回線の設定等の活動に当たっている。
〔事例〕 雲仙岳噴火に伴う機動通信隊の活動
 平成2年11月以来、雲仙岳は、規模の大きな火砕流や土石流により多数の死傷者を出すなど、活発な火山活動を続けている。このため、長崎県通信部の機動通信隊は、長崎県警察の災害警備活動に併せて、加入電話、警察電話の増設、島原警察署と長崎県警察本部間の臨時専用回線の設定、現場と長崎県警察本部及び警察庁間の映像通信回線の設定、携帯無線機の増強等の活動を行った。
イ 映像通信の活用
 火山噴火等による災害、航空機墜落事故の発生等に伴い設置される対策本部等が的確な指揮を行うためには、時々刻々変化する現場の状況を正確に把握することが必要である。このため、警察では、このような場合において、ヘリコプター・テレビ、携帯テレビ、有線テレビ等の映像通信を積極的に利用している。3年には、成田闘争に伴う警戒警備、雲仙岳噴火に伴う災害警備、ゴルバチョフ・ソ連大統領の来日に伴う警護警備、信楽高原鉄道列車衝突事故の救助活動等に際して、映像通信を活用した。
ウ 活動用統合通信システムの活用
 「活動用統合通信システム」は、警察庁のコンピュータと管区警察局及び都道府県警察本部の端末を通信回線で結び、相互に通話をしながら、数値情報、地図等の画像情報の伝達やデータの集計処理等を効率よく行うものである。このシステムは、警察庁に設置される災害対策本部等において、全国的な被災状況、警察官の出動状況等の即時集計、現場地図の作図等に利用され、状況の把握、分析や指揮等に役立っている。
(4) 警察活動をささえる通信基盤
ア 全国を結ぶ警察通信網
 全国の警察機関は、警察自営の無線多重回線と第一種電気通信事業者から借り上げた専用回線から成る警察専用の通信回線によって結ばれており、音声通信、ファクシミリ等による画像通信及びデータ通信等を行っている。警察自営の無線多重回線は、警察庁と各管区警察局等の間を結ぶ管区間系無線多重回線と、管区警察局と管区内の各府県警察本部等の間を結ぶ管区内系無線多重回線等から構成されている。特に、管区間系無線多重回線については、2ルート化を行い、災害等による通信途絶の防止を図っている。
 また、昭和57年度から、各種情報通信システムの構築に柔軟に対応できるよう、無線多重回線のデジタル化を進めている。既に札幌から福岡の間を結ぶ第1ルートの管区間系無線多重回線のデジタル化は完了し、現在、残る回線のデジタル化を推進している。
イ 衛星通信の活用
 警察では、58年から衛星通信を活用している。衛星通信は、赤道上約3万6,000キロメートルの宇宙空間に静止している通信衛星を中継局として使用するため、山間、離島を含め、全国どこからでも簡単に通信回線を設定することができ、また、地上の無線多重回線による通信に比べ、テレビ等の映像情報の伝達に適している。平成3年末現在、衛星通信用地球局を、警察庁及び沖縄県警察本部に各1台、近畿管区警察局及び静岡県警察本部に各2台(うち各1台は車両に搭載した可搬型設備)整備しており、事案の発生時等には映像通信に、また、通常は音声通信をはじめ、データ通信等の各種情報通信に活用している。
ウ 警察電話等の機能強化
 警察電話は、警察が独自に運用している電話であり、日常の警察業務のための基本的な情報通信システムである。警察では、無線多重回線のデジタル化と併せ、高度情報通信システム(ISDN)を構築するために、音声通信をはじめ、データ通信及び画像通信にも対応できるデジタル電子交換機の整備を進め、警察電話等の機能強化を図っている。
(5) 国際捜査をささえる通信
ア ICPO通信網の近代化
 国際刑事警察機構(ICPO)は、国際捜査協力と国際手配を迅速に実施するために、ICPO専用の通信網を保有している。ICPO通信網は、フランスにある事務総局の国際中央局、地域中央局及び各国の国家局から構成されている。
 警察庁に設置されているICPO東京局は、国家局及び東南アジア地域中央局として、無線テレタイプ、テレテックス、ファクシミリ等により、大量の国際警察電報を送受信している。
 なお、ICPOは、昭和62年の総会におけるICPO通信網の近代化決議に基づき、暗号電報を送受信できる新しい通信網の整備を進めている。平成3年には、国際中央局に中央装置を設置し、今後、各地域中央局の中継装置及び国家局の端末装置を整備することとなっている。
イ 国際協力の推進
 警察では、ICPO事務総局におけるICPO通信網近代化の事業を支援するために、昭和61年からICPO事務総局に警察職員を派遣している。
 さらに、63年からは、政府開発援助(ODA)により、アジア地域の各国の警察におけるICPO通信網近代化の事業の技術支援を行っている。平成3年には、ヨルダン、バングラデシュにおけるテレックス装置の設置に伴い、警察職員を現地に派遣し、技術、運用指導等に当たった。

7 留置業務の管理運営

 平成3年末現在、全国の留置場数は1,263場で、年間延べ約200万人(1日平均約5,500人)の被逮捕者、被勾留者等が留置されている。
 警察では、留置業務については、捜査を担当しない総(警)務部門において担当することとし、捜査と留置の分離の徹底を図っているところである。
 また、留置場施設については、被留置者の人権に配意しつつ、その改善、整備に努めている。
 例えば、被留置者の防御権の尊重という観点から、接見室の拡張を進めている。また、被留置者のプライバシーを保護するとともに、その居住環境の改善を図るため、留置室を横一列の「くし型」に配置し、その前面にはしゃへい板を設置することとしたほか、留置室内トイレの構造の改善、留置場内の冷暖房化、ラジオの設置等の施設改善を進めているところである。

 警察庁では、以上のような、留置業務の運用面、施設面での適正さを確保しつつ、被留置者の処遇の全国的斉一を図るため、全国の留置場について計画的に巡回視察を実施している。
 ところで、警察の留置場については、被留置者の処遇の内容、設置の根拠等が法律上必ずしも明確ではないことから、留置場に関する現行の法体系を整備するよう各方面から指摘されてきたところである。
 そこで、監獄法の改正が行われるのを機会に、法制審議会の答申の趣旨に沿って、被留置者の処遇の内容を定め、警察の留置場に留置される被勾留者等と拘置所に収容される者との処遇の平等を保障するとともに、捜査と留置の分離を法律上の制度として明確にするため、刑事施設法案と一体のものとして留置施設法案を策定した。この法律案は、平成3年4月、第120回国会に上程され、継続審査となっている。

8 警察活動の科学化のための研究

(1) 科学警察研究所における活動
 科学警察研究所では、犯罪事件の科学捜査、少年非行の防止、犯罪の予防、交通事故の防止等に関する研究、実験とその研究成果を応用した鑑定、検査を行っているほか、鑑定技術についての研修を実施している。
ア 平成3年度における主な研究
 平成3年度の研究は、前年度からの継続研究33件、新規研究39件の合計72件であるが、その主なものを挙げれば、次のとおりである。
〔研究例1〕 ヒトDNA型による混合体液斑(はん)等からの個人識別法に関する研究
 犯罪捜査のための新しい科学的鑑定方法として、微量な血痕(こん)や体液斑(はん)から精製されたDNAをPCR法によって増幅し、DNA型を 検出して、個人識別を行うための研究開発を進めてきた。これらの研究により、事件における現場資料からDNA型バンドパターンを検出し、DNA型解析処理装置による迅速な自動読取り計測を行い、特定個人との異同識別及び出現頻度等の評価が可能になった。さらに、現場資料の混合体液斑(はん)から男性または女性由来の各体液のDNA型を検出するための研究に取り組んでいる。
〔研究例2〕 覚せい剤、麻薬中の主要成分及び各種微量成分の分析法に関する研究
 覚せい剤や麻薬の密造場所や流通経路に関する情報を得ることを目的として、異なる場所で押収されたこれらの不法薬物の類似性を、混在する微量不純物(原料、反応中間体、副生成物等)に着目し、ガス・クロマトグラフィー等による化学分析及び統計的手法によって明らかにし、押収された薬物相互の類似性を照合するシステムの開発に関する研究を行っている。
〔研究例3〕 改正銃刀法に即した銃器等の鑑定法の研究
 犯罪に使用される銃器の傾向も年々変化している。最近では、大量密輸入された自動装てん式けん銃が暴力団に流れ、抗争等発砲事件に多数使用されている。これらの密輸けん銃の中には、銃身の摩耗によって発射痕(こん)跡の異同識別に困難を伴うものが多く、このような銃器であっても有効かつ能率的な鑑定作業を実施するための研究を行っている。
 また、けん銃を分解して隠匿所持したりすることを防止するために、銃刀法が一部改正され、けん銃部品の所持が禁止されることとなった。この改正に伴い、容疑資料がけん銃部品なのか、どのメーカーの製品であるのかを確定できるようにするための調査研究を行っている。
〔研究例4〕 暴力団排除運動の推進手法に関する研究
 地域や職域で、警察と住民との協力による暴力団排除運動を、住民の安全を確保しながら効果的に推進するための手法を見出すことを目的として、暴力団排除活動の指導者及び暴力団員を対象とする調査研究を行った。その結果、暴力団排除活動の指導者を対象とする調査からは、
[1] 地域における暴力団排除活動では、暴力団の進出や暴力団員の出入りの増加等を契機として、住宅街にある暴力団事務所の撤去活動が展開される事例が最も多い
[2] 活動の形態としては、住民大会等の開催、暴力団への申入れ、署名運動が多い
[3] 住民の活動に加え、警察の協力や支援、地方自治体、弁護士の協力が得られると成功しやすい
などのことが明らかになった。
 また、暴力団員を対象とする調査からは、
[1] 暴力団の不法な収益の獲得を阻む活動(暴力団との商取引、暴力団の民事介入、暴力団の提供する商品、サービスを利用しない活動等)
[2] 暴力団世界における当該暴力団の威信を失墜させる活動(事務所撤去活動、事務所の新築、増改築の阻止活動等)
[3] 暴力団の不法な収入の獲得を引き合わないものにする活動(被害届出の励行、暴力団の不法な要求を警察に通報する活動等)
[4] 暴力団への青少年の加入を阻止する活動
などが、暴力団活動を抑制していることが明らかになった。
〔研究例5〕 オートマチック車限定免許制度導入のための実験教習
 3年11月にオートマチック車限定普通自動車免許制度が導入されたが、科学警察研究所では、当該制度の施行後に指定自動車教習所で行われるオートマチック車による技能教習について、教習課程の内容及び教習に必要な最低時限数等の資料を得ることを目的として実験教習を行った。その結果、オートマチック車を使って教習を行った教習生は、マニュアル車を使った教習生に比べて、特に中年層(とりわけ女性)において、かなり短い時限で所定の教習を修了することができた。また、発進、坂道発進等は成績が良かったが、ハンドル操作やブレーキ操作については問題があることが判明した。
 また、平成3年に開催された国際会議では、コピー用トナーの異同識別、擦過状付着タイヤゴムの異同識別法、土砂試料異同識別のための微細植物片の同定法(6月、微細証拠物件に関する国際シンポジウム、米国)、PCR増幅により検出されるVNTR座位(DIS80)の日本人における多型性(10月、第8回国際人類遺伝学会、米国)等について発表を行った。
 国内の学会では、単独発声単語中の母音を用いた話者照合(3月、日本音響学会春季研究発表会)、シングルローカスVNTR(MCT118)を指標としたPCR法による血痕(こん)及び体液斑(はん)からのDNA型検出、日本人男性の顔貌(ぼう)の解剖学的並びに電子顕微鏡学的研究ほか(4月、第75次日本法医学会総会)、複数反応指標の多変量正規分布に基づく虚偽検出ほか(5月、第9回日本生理心理学会学術大会)、血液中のクロロホルムの微量定量法、尿斑(はん)からのペンゾジアゼピン系薬物の分析(6月、日本法中毒学会第10年会)、単繊維の異同識別法について(11月、日本分析化学会第40年会)等についての発表を行った。
イ 鑑定、検査
 科学警察研究所では、都道府県警察をはじめ検察庁、裁判所等から嘱託を受けて、高度の技術を要する鑑定、検査を行っている。3年の処理 件数は、法医関係が112件、化学関係が80件、文書、偽造通貨が317件、銃器関係が1,098件、工学関係が91件の計1,698件であった。
ウ 研修、研究発表会
 科学警察研究所では、附属の法科学研修所において、都道府県警察の鑑識、鑑定技術職員等を対象とした研修を実施している。法科学研修所の研修課程は、養成科、現任科、専攻科及び研究科に分かれ、3年度には、研修生231人に対して、法医、化学、工学、文書、ポリグラフ、指紋、写真、足痕(こん)跡に関する教育訓練を行った。そのほか、科学警察研究所では、鑑定技術職員延べ約450人の参加の下に、法医、化学、心理、機械、物理、音声の各部門について鑑識科学研究発表会を開催し、研究成果の発表及び質疑応答を通じて、指導、助言を行い、鑑識、鑑定技術等の向上に努めた。
(2) 警察通信研究センターにおける研究
 警察通信研究センターでは、情報通信の要素技術である画像処理技術や音声処理技術等に関する研究及び情報通信システムの開発に関する研究を行っている。
 なお、第14回国際衛星通信システム会議(ワシントン)において、通信衛星を利用した警察移動無線システムについて、また、電子情報通信学会において、有線テレビ移動体監視システムの画像処理アルゴリズム等についての研究成果を発表した。
〔研究例1〕 通信衛星を利用した警察移動無線システムの研究
 警察移動無線に移動体衛星通信を適用すると、従来、通信を確保することができなかった山間、離島等においても通信を確保できる可能性がある。その実用化を目指し、平成3年には、移動体衛星通信を使用したパケット方式によるデータ通信実験を行った。
〔研究例2〕 有線テレビ移動体監視システムの研究
 警戒、防護等を効率的に行うためには、小人数で広範な区域を監視できることが望ましい。本研究は、監視カメラの画像により侵入者を自動的に検知して、監視員に通報するシステムの開発を目指しており、3年には、不審者のみを判別検知する画像処理を高速化するとともに、アルゴリズムを実用化した。
〔研究例3〕 狭帯域デジタル移動無線機の研究
 周波数の有効利用のため、従来の周波数帯域よりも狭帯域なデジタル移動無線機の開発を目指しており、3年には、従来の半分の周波数帯域で通話が可能な無線機を実用化した。


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