第2節 地理的な垣根を越えた犯罪

 第1節でみたとおり、最近における人や物の交流の活発化等は、県境、国境等の地理的境界の垣根を解消させつつあり、これが、犯罪の側面にも大きな変化をもたらしている。

1 署境、県境を越える犯罪

 犯罪が発生した場合、警察署や警察本部の捜査員が、現場において証拠を収集し、管内の住民に対する聞き込み捜査を行うことなどにより、犯人を割り出し、検挙に結び付けることを基本としてきた。
 しかし、人や物の交流の活発化に伴い、警察署や都道府県の境界を越えて発生するいわゆる広域事件が増加するとともに、警察署や都道府県警察の管轄区域外において聞き込みや裏付け捜査を行わなければならない事件が増加している。
(1) 自動車利用犯罪の日常化
 自動車の普及は、人の活動範囲を飛躍的に拡大させ、また、短時間のうちに警察署の管轄区域や都道府県の境界を越えて移動することを可能にしている。
 これに伴って、犯罪の面でも自動車の利用が一般化しており、平成3年に検挙された刑法犯で犯行現場から犯人が逃走したもののうち、自動車を利用して逃走したものの割合は51.8%と、逃走手段に自動車を利用するものの割合が過半数を占めるに至っている。
 自動車を利用すれば、警察署の管轄区域外へ数分で逃走が可能なことに加え、隣接する都道府県にも極めて短時間で到達できることから、こ のような自動車利用犯罪における犯人の捕捉のためには、関連する多くの警察署や都道府県警察により対応することが不可欠となっている。
(2) 生活範囲の拡大による裏付け捜査等の広域化
 殺人等の犯罪が発生した場合、警察は、被害者の日常生活について捜査を行うことで被疑者の割り出しに役立てており、また、被疑者が特定された場合には、その被疑者の日常の行動等についての資料を収集し、事件検挙に結び付けることとなる。
 しかし、市区町村境あるいは都道府県境を越えた通勤、通学の日常化等の人々の生活範囲の拡大は、被害者や犯人の行動に関する捜査の範囲を必然的に広げる結果になっており、これに対処するため、複数の警察署や都道府県警察が、共(合)同捜査の展開を図るなど積極的な捜査協力を推進していく必要が高まっている。窃盗事件についてみると、平成3年に複数の都道府県警察が共(合)同捜査を展開した事件数は64件であり、共(合)同捜査に係る事件数は増加傾向にある(図1-22)。

図1-22 窃盗犯の共(合)同捜査実施回数の推移(昭和54~平成3年)

(3) 経済活動範囲の拡大に伴う犯罪の変容
 最近における経済活動の地理的範囲の拡大は、これに絡む犯罪にも大きな変化をもたらしている。
 例えば、最近における悪質商法事案は、通常、複数の都道府県にまたがる多数の被害者を伴うものとなっており、その捜査も多くの府県にまたがるものとなっている。
 また、経済犯罪の一つの例である贈収賄事件についてみると、収賄者が勤める官公庁と、贈賄者が勤め、あるいは経営する会社等が、異なる府県に所在する事件数の占める割合が増加している(表1-1)。

表1-1 収賄者と贈賄者の勤務先等が異なる府県に存在する事件の割合の推移(昭和62、平成3年)

(4) 相次いで発生する広域重要凶悪事件
 最近における人や物の交流の活発化を反映して、複数の都道府県にまたがる広域重要事件が相次いで発生している。
〔事例1〕 警察庁指定第118号事件
 5月、千葉県において塗装業社長(58)が誘拐され、2,000万円を強奪された事件が発生し、千葉県及び栃木県警察の合同捜査により、被疑者3人を逃亡先の富山県内で検挙した。その後の捜査により、元年7月、福島県において塗装業社長(48)が失跡した事件についても前記3人のうち2人を含む計7人による営利誘拐、強盗殺人事件であることが判明し、さらに、昭和61年7月、岩手県において金融業社長(41)が失跡した事件についても被疑者らの犯行であることが判明、これを営利誘拐、強盗殺人で検挙した。
 警察庁では、これらの事件を警察庁指定第118号事件に指定して、事件の全容解明を強力に推進し、10月、最後まで逃亡していた被疑者1人を潜伏先において逮捕した(千葉、栃木、福島、岩手)。
〔事例2〕 警察庁指定第119号事件
 12月13日から28日までの間、兵庫県、島根県、京都府のスナック、バー等の女性経営者をねらった強盗殺人事件が4件発生した。合同で捜査を進めた結果、これらの事件は無職の男(35)による連続犯行であることが判明し、この男を特別指名手配するとともに、4事件を警察庁指定第119号事件に指定した。さらに、4年1月、大阪府で発生した強盗殺人未遂事件についても、同人による犯行であることが判明したことから、この事件を追加指定し、1月7日、被疑者を検挙した(兵庫、島根、京都、大阪)。
(注) 警察庁では、広域にわたる重要事件について、積極的な組織捜査に努めるため、警察庁指定事件、警察庁登録事件等を設けている。警察庁指定事件には、2以上の管区警察局にまたがる社会的反響の大きい凶悪又は特異重要な事件であって、組織的捜査の必要なものを指定しており、これに準ずるものとして、将来指定事件に発展するおそれのある事件又は広域にわたる組織捜査を行う必要があるものを警察庁準指定事件としている。また、警察庁登録事件には、2以上の管区警察局にまたがる財産犯に係る重要事件であって、組織的捜査の必要なものを指定している。
 さらに、管区警察局内で発生した広域にわたる事件については、管区警察局指定事件とし、警察庁指定事件に準じた取扱いを行っている。
(5) 都府県境付近の犯罪
 県庁所在地(警察本部の所在地)から遠隔地にあり、県境の入り組んだ都府県境付近の地域のうち、社会的、経済的一体性が強く一つのまとまりを持った単位を形成する区域では、県境を越えた犯罪が多く発生するため、都道府県警察間の緊密な連携が他の地域以上に必要となっている。
 このような地域としては、
○ 茨城、群馬、栃木、埼玉の県境付近の「北関東地域」
○ 岐阜、愛知、三重の県境付近の「西東海地域」
○ 京都、大阪、奈良の府県境付近の「京阪奈地域」
等が挙げられるが、このうち、例えば、京阪奈地域においては、3府県の府県境付近に「関西学術文化研究都市」が形成されており、また、北関東地域においては、県境を越えた市町村同士の行政的な連携(両毛5市連絡協議会)が取られつつある。

 警察としても、このような都府県境付近の地域の一体性にかんがみ、都道府県警察の枠を越えた広域的な連携体制を整備する必要に迫られている。

2 国境を越える犯罪

 近年における交通、通信手段等の飛躍的発展に伴い、我が国と諸外国との交流はますます活発化し、まさにボーダーレス化が急激に進行しつつある。
 これに伴い、我が国における来日外国人(注)による犯罪が急増しているほか、日本人の国外における犯罪及び我が国において犯罪を犯した者が国外へ逃亡する事案も増加するなど、犯罪のボーダーレス化の傾向が顕著になっている。
(注) 来日外国人とは、我が国にいる外国人から、いわゆる定着居住者(永住者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者を除いたものをいう。
(1) 来日外国人による犯罪
 10年前の昭和56年に約155万人であった外国人入国者総数は、平成3年には2.5倍の385万5,952人となっている。
 このような状況を反映して、来日外国人による犯罪は年々増加の傾向にあり、平成3年の来日外国人の検挙件数は6,990件、検挙人員は4,813人で、件数、人員とも過去最高を記録した(図1-23)。
 近年の来日外国人犯罪の主な特徴的傾向としては、次の点が挙げられる。
○ アジア地域からの外国人、特に、少数言語しか解さない外国人による犯罪の多発
○ 日本人を被害者とする凶悪犯の増加
○ 外国に本拠を有する国際的職業犯罪者グループの構成員が、来日して犯罪を敢行するケースの増加
○ 来日外国人犯罪の地方都市への拡散

図1-23 外国人入国者数及び来日外国人刑法犯検挙状況(昭和57~平成3年)

ア 国籍別検挙状況
 3年の来日外国人犯罪の検挙状況を国籍別にみると、表1-2のとおりであり、アジア地域が5,832件(83.4%)、3,881人(80.6%)で、その来日外国人犯罪全体に占める割合が極めて高くなっている。この背景としては、地理的に近接しているアジア地域からの外国人の流入の激化とそれに伴う滞在者の増加が挙げられる。

表1-2 来日外国人刑法犯の国籍別検挙状況

イ 犯罪の態様
 来日外国人犯罪の検挙件数を包括罪種別にみると、表1-3のとおりであり、窃盗犯が最も多く、全体の約65%前後で推移しているが、凶悪犯がこの10年間に約10倍に急増しているのが目立っている。
 凶悪犯に関しては、従来、就労のあっせん等に絡む不法就労者同士のトラブルが原因となった事件が目立ち、日本人を犯行対象とするものは比較的少なかったが、最近になって、日本人を最初から犯行の対象として選定した上で敢行したとみられる強盗事件等が目立っている。3年に、凶悪犯罪により検挙された来日外国人126人のうち、日本人に対して被害を加えたものの割合は、殺人事件では33人中7人、21.2%であるが、強盗事件では69人中37人、53.6%と過半数を占めている。
〔事例1〕 5月、日系3世のブラジル人の男(26)は、隣家の日本人

表1-3 来日外国人刑法犯の包括罪種別検挙状況(昭和57~平成3年)

女性(39)に日ごろから無視されていると思い込み、被害者宅に侵入し、絞殺した。23日逮捕(群馬)
〔事例2〕 カナダ人の男(31)は、5月ごろから、都内のコンビニエンス・ストアで、人面等のマスクをかぶった上、モデルガン等を使用し、16件の強盗事件を敢行していた。10月11日逮捕(警視庁)
ウ 国際的職業犯罪者グループによる犯罪
 近年、
○ 韓国人グループによる集団暴力すり事件
○ イラン人グループ等による両替等を口実とする広域買物盗事件
○ ナイジェリア人等による盗難クレジットカード使用詐欺事件
○ 中国人等による貴金属等を対象とした窃盗事件
等、国際的職業犯罪者グループによると思われる犯罪が増加しており、その犯行の凶悪化、広域化が目立っている。
〔事例1〕 イラン人等のグループが、スーパーマーケット等で両替を装い、店員のすきをついてレジ等の現金を抜き取る事件を4件検挙した(警視庁、山口、福岡)。
〔事例2〕 米国で盗難に遭ったクレジットカード18枚を所持して来日したナイジェリア人の男(32)は、千葉、東京、大阪で、これらのカードにより、44件、約550万円相当の電化製品等を購入していた。3月逮捕(大阪)
〔事例3〕 11月、中国人とみられる男7人が、指輪の購入を装い福岡市内の貴金属店を訪れ、うち5人が店員と話をしているすきに、残りの2人が、指輪24個、約200万円相当を陳列ケースごと窃取した。中国人の男7人を逮捕(福岡)
 この種の事犯においては、母国において組織的に準備された偽造、偽名旅券を用いて毎回異なる偽名で入国し、1週間、10日といった短期間 に集中的に犯行に及んで出国する、いわゆるヒット・エンド・ラン型の形態が特徴的である。
エ 海外の薬物犯罪組織の我が国への進出
 近年、来日外国人による薬物事件の検挙人員が急増しており、中でも、コカインの密輸入の急増による麻薬等事犯の検挙人員の増加が著しい。これを5年前の昭和61年と比べると、件数で約10倍、人員で約8倍となっいる。
 さらに、新しい傾向として、欧米のコカイン市場を席巻したコロンビアのコカイン・カルテルが、平成元年からコカインの新たな販売先を求めて我が国への進出を始めており、これらコカイン・カルテルは、現在、徐々に我が国への浸透の段階に移っていると考えられる。
 なお、薬物問題については、第4章1において詳述する。
オ 都道府県別検挙状況
 来日外国人刑法犯の地域別検挙状況をみると、東京、神奈川、大阪等の大都市において多発しているが、その一方で、図1-24のとおり、地

図1-24 都道府県別来日外国人刑法犯検挙件数の推移(昭和61~平成3年)

方へ拡散しつつある状況がうかがえる。
〔事例〕 1月、農業研修生として北海道の牧場で研修していた中国人の男(24)は、同じく農業研修中の他の中国人男性(28)と飲酒中に口論したことを根に持ち、就寝中の同人を手おので殺害した。30日逮捕(北海道)
(2) 来日外国人犯罪捜査の困難性
 来日外国人に係る犯罪捜査には、言語、習慣等を異にする外国人被疑者、参考人を相手とするものであること、捜査が外国に及ぶことなど日本人のみを関係者とする犯罪捜査とは異なる困難を伴う。
ア 被疑者の取調べ等における困難
 来日外国人犯罪の捜査を適正に推進するためには、取調べ等に通訳を介することが不可欠であることに加え、
○ その外国人の本国の習慣、文化等に留意して供述内容の吟味等を行うこと
○ 刑事手続上の被疑者としての権利の告知を行うことはもちろん、我が国の刑事手続の流れを十分理解させること
○ 領事館への通報等の特有の手続を踏むこと
などが求められる。
 しかし、来日外国人による犯罪の急増に比して、高い語学能力等を有する警察職員の数は全体に不足しており、また、近年急増しているフィリピン、イラン、マレーシア等少数言語の通訳が必要とされる事案においては、部内、部外を含め通訳の確保に多くの困難を来しているのが実情である。
 また、来日外国人被疑者の取調べは、通訳人という第三者を介することから、日本語による取調べに比べてはるかに多くの時間と労力を要し、我が国の刑事手続に関する知識が乏しく、また、生活習慣等を異にする被疑者に対して十分な配慮を行わなければならないことなどから、日本人被疑者の場合と比べ困難なものとなっている。
イ 所在確認等における捜査上の困難
 来日外国人の中でも不法就労者は、通常日本語が話せない上、宗教、風俗、慣習等が異なること、不法残留が発覚することを恐れる傾向が強いことなどから、近隣の日本人との接触を避けて生活している者が多い。さらに、不法就労者は、労働条件の良い職場を求めて全国各地を転々と渡り歩くことが多いため、これらの者が犯罪を犯した場合にその所在確認に困難を伴うことが多い。
 また、外国人が犯罪の被害者等となった場合には、言語等の壁から、正確な被害申告に支障を来す場合が多く、特に、不法就労者の場合は、不法残留等が発覚することを恐れて犯罪被害に遭っても届出をせず、さらに、警察に被害を通報したことが被疑者に知れ、本国の家族等に危害が及ぶことを心配して、警察に対する協力を避けるなどの傾向がある。そのため、来日外国人に係る犯罪は潜在化しがちであり、来日外国人に係る犯罪の捜査を遂行する上で困難を生じている。特に、事件の関係者が来日外国人のみである場合にこの傾向が強い。
ウ 被疑者の同一人性の特定の困難性
 被疑者の国籍、氏名等を確認する場合、戸籍制度が整備されていない国があること、旅券発給手続が比較的厳格でない国で発行された旅券については、偽造され、あるいは他人名義で取得されたものも存在することなどから、日本人の場合と比べ、被疑者の身元確認に困難を来すことがしばしばである。
 また、過去において犯罪を犯すなどして強制退去処分を受け1年を経過しない者は、同じ名義の旅券では再入国できないことから、本国で知人の名義を借りたり、全くの偽造旅券を購入した上で我が国に入国してくる場合もある。
 さらに、真正の旅券で入国したものの、空港に迎えに来ていたブローカーにこれを取り上げられてしまい、現実には旅券を持たない状態で我が国に滞在しているという事案もみられる。
〔事例〕 9月、東京都内ですりの現行犯として逮捕された韓国人(35)は、他人名義の旅券で入国していたが、その後の捜査により、平成元年12月にもすりで逮捕され、懲役1年2月の実刑判決を受け、服役後、3年1月に退去強制されていることが判明した(警視庁)。
エ ヒット・エンド・ラン型犯罪に対する捜査上の困難
 来日外国人グループによる集団暴力すり事件等の国際的職業犯罪者グループによる犯行とみられる事案のうちでは、日本で犯罪を行うため、犯行手段、段取り、逮捕されたときの措置等について組織から各種の指示を受けた上で来日し、数日間の滞在中に集中的に犯罪を敢行し、出国するといった事例が増加している。
 このような犯罪については、いったん被疑者に国外逃亡されてしまうと、被疑者の身柄を確保し、我が国において処罰することは極めて困難である。
オ 捜査活動が外国に及ぶことに伴う困難性
 来日外国人に係る犯罪の捜査では、国内のみでは捜査が完結せず、証拠、情報の収集や国外逃亡した被疑者の所在確認等に当たり、関係国の捜査機関等に協力を依頼することが必要となることが多い。
 こうした外国との捜査協力においては、法制その他警察をめぐる状況が相互に異なるため、特殊な知識、手法が必要となるとともに、捜査協力の成否が相手国の対応によるところが大きいなどの困難がある。
(3) 日本人の国外における犯罪
 昭和56年には約400万人であった日本人の出国者総数は、61年に500万人を超えて以来急激に増加し、平成2年には1,100万人となり、3年は1,063万3,777人と前年に比べ3.3%減少したものの、今後も増加することが予想される。
 日本人が外国においてその外国の法令に触れる罪を犯した場合、我が国の警察が、国際刑事警察機構(ICPO)や外務省等を通じて通報を受けることがあり、このようにして把握された日本人の国外犯罪者数はここ数年横ばい状態である。しかし、最近の日本人の出国者数の急激な伸びから考えると、我が国の警察が通報を受けていない日本人の国外犯罪が増加していることが予想される。
 これらの犯罪の多くは、その外国の関税、為替関係法令違反、出入国管理法令違反等、我が国の刑罰法令が適用されない事犯であるが、中には、殺人、強盗、窃盗、詐欺等、外国で犯されたものであっても我が国の法令により処罰が可能であり、我が国において捜査し、裁判に付することが適当なものもある。しかしながら、我が国の警察がこれらの事件の捜査を行おうとする場合においては、その外国の捜査機関による証拠の確保等が我が国の司法手続に適合するように行われるとは限らないなどの事情から、我が国にとっての捜査資料の入手等に困難を生じることがある。
(4) 被疑者の国外逃亡事案
 近年の国際交流の活発化を背景に、国内において犯罪を犯した者が捜査を逃れるため、国外に逃亡する事案が増加している。平成3年末現在の国外逃亡被疑者数は311人で、このうち日本人は83人である(表1-4)。これらの者の推定逃亡先としては、フィリピン、台湾、韓国が多い。

表1-4 国外逃亡中の被疑者数の推移(昭和57~平成3年)

 以前であれば、日本人被疑者が国外に逃亡しても、長期間異国の地で逃亡生活を送ることに耐えきれずに帰国することもあったが、最近の国外逃亡被疑者の検挙事例をみると、外国での逃亡生活を苦にせず、現地で優雅な生活を送ったり、商売を始めたりするなどして現地に溶け込んでいる者もみられる。
 3年末現在の国外逃亡被疑者のうち、出国年月日の判明している178人について、その犯行から出国までの期間をみると、犯行当日に出国した者が22人(12.4%)、また、犯行の翌日から10日間のうちに95人(53.4%)が出国しており、犯行後短期間のうちに出国する計画的な事案が多い。
 いったん被疑者に国外逃亡されてしまうと、被疑者の身柄を確保し、我が国において処罰することが事実上極めて困難となる。警察では、被疑者が国外逃亡するおそれがある場合には、港や空港における手配等によりその出国前の検挙に努めており、被疑者が出国した場合でも、ICPO等を通じて関係国捜査機関等の協力を得ながら、被疑者の所在確認に努めている。また、場合によっては、ICPO事務総局に対し、国際手配書の発行請求を行っている。
 逃亡被疑者が発見されたときには、逃亡犯罪人引渡しに関する条約、外交交渉に基づく外国の国内法上の手続、被疑者所在国の国外退去処分等により、被疑者の身柄の引取りを行っている。
〔事例〕 詐欺事件の被疑者(35)は、共犯者である母親とともにフィリピンに逃亡していることが判明したことから、ICPO、外務省を通じてフィリピン捜査当局に協力を要請していたところ、フィリピンから強制退去させられることとなったことから、捜査員を派遣し、公海上で逮捕した(警視庁)。


目次  前ページ  次ページ