第6章 交通安全と警察活動

 我が国における近年のモータリゼーションの進展は著しく、自動車交通は社会経済の発展に大きな役割を果たしているが、その一方、交通事故はもとより、交通渋滞による都市機能の麻痺、騒音、排気ガス等の公害の発生等の問題を引き起こしている。
 特に、都市部や住宅街にまん延する違法駐車車両は、交通渋滞を引き起こすだけでなく、交通事故の原因となるなど、国民生活に深刻な影響を与えている。警察としても、この解決に向け、平成2年7月に道路交通法及び自動車の保管場所の確保等に関する法律の一部改正を行うなど、違法駐車問題に対し全力を挙げて取り組んでいる。
 交通警察は、自動車交通がもたらす社会的効用を最大化し、かつ、その社会的費用を最小化するために、交通規制による交通流、交通量の最適化と歩行者等の安全の確保、交通管制センターその他の交通安全施設及び交通情報提供施設の整備による都市交通機能の確保と幹線道路における交通の円滑化、体系的な交通安全教育の推進による運転者、歩行者等の交通モラルの向上、交通指導取締りによる交通秩序の確立等の対策を多面的に講ずるとともに、街づくりや地域の開発事業に対する交通管理面からの助言等の先行的対策に積極的に取り組み、安全で円滑な道路交通の確保に努めている。

1 交通情勢

(1) 道路交通の現況
ア 車両保有台数の伸び
 我が国の自動車保有台数は、増加傾向にあり、平成2年末には6,065万629台となっている。車種別車両保有台数の推移は、図6-1のとおりである。

図6-1 車種別車両保有台数の推移(昭和41~平成2年)

イ 運転免許保有者数の増加
 運転免許保有者数は、交通事故死者数が過去最多であった昭和45年には約2,600万人であったが、59年に5,000万人を超え、平成2年末には6,090万8,993人となった。運転免許を取得することができる16歳以上の者のうち、男性では1.3人に1人、女性では2.3人に1人、全体で1.6人に1人が免許を保有していることとなる。
 運転免許保有者数の推移は、図6-2のとおりで、昭和59年以降、毎年約3%の伸び率を示している。
 高齢化社会の進展に伴い、運転免許保有者に占める高齢者(65歳以上)の割合は年々高くなっており、45年末には0.8%(約21万人)であったものが、平成2年末には4.6%(約281万人)となっており、この傾向は、今後更に顕著になっていくものと考えられる。

図6-2 運転免許保有者数の推移(昭和50~平成2年)

(2) 平成2年の交通事故発生状況
ア 概況
 平成2年中に発生した交通事故は、件数が64万3,097件、死者数が1万1,227人、負傷者数が79万295人で、前年に比べ、件数は1万8,266件(2.8%)、負傷者数は2万4,537人(3.0%)それぞれ減少したが、死者数は141人(1.3%)増加し、昭和63年から3年連続して1万人を超えた。
 過去15年間の交通事故件数等の推移は、図6-3のとおりである。

図6-3 交通事故件数等の推移(昭和51~平成2年)

イ 死亡事故の実態
(ア) 交通死亡事故の特徴
 平成2年の交通死亡事故の主な特徴としては、
[1] 若年者(16~24歳)及び高齢者の死者数の合計が過半数を占めていること
[2] 自動車乗車中の死者数が増加したこと
[3] シートベルト非着用の死者が大幅に増加したこと
[4] 原付自転車乗車中及び歩行中の死者数が増加したこと
[5] 夜間、週末に死亡事故が多発したこと等が挙げられる。
(イ) 状態別、年齢層別にみた交通事故死者数
 2年の死者数を状態別にみると、自動車乗車中の死者数が4,501人と最も多く、全死者数の40.1%を占めている。自動車乗車中の死者数の構成 率が40%を超えたのは、状態別死者数の統計を取り始めた昭和29年以降初めてのことである。
 また、前年に比べ、自動車乗車中の死者数は249人(5.9%)増加しており、原付自転車乗車中及び歩行中の死者数も、それぞれ52人(5.4%)、37人(1.2%)増加している。
 2年の状態別死者数の状況は、図6-4のとおりである。

図6-4 状態別交通事故死者数(平成2年)

 2年の年齢層別死者数をみると、図6-5のとおりで、若年者、高齢者の順に多くなっており、死者数の構成率は、それぞれの人口構成率の約2倍になっている。

図6-5 交通事故死者数の構成率と人口構成率の比較(平成2年)

 2年の状態別死者数と年齢層別死者数を組み合わせて図解すると、図6-6のようになり、その主な特徴は次のとおりである。

図6-6 状態別、年齢層別死者数(平成2年)

a 自動車乗車中の死者数については、若年者の増加が著しく、前年に比べ108人(7.3%)増加した。また、60歳から64歳の者及び高齢者が、それぞれ60人(32.4%)、51人(18.3%)増加した。
 若年者及び高齢者の状態別死者数の推移は、図6-7、図6-8のとおりである。
b 自動二輪車乗車中の死者数については、若年者の減少が著しく、前年に比べ114人(9.7%)減少したが、全死者数に占める若年者の構成率は72.2%と依然として高い水準となっている。

図6-7 若年者の状態別死者数の推移(昭和54~平成2年)

図6-8 高齢者の状態別死者数の推移(昭和54~平成2年)

c 原付自転車乗車中の死者数については、高齢者の増加が著しく、前年に比べ48人(21.1%)増加した。
d 自転車乗用中の死者数については、前年に比べ高齢者を中心に減少した。
e 歩行中の死者数については、高齢者の増加が著しく、前年に比べ97人(7.2%)増加した。
(ウ) シートベルトの着用の有無別死者数
 自動車乗車中の死者数をシートベルトの着用の有無別にみると、非着用者の死者数は3,276人で、前年に比べ328人(11.1%)増加している。特に、若年者の非着用死者数は1,273人で、全非着用死者数の38.9%を占め、前年に比べ167人(15.1%)増加している。
 昭和61年11月に一般道路における自動車前席乗員に対するシートベルト着用が義務化されて以降、着用死者数は横ばいであるのに対し、近年、非着用死者数が増加傾向にある。
 一方、シートベルト着用調査によれば、最近の着用率は徐々に低下している。
 シートベルトの着用の有無別自動車乗車中の死者数の推移は図6-9、シートベルト着用率の推移は図6-10のとおりである。
(エ) 昼夜別にみた死亡事故の実態
 昼夜別の死亡事故をみると、夜間事故は、前年に比べ64件(1.1%)増加している。
 死亡事故件数を昼夜別にみると、54年には昼間の事故が50.6%と過半数を占めていたが、翌年から逆転し、それ以降夜間の事故の発生が増え、平成2年では夜間の構成率が56.7%となっている。
 また、2年の昼夜別死亡事故件数を死亡事故が近年で最低であった昭和54年と比べると、昼間は約1.1倍、夜間は約1.5倍となっており、特に

図6-9 シートベルト着用の有無別動自動車乗車中の死者数の推移(昭和61~平成2年)

図6-10 シートベルト着用率の推移(昭和61~平成2年)

夜間の増加が著しい。
(オ) 曜日別にみた死亡事故の実態
 平成2年の死亡事故件数は、1万651件であり、1日当たり29.2件の死亡事故が発生していることになる。
 曜日別にみると、月曜から金曜までが1日当たり27.9件であるのに対し、土、日曜は32.4件となっている。

2 総合的な駐車対策の推進

(1) 深刻化する違法駐車
 三大都市圏(東京23区、大阪市、名古屋市)での瞬間路上駐車台数、違法駐車台数、路外駐車場スペース並びにパーキング・メーター及びパーキング・チケット発給設備による駐車可能スペースは、表6-1のとおりである。
 このうち、東京23区及び大阪市の時間貸し路外駐車スペースは、それぞれ約6万2,000台分、約2万3,000台分であるが、これらはそれぞれ違法駐車台数の35.1%、13.1%にすぎず、絶対量の不足が顕著である。
 このような事情から、特に都市部においては違法駐車がまん延して、交通渋滞が悪化しており、また、近年は駐車車両に衝突する交通事故が全国的に著しく増加している。
 なお、駐車車両への衝突事故件数等の推移は、図6-11のとおりで、特に死亡事故件数の増加が著しい。

表6-1 三大都市圏での瞬間路上駐車台数と駐車スペース

図6-11 駐車車両への衝突事故件数等の推移(昭和54~平成2年)

(2) 道路交通関係法令の改正と総合的な駐車対策の推進
ア 道路交通関係法令の改正
 平成2年7月、総合的な駐車対策の一環として、道路交通法及び自動車の保管場所の確保等に関する法律(以下「保管場所法」という。)の一部改正が行われ、改正道路交通法は3年1月1日から、改正保管場所法は3年7月1日から施行されることとなった。
 道路交通法の改正は、駐車違反の中でも危険性、迷惑性の大きい放置行為(駐車違反のうち車両を離れて直ちに運転することができない状態にする行為)の防止を図るため、放置車両の使用者に対する指示及び使用制限処分の制度の新設、放置行為に係る罰金及び反則金の限度額の引上げ、地域交通安全活動推進委員制度の新設等を内容とするものである。
 また、保管場所法の改正は、保管場所が確保されていない自動車が道路における危険を生じさせ、又は円滑な道路交通に支障を及ぼしていることから、自動車の保有者が確実に保管場所を確保するよう、保管場所に係る届出、保管場所標章、自動車の運行供用の制限の制度等を新設したものである。
 道路交通法の改正が、目的地における自動車の駐車を対象とするものであるのに対し、保管場所法の改正は、出発地における保管場所確保義務の履行を確保するためのものであり、両者があいまって、深刻化する駐車問題の解消に資するものと期待される。
イ 駐車対策のための各種システムの整備
(ア) 違法駐車抑止システムの整備
 違法駐車抑止システムは、交差点にテレビカメラ及びスピーカーを設置し、違法駐車車両を監視するとともに、必要に応じて音声で警告をすることにより、違法駐車を抑止して交通の安全と円滑を図るものである。このシステムは、元年9月から福岡県で運用されているのをはじめ鹿児島県、沖縄県でも運用されており、更に第5次交通安全施設等整備事業五箇年計画においても整備を推進することとしている。
(イ) 駐車誘導システムの整備
 駐車誘導システムは、駐車場を探したり、空き待ちをしている車両による交通渋滞の抑制や交通事故の防止を図り、また、違法な路上駐車を抑止するため、交通管制システムと連動して、駐車場の位置、満空状況、誘導経路、交通渋滞等に関する情報を運転者に提供し、空き駐車場への誘導を行うものである。現在、福岡市、神戸市等20都市で23のシステムが運用されており、第5次交通安全施設等整備事業五箇年計画においても整備を推進することとしている。

(ウ) パーキング・メーター集中管理・誘導システムの整備
 パーキング・メーター集中管理・誘導システムは、パーキング・メーターの利用状況、作動状況を管理し、運転者に対し、パーキング・メーターの満空状況、誘導経路に関する情報を提供するシステムである。これにより、パーキング・メーターの利用率の向上を図り、駐車スペースを探している車両のもたらす渋滞の抑制、交通事故の防止を図り、また、違法な路上駐車の抑制、パーキング・メーターの不正使用の防止が期待されている(注)。
(注) パーキング・メーター集中管理・誘導システムは、3年1月から、横浜市において実用化されている。
ウ 違法駐車の効果的な取締りと違法駐車車両の早期排除の推進
 駐停車違反の取締りは、幹線道路の交差点、横断歩道、バス停留所等における悪質かつ危険性、迷惑性の大きい違反に最重点を置いて行っており、2年の駐停車違反取締り件数は、1日平均約6,800件となっている。
 現場に運転者等がいない駐車違反車両に対しては、違法駐車標章の活用により車両を移動すべき旨の告知等を行うとともに、指定車両移動保管機関の効率的運用により違反車両を移動し、違法駐車車両の早期排除を推進している。
エ 関係機関、団体との連携の強化
 警察では、道路使用適正化センター、報道機関等を活用して違法駐車に起因する交通事故の実態、交通渋滞状況等違法駐車の危険性、迷惑性についての情報の提供を積極的に行い、違法駐車抑止のための広報、啓発活動を進めている。
 また、警察では、「駐車対策協議会」等を設立し、地方公共団体、道路管理者等とともに、地域における駐車対策を検討、推進している。さらに、このような協議会の場を利用するなどして、地方公共団体等に対し、「駐車場附置義務条例」等の早期制定、駐車場の整備等を強く働き掛けている。

3 運転者政策

(1) 運転者教育の推進
ア 国民のニーズに応じた教習の推進
(ア) 指定自動車教習所における教習の充実
 指定自動車教習所は、平成2年末現在、全国で1,538箇所ある。また、指定自動車教習所の卒業者で2年に運転免許試験に合格したものは、約263万人で、合格者全体の95.2%を占めている。指定自動車教習所は、初心運転者教育の中心的役割を果たしており、都道府県公安委員会では、指定自動車教習所に対する指導監督を徹底し、教習体制等の充実強化に努めている。
a オートマチック車技能教習の充実、強化
 指定自動車教習所におけるオートマチック車の技能教習は、最近におけるオートマチック車の普及とこれを背景としたオートマチック車による技能教習の増加の要望を踏まえ、4時限実施している(注)。
(注) なお、運転することができる普通自動車をオートマチック車に限定した普通免許等及び同免許を受けようとする者に対する指定自動車教習所における教習の制度が、3年11月から導入されることが決定している。
b 高速教習の充実
 高速道路(注)における運転に関する教習として、昭和53年からは、一部の教習所において、現行カリキュラムの学科教習2時限に加え、任意の教習として、学科教習、技能教習各1時限の教習を実施している。 特に、最近における厳しい交通情勢にかんがみ、実施教習所数の拡大等に努めた結果、平成2年の受講者数は、59万3,911人と前年に比べ28万961人(89.8%)増加した。
(注) 高速道路とは、高速自動車国道法第4条第1項に規定する高速自動車国道及び道路交通法施行令第42条第1項に規定する自動車専用道路をいう。
(イ) 指定外自動車教習所における教習水準の向上
 都道府県公安委員会の指定を受けていない指定外自動車教習所は、2年末現在、全国で198箇所ある。
 都道府県公安委員会では、指定外自動車教習所の実態の把握とこれに対する指導に努めるとともに、指導員等に対する研修会の開催、資料の提供等を行い、その教習水準の向上を図っている。
(ウ) ペーパードライバーのための教習の実施
 いわゆるペーパードライバーに運転練習の機会を提供するため、自動車教習所におけるペーパードライバーのための教習課程の設置を推進しており、2年末現在、全国886箇所で教習が実施されている。
(エ) 教習用シミュレータの開発
 これから運転免許を取得しようとする者に対して、実際の運転において起こり得る危険な状況やこれに対する回避操作を模擬的に体験させるために、コンピュータ・グラフィックスを用いた教習用シミュレータを開発し、自動車教習所への導入をはじめ各種運転者教育への活用方法について、検討を開始した。

イ 安全運転を促す各種講習の充実
(ア) 二輪車運転者に対する講習の充実
a 原付免許取得者に対する安全技能講習の充実
 原動機付自転車による交通事故を防止するため、原付免許の新規取得者を対象に原付安全技能講習を行っている。2年の受講者は約59万人で、原付免許新規取得者のほとんどがこの講習を受講した。
b 自動二輪車運転者に対する安全講習の充実
 18歳未満の二輪免許新規取得者を対象に、白バイ隊員等自動二輪車の運転に関して専門的な知識を有する者を講師として、二輪免許取得時講習を行っている。2年には、約29万人がこの講習を受講した。
 また、二輪免許保有者を対象に学科講習と技能講習から成る自動二輪車安全運転講習を行っており、2年には、約2万2,000人が受講した。
(イ) 更新時講習の充実、改善
a 特別学級の編成と特別講習の推進
 更新時講習においては、若年者学級、二輪車学級、高齢者学級等の特別学級を編成して、運転者の態様に応じた効果的な講習を行っている。2年には、約77万人がこの特別学級による講習を受講した。
 また、職種、生活環境等が共通する運転者を集めてその態様に応じた効果的な講習(特別講習)を行っており、その受講者については、更新時講習を受講したものとみなすこととしている。2年には、約77万人がこの講習を受講した。
b 無事故無違反者等に対する簡素な講習の対象者の拡大
 更新前3年間無事故無違反の者で、初回更新者でないものに対する更新時講習は、ビデオ等の視聴覚教材の活用、資料の配布、パネル教材の展示等による簡素なものとして実施してきたところであったが、2年9月から、その対象者に、運転免許取得後無事故無違反の初回更新者及び前回の更新において簡素化講習の対象者であった者で、過去3年以内の違反行為の回数が1回であり、かつ、当該違反行為が軽微な違反行為(注)に該当するものを加えた。2年には、約1,215万人がこの講習を受講した。
(注) 軽微な違反行為とは、違反行為に付する点数が、3点以下である違反行為をいう。
(ウ) 雪道等における安全運転のための講習の推進
 北海道警察等においては、運転免許取得時講習、更新時講習等の機会を利用して雪路用タイヤを装着した車両の運転方法、雪道等における運転マナー等の講習を実施している。また、アイスバーン、わだち等のある運転コースでの走行訓練等を盛り込んだ「冬道安全運転講習」を実施するなどして、雪道等における運転の技能の普及を図っている。
(2) 各種の運転者対策
ア 高齢運転者対策
 警察では、高齢運転者の希望に応じて、実際の走行や模擬運転装置による技能診断及び科学的検査機器を活用した運転適性診断を行っており、必要に応じて個別指導を行っている。さらに、昭和63年から、1台で7種類の運転適性診断ができるCRT型運転適性診断機器を導入し、高齢運転者の安全運転指導に活用している。
イ 危険運転者対策
(ア) 迅速、確実な行政処分の推進
 自動車等を運転することが危険であると判断される運転者を、道路交通の場から早期に排除するため、違反、事故登録所要日数、処分所要日数の短縮等に努めた。最近5年間の運転免許の行政処分件数の推移は、表6-2のとおりである。

表6-2 運転免許の行政処分件数の推移(昭和61~平成2年)

(イ) 停止処分者講習
 運転免許の効力の停止等の処分を受けた者に対しては、その者の申出により停止処分者講習を行っている。この講習については、暴走族、二輪車運転者等受講者の態様に応じた特別学級を設けるなど、その効果的な実施に努めており、平成2年には、この講習を受けることができる者の88.6%に当たる約129万人が受講した。
(ウ) 取消処分者講習
 元年の道路交通法改正により、取消処分者講習制度が新設され、2年9月から実施されている。これにより、運転免許の取消し等の処分を受けた者が免許を再取得しようとする場合は、取消処分者講習の受講が受験資格とされている。
 この講習では、受験する免許の種類に応じて四輪車運転者用講習、二輪車運転者用講習が設けられ、個別的、具体的な指導が行われている。2年には、1万4,837人がこの講習を受講した。
ウ 初心運転者対策
 元年の道路交通法改正により、初心運転者期間制度が新設され、2年9月から実施されている。この制度は、初心運転者が慎重な運転をするよう誘導する一方、危険性の認められる者に対する適切な教育を実施し、以後の事故防止を図ろうとするものである。
 初心運転者期間内に一定の違反行為を行った者は、初心運転者講習を受けることができ、この講習を受講しなかった者等は再試験を受けなければならないこととされている。
 初心運転者講習は、小人数のグループ編成による個別型、参加型のものであり、内容は危険予知、回避訓練を取り入れるなど実践的なものとなっている。2年には、1,430人がこの講習を受講した。
エ 優良運転者の優遇と賞揚
 長期間、無事故無違反の運転者に対しては、行政処分等について優遇措置等を採っているほか、各種の賞揚制度を設けている。
 また、自動車安全運転センターでは、無事故無違反証明書を発行するほか、無事故無違反の期間が1年以上の運転者に対して、SD(Safe Driver)カードを交付している。2年の無事故無違反証明書等の発行件数は約388万件、SDカードの交付件数は約306万件であった。
オ 国際化への対応
 国外運転免許証の交付件数は、ここ数年大幅に増加しており、2年の交付件数は33万6,867件で、前年に比べ2万7,121件(8.8%)増加した。
 外国の運転免許を有する者については、一定の条件の下に運転免許試験のうち技能試験及び学科試験を免除しているが、これによる運転免許取得件数は年々増加しており、2年は3万6,291件で、前年に比べ9,006件(33.0%)増加した。また、運転免許証を発行した外国行政庁の数も118に上った。
 警察では、電算化による国外運転免許証の発行事務の迅速化等、国際化に対応した事務の簡素、合理化を推進した。

4 体系的な交通安全教育の推進

(1) きめ細かな交通安全教育の推進等
ア 段階に応じた交通安全教育
 警察では、学区、団地等の地域ごとに、交通事故の被害者となりやすい幼児、子供、高齢者等に重点を置いて、交通安全教室、交通安全講習会等を開催している。
 幼児、子供に対しては、年齢に応じた安全教育を推進しているほか、幼児交通安全クラブ、交通少年団等地域組織の育成に努めている。平成2年9月末現在、全国で約1万6,700の幼児交通安全クラブが組織され、幼児約147万人、保護者約139万人が加入し、また、約4,000の交通少年団が組織され、小学生約73万人、中学生約10万人が加入している。
 高校生に対しては、自転車の安全な利用、二輪車、自動車の特性、交通事故防止についての安全教育を推進している。特に二輪車の安全に関する指導については、学校当局と連携して法令講習や実技指導員(白バイ隊員等)の派遣による安全運転実技指導を推進している。
 高齢者に対しては、高齢者の相互啓発により交通安全意識を高揚させるため、全国の老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会等の設置を促すとともに、高齢者を交通安全指導員に委嘱するなど、高齢者の自主的な交通安全活動を推進している。
 身体障害者に対しては、地域における福祉活動の場を利用して、点字の交通安全パンフレット等を配布するなど、交通安全指導に努めている。
イ 地域交通安全活動のささえ
 地域における交通安全活動を推進するため、交通指導員等の民間ボランティアや交通安全協会等の民間団体が活動している。交通安全協会は、警察署単位の地区交通安全協会を中心に、警察と連携して、全国交通安全運動やシートベルト着用推進運動をはじめ、自転車、二輪車教室等各種講習会の開催、交通安全広報の実施、教育資料の作成、配布、優良運転者、交通安全功労者の表彰等幅広い活動を展開している。また、二輪車安全普及協会は二輪運転者の安全教育を、指定自動車教習所協会は初心運転者教育を、交通安全母の会は母親を中心として家庭における安全教育を行うなど、それぞれの立場から交通安全活動を推進している。
 警察では、関係機関、団体と協力して、交通安全指導者を対象とする研修会の開催、交通事故実態に関する資料の配布等、地域における交通安全活動が効果的に行われるよう必要な協力を行っている。
ウ 全国交通安全運動
 2年の全国交通安全運動は、4月6日から15日までの間及び9月21日から30日までの間、子供と高齢者の交通事故防止、若年運転者の無謀運転の防止、正しい方法によるシートベルト、ヘルメットの着用の徹底、違法駐車の締め出しを重点として展開され、警察は、この運動の中心となって交通安全教育、街頭指導等の交通安全対策を実施した。
エ 自転車安全整備制度の推進
 自転車安全整備制度は、整備不良の自転車を一掃するとともに、自転車の正しい乗り方を普及させるためのものであり、毎年1回、自転車安全整備技能検定が実施されている。2年末現在、自転車安全整備士は5万1,232人、自転車安全整備店は2万7,143店である。
 なお、点検整備を受けた自転車には、TS(Traffic Safety)マークを貼付することとされており、また、TSマークの貼(ちょう)付された自転車には、自転車事故の被害者の救済に資するため、傷害保険、損害賠償保険が附帯されている。2年10月には、保険額を大幅に引き上げ、損害賠償保険金について限度額を1,000万円とする新TSマークが導入された。
(2) 事業所等における交通安全活動の推進
 一定台数以上の自動車を使用する事業所等で選任されている安全運転管理者及び副安全運転管理者は、安全な運転の確保に留意した運行計画の作成、シートベルトの正しい着用の方法の指導等事業活動に伴う交通安全対策を推進しており、平成2年3月末現在、約31万箇所の事業所において、安全運転管理者約31万人、副安全運転管理者約4万1,000人が選任されている。
 警察では、これら安全運転管理者等に対して、安全運転管理に必要な知識等について講習を実施しており、2年度の実施回数は約3,000回、受講者数は約35万人であった。
 また、都道府県ごとに安全運転管理者等を会員とする安全運転管理者協議会が結成されており、交通安全運動、正しい方法によるシートベルト着用推進運動、無事故無違反コンクール等を積極的に推進するほか、安全運転管理に関する各種講習会の開催、教育資料の作成等を通じ、職域における交通安全思想の普及に努めている。
 さらに、安全運転管理者等と事業主が一体となって安全運転管理、交通安全活動を推進するために、事業主会の組織化を推進し、2年末現在、1道3県で道県組織が、22県で地区組織が結成され、活発な活動が行われている。
(3) 自動車安全運転センター安全運転中央研修所の建設
 自動車安全運転センターでは、自動車の運転に関し高度の技能及び知識を必要とする業務に従事する運転者又は青少年運転者に対し、その業務の態様に応じて必要とされ、又はその資質の向上を図るために必要とされる自動車の運転に関する研修を実施するための施設として「安全運転中央研修所」の建設を進めた(注)。ここでは、実際の道路交通現場に対応した安全運転の実践的かつ専門的な知識、技能についての体験的研

図6-12 安全運転中央研修所

修を行い、安全運転教育について専門的知識を有する交通安全指導者や高度の運転技能と知識を有する職業運転者、安全運転についての実践的な能力を身に付けた青少年運転者等の育成に資することとしている(図6-12)。
(注) 安全運転中央研修所は、平成3年5月に開所した。

5 良好な交通環境の実現

(1) 交通安全施設等整備事業五箇年計画
 交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法に基づき、交通安全施設等を整備拡充し、安全で円滑な道路交通を確保するため、交通安全施設等整備事業五箇年計画が策定されている。昭和61年度を初年度とする第4次交通安全施設等整備事業五箇年計画は平成2年度で終了したが、結果は表6-3のとおりである。
 なお、3年度は、3年度を初年度とする第5次交通安全施設等整備事

表6-3 第4次交通安全施設等整備事業実施状況

業五箇年計画を策定することとしている。
(2) 交通事故防止、生活環境保全のための対策
ア 交通事故多発箇所に対する施策
 警察では、交通事故多発箇所を重点に、信号機等の交通安全施設等の整備を進めている。
 右折時における衝突事故の多発している交差点では、右折矢の付加を行うなど信号機の多現示化を進め、交通の円滑化を図る必要性が特に高い主要幹線道路等では、信号機の系統化を行うなどして、交通流、交通量を整序している。
 このほか、弱者感応化を図るなど信号機の高度化に配慮している(図6-13)。

図6-13 弱者感応信号機

 さらに、出会い頭事故、歩行者横断中の事故等が多発している箇所では、その事故類型に応じて、速度規制、一時停止規制、横断歩道の設置等必要な規制を実施するとともに、関係機関に対し、交差点形状の改良、段差舗装、夜間照明の整備等を働き掛けているほか、交通事故が発生しやすいカーブ等では、路面にいわゆる減速マークの表示、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制を行うとともに、自動車のヘッドライトの光をよく反射する素材を用いた道路標示を行うなど重点的に事故防止対策を行っている。
イ 高速走行抑止システムの整備
 高速走行抑止システムは、高速走行車両を検出し、これに対し警告板により警告を与え、減速、安全運転を促すことにより、高速走行による事故防止を図るものである。現在、富山県等で運用されているほか、第5次交通安全施設等整備事業五箇年計画においても整備を進めることとしている(図6-14)。

図6-14 高速走行抑止システム

ウ 生活ゾーン規制の実施
 子供や高齢者等の交通弱者を保護し、良好な生活環境を保全するため、住宅地域、学校や高齢者が利用する施設の周辺等の地域を対象に区域を設定し、その区域ごとに歩行者専用、車両通行止め、大型車通行止め、一方通行等の交通規制を総合的に組み合わせて、スクールゾーン規制、シルバーゾーン規制等の生活ゾーン規制を実施している。
 また、自転車交通の多い路線については、自転車利用者の通行の安全を図るために必要な交通規制を進めている。
エ 交通公害の防止のための施策
 大型車の夜間走行等による幹線道路沿いの騒音、振動等の交通公害の防止を図るため、発進、停止回数を減少させるための広域的な信号制御、大型車を中央寄りに走行させるための通行区分の指定等を実施している。
(3) 交通の円滑化対策の推進
ア 交通管制センター等の整備
 交通管制センターは、コンピュータにより信号機、可変標識、中央線変移装置の制御を行うとともに、交通情報を運転者に提供して都市及びその周辺の交通を安全で円滑なものに整序する施設であり、警察による交通管理の中枢を成すものである。平成2年度には、昭和50年度以前に設置された31都市の交通管制センターのうち2都市の交通管制センターのコンピュータ等の中央装置を高性能化し、7都市に交通管制サブセンターを新設した。
 また、既設の信号機について、交通量の変化に応じて青信号の時間を自動的に変える地点感応化、同一路線上の複数の信号機を相互に連動させて制御する系統化、交通完成センターのコンピュータによって信号機を広域的に制御する地域制御化等を図るなど機能を高度化したほか、夜 間等に交通量が減少する地域においては、閑散時半感応化、閑散時押ボタン化等による合理的な信号制御の実現に努めた。
イ 合理的な交通規制の推進
 人口3万人以上の都市を重点に、各種の交通規制を有機的に組み合わせて都市全体の交通流等を管理する都市総合交通規制を実施している。
 また、大量公共輸送機関である路線バスの走行の定時性を確保し、マイカー利用者の路線バス利用への転換を図ることにより、都市における自動車交通総量を抑制し、交通の過密を緩和するために、バス優先・専用レーンの設定、バス感知式信号機の増設等バス優先対策を進めている。
 さらに、現実の駐車需要に応じた効果的な駐車対策を推進するため、週末等における駐車禁止規制の解除、時間制限駐車区間規制の積極的推進等きめ細かな対策を講じている。また、速度規制についても、幹線道路においては、道路交通環境の実態に見合ったものとなるように努めている。
 また、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制が長距離にわたって連続する区間においては、道路管理者の協力を得て避譲帯の設置を促進することなどにより、交通の円滑化に努めている。
ウ 交通ボトルネック解消対策
 交通容量が他の区間に比べ比較的小さい交差点、橋梁(りょう)、踏切、トンネル等は、交通の円滑な流れを阻害し、渋滞発生地点として、交通ボトルネックとなりやすい。このため、適切な信号機の制御、右折レーンの設置、踏切信号機の設置等の対策を進めるとともに、道路環境の改善を道路管理者等に働き掛けている。
エ 行楽期等における交通の円滑化対策
 行楽期等における大規模な交通渋滞については、その発生の予測を行い、事前広報を行うとともに、臨時交通規制、交通情報の提供、警察官等による交通整理、道路における工事、作業の抑制等の対策を実施し、その予防、解消に努めている。
オ 道路使用の適正化
 都市の道路における工事等の道路使用行為は、交通渋滞等の交通機能の障害の要因となっていることも少なくない。
 警察では、工事方法の改善や工事の集中化、計画的な施行等の事前の指導を行い、許可に当たっても必要な条件を付するなどして、交通渋滞等の交通障害の防止に努めている。また、コンピュータを活用するなどして、道路工事等の道路使用行為の管理の効率化を推進している。
 また、道路交通法に基づき都道府県ごとに指定される都道府県道路使用適正化センターは、道路の使用等に関する事項について、照会、相談に応じ、あるいは広報啓発活動を行うとともに、警察署長の委託を受けて、道路使用許可条件の履行状況、原状回復状況等の調査を行っている。
カ 先行的交通対策
 大量交通社会においては、都市構造、道路網、駐車場、大量輸送機関、物流システム等が交通流、交通量に大きな影響を与えることから、都市計画、土地区画整理事業等各種の開発事業、道路や駐車場の整備、大規模施設の建設等について、都市計画地方審議会等に参画して、交通管理面からの必要な指導、提言を行うことなどにより、交通管理上望ましい都市交通が形成されるよう働き掛けている。
〔事例〕 「花博」の開催に伴う交通対策
 平成2年4月1日から9月30日までの間、「国際花と緑の博覧会」が大阪で開催された。これに伴い、大阪府警察では、花の万博交通管制センターの設置、駐車誘導システムの整備等を行い、道路管理者の設置する道路情報提供装置も利用して、交通情報提供ネットワークを構築し、会場周辺の道路における交通流、交通量の適切な配分、誘導を行った。
(4) 交通情報の収集、提供
ア 交通情報の提供
 交通状況の変化に応じて交通流、交通量の配分、誘導を適切に行うため、交通情報を収集、分析して運転者に提供することは、交通規制の実施、信号の制御と並ぶ交通管理の重要な手法である。
 交通情報の提供は、車両感知器、テレビカメラ等により収集した情報を基に、交通管制センターを通じて、主要な地点に設置されている路側通信設備、フリーパターン式交通情報板等の交通情報提供施設により行うほか、電話照会に対する回答、テレビ、ラジオ放送を通じても行っている。平成2年度に(財)日本道路交通情報センターが行った情報の提供は、テレビ放送によるものが約5,900回、ラジオ放送によるものが約27万9,000回であり、電話照会に対するものは約791万件であった。
イ 交通情報提供施設の整備充実
 警察では、よりきめ細かな交通情報を広域的に提供するために、複数の交通管制センターのネットワーク化、車両感知器、路側通信設備、旅行時間提供システム等の交通情報収集、提供施設の整備充実、交通情報の編集、提供の自動化を促進し、運転者のニーズに応じた情報提供に努めるほか、AMTICS(Advanced Mobile Traffic Information and Communication System、新自動車交通情報通信システム)、FM音声多重放送による交通情報提供等の新たな情報提供手法の実用化を図っている。
(ア) 旅行時間提供システムの整備の推進
 旅行時間提供システムは、R型車両感知器から収集した交通量、占有率、速度のデータを利用するなどして、ある地点から目的地までの旅行時間を予測して提供するものである。旅行時間の提供は、現在、大阪府、石川県等で行われており、今後も本システムの整備を進めていくこととしている(図6-15)。

図6-15 旅行時間提供システム構成図

(イ) AMTICS関西実験の推進
 「国際花と緑の博覧会」の時期に合わせ、AMTICS関西実験を行った。今回の実験は、昭和63年度の東京での実験結果を踏まえて、実用化に向けての利用実験と普及活動のために行ったものであり、十分にその成果を挙げることができた(図6-16)。

図6-16 AMTICS関西実験システム構成図

6 交通秩序の確立

(1) 効果的な交通指導取締りの推進
ア 効果的な取締りの推進
 交通秩序を確立し、交通の安全を確保するため、道路交通法、道路運送車両法等の交通関係法令違反について取締りを行った。
 道路交通法違反の取締りについては、無免許運転、飲酒運転、著しい速度超過、信号無視等の悪質、危険な違反や幹線道路の交差点等における駐停車違反、暴走族の騒音運転等迷惑性の強い違反に最重点を置いて実施した。最近5年間の主な道路交通法違反の取締り状況は、 表6-4のとおりである。

表6-4 主な道路交通法違反の取締り状況(昭和61~平成2年)

イ 街頭指導活動の強化
 警察官による街頭交通監視活動、白バイ、パトカー等による交通機動警ら活動を強化し、交通事故の多発する路線、場所を重点に、危険性、迷惑性の高い違反の未然防止を図った。また、歩行者、特に高齢者、子供、身体障害者や自転車利用者に対し、安全な通行を促すための街頭指導を行った。
ウ 企業ぐるみ違反に対する厳正な措置
 事業活動に関してなされた過積載、過労運転、無免許運転及びこれらに起因する事故事件等のいわゆる企業ぐるみ違反については、運転者の責任追及はもとより、自動車の使用者、荷主等の運行管理、労務管理に係る背後責任の追及を徹底するとともに、自動車の使用制限処分を迅速かつ厳正に行った。使用者等の背後責任追及状況は、表6-5のとおりである。

表6-5 使用者等の背後責任の追及状況(平成元、2年)

 また、関係機関による行政措置や関係業界、団体による指導措置等が適切に講じられるよう、取締り結果等を積極的に通報している。
エ 運転代行事業の問題
 運転代行事業(対価を得て他人の自動車を運転する役務を提供する事業をいう。)は、飲酒運転、過労運転等の防止に資する反面、違法駐車を繰り返したり、暴力団が経営に関与している悪質な業者もあるので、警察では、その違法行為の取締りに努めている。
(2) 交通捜査活動の推進
ア 交通事故事件
 平成2年中の交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件の検挙件数は58万931件、検挙人員は60万6,386人で、前年に比べ、件数は6,877件(1.2%)、人員は1万4,816人(2.4%)それぞれ減少した。
イ ひき逃げ事件
 最近5年間の死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況は、表6-6のとおりである。

表6-6 死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況(昭和61~平成2年)

 逃走の動機としては、飲酒運転、無免許運転等の悪質な交通違反の発覚をおそれたものが依然として多く、全体の約4割を占めている。また、犯行後、車の修復をしたり、アリバイ工作を行うなど証拠隠滅を図った悪質、巧妙な事犯が目立っている。
〔事例〕 2年1月24日、後部座席に幼稚園児を乗せて自転車で交差点の横断歩道上を通行中の主婦(36)が、後方から左折してきた大型 ダンプカーにひかれ、園児は即死し、主婦も自転車ごと引きずられて死亡した。被疑者(車両)は逃走したが、被害者の衣服に残された車両底部のボルト痕(こん)等から車種を特定し、発生から79日目に被疑者を逮捕した(警視庁)。
ウ 交通特殊事件
 偽装交通事故による自動車保険金詐欺事件等のいわゆる交通特殊事件の検挙状況は、表6-7のとおりである。

表6-7 交通特殊事件の検挙状況(平成元、2年)

エ 車庫とばし事件の検挙
 違法駐車対策の一環として、車庫とばし事件の捜査において、青空駐車を助長しているディーラー等に対する責任追及を強化するとともに、その再発防止のための措置について関係機関、団体に対し要望した。
〔事例〕 大手メーカー系列の自動車販売会社のセールスマン(28)は、車庫を持たない顧客に自動車を販売する際、その自動車の登録を受けるため、その顧客の住所を保管場所を備えた親類宅に架空移転したり、顧客の住所近くの空き地の使用の承諾書を偽造するなどしていた。電磁的公正証書原本不実記録、有印私文書偽造、自動車の保管場所の確保等に関する法律違反等で2年4月から7月までの間に、自動車販売業者、セールスマン、顧客等1法人21人を検挙した。
 また、不正登録是正のため、運輸当局に通報するとともに、自動車販売業者の自主的違反防止対策の強化について指導した(北海道)。
(3) 高速道路における交通警察活動
ア 高速道路交通警察隊の活動
 高速道路交通警察隊は、高速道路における交通指導取締り、交通事故事件の処理、交通実態に即応した交通規制等を行うほか、犯罪の発生を未然に防止し、警察事象が発生した場合には、これを第一次的に処理するための活動を行っている。
イ 高速道路の交通実態
(ア) 高速道路の供用状況
 平成2年末現在、高速道路の全供用距離は、54路線5,563.6キロメートル(高速自動車国道4,771.4キロメートル、指定自動車専用道路792.2キロメートル)となった。2年には、高速自動車国道として、山陽自動車道、東北横断自動車道等213.5キロメートルが新たに供用開始された。
(イ) 高速道路における交通事故発生状況
 2年の高速道路における交通事故の発生状況は、表6-8のとおりである。

表6-8 高速道路における交通事故の発生状況(平成2年)

 高速道路は自動車専用の道路であり、原則的に交通流が上下線に分離されていることから、高速自動車国道についてみれば、1億走行台キロ当たりの人身事故は11.3件で、その他の道路の約10分の1である。
 しかしながら、高速道路においては、高速走行のため、わずかな運転上のミスが事故に結び付きやすく、しかも事故発生時の死傷者も多数に及ぶことが多いことから、高速自動車国道の死亡事故率(発生件数に占める死亡事故件数の割合)は、その他の道路の約3.4倍となっている。
ウ 高速道路における安全で円滑な交通流の確保
(ア) 先行対策の推進
 供用が予定された高速道路については、交通の安全と円滑を確保するため、道路管理者に対して、道路線形の改良、交通安全施設の整備等必要な申入れを行うとともに、既に供用されている高速道路の交通規制との整合性や一般道路との関連性、道路構造、気象条件等を総合的に判断し、最高速度規制等所要の交通規制を実施した。
(イ) 交通実態に即応した交通規制等の実施
 既に供用されている高速道路については、交通事故の発生状況、実勢速度、交通安全施設の整備状況等を勘案して、交通実態に即応した交通規制となるよう必要な見直しを実施するとともに、道路管理者と合同の現地検討を実施するなどして、交通危険箇所に対する安全対策を推進した。
 また、地震、積雪、凍結、霧、降雨、強風等の交通事故につながるおそれの大きい自然現象の発生時や交通渋滞、交通事故等の交通障害発生時には、その状況に応じ、臨時交通規制を迅速、的確に実施し、交通事故や二次障害の発生防止に努めた。
(ウ) 高速道路上における交通情報の収集と提供
 高速道路は、インターチェンジ等からしか車の出入りができない構造となっており、閉鎖性が高いため、小さな交通障害が大きな交通障害に発展することが多い。
 したがって、交通規制の適切な実施と交通障害情報、う回路情報等の交通情報の積極的提供が特に重要である。
 そこで、機動警ら活動等を強化して、高速道路及び周辺道路の交通情報を幅広く収集し、一般道路との調整を図りつつ、必要な交通規制を行うとともに、テレビ、ラジオ等による広報、白バイ、パトカーによる現場広報及び可変情報板の活用等により迅速、的確な交通情報の提供を行っている。
(エ) 交通渋滞の早期解消対策の推進
 交通渋滞については、その緩和、解消対策を積極的に進めているが、大規模な交通渋滞が予想される行楽期等においては、関係機関と連携して、事前広報、交通渋滞情報の収集、提供、う回路マップの配布などにより、交通渋滞の緩和、早期解消に努めている。
 また、道路工事による交通渋滞が発生していることから、工事方法、施工時期、期間等について関係機関との調整を行い、集中工事や夜間工事の採用等により交通渋滞の緩和に努めている。
(オ) 効果的な交通指導取締り

表6-9 高速道路における交通違反取締り状況(平成元、2年)

 2年中の高速道路における交通違反取締り状況は、表6-9のとおりである。
エ 高速道路交通安全団体の指導育成
 高速道路における自主的な交通安全活動を推進するため、高速道路を日常的に利用する運送業者等を中心とした高速道路交通安全協議会等の団体の組織化を促進しており、2年末現在、37都道府県において37団体が活動している。

7 暴走族対策の推進

(1) 暴走族の動向
 平成2年に暴走族として把握されている者の総数は、約3万7,000人である。そのい集走行状況は表6-10のとおりであり、近年、その動きが活発化してきている。

表6-10 暴走族のい集走行状況(昭和61~平成2年)

 昭和53年の道路交通法の改正により設けられた共同危険行為等禁止規定による取締りの強化により多くのグループを解体したこと、グループの統制を嫌う最近の若者気質等からグループに加入しない暴走族が年々増加している。したがって、大集団による暴走は少なくなっているものの、深夜、少人数でゲリラ的に住宅街等を暴走し、異常に大きな排気騒音により住民を悩ませる爆音暴走が近年多くなっている。このため、暴 走族に関する110番通報が急増しており、平成2年は12万812件に達した。
 また、暴走族は、対立抗争事犯をはじめ、パトカー、一般車両の襲撃事案等悪質な違法事案を敢行している。
(2) 暴走族対策の推進
ア 実態把握と個別指導、補導の強化
 警察では、交通をはじめ少年、刑事等警察各部門が連携して、暴走族に関する情報の収集に努め、その実態を把握し、個別的な指導、補導を強化し、グループの解体、暴走族からの離脱を図るなど暴走行為をさせない対策を推進している。
イ 取締りの徹底
 暴走族の活動が活発化する7月を「暴走族追放、取締り強化月間」に指定し、集中的な取締りを実施した。特に、ゲリラ的な爆音暴走については、110番通報等の情報を分析、検討して、暴走行為が行われる可能性の高い時間帯、場所、路線等を予測して、「よう撃的取締り」等創意工夫を凝らした取締りを行った。
 この結果、平成2年の暴走族の総取締り件数は11万6,431件となり、前年に比べ1万2,803件(12.4%)増加した。最近5年間の暴走族事犯の法令別検挙状況は、表6-11のとおりである。

表6-11 暴走族事犯の法令別検挙状況(昭和61~平成2年)

 暴走族が使用する不法改造車両については、6月に「整備不良車両等取締り強化月間」を実施するなどして取締りを強化し、車両の運転者のみならず、車両の所有者、改造等を行った業者等についても徹底した責任追及を行った。
 なお、暴走族に対する共同危険行為等禁止違反等による行政処分は、取消処分1,910件、停止処分1,897件であった。
ウ 暴走族を許さない社会環境づくり
 関係機関、団体等で構成される暴走族対策会議が中心となって、「暴走を『しない』、『させない』、『見に行かない』」運動等地域ぐるみの暴走族追放運動を促進した。
 また、暴走行為の頻発する地域、路線については、交通規制のほか、道路管理者等の協力を得て暴走族がい集、暴走できない環境づくりを推進した。


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