第5章 生活の安全の確保と環境の浄化

 市民生活の安全を確保するためには、犯罪の取締りを行うとともに、事件、事故の発生する要因を社会から除去し、良好な社会生活環境の形成を図る必要がある。警察では、このような認識の下に、次のような活動を推進している。
 風俗環境については、悪質な風俗関係事犯に重点を置いた指導、取締りを行うとともに、風俗営業の健全化のための施策を積極的に展開して、その浄化を進めている。
 外国人労働者問題については、外国人労働者の就労に介入するブローカー等の取締り等を通じて、外国人労働者の保護、不法就労対策の推進等を行っている。
 銃砲については、犯罪に使用されることが多いけん銃を中心に、不法所持事犯、密輸入事犯の取締りを進めるとともに、都道府県公安委員会の所持許可を受けた銃砲の適正な管理の確保に努めることにより、危害の発生の防止を図っている。
 火薬類等の危険物については、保管方法、運搬方法等についての取締りと指導により事故の発生の防止に努めている。
 悪質商法については、犯行の手口が一層巧妙化、複雑化しており、被害の潜在化が進んでいることから、積極的な取締りを推進するとともに、消費者の意識向上を図るための広報啓発活動を展開して、被害の未然防止、拡大防止に努めている。

1 風俗環境の浄化

(1) 風俗環境の浄化活動の推進
 警察では、国民の良好な社会生活環境の形成を図るため、風俗事犯の取締りとともに、風俗環境の浄化のための指導に力を入れている。特に風俗営業は、適正な営業が行われれば国民に健全な娯楽の機会を与える営業であることから、その健全化に努めている。この結果、強引な客引き、料金等をめぐるトラブル、卑猥(わい)な看板等が減少するなど、風俗環境の浄化が進んできている。
 しかし、その一方で、無許可風俗営業事犯、年少者に客の接待等をさせる事犯、外国人女性が関与する風俗関係事犯、デートクラブ、テレホンクラブ等を舞台とした売春事犯、ゲーム喫茶等における遊技機使用の賭博(とばく)事犯等が跡を絶たないほか、このような風俗事犯への暴力団の介入等、看過できない事案も依然として発生しており、警察では、引き続きこれらの悪質事犯に重点を置いた指導、取締りを行っている。
ア 風俗営業の健全化
(ア) 風俗営業の状況

表5-1 風俗営業(料飲関係営業等)の営業所数の推移(昭和61~平成2年)

 最近5年間の料飲関係営業等(風営適正化法第2条第1項第1号~第6号)の営業所数の推移は、表5-1のとおりである。
 平成2年の違反態様別検挙状況は、図5-1のとおりであり、検挙件数は、風営適正化法が施行された昭和60年以降一貫して減少している。

図5-1 風俗営業(料飲関係営業等)の違反態様別検挙状況(平成2年)

 また、遊技場営業(風営適正化法第2条第1項第7号、第8号)の営業所数の推移は、表5-2のとおりで、ぱちんこ屋の営業所数は56年以降増加を続けているが、まあじゃん屋及びゲームセンター等の

表5-2 風俗営業(遊技場営業)の営業所数の推移(昭和61~平成2年)

営業所数は減少傾向にある。
 平成2年の違反態様別検挙状況は、図5-2のとおりである。
 検挙事犯の中では、ゲーム機を使用した賭博(とばく)事犯が最も多い。これらの事犯については、暴力団が関与している事例がみられるほか、その手口が悪質、巧妙化していることから、警察では、引き続き取締りを強化することとしている。

図5-2 風俗営業(遊技場営業)の違反態様別検挙状況(平成2年)

〔事例〕 喫茶店経営者(47)らは、喫茶店にまあじゃんゲーム機等を設置し、高校生らを相手にゲーム機賭博(とばく)を行っていた。2年5月、経営者ら4人を常習賭博(とばく)で、客5人を単純賭博(とばく)で検挙(青森)
(イ) 風俗営業の健全化
 風俗営業は、適正な営業が行われれば、国民に健全な社交と憩いの場を与える営業であるので、警察では、風俗営業者による自主的な健全化のための活動を支援するとともに、風俗営業の健全化のための施策を積極的に推進している。
 とりわけ、ぱちんこ屋営業については、多くのファンを有する大衆娯楽として近年急速に成長しているものの、その裏面では暴力団の関与等の健全化を阻害する要因が根強く残っているため、警察では、ぱちんこの玉貸しに使用する全国共通のプリペイドカードの導入が適切に行われるよう必要な指導を行うなど、健全化のための諸施策を強力に推進している。また、ぱちんこ屋営業において客に提供された賞品は、いわゆる景品買取所で換金されることが常態化していることから、その減少を図るため、国家公安委員会規則を改正して、ぱちんこ屋営業において提供することができる賞品の価格の最高限度を3,000円から1万円に引き上げるとともに、客の多様な要望を満たすことができるよう、客が一般に日常生活の用に供すると考えられる物品のうちから、できる限り多くの種類のものを賞品として取りそろえておくことを営業者に義務付けることとした。さらに、この賞品買取りに暴力団が関与して資金源としている場合が多いほか、暴力団が営業者からみかじめ料等の名目で金銭を徴収する例も少なくないことから、暴力団の排除のための指導及び取締りを強化している。
イ 風俗関連営業(風営適正化法第2条第4項第1号~第5号)の状況
最近5年間の風俗関連営業の営業所数の推移は、表5-3のとおりで、

表5-3 風俗関連営業の営業所数の推移(昭和61~平成2年)

昭和59年以降漸減傾向にある。その一方で、風俗関連営業とはされていないデートクラブ、テレホンクラブ等の性風俗に関する営業の営業所数は増加している。
 平成2年の風俗関連営業の違反態様別検挙状況は、図5-3のとおりである。

図5-3 風俗関連営業の違反態様別検挙状況(平成2年)

ウ 深夜飲食店営業の状況
 最近5年間の深夜飲食店営業の営業所数の推移は、表5-4のとおり

表5-4 深夜飲食店営業の営業所数の推移(昭和61~平成2年)

で、漸増傾向にある。
 2年の深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況は、図5-4のとおりである。

図5-4 深夜飲食店営業の違反態様別検挙状況(平成2年)

(2) 売春事犯等の現況
 平成2年の売春防止法違反の検挙件数は、6,124件であり、最近5年間の検挙状況は、表5-5のとおりである。
 最近の売春事犯は、売春防止法制定当時多かった街娼(しょう)型、管理型からデートクラブに代表される派遣型が主流となっており、総検挙件数の91.6%を占めるに至っている。これらの売春事犯においては、客との連絡に転送電話や携帯用無線電話を利用したり、結婚相談所等を偽装して売春をあっせんするなど、手口の巧妙化が目立ってきている。
 また、テレホンクラブは、2年末現在、全国で871軒が把握されており、

表5-5 売春防止法違反の検挙状況(昭和61~平成2年)

次第に増加する傾向にある。2年には売春防止法違反、児童福祉法違反等で85件を検挙しているが、この中には、経営者が売春をあっせんしている事例、少女が性的被害者となっている事例等がみられる。
〔事例〕 2年5月、スポーツ新聞の広告等において結婚相談所を装って会員を募集し、応募してきた男女約220人に売春をあっせんしていた売春クラブを摘発、経営者(29)ら4人を売春防止法違反で検挙(大阪)
(3) 猥褻(わいせつ)事犯の現況
 平成2年の猥褻(わいせつ)事犯の検挙件数は、1,659件であり、最近5年間の検挙状況は、表5-6のとおりである。
 最近は、ビデオ機器の普及等から、露骨な表現の猥褻(わいせつ)ビデオテープ等を販売する事犯が増加している。これらの猥褻(わいせつ)ビデオテープ等については、雑誌広告やダイレクトメールを利用した通信販売によるものが多く、

表5-6 猥褻(わいせつ)事犯の検挙状況(昭和61~平成2年)

販売元を隠すため営業所とは別の場所で郵便を受け付けるなどの事例もみられ、販売方法が巧妙化してきている。
〔事例〕 2年4月、約6,400人の顧客にダイレクトメールを発送するなどして、マンションの一室で大量にダビングした猥褻(わいせつ)ビデオテープを宅配便により通信販売していた猥褻(わいせつ)ビデオ販売業者(37)を猥褻(わいせつ)図画販売等で検挙、猥褻(わいせつ)ビデオテープ約1万5,000巻、ビデオデッキ約120台を押収(富山)
(4) ノミ行為事犯の現況
 平成2年のノミ行為事犯の検挙件数は、651件であり、最近5年間の検挙状況は、表5-7のとおりである。
 警察では、公営競技の施行者と連携して、公営競技場からの暴力団、ノミ屋等の排除措置を効果的に推進しており、公営競技場の浄化が進ん

表5-7 ノミ行為事犯の検挙状況(昭和61~平成2年)

でいる。しかし、その一方で、ノミ行為の拠点がアパートの一室、喫茶店等の場外に拡散しており、また、暴力団が資金源とするためノミ行為の元締となっている場合が多いことから、警察では、今後とも、ノミ行為事犯の取締りを強力に推進することとしている。
〔事例〕 暴力団幹部(45)らは、マンションの一室をノミ行為の拠点として、約5,000万円の利益を上げていた。2年7月、同幹部を含む胴元24人、客105人を自転車競技法違反等で検挙(愛知)

2 外国人労働者問題

(1) 外国人労働者問題
 最近は、大都市のみならず一部の地方都市においても、建設業、製造業等の分野でいわゆる単純労働に従事する外国人労働者と接する機会が多くなってきている。また、平成元年の第116回臨時国会で成立した出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)の一部を改正する法律の施行を前にした2年5月には、東京入国管理局に退去強制手続による出国等を求める外国人労働者が殺到し、大きく社会の耳目を集めた。これらの外国人労働者は主としてアジア諸国から来日しており、その急増は、現在、大きな社会問題となっている(第2章1(1)イ、第7章7(4)参照)。
ア 不法就労者の急増
 近年、観光等の名目で上陸申請をして在留資格を付与されたにもかかわらず就労をしていたり、在留期間の経過後に不法に残留しながら就労する、いわゆる不法就労者が急増している。
 入国管理局が過去6年間に資格外活動又は資格外活動がらみの不法残留事犯により摘発した外国人(以下「被摘発者」という。)の数の推移は、表5-8のとおりで、2年の被摘発者数は、5年前の約5.3倍に当たる2万9,884人に上り、不法就労者が逐年増加している状況がうかがわれる。

表5-8 資格外活動事犯及び資格外活動がらみの不法残留事犯により摘発した外国人の状況(昭和60~平成2年)

イ 外国人労働者が社会に与える影響
 海外では、ドイツやフランスのように、過去において外国人労働者を短期間の出稼ぎ労働者として積極的に受け入れてきた国が存在するが、これらの国では、外国人労働者の在留の長期化等による失業者の増加等が大きな社会問題となったため、「受入れ」から「受入れの制限」へと政策を転換し、さらに、「帰国奨励」や「自国社会への統合」の措置が講じられている。しかしながら、外国人労働者をめぐっては、失業、教育、犯罪等依然として多くの問題が存在しており、その解決は容易でないことが指摘されている。
 我が国でも、不法就労者を含む外国人労働者の増加に伴い、彼らが犯罪を犯したり、犯罪の被害者となる事例等が目立ってきており、外国人労働者が社会に与える影響について、今後、慎重に見定めていく必要がある。
(2) 外国人労働者に係る雇用関係事犯等の取締り
ア 就労に介入するブローカー等の取締り
 我が国に来日していわゆる単純労働に従事する外国人は、就労あっせんブローカー等を介して不法に就労することが多いが、外国人労働者の不法就労を助長するこうしたブローカー等は、外国人労働者を食い物にすることにより不当な利益を得ている。
 このような不法就労を助長する事犯に対し、警察では、職業安定法、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)等の雇用関係法令を適用して、ブローカー等の取締りを推進し、彼らに食い物にされている外国人労働者の保護に努めている。平成2年の雇用関係事犯の検挙状況をみると、件数は104件、人員は152人であった。
 また、入管法に新設された不法就労助長罪の規定が2年6月から施行されたことにより、それまでは検挙が困難であった不法就労者の派遣先、あっせん先の事業主に対しても、効果的な取締りができるようになったことから、警察では、ブローカー及び悪質な事業主に重点を置いた取締りを積極的に推進している。2年の不法就労助長罪の検挙状況をみると、件数は41件、人員は54人であった。
〔事例〕 会社社長(55)は、フィリピンの自社工場で働いていたフィリピン人を研修生として来日させ、実務研修名目で他社に派遣して単純労働に従事させていた。2年11月、労働者派遣法違反及び不法就労助長罪で逮捕(大阪)
イ 暴力団関与事犯の取締り
 暴力団は、以前から外国人女性を売春婦等としてあっせんするブローカーとして暗躍していたが、最近では、外国人男性を工場、建設現場等へ単純労働者としてあっせんするなど、外国人男性に係る雇用関係事犯にも関与している。これは、暴力団が、企業等における人手不足感の広がりに目を付け、新たな資金源の一つとして、これらの業種への外国人男性のあっせん等に乗り出してきたものとみられる。
〔事例〕 暴力団組員(39)らは、寄港地上陸の許可を得て我が国に入国したタイ人男性を自己の賃借するアパートに居住させて、鉄筋工として土木建築会社に供給していた。2年12月、職業安定法違反で検挙(兵庫)
(3) 外国人女性に係る風俗関係事犯等の取締り
ア 外国人女性に係る風俗関係事犯
 近年、「じゃぱゆきさん」と称される外国人女性が、短期滞在、興行等の在留資格で入国し、風俗関係事犯に関与する事案が多発している。これらの事犯においては、ブローカーや悪質な事業主が外国人女性に売春を強要する例もあり、外国人女性に係る風俗関係事犯の取締りを推進し、外国人女性の保護を図ることが重要な課題となっている。
 最近5年間における風俗関係事犯に関与した外国人女性の国・地域別の状況は、表5-9のとおりで、タイ、フィリピン両国の占める割合が大きくなっているのが目立っている。また、その総数は、依然として高水準で推移している。

表5-9 風俗関係事犯に関与した外国人女性の国・地域別状況(昭和61~平成2年)

〔事例〕 飲食店経営者(53)らは、タイ人ブローカーからあっせんを受けたタイ人女性を自己の経営する飲食店でホステスとして稼働させるとともに、店の客を相手に売春をさせていた。平成2年9月に売春防止法違反、10月に不法就労助長罪で逮捕(警視庁)
イ 外国人女性に係る偽装結婚事犯
 飲食店等で稼働する外国人女性が、我が国に長期間滞在するために、偽装結婚を行う例がみられる。これは、例えば、興行の在留資格では原則として3箇月までしか在留が認められないのに対して、日本人の配偶者としての在留資格では、3年間の在留が認められる上、国内で自由に就労することができることとされているためである。通常、このような偽装結婚事犯にはブローカーが介在しており、我が国に長期滞在することを望む外国人女性と、その相手方となる日本人男性とを仲介することにより、多額の報酬を得ている。
〔事例〕 韓国人ブローカー(35)らは、日本国内に長期間滞在してホステス等として稼働することを望んでいる韓国人女性を来日させ、日本人の配偶者としての在留資格を取得させるため、「伝言ダイヤル」を悪用するなどして募集した日本人男性に100万円の「戸籍使用料」を支払って韓国人女性と偽装結婚させ、韓国人女性からは250万円の仲介料を得ていた。2年7月、公正証書原本不実記載、同行使で逮捕(埼玉)
(4) 今後の対応
 現在、我が国では、いわゆる単純労働に従事する外国人の受入れをめぐって、各界で活発な議論が行われているが、その際、留意すべき点は、外国人労働者の受入れとは単なる労働力の受入れではなく、日本で生活する生身の人間の受入れであり、しかも、西欧諸国の先例によれば、それは、我が国社会の永続的な一員となる可能性のある者の受入れであるということである。
 したがって、いわゆる単純労働に従事する外国人の受入れに関する議論に当たっては、外国人労働者を受け入れることによって生じる様々な問題について、バランスのとれた考察を慎重に行うことが必要であると思われる。

3 銃砲の取締りと適正管理

(1) 銃砲の取締り
 最近5年間における銃砲使用犯罪の検挙件数の推移は、表5-10のとおりである。

表5-10 銃砲使用犯罪の検挙件数の推移(昭和61~平成2年)

 平成2年のけん銃使用犯罪の検挙件数は171件で、銃砲使用犯罪の85.5%を占めている。また、けん銃使用犯罪の96.5%は暴力団関係者によるものである一方、一般市民が被害者となる事例も生じていることから、市民生活に大きな不安を与えているところである。警察では、けん銃の不法所持事犯の取締りに力を入れるとともに、海外からのけん銃の流入を防ぐため、税関等の関係機関、団体等との緊密な連携の下、けん銃密輸入事犯の水際検挙と密輸入ルートの解明に努めている。しかし、けん銃の不法所持事犯及び密輸入事犯は、ますます巧妙化、潜在化してきており、その取締りが困難な状態にあることから、早期に有効な対策を講ずる必要がある(注)。
(注) この対策の一つとして、第120回通常国会において「銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律(平成3年法律第52号)」が成立し、けん銃等の密輸入の予備罪等の新設、けん銃の主要な部品の所持、輸入の規制等の措置が講じられることとなった。
〔事例〕 2年5月、国内においてけん銃を密売することを計画し、けん銃の見本を花びんに隠して国際郵便小包により米国から密輸入した暴力団幹部(37)らを検挙、けん銃1丁、実包10個を押収(北海道)
(2) 銃砲の適正管理
 平成2年末における都道府県公安委員会の所持許可を受けた銃砲の数は、52万4,629丁である。このうち猟銃及び空気銃(以下「猟銃等」という。)は48万2,829丁で、全体の92.0%を占めているが、その数は12年連続して減少している。
 2年の猟銃等による事故の発生件数は58件、死傷者数は64人であった。また、猟銃等を使用した犯罪の検挙件数は14件で、このうち許可を受けた猟銃等を使用したものが8件であった。
 銃砲の所持許可は、銃砲を狩猟、標的射撃、産業、試験、研究等の社会的有用性のある用途に供する者に与えられているが、銃砲は人を殺傷する威力を有するものであるので、警察では、許可を受けた銃砲の所持者に対し適正な保管、取扱いについての指導を行うなど銃砲による危害の発生の防止に努めている。しかし、猟銃等の不注意な操作に起因する事故や猟銃等が使用された事件の発生が依然として跡を絶たない状況にある(注)。
(注) 第120回通常国会において成立した「銃砲刀剣類所持等取締法の一部を改正する法律」により、猟銃の操作及び射撃技能の向上等に資するため練習射撃場の指定の制度が設けられたほか、許可を受けた銃砲の所持者に対し、一定の場合に都道府県公安委員会が危害予防上必要な措置を執るべきことを指示することができるようになるなど、銃砲による危害の発生を防止するための措置が講じられた。

4 危険物対策の推進

(1) 火薬類対策の推進
 平成2年の猟銃用火薬類等(専ら猟銃、けん銃等に使用される実包、銃用雷管、無煙火薬等)の譲渡、譲受け等の許可件数は、9万6,963件であった。
 また、2年の火薬類の盗難事件の発生件数は26件、実包を除く火薬類(ダイナマイト、火薬等)を使用した犯罪の発生件数は35件であった。
 警察では、火薬類取締法に基づき、火薬類の製造所、販売所、火薬庫、消費場所等に対して積極的な立入検査を実施し、火薬類の保管方法等についての指導、取締りを行っている。
(2) 高圧ガス、消防危険物等による事故の防止
 平成2年には、事業所や一般家庭において、高圧ガス、消防危険物等による事故が658件発生し、死傷者は662人に上った。
 警察では、高圧ガス、石油類等による事故を防止するため、関係機関との連携の下に取締りを行っているが、2年には、高圧ガス取締法、消防法等危険物関係法令違反により、419件、447人を検挙した。特に、11月には、輸送中の危険物の安全を確保するため、危険物運搬車両の全国一斉の集中指導取締りを行い、悪質な違反119件、96人を検挙した。
(3) 放射性物質の安全対策の推進
 平成2年に都道府県公安委員会が受理した放射性物質の運搬届出件数は、核燃料物質等に係るものが1,158件、放射性同位元素等に係るものが347件であった。
 核燃料物質等を運搬するためには、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律により、都道府県公安委員会から運搬証明書の交付を受け、運搬中はこれを携帯し、かつ、これに記載された内容に従って運搬しなければならないこととなっている。
 警察では、核燃料物質等の使用者等に対し事前指導を行うなど、核燃料物質等の運搬の安全確保に努めている。

5 消費者被害防止対策の推進

(1) 悪質商法の現況と取締り
 高齢化社会への急速な移行、個人貯蓄の増大等の社会経済情勢を背景に、資産形成に対する関心に付け込み、先物取引、証券取引等の投機的な取引に一般消費者を誘い込んで金銭をだまし取る事犯、健康や美容に対する関心に付け込み、粗悪な商品等を訪問販売等の方法により高額で売り付ける無店舗販売事犯等の悪質商法事犯は、平成2年も跡を絶たなかった。
 2年に検挙した事例をみると、被害者層が従来の老人、主婦から会社員、教職員、金融機関の職員等の給与生活者に拡大する一方、犯行の手口も通常の経済取引を仮装したものが増加するなど一層巧妙化、複雑化しており、全般として被害の潜在化が顕著であった。
ア 先物取引をめぐる悪質商法
 2年の検挙状況をみると、事件数は7事件、人員は42人であり、被害者は約3,200人、被害額は約91億6,000万円に上った。
 検挙した事例では、会社名の変更、関連会社の設立を繰り返したり、自社従業員に対する保秘工作を徹底したりして被害の発覚の防止策を講じるなど、その手口が悪質、巧妙なものが目立った。
〔事例1〕 海外先物取引業者(43)らは、「証券・債券貯蓄」、「元本保証」、「短期間での利益確実」等の触れ込みで主に主婦を先物取引に誘い込み、ことさらに追加証拠金を要求したり、頻繁に無断売買を繰り返してその手数料を請求したりするなどして、17都県の被害者約900人から総額約23億8,700万円をだまし取っていた。2年1月10日、詐欺で8人を逮捕(茨城)
〔事例2〕 海外先物取引業者(40)らは、「ロンドン取引所の会員である会社につないでいるので絶対安心」、「ココア1単位の取引で1箇月10万円から13万円はもうかる」などと有利な利殖であることなどを強調して顧客を先物取引に引き込み、実際には、顧客の注文に対して自己の注文を対抗させたり、海外の取次業者と共謀して顧客の注文の取次ぎを仮装するなどして委託保証金を取り込み、13都府県の被害者約340人から総額約7億2,500万円をだまし取っていた。2年10月9日、詐欺で5人を逮捕(京都)
イ 証券取引をめぐる悪質商法
 2年の検挙状況をみると、事件数は8事件、人員は37人であり、被害者は約1,400人、被害額は約40億3,000万円に上った。
 検挙した事例では、投資顧問業、証券金融業を装った悪質業者が、顧客に投資資金を融資すると言ってその保証金名目に金銭等をだまし取ったり、実際は所有していない株式を時価より安く売却すると偽って金銭をだまし取ったりするものが多く、その手口も正規の取引を装うため、虚偽の売買報告書を送付するなど巧妙なものが目立った。
〔事例〕 無登録の投資顧問会社の社長(44)らは、「保証金か手持ちの株券を出せば当社でその5倍を融資し、良い銘柄の株券を買ってやる。元本は保証する」などと言って、同社が投資顧問契約をしていた20都府県の顧客約890人から総額約11億4,000万円をだまし取っていた。2年1月27日、詐欺で2人を逮捕(神奈川)
ウ 無店舗販売事犯
 2年の検挙状況をみると、事件数は120事件、人員は378人であり、被害者は約14万5,000人、被害額は約84億5,000万円に上った。
 検挙した事犯において販売等されていた商品等の種類別内訳は、

表5-11 無店舗販売事犯の商品等の種類別内訳(平成2年)

5-11のとおりで、健康等に対する国民の関心の高まりを背景として、健康食品、寝具類、健康機器の販売に関する事犯が目立った。
〔事例1〕 装身具販売会社社長(40)らは、新聞の折り込み広告で「パールアクセサリー自宅製作員大募集、月収5~20万円以上」等と宣伝して主婦等を勧誘し、応募した者に対して、「パールアクセサリー技術養成講座を修了すれば自宅製作員として活躍できる。講座受講料は3万9,800円」等と印刷したパンフレットを郵送して、43都道府県の被害者約7,200人から総額約2億6,000万円をだまし取っていた。2年7月17日、詐欺で4人を逮捕(三重)
〔事例2〕 パソコン通信の会員に偽名で入会した会社員(36)は、パソコン通信を通じて「海外旅行の資金にするため、使っていたパソコン一式を20~25万円で売りたい」と虚偽の勧誘を行い、被害者17人から約437万円をだまし取っていたほか、パソコン専門誌に虚偽の安売りの広告を掲載し、被害者40人から約660万円をだまし取っていた。2年5月14日、詐欺で逮捕(茨城)
〔事例3〕 電話機販売業者(21)らは、NTTの社員を装って一般家庭を訪問し、「NTTから来た。これからはダイヤル式電話機は使えなくなる。今、契約すれば工事料は無料である」などと不実のことを告げて電話機を販売していた。2年11月8日までに、訪問販売等に関する法律違反で逮捕4人を含む1法人13人を検挙(長野)
エ 原野商法
 2年の検挙状況をみると、事件数は1事件、人員は11人であり、被害者は約3,200人、被害額は約14億7,000万円に上った。
〔事例〕 無免許の不動産業者(49)らは、原野商法によって二束三文の土地を購入しその処分に困っている被害者を対象に「高額で転売してやる。それには、転売物件として当社に登録するのが条件であり、登録料としては1物件につき60万円必要だ」などと言って、被害者約3,200人から総額約14億7,000万円をだまし取っていた。2年5月29日までに、詐欺で逮捕3人を含む11人を検挙(警視庁)
オ 新しい手口の悪質商法
 2年には、地域情報提供事業への経営参加のための出資金名目で組織的に金銭をだまし取るという新たな手口の預り金事犯のほか、債券、株投資、海外先物取引など利殖運用を勧誘の口実とした預り金事犯が目立った。
〔事例1〕 会社経営者(49)らは、「預託金を預けてもらえば、その金を米国の商品市場で運用して、毎月一定の利息を支払う。元金も保証する」などと利殖を強調して客を勧誘し、約2,400人の顧客から総額約159億円の預り金をしていた。2年10月20日までに、出資法違反で4人を逮捕(神奈川)
〔事例2〕 会社経営者(52)らは、「地域情報提供事業のほか汎(はん)用プリペイドカード発行等の事業も行うが、いずれも収益性が高いので、この事業の経営に参加すれば確実にもうかる」などと言って客を勧誘し、共同事業の出資金名目で被害者約600人から総額約11億3,000万円をだまし取っていた。2年9月26日までに、詐欺で6人を逮捕(佐賀)
(2) 消費者被害防止のための諸施策の推進
ア 消費者啓発活動
 各都道府県警察の「悪質商法110番」等の消費者相談窓口に寄せられた悪質商法に関する苦情、相談は、平成2年も多数に上った。
 警察では、悪質商法による被害の未然防止、拡大防止を図るため、防犯協会、消費者行政担当機関等との連携の下、消費者に対する広報啓発活動を積極的に推進した。全国の警察が消費者に配布したパンフレット、チラシ等の広報啓発資料は、約420万部に達した。
 また、警察では、消費者相談に寄せられた苦情、相談を通じて得られた情報を基に重点的な取締りを実施し、多数の事件を検挙した。
〔事例〕 警察署に寄せられた「し尿を垂れ流す浄化槽を設置している家庭がある」という苦情を端緒に捜査した結果、簡易水洗便所の付帯設備の製造販売業者(53)らが、し尿浄化の機能を全く有しない粗悪な浄化槽を無公害バイオ浄化装置と称して売り付け、30府県の消費者約1,000人から総額約5億円をだまし取っていたことが判明した。2年6月26日までに、詐欺で6人を逮捕(京都)
イ 関係機関、団体等との連携強化
 警察では、消費者被害の未然防止、拡大防止のため、各地方自治体の消費者行政担当課、消費生活センター等と悪質商法に係る連絡会議、研修会等を開催するなどして、これらの関係機関、団体との連携強化を図った。
 警察では、これらの関係機関、団体との連携を通じて得られた情報を基に積極的な取締りを実施し、多数の事件を検挙した。

6 知的所有権保護対策の推進

(1) 知的所有権侵害事犯の取締り
 警察では、知的所有権保護の必要性が国際的に一段と高まっていることにかんがみ、知的所有権侵害事犯を取締り重点に掲げるとともに、国内における不正商品の流通情報を総合的に収集している不正商品対策協議会(権利者団体9団体で構成する民間団体)等の関係団体との連携を図り、悪質業者の早期検挙に努めている。
 平成2年の知的所有権関係法令違反の検挙状況をみると、件数は1,178件、人員は624人であり、最近5年間の法令別検挙状況は、表5-12のとおりである。

表5-12 知的所有権関係法令違反の法令別検挙状況(昭和61~平成2年)

ア 海賊版事犯
 2年の海賊版事犯としては、国内未公開の映画のビデオを個人輸入して、その海賊版を製造し、販売等していたもの、海賊版ビデオを宅配方式でレンタルしていたもの、コンピュータソフトの海賊版を通信販売していたものなどがあり、事犯の国際化、潜在化の傾向がみられた。
〔事例〕 東京、青森の米軍基地近くでビデオレンタルショップを経営する米国人(40)らは、国内未公開映画のビデオを航空便で輸入して海賊版を製造し、通常料金の半額でレンタルをしていた。海賊版ビデオ約2万2,000本、複製機38台を押収するとともに、2年5月28日までに、著作権法違反で2人を逮捕(青森)
イ 偽ブランド商品事犯
 2年は、民芸品等の模造品、ティーシャツやバッジ等に人気アニメのキャラクターをプリントした偽商品を製造販売していた事犯のほか、有名ブランドの鞄・袋物、腕時計等の偽商品を海外から携帯輸入して国内に持ち込み、販売していた事犯が多くみられた。
〔事例1〕 山梨県の地場産業である宝飾品の製造業者(40)らは、若い女性に人気のある有名ブランドの商標を盗用したリング、ブローチ、ペンダント等の装飾品約14万個を製造し、全国に販売して約45億円の売上げを得ていた。11都府県の135箇所を捜索し、偽商品等約2,000点を押収するとともに、2年3月3日までに、商標法違反で逮捕14人を含む77法人128人を検挙(愛知)
〔事例2〕 玩(がん)具販売業者(56)らは、人気アニメのキャラクターの絵柄を著作権者に無断で使用したティーシャツ、バッジ、湯飲み等の商品を大量に製造販売していた。13都道府県の59箇所を捜索し、これらの模造商品約14万点を押収するとともに、2年12月31日までに、著作権法違反で逮捕5人を含む6法人19人を検挙(鳥取)
(2) 知的所有権保護のための広報啓発活動
 警察では、検挙した事件の適時適切な広報によるほか、テレビの政府広報番組で我が国における知的所有権侵害の実態、知的所有権保護の重要性を訴えた。また、不正商品対策協議会と協力して「不正商品防止フェア」を福岡市(5月)、名古屋市(10月)で実施するなど、地域に密着した広報啓発活動を展開した。さらに、京都府で開催された第2回生涯学習フェスティバル「まなびピア90’in京都」に参加するなど幅広い広報啓発活動を行った。

7 その他の経済事犯の取締り

(1) 不動産取引をめぐる事犯
 平成2年の検挙状況をみると、件数は347件、人員は372人であり、法令別では、建築基準法違反、宅地建物取引業法違反、農地法違反、国土 利用計画法違反の順であった。
 検挙した事例では、建築確認を受けた後に建ぺい率等を無視した物件を建築し、行政機関が行う工事中止命令等の指導にも従わない事犯、価格抑制や土地利用目的に関する勧告等行政機関の指導を免れるため届出を怠ったり、虚偽の届出を行う事犯が目立った。
〔事例〕 不動産ブローカー(51)らは、2,000平方メートル以上の土地の売買等については県知事への届出が義務付けられているにもかかわらずこれを怠り、熱海市内の畑、山林等約1万8,000平方メートルを地権者から購入して他へ売却していた。2年6月11日までに、国土利用計画法違反で逮捕2人を含む3人を検挙(静岡)
(2) 国際経済事犯の取締り
 平成2年の外国為替及び外国貿易管理法(以下「外為法」という。)違反の検挙状況をみると、件数は74件、人員は21人、関税法違反の検挙状況をみると、件数は107件、人員は23人であった。
 検挙した事例では、差額関税制度を悪用して台湾から豚肉を大量に密輸入した事件、まぐろの輸入代金を不正に決済していた事件のほか、2年1月以降全面輸入禁止となった象牙(げ)印材を密輸入した事件をはじめ、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(通称ワシントン条約)により輸出入が規制されている希少動物を密輸入する事犯等が目立った。最近5年間の国際経済事犯の法令別検挙状況は、 表5-

表5-13 国際経済事犯の法令別検挙状況(昭和61~平成2年)

13のとおりである。
〔事例〕 2年1月以降象牙(げ)の輸入が全面的に禁止されたことに目を付けた香港、台湾の象牙(げ)ブローカー(57)らは、日本の印材業者らと共謀し、1月ごろから2月ごろまでの間に、約3万2,000本(末端小売価格約8億円)に上る大量の象牙(げ)印材を密輸入していた。3月13日までに、関税法違反で逮捕7人を含む11人を検挙(兵庫)

8 公害事犯の取締り

 警察では、国民の健康を保護するとともに生活環境の保全を図るため、悪質な産業廃棄物の不法処分事犯や水質汚濁事犯に重点を置いた取締りを行っている。最近5年間における公害事犯の法令別検挙状況は、表5-14のとおりである。

表5-14 公害事犯の法令別検挙状況(昭和61~平成2年)

(1) 廃棄物事犯
 平成2年の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)違反の検挙件数は、1,872件であり、これを態様別にみると、廃棄物をみだりに捨てる不法投棄事犯が依然として多く、全体の66.2%を占めている。検挙した事例では、建築工事等に伴って生じた大量の廃材を隣接する県まで運んで不法処分していた事犯が増加した。
 また、検挙した産業廃棄物事犯に係る不法処分された産業廃棄物の総量は、約189万9,000トンに上るものと推定され、その種類別、場所別状況は、図5-5のとおりである。

図5-5 不法処分された産業廃棄物の種類別、場所別状況(平成2年)

〔事例〕 静岡県警察では、富士山麓(ろく)及び周辺における産業廃棄物不法処分事犯の集中取締りを実施し、産業廃棄物の収集運搬業者(51)が、廃プラスチック類等約4,500トンの処分を無許可処理業者に委託していた事件等で、2年12月28日までに、逮捕19人を含む11法人32人を検挙した。また、一連の事件検挙を契機として、警察、地方公共団体、業界の三者による「産業廃棄物不法投棄事犯防止対策会議」等を開催し、関係者の連携による産業廃棄物の不法処分事犯の一掃を図った。
(2) 水質汚濁事犯
 平成2年の水質汚濁事犯の検挙件数は、52件であった。このうち、工場等が水質汚濁防止法等に基づいて定められている基準に違反して汚水 を排出等する事犯の検挙件数は、32件であった。
〔事例〕 大手クリーニング会社の工場長(42)らは、既存の施設では処理が困難であるにもかかわらず、何ら必要な措置を採らず、基準の18倍から190倍を超えるテトラクロロエチレンを含有する汚水を公共用水域に垂れ流していた。2年5月15日、テトラクロロエチレンについて全国で初めて水質汚濁防止法を適用して1法人3人を検挙(千葉)


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