第3章 地域住民とともにある警察活動

 警察では、派出所、駐在所等の外勤警察官による地域に根ざした活動、地域住民の期待にこたえた各種の防犯活動や相談業務を積極的に推進するなど、幅広い活動を展開しており、住みよい地域社会形成の一翼を担っている。
 事件、事故等が発生した場合には、110番通報制度や通信指令室の機能を活用して、迅速、的確な対応を行っているほか、水上警察や鉄道警察等の活動を通じて、あらゆる地域における人命の救助や犯人の検挙等の活動を行っている。
 さらに、安全な地域社会を形成し、維持するため、オートバイ盗、自転車盗等の住民にとって身近な犯罪に重点を置いた防犯活動を推進するとともに、地域住民による自主防犯活動の促進、警備業等の「安全産業」の健全育成、各種の民間企業、団体との連携による防犯活動の推進等を図っている。また、急速に進む高齢化社会に対しては、高齢者の保護と社会参加を中心とした長寿社会対策を推進している。

1 地域に根ざした警察活動

(1) 地域に密着した外勤警察活動
 外勤警察官は、地域住民の日常生活の安全と平穏を守るため、地域を活動の場として、直接市民と接しながら、昼夜を分かたぬ警戒体制を保持し、街頭におけるパトロールや各家庭、事業所等への巡回連絡等を通じて、犯罪の予防、検挙、交通の指導取締り、少年の歩道のほか、迷い 子や酔っ払いの保護、困りごと相談等の幅広い活動を行っている。
ア 地域を守る派出所、駐在所
 派出所、駐在所(以下「派出所等」という。)は、外勤警察の活動の拠点であるとともに、警察の総合出先機関としての役割を果たしており、全国に約1万5,000箇所設置されている。派出所は、主として都市部に置かれ、外勤警察官が交替制により常時警戒に当たっており、また、駐在所には、原則として一人の外勤警察官が家族とともに居住して、地域の安全を守っている。
 派出所等において常に住民と接する活動を行う外勤警察官には、住民から様々な困りごと、要望等が寄せられている。警察では、これらを警察活動に反映させるとともに、地域に溶け込む活動を推進し、住民にとって不安感が強い犯罪、交通事故に直結するおそれのある危険、悪質な違反等に重点を置いて、検挙、取締り等の活動に当たっている。
 このように派出所等は、住民にとって最も身近な警察機関としての役割を果たしており、そのシンボルである「赤い門灯」は、地域住民や行き交う人々の安心感のよりどころとなっている。
 また、このような派出所等を中心とした警察活動に対しては、諸外国から大きな関心が寄せられており、警察庁では、アジア地域の外勤警察幹部を対象とした「アジア地域外勤警察セミナー」を開催し、派出所等の制度を体系的に紹介するなど、外勤警察活動の国際的な理解に努めている。
イ 地域住民に安心感を与える活動
 外勤警察官は、派出所等の所内における立番、見張り、在所、派出所等の所外における警ら(パトロール)、巡回連絡等、昼夜を分かたぬあらゆる活動を通じ、地域住民に安心感を与える効果的な警戒活動を推進している。
(ア) 身近な相談の機会、巡回連絡
 巡回連絡は、派出所等に勤務する外勤警察官が受持ち区域内の家庭、事業所等を訪問し、地域住民の良き相談相手となってその要望や意見をくみ取り警察活動に反映させるとともに、警察からも犯罪、事故防止等について必要な連絡を行う活動である。
 平成2年5月に、派出所等の外勤警察官が巡回連絡の際に地域住民から受けた困りごと、要望、意見を事項別にみると、駐車車両、放置自転車対策、暴走族取締りに関するもののほか、パトロールの強化、独居高齢者宅への立ち寄り等の日常生活に係る身近な問題に関するものが多くを占めている。これらの要望、意見等の多くは、派出所等の外勤警察官の指導、助言により解決しており、派出所等の外勤警察官だけでは対応できないものについては、交通、防犯、少年、刑事等の担当係と連携の上で、また、警察だけでは対応できないものについては、他の関係機関との連携等によって解決を図っている。
 警察では、巡回連絡の際には、家族構成や非常の場合の連絡先等を尋

ねており、災害や事故の発生時における緊急連絡や事故防止の指導連絡等に役立てている。また、最近は、共働き等による昼間不在家庭の増加や居住者の移動の激しいアパート、マンションの増加等により、警察から住民へ連絡をすることが次第に困難になってきているため、派出所等の勤務員は、休日や夕方に巡回連絡を実施するなどして、住民とのコミュニケーションの確保を図っている。
(イ) 警ら(パトロール)活動
 派出所等の外勤警察官は、無線機を携帯して常に警察署や警ら用無線自動車(以下「パトカー」という。)と連携を取りながら、不審者に対する職務質問を行うなど、きめ細かなパトロールを行っている。また、全国の警察本部や警察署に配置された約2,600台のパトカー、駐在所等に配置された約1,100台のミニパトカーは、管内のパトロールや警戒活動を行い、住民の日常生活において発生が予想される種々の事案に備えるとともに、事件、事故の発生時には初動措置を迅速に行うなど、「動く交番」として活躍している。
〔事例〕 石川県金沢東警察署A派出所のB巡査長は、管内で事務所荒らしが連続して発生していることから、犯人の早期検挙を目指し、早朝深夜のパトロール活動を強化した。2年7月19日午前2時ごろ、B巡査長は、管内の事務所街に路上駐車された貨物自動車の下に潜む不審な男を発見したが、男が、やにわに逃走したので、これを追い掛け、職務質問をしたところ、合鍵約100個、ドライバー等を所持しているのを発見し、更に追及したところ、2時間前の事務所荒らしを自供したので、緊急逮捕した。
 逮捕後の取調べにより、この男(26)は、全国を股(また)にかけた事務所荒らしの常習者であることが判明し、未解決事件が一挙に解決した。
(ウ) 住民の要望にこたえる活動
 警察に対する要望、意見等をみると、「常時交番にいてほしい」、「パトロールを強化してほしい」といったように、所内外を問わず常時警察官の姿が見えることを望む声が高い。これらの住民の要望にこたえるため、派出所等の勤務員ができるだけ不在とならないような人員配置や勤務の時間割の見直しを行い、隣接派出所、パトカー等との連携活動を強化しているほか、不在派出所電話転送装置(パトロール等で派出所等の警察官が不在となる場合に、派出所等から警察署への通報ができる電話装置)の設置の促進を図っている。
ウ 地域住民とふれあい、地域に溶け込む活動
(ア) 地域に密着した「派出所、駐在所連絡協議会」
 警察では、派出所等を単位として、居住者の移動の激しいアパート、マンション等がある地域や事件、事故等が多発している歓楽街等を中心に、「派出所、駐在所連絡協議会」の設置を進めている。この協議会は、受持ち区域内の自治会役員やアパート、マンションの管理人、商店街の役員等の地域の代表者から構成され、派出所等の勤務員が地域の問題や警察に対する要望、意見等を聴き、また、警察からも防犯、交通安全等に関する必要な助言、指導を行い、地域ぐるみで犯罪や事故のないまちづくりを進めていこうとするものである。2年末現在、協議会は全国で5,392箇所設置されている。
〔事例〕 埼玉県行田警察署A派出所では、管内で放火事件が連続発生し、住民の不安が高まっていたことから、A派出所連絡協議会において、地域住民と派出所員が一体となった合同パトロールの実施を決定し、夜間を中心に、長期にわたり警戒活動を実施することとした。その間、放火事件に対する地域住民の関心も高まり、住民からの情報が次々と寄せられた。
 警戒を開始して2箇月がたったころ、不審な人物がふらついているという情報を得たA派出所では、付近の集中的捜索を実施し、民家の庭先に潜む男(40)を発見して、職務質問をしたところ、一連の放火事件を自供したので、緊急逮捕した。これにより、住民の長期間にわたる不安は一挙に解決された。
 また、警察では、協議会が設置されていない派出所等も含めて、その所管区ごとに、地域の抱える問題の中から重要なものを一つづつ順に取り上げ、地域の住民とともに解決を図っていく「一所管区一事案解決運動」を推進している。
(イ) 独居高齢者等に対する保護活動
 2年末現在、外勤警察官が巡回連絡等を通じて把握している65歳以上の独居高齢者は、約89万人で、このうち、事件、事故等の被害者になりやすいなどの理由で、外勤警察官がパトロール等の機会を利用して努めて立ち寄ることとしている要保護独居高齢者は、約15万人となっている。また、夫婦又は兄弟姉妹だけで暮らしており、近所に近親者が住んでいないなど、犯罪や事故等の被害に遭いやすいと考えられる65歳以上の二人暮らしの世帯は、約6万世帯となっている。
 警察では、これらの高齢者が安心して暮らしていくためのささえとして、巡回連絡等の際に高齢者世帯を計画的に訪問し、必要に応じて、防犯指導、困りごと相談、緊急時における連絡方法の教示、関係機関や親族への連絡等の活動や保護活動を推進しているほか、高齢者が困りごと等について気軽に相談できるように、担当者の氏名を知らせるなど、親しみの持てる応接に努めている(なお、長寿社会総合対策については、3(6)参照)。
〔事例〕 宮城県小牛田(こごた)警察署A駐在所のB巡査長は、日ごろから管内の病弱な独居高齢者世帯に対し、巡回連絡、警ら等の都度、立ち寄 り、声を掛け元気づけていたが、某日、84歳の独居老婦人宅を訪問したところ、いつもの返事がなかったので不審に思い、隣家の者と一緒に屋内に入ったところ、台所で倒れている同女を発見し、一命をとりとめることができた。
(ウ) 青少年健全育成のためのスポーツ指導等
 外勤警察官は、少年の非行を防止し、その健全な育成に役立てるため、地域の青少年に対して、余暇を利用して、柔剣道をはじめとする各種スポーツや書道、絵画等の文化活動を通じた青少年の指導活動を行っている。
(エ) 地域の身近な話題を伝える「交番新聞」
 全国の派出所等の97.0%に当たる約1万4,500所で、それぞれ独自にミニ広報紙を発行している。これらの広報紙は、外勤警察官の手作りによるもので、管内の事件、事故等の発生状況とその防止策、住民の声等身近な話題を伝える「交番新聞」として広く地域住民に親しまれ、地域住民とのふれあいを深める上で大きな役割を果たしている。また、警察庁

では、広報紙の内容及び作成技術の向上を図ることなどを目的として、毎年、ミニ広報紙コンクールを実施している。
(2) 様々な保護活動
 警察では、個人の生命、身体を守るため、応急の救護を要する者等について次のような保護活動を行っている。
ア 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護
 最近5年間に酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等を保護した状況は、表3-1のとおりである。

表3-1 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護の状況(昭和61~平成2年)

 平成2年の被保護者に対する措置の状況をみると、家族、知人等に引き渡した者が67.3%と最も多く、保護の必要がなくなって保護を解除した者が25.7%、医療機関、福祉施設等の関係機関に引き継いだ者が7.0%となっている。また、保護した精神錯乱者のうち、精神障害のために自身を傷つけ、又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めて知事に通報したものは3,710人、保護した酔っ払いのうち、アルコールの慢性中毒者又はその疑いのある者であると認めて保健所長へ通報したものは1,248人である。
イ 家出人の発見、保護
(ア) 減少した家出人捜索願の受理件数
 警察では、家出人の生命、身体の安全の確保を図り、家族等の期待にこたえるため、その早期発見、保護に努めている。2年における家出人捜索願の受理件数は、9万508件で、前年に比べ1,692件(1.8%)減少した。最近5年間の家出人捜索願の受理件数の推移は、表3-2のとおりである。

表3-2 家出人捜索願の受理件数の推移(昭和61~平成2年)

 また、犯罪に巻き込まれ、又は自殺するおそれ等がある家出人については、これを特異家出人として受理し、特に迅速な発見、保護に努めているが、2年の件数は、全捜索願受理件数の13.6%を占めている。
(イ) 多い職務質問等による発見
 2年の家出人の発見数(捜索願未受理の家出人を発見した場合を含む。)は、9万2,899人で、前年に比べ1,981人(2.1%)減少した。このうち、特異家出人の発見数は、1万1,576人であった。家出人の発見の端緒別状況は、表3-3のとおりで、自ら帰宅した家出人を除くと、例年同様、警察官の職務質問等によるものが21.0%と最も多い。
 なお、家出人の大部分は、無事に帰宅し、又は発見されているが、家

表3-3 家出人の発見の端緒別状況(平成2年)

出中に犯罪を犯した者が2,311人(2.5%)、自殺した者が1,634人(1.8%)、犯罪の被害者となった者が291人(0.3%)いることが注目される。
(3) 国民の立場に立った相談業務の推進
 警察では、国民の様々な相談に応ずるため、困りごと相談、少年相談、消費者被害相談、覚せい剤相談、民事介入暴力相談、交通相談等各種の相談業務を行っている。警察では、これらの相談に誠実に対応し、必要な助言等を行い、警察のみでは対応できないものについては、他の機関を紹介するなどの措置を講ずるとともに、相談受理体制等の整備、相談者の利便とプライバシーに配意した適切な相談業務の推進に努めている。
ア 総合相談室等
 警察では、従来、相談の種類ごとに窓口を設置し、相談業務の充実を図ってきたが、その反面、窓口が多数になり、相談者にとってわかりにくいという問題が生じてきたため、窓口を一本化した総合相談室を警察本部に設置している。
 また、国民からの電話による各種の相談についても、これまでは、「ヤング・テレホン・コーナー」、「悪質商法110番」、「困りごと110番」等、相談の種類ごとに各種の相談専用電話を設置して、これに応じてきていたが、相談者の利便を図るため、警察本部の総合相談室に全国統一番号の相談専用電話「#(シャープ)9110番」を設置している。この結果、平成2年4月から、プッシュホン電話で「#9110」を押せば、警察本部の総 合相談室に相談ができるようになっている。
イ 困りごと相談
 2年における困りごと相談の受理件数は、18万5,592件で、前年に比べ3,449件(1.8%)減少し、最近5年間では最も少ない数となった。また、2年に受理した困りごと相談の内容は、表3-4のとおりで、防犯問題が最も多く全体の34.9%を占めており、前年最も多かった家庭問題は6,773件(10.9%)減少した。

表3-4 困りごと相談の内容(平成2年)

 2年における困りごと相談の処理状況は、図3-1のとおりである。

図3-1 困りごと相談の処理状況(平成2年)

(4)遺失物の取扱い
 遺失物(拾得物を含む。以下同じ。)は、主として派出所等の外勤警察官が窓口となって取り扱っている。平成2年に取り扱った遺失届は約298万件で、このうち通貨は約550億円、物品は約657万点であり、拾得届は約436万件で、こ のうち通貨は約195億円、物品は約936万点であった。拾得届のあった金品のうち、通貨については72%、物品については27%がそれぞれ遺失者に返還されている。最近5年間における遺失物の取扱状況は、図3-2のとおりである。

図3-2 遺失物の取扱状況(昭和61~平成2年)

(5) 住民と警察を結ぶ音のかけ橋、警察音楽隊
 警察音楽隊は、皇宮警察及び各都道府県警察に48隊が置かれており、隊員は約1,800人である。そのほとんどの隊が、婦人警察官、交通巡視員等の女性隊員によるカラーガード隊を編成している。
 隊員の多くは、警察業務に従事するかたわら、勤務の合間や非番の日を利用して厳しい訓練を重ねながら、警察が主催する防犯運動、交通安全運動等の行事に出演しているほか、小、中学校等における音楽教室や交通安全教室での演奏、福祉施設やへき地での慰問演奏、昼休み時間を利用したコンサート等活発な演奏活動を行い、国民と警察を結ぶ音のかけ橋としての役割を果たしている。平成2年には、全国各地で約4,800回の演奏活動を実施し、聴衆の数は延べ2,000万人に達した。
 また、2年10月には、宮崎市において第35回全国警察音楽隊演奏会が行われ、全国から31隊、約1,400人が参加して、市内パレードや合同演奏、フロアードリルを行い、地元住民との交流を深めた。

2 事件、事故等に即応する警察活動

(1) 初動警察活動
 事件、事故等が発生した場合に、国民からの通報を迅速に受け付け、それに対して的確に対応するために、警察では、「110番」及び「通信指令室」を設けて効果的な初動警察活動を行っている。
ア 110番
 平成2年に全国の警察で受理した110番の件数は、約448万件で、前年に比べ約18万件(4.2%)増加した。これは、7.0秒に1回、国民28人に1人の割合で利用されたことになる。過去10年間の110番受理件数の推移は、表3-5のとおりである。

表3-5 110番受理件数の推移(昭和56~平成2年)

 また、警察では、毎年1月10日を「110番の日」と定め、国民に対して、110番の一層有効かつ積極的な利用を呼び掛けている。
イ 通信指令室
 国民からの110番通報を迅速かつ集中的に処理するため、警察では、都道府県警察本部ごとに通信指令室を設けている。2年4月1日現在、全国の警察署の84.1%に当たる1,049警察署の管轄区域内で110番通報すると、自動的に警察本部の通信指令室につながるようなシステムになっている(110番集中地域)。110番集中地域以外では、110番通報すると所轄の警察署につながるようになっている。

 通信指令室では、110番通報を受理すると、直ちにパトカーや派出所等の警察官を現場に急行させるとともに、必要に応じて緊急配備の発令、他の都道府県警察本部への通報等を行い、警察官を迅速かつ組織的に動員することにより、人命の救助、犯人の早期検挙等に努めている。
ウ リスポンス・タイム
 通信指令室又は所轄の警察署が110番通報を受理してから、警察官が目的地に到着するまでの所要時間をリスポンス・タイムというが、2年の110番集中地域におけるリスポンス・タイムの平均は、5分42秒であった。刑法犯事件に関するリスポンス・タイムと現場における犯人検挙との関係をみると、表3-6のとおりで、リスポンス・タイムが短ければ短いほど、現場で犯人を検挙する確率が高くなっている。

表3-6 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと現場における検挙の状況(平成2年)

 また、近年、自動車台数が急激に増加し、交通渋滞が激しくなっていることから、パトカー等の車両に係るリスポンス・タイムの短縮は、年々困難になってきている。警察では、通信指令室に地図自動現示装置等の最新機器を導入するとともに、パトカーの分散配置、派出所等の警察官への指令の強化等を図ることにより、その短縮に努めている。
 なお、リスポンス・タイムの短縮を図るため、緊急通報機能付防犯電話システムの運用が埼玉県において試みられている。
(2) 水上警察活動
 近年においては、海上からの覚せい剤、大麻等の密輸事犯が目立つほか、レジャー人口の増加とレジャースポーツの多様化が、水上(海上及び内水面をいう。以下同じ。)にも広がり、水上オートバイ、モーターボート、スキューバダイビング等に伴う事故が増加している(第8章3(1)、(3)参照)。
 警察では、水上における警察事象に的確に対処するため、全国の水上警察署、臨港警察署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する132警察署に警察用船舶203隻を配備し、パトカー及び警察用航空機と連携して、パトロール等による警戒、警備活動、各種事件、事故等の検挙、取締り等に当たるとともに、訪船等による安全指導を積極的に行っている。
 最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移は、表3-7のとおりである。

表3-7 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移(昭和61~平成2年)

 東京湾、大阪湾等においては、東京湾横断道路、関西国際空港等大規模なプロジェクトが計画又は実施されているが、これらのプロジェクトについては、海上交通関係法令の遵守等について関係者に周知、指導を行うとともに、警察用船舶による警戒活動を実施して、水上交通の安全に努めている。また、各都道府県における「水上安全条例」の制定と見直しを促すなど、海、河川、湖沼等における水上交通の安全確保に努めている。
 また、水上における広域事案に的確に対処するため、平成2年には、愛媛県及び大分県の海上(豊後水道)で警察用航空機との連携による警察用船舶の広域運用訓練を実施し、警察用船舶の広域運用のための基盤づくりに努めている。
 今後は、水上警察体制を更に充実、強化するため、警察用船舶の大型化、高速化及び装備資機材の高度化、船舶の運用体制の見直し等を行い、水上における警戒力の強化を推進することとしている。

〔事例〕 2年9月5日夕方、長崎県警察では、内偵中の密漁グループが出港したとの情報を得、警察用船舶で警戒に当たっていたところ、6日午前5時ごろ、漁港に接岸しようとしていた密漁船を発見した。
 取締りを察知した密漁船が、時速約100キロメートルの高速で逃走したため、長崎県警察では、警察用航空機を含む陸海空一体の追跡体制を採り、海上で同船を発見し、アワビ等約300キログラムを採取した男(33)ら7人を長崎県漁業調整規則違反で検挙した。
(3) 鉄道警察隊
 鉄道警察隊は、鉄道沿線を管轄する警察署と連携を図りながら、駅構内においては、警ら、立番等を通じて、すり、置き引き等の犯罪の予防及び検挙、少年補導、迷い子、家出人の保護、地理案内等を行っている。
 また、列車内においては、主要鉄道路線の犯罪発生状況の分析結果に基づき、新幹線や在来線の特急、寝台列車等を重点に制服及び私服によ

る警乗を行い、列車内における盗難、迷惑行為等の予防及び検挙、キセル乗車の取締り、少年補導、要保護者の保護等を行うとともに、旅客に対して犯罪や事故防止上必要な指導等に努めている。
 さらに、置き石等による列車妨害、踏切事故等の鉄道事故を未然に防止するため、鉄道沿線の警戒警備や踏切における交通の指導取締りを実施しているほか、沿線住民に対する事故防止の指導及び広報、幼稚園児、小学生等を対象とした交通安全教室の開催等の活動を行っている。
 鉄道施設内の治安を維持していくためには、鉄道事業者との連絡が不可欠であることから、警察では、鉄道事業者と連絡協議会を設置し、定期的に会議を開催するなどして、事件、事故発生時における迅速な通報や採るべき措置について連絡を密にするとともに、列車事故を想定した共同訓練を行うなど、鉄道事業者と一体となった諸対策を講じている。
〔事例〕 平成2年3月以降、JR横浜線の踏切に自転車、工事用脚立等を置いて列車の運行を妨害する事案が夜間連続して発生したため、長期にわたって張り込み捜査を実施していたところ、11月5日夜、不審な男(28)が、近くの路上に置かれてあった自転車を抱え、踏切から線路上に至り、自転車を横倒しにして戻ってくるのを現認したので、電汽車往来危険罪の現行犯で逮捕した(神奈川)。
(4) 警察用航空機の活動
 平成2年末現在、警察用航空機は、全国で45の警察本部に60機配置されており、機動性、高速性、広視界性という利点を最大限に活用し、空からのパトロールを通じて、交通情報の収集、公害事犯、密漁事犯の監視等を行っている。
 また、事件、事故等が発生した場合は、通信指令室からの指令に基づき、速やかに現場に出動して、パトカー等の警察官と連携して、空から事件、事故等の状況把握、犯人の捜索、追跡等の捜査活動、被災者等の 救難救助活動を行うなど、事件、事故に即応した活動を行っている。
 2年中における警察用航空機の警ら活動での出動回数は約8,860回であり、犯罪検挙等に大きな成果を挙げている。また、山岳遭難や水難等の救難救助活動では、約340回出動し、約80人を救助している。
 今後は、パトカー、警察用船舶等との連携強化、警察用航空機の大型化、装備資機材の整備充実等に努め、警察用航空機の効率的な運用の強化を推進することとしている。
〔事例〕 2年8月19日、台風12号の影響で波浪注意報が出ていた日南海岸で、サーフィンをしていた少年(16)のサーフ・ボードが折れ、沖合に流されていくのを付近の漁船が発見したが、波が高かったため、その漁船は少年に近づけなかった。漁船からの通報を受けた宮崎県警察は、直ちにヘリコプターを出動させ、沖合を漂流中の少年を機上よりつり上げ救助した。

3 安全な地域社会を形成するための施策

(1) 身近な犯罪の防止対策
ア 防犯広報、防犯診断、防犯指導
 警察では、テレビ、ラジオ等のマスメディアの利用、映画、ビデオの活用、パンフレット等の配布等により、防犯広報を積極的に実施しているほか、侵入盗等の多発が予想される地域の家庭、事業所等を訪問し、家屋等の窓、出入口等について防犯診断を行い、防犯上必要な改善を促すなどの防犯指導を実施している。
 また、(財)全国防犯協会連合会及び各都道府県防犯協会の協力を得て、最新の防犯機器、システムを搭載した防犯キャラバン車を活用し、効果的な防犯指導を実施するとともに、地域における防犯意識の高揚を図っている。
イ 優良な防犯機器の普及、推奨
 侵入盗等に対する自主防犯体制の整備、充実のためには、優良な防犯機器の普及が重要であるが、近年広く利用されている防犯警報機やホーム・セキュリティ・システムは、誤報が多いなどの問題点もある。
 警察では、防犯機器の性能の向上と普及に資するため、優良な機器の研究、開発を関係業界等に働き掛けているほか、(社)日本防犯設備協会等と連携して、その性能に関する自主基準づくりや、防犯機器の設置及び整備を行う者に関する資格制度の創設を促進している。
 また、(財)全国防犯協会連合会では、優良な防犯機器の普及を図るため、優良住宅用開き扉錠の型式認定制度を実施し、優良な住宅用開き扉錠を広く一般に推奨している。
ウ 侵入盗の防止対策
 警察では、住民に強い不安感を与える侵入盗の発生を防止するため、侵入盗の発生が多い地域を中心に、昭和52年から「盗犯防止重点地区」を指定しており、平成2年は、全国で406地区(警察庁指定85地区、都道府県警察指定321地区)を指定した。これらの地区においては、地区住民の代表、民間防犯団体の役員、警察署の幹部等で構成される推進協議会が設置され、地域住民と警察とが一体となった盗犯防止のための活動が進められている。
エ 自動車盗の防止対策
 近年、盗難自動車が、極左暴力集団のテロ、ゲリラ事件、金融機関対象強盗事件等の凶悪な事件に使用される傾向にあることから、警察では、その防止対策として、自動車のユーザーに対する「キー抜取り、ドアロック」の励行等についての広報啓発活動、自動車関係業界、駐車場管理者等に対する防犯指導等を推進している。また、警察庁に「自動車盗難防止対策委員会」を設置し、(社)日本防犯設備協会と協力して新しいキーシステムの開発、普及等の自動車盗難防止対策について検討を行っている。
オ オートバイ盗、自転車盗の防止対策
 近年、刑法犯認知件数が増加傾向にあるが、オートバイ盗、自転車盗の増加がその大きな要因となっている。これらの犯罪は、初発型非行として、少年によって単純な動機で安易に行われることも多いため、警察では、その防止対策を重視し、自転車防犯登録の実施の促進、駐輪場の整備拡大に関する関係機関への働き掛け等の諸対策を推進するとともに、(社)日本自動車工業会に対して、オートバイの盗難防止装置の機能強化等の要請を行っている。
 なお、自転車防犯登録については、2年末現在、全保有台数の約7割 に当たる約4,339万台が登録されている。
(2) 地域、職域における防犯活動
ア 安全なまちづくり
 警察では、(財)都市防犯研究センター等の研究機関と協力して、犯罪が行われにくいまちづくりのため、近隣意識が希薄であると言われている高層集合住宅における防犯対策に関する調査研究等の活動を進めており、その成果を基に、地域開発等の場において防犯的視点からの提言を行っている。
イ 防犯協会、防犯連絡所の活動
 防犯協会(注)は、地域における防犯活動の担い手であり、警察と協力して、地域における犯罪の予防、社会環境の浄化等犯罪のない安全なまちづくりのための活動を行っている。特に、最近は、少年非行、覚せい剤等の薬物の乱用が全国的な広がりをみせていることから、少年の非行防止と健全育成を目的とした活動、覚せい剤等の薬物の乱用の防止を目的とした活動を積極的に展開している。
(注) 防犯協会とは、全国におおむね警察署単位で組織されている地区防犯協会、都道府県単位で組織されている都道府県防犯協会、全国的な組織である(財)全国防犯協会連合会等を総称するものである。
 また、防犯連絡所は、地域における民間の自主防犯活動の拠点として、平成2年末現在、全国で76万8,132箇所(54世帯に1箇所)設置されており、事件、事故の通報、防犯座談会の開催等の活動を行っているほか、警察や防犯協会が作成した資料を住民に配布するなど、警察と住民とのパイプ役を果たしている。
 警察では、地域における防犯活動の活性化を促進するとともに、警察の行う防犯対策と地域における防犯活動との有機的な連携を図るため、防犯協会及び防犯連絡所の体制の強化、犯罪情勢に応じた効果的な活動 についての助言、指導等を行っている。
ウ 職域防犯団体の活動
 警察では、犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪の場となり、又は犯罪のため利用されやすい業種、防犯活動や捜査活動に対して組織的な協力を行うことのできる業種等について、それぞれ職域防犯団体の結成を呼び掛け、これらの組織による自主防犯活動の活性化を図っている。2年末における職域防犯団体の結成状況は、表3-8のとおりである。

表3-8 職域防犯団体の結成状況(平成2年12月)

 警察では、これらの団体に対し、研究会の開催、資料の配布等を通じて、業種に応じた防犯対策等についての助言や協力を行い、その活動の促進を図っている。
エ 金融機関等における防犯対策
 2年における金融機関対象強盗事件の発生件数は、93件であり、前年に比べ14件(17.7%)増加した。このような事件は、模倣性が強く、続発するおそれがあるだけでなく、社会的影響も大きいことから、警察では、金融機関との連絡会議を開催するほか、金融機関の営業所に対する防犯診断や防犯パトロール等の際に「金融機関の防犯基準」に基づき防犯指導を行っている。また、(財)日本防災通信協会等と協力して、管理体制、防犯設備の充実を促進している。  金融機関の防犯設備の設置状況は、表3-9のとおりであり、逐年設置率が高くなっている。しかしながら、金融機関によっては、依然として設置率が低いところもあり、警察では、更に防犯設備の設置の促進を図っていくこととしている。

表3-9 金融機関の防犯設備の設置状況(平成2年10月)

 また、最近、金融機関等に設置されている現金自動支払機等内の現金をねらった盗難事件が多発していることから、警察では、これらの施設に対するパトロールを強化するとともに、現金自動支払機等の設置者、管理者、製造会社のほか、警備業者等を交えた関係団体との連絡会議を積極的に開催し、事件の未然防止に努めている。
 なお、現金自動支払機等を対象とした盗難事件では、容易に機械が破壊されていることから、今後は破壊されにくい現金自動支払機等の開発、普及を図っていく必要がある。
オ 全国防犯運動の実施
 2年の全国防犯運動は、盗難自動車が他の犯罪に利用されることが多いこと、身近な犯罪として国民に強い不安感を与えている侵入盗が依然として多発していることなどにかんがみ、自動車盗、侵入盗の防止を全国統一重点として、10月11日から20日までの10日間実施された。この運 動期間中、全国各地で防犯キャラバン、防犯展の開催等の防犯活動が積極的に展開され、地域、職域における防犯意識の高揚に大きな役割を果たした。
(3) 警備業の健全育成
ア 安全へ貢献する警備業
 警備業は、その業務が、原子力発電所、空港等から一般家庭に至る様々な施設における施設警備、工事現場等における交通誘導警備、祭礼等における雑踏警備、現金、核燃料物質等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及んでおり、国民の自主防犯防災活動をささえる「安全産業」として、社会の安全に大きく貢献している。特に、最近は、一般家庭や事務所等に侵入検知機等のセンサーを設置して、基地局において犯罪や事故の発生を警戒し、防止する機械警備業が、急速な発展を遂げており、犯罪の防止等に重要な役割を果たしている。
 平成2年末現在、警備業者数は5,633業者、警備員数は24万6,970人で、前年に比べ、385業者、1万4,353人それぞれ増加した。最近5年間の警備業者数、警備員数の推移は、表3-10のとおりである。

表3-10 警備業者数、警備員数の推移(昭和61~平成2年)

 2年の警備業者又は警備員の届出による刑法犯認知件数は、全刑法犯認知件数の0.6%に当たる1万393件となっている。また、2年の民間協 力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況をみると、「警備業者又は警備員の協力」によるものは8,819件で、「第三者の協力」によるもの8,216件を上回っている。

イ 警備業者等に対する指導、監督
 警察では、警備業が民間における防犯システムの一環として地域防犯活動、職域防犯活動と並んで重要な役割を果たしていることから、警備業務の実施の適正を確保するため、警備業法に基づき警備業者に対する指導、監督を行うとともに、警備業協会等を通じた行政指導を行うことにより、警備業の健全育成を図っている。
ウ 警備員等に対する検定の実施
 都道府県公安委員会は、警備業法に基づき、警備員又は警備員になろうとする者について検定を行っている。検定の合否は、学科試験等により判定されるが、国家公安委員会が指定した講習を修了した者については、これらの試験が免除される。現在、(社)全国警備業協会が行う講習と(財)空港保安事業センターが行う研修が、それぞれ指定されている。
 検定に合格した者は、一定の水準以上の知識及び能力を有することが公的に認められるとともに、合格した旨を証する標章(QGマーク)を 用いることができる。2年末までに検定に合格した者の数は、1万7,087人である。
 この検定制度により、警備業者が警備員等の効果的な教育に努めるとともに、警備員等が自主的にその知識及び能力の向上に努めることが期待される。
(4) 質屋、古物営業の健全育成
 質屋営業法、古物営業法により都道府県公安委員会から許可を受けている質屋、古物商等の数の推移は、表3-11のとおりで、質屋は漸減し、古物商は漸増している。

表3-11 許可を受けている質屋、古物商等の数の推移(昭和61~平成2年)

 平成2年に質屋、古物商等が盗品等を発見することなどにより、被害者に被害品を返還できた件数は、質屋が4,767件、古物商が2,719件であり、これらの業者の協力によって犯人を検挙した事例も数多くみられた。質屋、古物商等は、業務を通じて盗品等を発見する機会が多く、民間における防犯システムの一環として重要な役割を果たしていることから、警察では、全国質屋防犯協力会連合会、全国古物商組合防犯協力会連合会等の関係団体と緊密な連携を保ちつつ、その指導、健全育成に努めている。
(5) 調査業の健全化
 探偵社、興信所等の調査業については、化調(ばけちょう)(注)を常習とする業者、暴力団が経営に関与している業者等の悪質な業者による不適正な営業活動が跡を絶たない状況にある。警察では、悪質な調査業者の取締りに努めるとともに、営業活動の健全化に向けた自主規制を推進するよう働き掛けている。これを受けて、(社)日本調査業協会では、秘密の保持等を定めた業務倫理綱領を制定して協会加盟員に対しその徹底を図るとともに、顧客からの苦情の処理等営業活動の適正化に向けた各種の事業活動を行っている。
(注) 化調(ばけちょう)とは、調査業界の用語であり、調査依頼がないにもかかわらず、調査依頼があったかのように装い、調査対象者に対し、「依頼者には優良な企業であると報告する」などと申し向けたり、その旨をにおわせたりして、会費、広告費等の名目で金銭を要求することをいう。
(6) 長寿社会総合対策の推進
 警察では、犯罪や事故からの「高齢者の保護」、防犯や交通安全等の面での「高齢者の社会参加」を二本柱とする「長寿社会総合対策要綱」により、地域の実情に応じた長寿社会対策を推進している。
 また、都道府県防犯協会、地区防犯協会等でも、高齢者部会を設けるなど、高齢者の保護と社会参加を高齢者自身の立場から推進するための活動を行っている。
ア 高齢者の保護
 警察では、高齢者を犯罪や事故から保護するため、巡回連絡等を通じて高齢者宅を訪問し、その実態を把握するとともに、防犯指導を行っている。また、シルバーデー、独居高齢者宅訪問日等を設定して、計画的、集中的に巡回訪問等の活動を行っているほか、各種パンフレットの配布、老人クラブや老人ホーム等における防犯教室、防犯講習会の開催等積極 的な活動を行っている。
イ 高齢者の社会参加の推進
 警察では、高齢者の生きがいを醸成し、地域の連帯感や相互扶助機能の強化を図るため、高齢者による地域に密着した自主防犯活動、環境浄化活動等の社会参加活動を促進しているほか、防犯協会の役職員、防犯連絡所責任者、少年補導員等の選任に当たっても高齢者への委嘱に配意している。
 また、警察では、世代間の交流を通じ、高齢者がその知識と経験を生かして青少年健全育成活動に当たるための様々な行事等を行っている。
ウ 長寿社会対策パイロット地区活動
 警察では、長寿社会対策の効果的な推進を図るため、昭和62年度から、高齢化が進んでいる地域90地区を「長寿社会対策パイロット地区」に指定している。これらの地区においては、関係機関、団体等と連携して、犯罪や事故の被害者となりやすい高齢者を対象とした防犯座談会、防犯教室等を開催し、犯罪や事故の防止について啓発を行うとともに、希望者を募り、防犯運動、交通安全運動等の地域に密着した活動への参加を促進している。

4 協力援助者等に対する救済

(1) 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済
 一般の市民が社会公共のため現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助して、負傷し、疾病にかかり、障害を負い、又は死亡した場合には、本人やその家族の生活の安定を図るため、その程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成2年に、警察官の職務に協力援助して死亡し、又は受傷した市民 は、死者10人、受傷者20人で、前年に比べ、死者は1人減少し、受傷者は6人増加した。
〔事例〕 駅のホームで電車を待っていた男性(34)は、60歳ぐらいの男性がホームから線路上に転落したのを目撃し、電車が接近しているにもかかわらず、自らの危難を顧みず線路上に飛び降り、転落した男性を救助したが、その際、電車に跳ねられ死亡した。
 この協力援助者には、葬祭給付及び遺族給付が支給された(東京)。
(2) 犯罪被害者等に対する救済
ア 犯罪被害給付制度による救済
 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人、爆弾事件等故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた被害者の遺族又は身体に重大な障害を負った被害者に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が遺族給付金又は障害給付金(以下「給付金」という。)を支給し、その精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとして創設されたものであり、昭和56年1月1日から実施されている。
 被害者又は遺族からの給付金の申請に対する各都道府県公安委員会の裁定等の状況をみると、制度創設以来10年間に、2,330人に対して総額約49億6,200万円の給付金が支給されている。
イ (財)犯罪被害救援基金の活動
 (財)犯罪被害救援基金は、国の犯罪被害給付制度を補完し、充実させることを目的として、56年5月に設立された。
 同基金は、国民各層から寄せられた浄財を基本財産として、犯罪被害遺児に対する奨学事業等の救援事業を行っており、基金設立以来平成2年末までに、985人の奨学生に対し、約5億9,400万円の奨学金を支給している。奨学金の月額については、これまで3回にわたり引上げを行っており、月額7,000円(小学生)から2万5,000円(大学生)を支給して いる。また、入学一時金として、昭和59年4月から大学入学時に5万円、小学校入学時には7万円を、61年4月からは高等学校及び中学校入学時にそれぞれ3万円を支給している。
 また、同基金では、59年4月から重障害を受けた犯罪被害者に対する見舞金の給付事業も行っており、平成2年末までに、33人に対し、1,075万円を支給している。
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