第2章 犯罪情勢と捜査活動

 平成2年の刑法犯の認知件数は163万件を超え、戦後最高を記録した前年に比べ約3万7,000件減少したものの依然として高い水準で推移しているが、その特徴としては、暴力団による対立抗争事件の多発と銃器発砲事件の悪質化、来日外国人による犯罪の多発、金融機関対象強盗事件の多発等が挙げられる。
 近年、犯罪は悪質、巧妙化、広域化、スピード化といった質的変化をみせており、他方、都市化の進展や商品の大量生産、大量流通等の社会情勢の変化に伴い、有効な目撃情報を得ることや、犯罪現場等の遺留品から所有者を割り出すことなどの捜査活動がますます困難になってきている。
 このような情勢に対処するため、警察では、広域捜査力及び国際捜査力の強化、捜査活動の科学化、捜査技術の研さんと優れた捜査官の育成、国民協力確保といった諸施策を講ずるなど、積極的に「事件に強い警察」の確立を目指している。
 また、警察では、暴力団を壊滅し、暴力的不法行為を根絶するため、山口組、稲川会及び住吉会の指定3団体(第1章第3節3(2)エ参照)に重点を置いた取締りを徹底して、暴力団員の大量反復検挙、資金源活動に対する取締り、銃器等の摘発を図るとともに、関係機関、団体等との緊密な連携の下に暴力団排除活動を強力に推進し、また、海外の捜査機関等との連携を密接にして暴力団の国際化に対処している。しかし、最近の暴力団の活動の中には、民事介入暴力の巧妙化等にみられるように、従来の法律では規制が難しいものがあるため、警察では、暴力団活動の 現状に対応した、新たな立法の準備を進めている(注)。
(注) 2で述べるとおり、民事介入暴力、対立抗争その他近年の暴力団員の不当な行為は市民生活の安全と平穏に大きな脅威を与えている現状にある。このような現状から国民の自由と権利の侵害を防止することを目的とする「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)」が第120回通常国会で成立し、3年5月15日に公布された。
 この法律の概要は以下のとおりである。
 第1に、一定の要件に該当する暴力団を指定し、この指定された暴力団(以下「指定暴力団」という。)の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)の一定の行為を規制の対象とする。
 第2に、指定暴力団員が指定暴力団の威力を示して行う典型的な不当な金品等の要求行為を規制するとともに、指定暴力団員の不当な要求による被害の回復等のための援助を行うこととしている。
 第3に、対立抗争時の指定暴力団の事務所の使用について一定の規制を行うとともに、指定暴力団員が少年等に指定暴力団への加入を勧誘する行為等についても規制の対象としている。
 第4に、都道府県ごとに暴力追放運動推進センターを指定し、暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間公益活動の促進を図ることとしている。

1 犯罪の特徴と傾向

(1) 平成2年の犯罪の特徴
ア 暴力団による対立抗争事件の頻発と銃器発砲事件の悪質化
 暴力団による対立抗争事件は、山口組と一和会が大規模な対立抗争事件を引き起こした昭和60年をピークとして最近は減少する傾向にあっ た。しかし、対立抗争事件の発生回数(注)は平成2年も146回と高水準で推移しており(図2-1)、一般市民3人が巻き添えで射殺されるなどその態様も一層悪質化しており、暴力団事務所等の周辺地域住民に多大な脅威と障害を与えている。

図2-1 対立抗争事件、銃器発砲事件の発生状況(昭和56~平成2年)

 この背景としては、大規模暴力団が一層の勢力拡大を図っていることが挙げられる。特に、北海道及び東北において、山口組、稲川会及び住吉会の指定3団体の進出が顕著であり、この結果、地元暴力団との摩擦や指定3団体相互の主導権争いが激化している。 2年における対立抗争事件の発生事件数(注)は27事件であるが、そのうち指定3団体の関与するものは22事件、関与率は81.5%に及んでいる。
(注) 対立抗争事件においては、特定の団体間の特定の原因による一連の対立抗争の発生から終結までを「発生事件数」1事件として数え、対立抗争当事者間の攻撃回数の合計を「発生回数」としている。
 また、2年に発生した対立抗争事件27事件のうち、26事件についてその過程で銃器が使用されており、発生回数でみても銃器使用の割合は80.8%となっている。2年中の対立抗争事件による死者数は16人で、前年に比べ12人増加している。
 さらに、暴力団による銃器発砲事件全体の発生回数も、2年には255回と多発しており、その態様も、一般市民を対立暴力団の組員と誤認して射殺したり、目撃者、通行人、警察官等に向けて発砲するなどますます凶悪化している。銃器発砲事件による死者数は35人と、前年に比べ大幅に増加している。
〔事例〕 旭琉会(きょくりゅうかい)は、山口組との友誼(ぎ)関係の樹立をめぐって主流派と反主流派とが対立していたが、2年9月13日に反主流派の組員が主流派の組員を負傷させたことから2つの組に分裂し、これらの間で2年末までに銃器発砲事件29回を含む38回の抗争事件が発生した。この間、巻き添えに遭った一般人1人、警察官2人を含め6人が死亡し、12人が負傷した(沖縄)。
イ 来日外国人による犯罪の多発
 近年の我が国の国際化の進展に伴い、来日外国人による犯罪が増加傾向にある。2年の来日外国人(注1)の検挙件数は4,064件と過去最高となり、検挙人員は2,978人であった(図2-2)。

図2-2 外国人入国者数及び来日外国人刑法犯検挙状況(昭和56~平成2年)

 その特徴としては、
○ 外国人労働者(注2)がらみの犯罪が目立ったこと
○ 同国人同士で結成された不良グループによる凶悪事件が目立ったこと
○ 国際的職業犯罪者グループによる有価証券等の偽造事件が発生し たこと
などが挙げられる。
(注1) 来日外国人とは、我が国にいる外国人のうち、いわゆる定着居住者(永住者等)、在日米軍関係者及び在留資格不明の者以外のものをいう。
(注2) この白書においては、近年急増している来日外国人労働者に係る問題を取り上げることとし、例えば、我が国に戦前から居住し生活する在日外国人及びその子孫は、検討の対象としていない。
〔事例1〕 タイ人の男(29)は、情交関係にある同国人の女性(33)と同居、不法就労中であったが、同女が他の同居男性と親しくなったことに憤慨し、2年3月27日に同女を刺殺し、死体を切断、遺棄して逃走した。同月28日逮捕(長野)
〔事例2〕 パキスタン人等から成る不良グループが同国人等の給料をねらい、元年10月23日に東京都、2年2月3日に神奈川県、同月25日に千葉県で刃物を携行してアパートを連続的に襲撃し、金品を強奪した。10月2日までにグループのボスとみられるパキスタン人の男(28)を含むパキスタン人7人、インド人1人を逮捕(警視庁)
〔事例3〕 英国(香港)人の男(25)らは、2年8月19日、東京都内において、偽造米ドル札111枚を使用した。また、同月25日には、東京都内において、偽造した旅行小切手を使って、外国製の腕時計等をだまし取った。8月25日2人を逮捕(警視庁)
ウ 金融機関等を対象とした強盗事件の多発
 2年には、銀行、郵便局等の金融機関を対象とした強盗事件が、94件発生しており、前年に比べ増加している。また、金融業者、深夜スーパーマーケットを対象とした強盗事件については、それぞれ前年の約4.3倍、約2.1倍と大幅に増加している(表2-1)。
〔事例〕 借金苦の男(24)は、2年5月7日に地方銀行の出張所に脅迫文とともに、火炎びん、発煙筒及び偽爆発物を所持して押し入り、現金1,000万円を強奪した。6月25日検挙(佐賀)

表2-1 金融機関等対象強盗事件の対象別認知、検挙状況(昭和61~平成2年)

(2) 平成2年の犯罪の傾向
ア 刑法犯の認知、検挙の状況
(ア)認知状況
 平成2年の刑法犯認知件数(注)は、163万6,628件で、戦後最高を記録した前年に比べ3万6,640件(2.2%)減少した(図2-3)。
(注) 罪種別認知件数は、資料編統計2-3参照
 2年の刑法犯認知件数の包括罪種別構成比をみると、窃盗犯が144万4,067件で、全体の88.2%を占めている(図2-4)。
 過去20年間の刑法犯包括罪種別認知件数の推移をみると、粗暴犯、風俗犯、凶悪犯が減少傾向にあるのに対し、窃盗犯は増加傾向にある(図2-5)。

図2-3 刑法犯認知件数と犯罪率の推移(昭和21~平成2年)

図2-4 刑法犯認知件数の包括罪種別構成比(平成2年)

図2-5 刑法犯包括罪種別認知件数の推移(昭和46~平成2年)

(イ)検挙状況
 2年の刑法犯検挙件数(注1)は69万2,593件、検挙人員(注2)は29万3,264人で、前年に比べ、検挙件数は7万9,727件(10.3%)、検挙人員は1万9,728人(6.3%)それぞれ減少した(図2-6)。

図2-6 刑法犯検挙件数、検挙人員の推移(昭和21~平成2年)

(注1) 罪種別検挙件数は、資料編統計2-4参照
(注2) 罪種別検挙人員は、資料編統計2-5参照
 なお、検挙人員には、触法少年を含まない。
 過去20年間の年齢層別犯罪者率の推移をみると、近年では、14歳から19歳までの層の犯罪者率が著しく高くなっている(図2-7)。

図2-7 刑法犯の年齢層別犯罪者率の推移(昭和46~平成2年)

(ウ) 国際比較
 殺人、強盗、強姦(かん)について、元年の犯罪率と検挙率を米国、英国、ドイツ(旧西ドイツ)、フランスと比べると、図2-8のとおりである。

図2-8 殺人、強盗、強姦(かん)の犯罪率と検挙率の国際比較(平成元年)

イ 被害の状況
(ア) 生命、身体の被害
 2年に認知した刑法犯により死亡し、又は負傷した被害者の数は、死者が1,453人、負傷者が2万5,329人で、前年に比べ、死者は7人(0.5%)増加し、負傷者は798人(3.1%)減少した(表2-2)。死者数を罪種別にみると、殺人による死者が676人で最も多く、全体の46.5%を占めている。

表2-2 刑法犯による死者と負傷者数の推移(昭和61~平成2年)

(イ) 財産犯による被害
 2年に認知した財産犯(強盗、恐喝、窃盗、詐欺、横領、占有離脱物横領をいう。)による財産の被害総額は約1,920億円で、前年に比べ約64億円(3.4%)増加した。また、このうち、現金の被害は約728億円で、前年に比べ約46億円(6.7%)増加した(表2-3)。

表2-3 財産犯による財産の被害額の推移(昭和61~平成2年)

ウ 第39回衆議院議員総選挙の違反取締り
 2年1月24日、第117回通常国会で衆議院が解散されたことに伴う第39回衆議院議員総選挙(2月3日公示、18日施行)は、昭和30年の保守合同以降の総選挙の中では最も多い定数の約1.9倍の953人が立候補した。
 投票日後90日までの検挙状況をみると、件数が3,834件、人員が7,623人で、前回(61年)に比べ、件数は1,280件(25.0%)、人員は3,553人(31.8%)それぞれ減少した(表2-4)。これを罪種別にみると、買収

表2-4 衆議院議員総選挙における違反検挙状況(第38回:昭和61年10月4日まで 第39回:平成2年5月19日まで)

の検挙件数、人員は、それぞれ3,478件、6,940人であり、件数で全体の90.7%、人員で全体の91.0%を占めた。また、投票日後90日までの警告件数は2万2,430件で、前回に比べ6,559件(41.3%)増加した(図2-9)。

図2-9 衆議院議員選挙における違反警告状況(第38回:昭和61年10月4日まで 第39回:平成2年5月19日まで)

エ 贈収賄事件
 平成2年中の贈収賄事件の検挙状況をみると、事件数が71事件、人員が274人で、前年に比べ、事件数は同数、人員は7人(2.6%)増加した(図2-10、表2-5、表2-6)。
 2年に検挙した贈収賄事件を態様別にみると、依然として公共工事をめぐるものが多いが(表2-7)、その他、ゴルフ場等の大規模開発や土地取引をめぐるもの、外国人の在留期間更新許可申請をめぐるもの、教職員の人事採用をめぐるもの、競馬場内のサービス業務をめぐるものが目立った。

図2-10 贈収賄検挙事件数、検挙人員の推移(昭和56~平成2年)

表2-5 収賄被疑者の身分別検挙人員の推移(昭和61~平成2年)

表2-6 市町村の首長の検挙人員の推移(昭和61~平成2年)

表2-7 贈収賄事件の態様別検挙件数の推移(昭和61~平成2年)

〔事例1〕 前川西市長(78)は、公共工事に関し、指名選定等に有利な取り計らいをした謝礼として現金200万円を受け取った。また、同市市議会議員(66)は、業者からの請託を受け、同市担当部長に対し同業者に予定価格を教示するなどの職務上の不正行為をさせるべくあっせんした謝礼として現金100万円を受け取った。2年9月21日逮捕(兵庫)
〔事例2〕 成東町長(62)と同町町議会議員(53)は、共謀の上、ゴルフ場開発業者から、知事に対する開発事業事前協議書の進達等に関し、有利な取り計らいを受けたい趣旨の現金1億円を受け取った。2年11月18日逮捕(警視庁、千葉)
オ カード犯罪
 キャッシュカード、クレジットカードの発行枚数及び現金自動支払機(ATMを含む。以下同じ。)の設置台数は、著しく増加している(図2-11)。2年のカード犯罪(注)の認知件数は7,631件、検挙件数は7,651件、

図2-11 キャッシュカード、クレジットカードの発行枚数及び現金自動支払機の設置台数の推移(昭和61~平成2年)

検挙人員は930人であり、前年に比べいずれも増加している(図2-12)。
(注) カード犯罪とは、キャッシュカード、クレジットカード及びサラ金カードのシステムを利用した犯罪で、コンピュータ犯罪以外のものをいう。
 2年に検挙したカード犯罪を罪種別にみると、不正に店員等にクレジットカードを提示して金品をだまし取るなど詐欺が6,569件(85.9%)で最も多く、次いで不正に現金自動支払機を操作して現金を引き出す窃盗が1,081件(14.1%)となっている。
 態様別にみると、窃取したカードを使用したものが2,516件(32.9%)

図2-12 カード犯罪の認知、検挙状況(昭和61~平成2年)

と最も多く、次いで他人名義で不正取得したカードを使用したものが2,162件(28.3%)、本人名義のカードを使用したものが1,282件(16.8%)の順となっている。
 カードを使って現金自動支払機から現金を引き出す場合には、あらかじめ暗証番号を知っていなければならないが、2年に検挙したカード使用の窃盗事件1,081件を犯人が暗証番号を知った方法別にみると、「カードと暗証番号を同時に入手」したものと「カードの所有者と面識があり、以前から暗証番号を知っていた」ものを合わせて670件(62.0%)となっており、暗証番号の設定、管理に甘さがあることがうかがわれる(図2-13)。

図2-13 カード使用の窃盗事件における暗証番号を知った方法別検挙状況(平成2年)

カ コンピュータ犯罪
 近時、コンピュータは社会の様々な分野で必要不可欠なものとなっているが、他方、最近のコンピュータ・システムの特性を利用した新しいタイプの犯罪が問題となっている。2年におけるコンピュータ犯罪(注1)の認知件数は77件であり(表2-8)、その特徴としては、コンピュータ端末機を操作して、電磁的記録を不正に作出し、多額の現金を横領する事件、事情を知らない係官をして電磁的記録である公正証書の原本に不実の記録をさせる事件等が多発していることが挙げられる。また、コンピュータ・ウイルス(注2)によるコンピュータゲームソフトの汚染等が、社会的問題となった。
 こうした犯罪、事故などからコンピュータ・システムを防護する必要性が高まっていることから、警察庁では、部外の学識経験者を加えたコン

表2-8 コンピュータ犯罪の認知状況(平成2年)

ピュータ・システム安全対策研究会が発表した「情報システム安全対策指針」、「コンピュータ・ウイルス等不正プログラム対策指針」に基づき安全対策の指導を行うなど、総合的なコンピュータ・セキュリティの確保に取り組んでいる。
(注1) コンピュータ犯罪とは、コンピュータ・システムの機能を阻害し、又はこれを不正に使用する犯罪(過失、事故等を含む。)をいう。
(注2) コンピュータ・ウイルスとは、使用者の意図に反してコンピュータに侵入し、プログラムやデータを破壊したり、書き換えたりするプログラムのことをいう。
〔事例〕 農協の出納係員(35)は、オンライン端末装置を不正に操作して、自己の口座へ多額の預入れがあったようにコンピュータに入力し、3,700万円相当をだまし取った。2年11月2日検挙(福岡)
キ 国際犯罪
 経済、社会の分野における国際化の進展に伴い、来日外国人による犯罪、日本人の国外における犯罪、我が国において犯罪を犯した者が国外へ逃亡する事案等のいわゆる国際犯罪の増加が顕著になっている。
(ア) 日本人の国外における犯罪
 警察が国際刑事警察機構(ICPO)(注)、外務省等を通じて通報を受けた日本人の国外犯罪者数の推移は、表2-9のとおりである。

表2-9 日本人の国外犯罪者数の推移(昭和56~平成2年)

(注) 国際刑事警察機構(ICPO)は、国際犯罪に関する情報交換、犯人の逮捕と引渡し等に関する国際的な捜査協力を迅速、的確に行うための国際機関であり、3年1月現在、154箇国(領域を含む。)が加盟している。
(イ) 国外逃亡被疑者
 我が国で犯罪を犯し、国外に逃亡したと推定される者の数は、年々増加傾向にあり(表2-10)、2年末現在の国外逃亡被疑者数は294人で、このうち日本人は85人である。これらの者の推定逃亡先国としては、フィリピン、韓国が多い。

表2-10 国外逃亡中の被疑者数の推移(昭和56~平成2年)

 警察は、国外逃亡のおそれのある被疑者については、海空港手配等により出国前の検挙に努め、被疑者が出国した場合も、外国捜査機関の協力等を得ながら、被疑者の身柄確保に努めている。

2 暴力団対策の推進

(1) 暴力団の現況と動向
ア 山口組等指定3団体による寡占化
(ア) 暴力団の寡占化
 平成2年末現在の暴力団の勢力は、3,305団体、8万8,259人で、前年に比べ、150団体(4.8%)、999人(1.1%)増加している。そのうち、山口組、稲川会及び住吉会の指定3団体の勢力は、1,660団体(全団体数の50.2%)、4万2,622人(総人員の48.3%)となっている。これは、前年に比べ、201団体(13.8%)、4,953人(13.1%)増加しており、指定3団体による寡占化が一層進展している。
(イ) 山口組の勢力拡大
 山口組は、2年末現在で1道2府37県下に944団体(全団体数の28.6%)、2万6,170人(総人員の29.7%)の勢力を有する我が国最大の暴力団である。
 山口組は、昭和59年6月に同組から離脱した一派が結成した一和会と長期にわたり激しく対立を続けてきたが、その後、一和会の勢力を再吸収するなどして勢力を着実に拡大してきた。平成元年3月に一和会が解散してからは、山口組の勢力拡大傾向は更に顕著となり、盛んに他の団体を傘下に吸収するなどして勢力の拡大を図っている。特に、対立する団体に対しては、抗争事件を引き起こして銃器発砲等の攻撃を繰り返すなどしてこれを壊滅、屈服させ、その組員を吸収するという方法が目立っており、まさに手段を選ばぬ勢力拡大策を展開している。
 山口組は、従来、東京においては、表立った活動を控えてきたとみられていたが、近年、企業事務所を仮装するなどの形で都内に拠点を設け るなど、首都圏への進出を強化しているとみられ、これに伴い、既存の在京団体との摩擦が生じている。
〔事例〕 2年2月15日、山口組系暴力団員が、二率(にびき)会系暴力団員に殺害されたことを発端に、組事務所等に対するけん銃発砲事件等18回の対立抗争事件が発生し、この間、巻き添えに遭った一般市民1人を含む4人が死亡した(警視庁、神奈川、北海道)。
 このような山口組の勢力拡大に伴い、山口組の関与する対立抗争事件が頻発している。2年中の暴力団による対立抗争事件の発生回数は146回であるが、そのうち山口組の関与するものは半数近い69回に上っている。
 このように、全国の暴力団情勢は、山口組の勢力拡大を軸に展開しており、極めて不安定な状況にあるといえる。
イ 多様化、巧妙化の進む資金源活動
 暴力団の資金源活動は、社会、経済の変化に応じ、また、取締りを免れるために、巧妙化、多様化が進んでいる。覚せい剤の密売、賭博(とばく)、みかじめ料の要求等の伝統的な資金源活動は依然として活発であるが、

暴力団は、近年は、民事介入暴力、企業対象暴力等の新しい形態の資金源活動を活発に行うようになっている。
(ア) 民事介入暴力
 民事介入暴力とは、一般市民の日常生活や経済取引に、民事上の権利者、関係者の形で介入、関与して、違法、不当な利益の獲得を図る行為である。交通事故の示談、不動産の賃貸借に伴うトラブル等の当事者の中には、暴力団を利用して自己に有利に交渉を進めようとする者も存在するため、暴力団の民事介入暴力が一層助長されている。しかし、このような暴力団の利用者も、結局は、暴力団の被害を受ける結果になることが多い。

図2-14 民事介入暴力相談の類型別受理状況(昭和61~平成2年)

 民事介入暴力は、大都市を中心とする地価の高騰を背景とした「地上げ」にみられるように極めて大規模化しており、暴力団は、これらの事案に関与することによって、より巨額の不当な利益の獲得を図っている。
 これに対して、警察は、相談活動を行うなど積極的に対応しているが、昭和56年には9,665件であった相談受理件数が、平成2年には2万2,844件に上っており、民事介入暴力の広がりがうかがわれる(図2-14)。
(イ) 企業対象暴力
 暴力団は、個人を対象とする犯罪によって莫大(ばくだい)な資金を獲得しているだけでなく、総会屋等(総会屋、新聞ゴロ、会社ゴロ等)や社会運動等標ぼうゴロ(社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ)との結び付きを強めて、企業を対象とした犯罪を行っている。これらの暴力団等は、株主権の行使に名を借りたり、社会運動、政治活動を仮装、標ぼうするなど、合法的な行為を装いつつ、企業を揺さぶって、莫大(ばくだい)な利益を獲得している。その手口も、工事の騒音に対する迷惑料や事業資金の融資の名目で金を引き出したり、機関紙(誌)を高額で購入させたりするなど、一層巧妙化している。
(ウ) 合法的な資金源活動
 暴力団は、建設業、 不動産業等の様々な事業分野において、合法的な企業の経営に関与して資金獲得を図っている。しかし、合法的な企業とはいえ、その事業の過程で組織の威力を背景とした強引な活動を行うなど、その実態は暴力団と変わらないことが少なくない。
 暴力団は、その莫大(ばくだい)な資金を、経営に関与する企業だけでなく、不動産、証券等に投資することにより、もともとは犯罪によって獲得した「黒い金」から更に多くの利益を取得している。このようにして増やされた利益は、新たな犯罪のための資金にもなっているとみられる。
ウ 暴力団犯罪の国際化
 近年、暴力団の海外進出が顕著となってきているが、その主たる目的は、銃器、覚せい剤等の調達、日本人観光客を相手とした賭博(とばく)等の資金源活動、逃亡先としての拠点づくり等とみられる。
 また、暴力団は、「じゃぱゆきさん」と呼ばれる外国人女性に売春をさせるなどして外国人の不法就労に関与し、その労賃をピンハネすることなどにより多額の資金を獲得しており、国際的な問題にもなっている。
 さらに、最近は、暴力団が海外の犯罪組織と連携を強めて擬制的血縁関係を結ぶ例もみられ、今後、海外の犯罪組織が我が国に本格的に進出することも懸念される。
(2) 暴力団取締りの推進
 暴力団対策の基本は、暴力団取締りと暴力団排除活動とを有機的に連動させた総合対策の推進により、暴力団の壊滅と暴力的不法行為の根絶を図ることである。警察は、「暴力団員の大量反復検挙」、「資金源活動に対する取締りの徹底」、「銃器等の取締りの徹底」の3本の柱を中心にして、暴力団に対する取締りを強力に推進している。
ア 暴力団員の大量反復検挙
 警察は、暴力団の組織の中枢にあって、その組織をささえている首領、幹部をはじめとする暴力団員の大量反復検挙を徹底し、さらに、犯行の組織性の解明、常習性、悪性の立証等により、暴力団員の社会からの長期隔離に努めている。特に、山口組、稲川会及び住吉会の指定3団体に対しては、都道府県警察が連携して集中取締りを実施しており、平成2年の指定3団体の犯罪の検挙件数は3万4,343件(暴力団犯罪総検挙件数の63.5%)、検挙人員は2万1,515人(暴力団犯罪総検挙人員の62.2%)である(図2-15)。
 しかし、暴力団の大規模化により幹部が直接犯罪を敢行する必要が少

図2-15 暴力団員の検挙件数、検挙人員の推移(昭和56~平成2年)

なくなったことや組織防衛の強化等により、中枢幹部の隔離率は低下する傾向にある。
イ 資金源活動に対する取締り
 警察は、暴力団の存立基盤である資金源犯罪に対して、取締りを一層強化するなど積極的な取組を行っており、暴力団の資金の涸渇化を図っている。
 特に、暴力団の主要な資金源犯罪である覚せい剤事犯、恐喝、賭博(とばく)及び公営競技4法違反(ノミ行為等)により、2年には、1万3,119件、1万5,627人を検挙した。
 民事介入暴力に対しては、弁護士会等の関係団体と連携して、暴力団の資金源封圧及び市民保護の観点から、積極的な相談の受理を行い、潜在事案の発掘、検挙を図っている。また、検挙に至らない事案について も、相談者への助言、指導、関係暴力団への警告等により解決を図っている。
 さらに、企業対象暴力に対しても取締りを徹底しており、2年には、商法第497条違反(株主の権利の行使に関する利益供与の罪)、恐喝等により総会屋等を66件、83人検挙し、また、恐喝、傷害等により社会運動等標ぼうゴロを936件、738人検挙した。
 なお、暴力団の資金源を涸渇させるためには、その膨大な収入に対して厳正な課税措置を採ることが極めて重要である。そのため、警察は、税務当局との連携、連絡体制の強化に努めており、捜査の過程等において暴力団の不正所得を認知した場合には、その内容を税務当局に通報することとしている。2年には、過去最高の約440件、約92億円の課税通報を行った。
ウ 銃器等の摘発
 暴力団による対立抗争事件、銃器発砲事件は依然として多発しており、これにより市民の被る危険と脅威は甚大なものになっている。
 このため、警察は、組織的な情報収集活動、効果的な捜索活動等により銃器等の摘発に努めるとともに、税関や海外の捜査機関等との連携による水際検挙の徹底を図っている。
 暴力団関係者からのけん銃押収数をみると、けん銃の密輸方法、隠匿方法の著しい巧妙化等により、最近5年間は減少を続けている(図2-16)。2年における押収数は918丁で、前年に比べ85丁(8.5%)減少した。しかし、押収けん銃に占める真正けん銃の割合は年々高くなる傾向にあり、2年には、押収したけん銃の93.9%が真正けん銃であった。

図2-16 暴力団関係者からのけん銃押収数の推移(昭和56~平成2年)

(3) 暴力団排除活動の推進
 暴力団対策の効果的な推進のためには、取締りの徹底だけではなく、暴力団を社会的に孤立させ、その存在基盤を掘り崩すための暴力団排除活動が極めて重要である。警察は、関係機関、団体等と密接に連携して、暴力団排除活動に強力に取り組んでいる。
ア 暴力団事務所撤去活動の推進
 暴力団事務所は、暴力団活動の拠点であり、多数の暴力団員の出入り、組織の勢力を誇示する代紋、看板の掲出等により、地域住民に大きな不安を与えている。また、対立抗争時には抗争の相手方の攻撃目標となる ため、誤って付近の民家等にトラックが突入したり、銃弾が発射されることもあるなど、地域社会に多大な危険を与えている。
 警察は、地域住民と連携して暴力団事務所撤去活動を強力に推進しており、平成2年には、山口組、稲川会及び住吉会の指定3団体傘下の暴力団事務所127箇所をはじめ、全国で191箇所の暴力団事務所を撤去した。
イ 暴力団排除組織の結成
 暴力団排除組織は、2年末現在、28都道府県において結成されており、官民一体となった暴力団排除活動を展開している。 2年には、財団法人として「(財)暴力団根絶福島県民会議」及び「(財)群馬県暴力追放県民会議」の2つの暴力団排除組織が結成され、暴力団犯罪の被害者に対する見舞金の支給、訴訟費用の貸付け、暴力相談等の活動を積極的に行っている。
ウ 企業防衛組織による暴力団排除の推進
 暴力団は、企業対象暴力によって莫大(ばくだい)な資金を得ているとみられる。警察は、企業対象暴力に対する取締りを強化するとともに、昭和50年代以降、企業対象暴力の予防、排除を図るため都道府県単位の企業防衛組織の結成を推進してきた。平成元年5月には、全国の企業防衛組織により「全国企業対象暴力連絡協議会」が結成され、緊密な情報交換等を通して、企業対象暴力の効果的な予防、排除を推進している。
エ 建設業、不動産業における暴力団排除活動の推進
 暴力団は、従来から、建設業、不動産業に関与して、その支配下の業者を下請とすることを強要したり、不当な方法により地上げを行うなどの事犯を多発させ、これにより莫大(ばくだい)な資金を獲得している。各業界団体においては、暴力団排除のための自主的な努力が進められており、また、警察と関係機関とが連携して、暴力団員が経営し、又は経営に関与している場合には、営業の許可、免許を与えないなどの方法による暴力団の 排除を推進している。
オ 公営競技場からの暴力団排除活動
 暴力団の資金源封圧、公営競技場等における市民の安全確保のために、警察と競技施行者とが連携して、公営競技場からの暴力団員、ノミ屋等の排除活動を強力に推進している。
 2年には、全国の公営競技場から暴力団員4,396人、ノミ屋等1,185人を排除するとともに、ノミ行為等により7件、20人を検挙した。
(4) 海外の捜査機関との連携
 近年、暴力団の海外における活動が活発化しており、その実態を解明するとともに、適切な対策を講じることが不可欠となっている。そこで、警察では、暴力団の海外における活動に関する情報の収集、分析のための体制を整備するとともに、暴力団が活発に活動しているとみられる米国やフィリピン等東南アジア諸国の捜査機関との協力関係の強化に努めている。
 米国の捜査機関とは、平成元年12月に開催した「日米暴力団対策会議」に基づき各種の情報交換を行うなど、連携の強化に努めている。
 また、2年には、1月と10月の2回、ASEAN諸国、韓国及び香港の代表並びにオブザーバーとして米国、オーストラリア及びカナダの代表を東京に招いて、「アジア地域組織犯罪対策セミナー」を開催した。

3 「事件に強い警察」確立のための方策

 近年の情報化の進展や交通手段、科学技術の発達等の社会情勢の変化に伴い、報道機関を意識し、又は利用して国民に広く不安を与える犯罪、犯行の動機を計り難い犯罪等、かつては予測もできなかった新しい形態の犯罪が発生するとともに、犯行の悪質、巧妙化、広域化、スピード化 が一層進むなど、犯罪は質的な変化をみせている。特に、盗難車両を利用した犯罪が多発しており、平成2年に検挙された刑法犯のうち11.8%(8万1,606件)を占めるに至っている。
 また、都市部においては、犯行にいわゆる都会の死角を利用することが常態化していることや、一般的には、自分に直接かかわりのないことには無関心、非協力的な態度を取る者も多くなってきていることなどから、聞き込み捜査等の「人からの捜査」が困難になってきている。また、大量生産、大量流通の一般化が著しいことから、遺留品等の事件と関係のある物から被疑者を割り出す「物からの捜査」も難しくなってきている。このように捜査活動はますます困難になってきており、捜査期間は長期化する傾向にある(図2-17)。

図2-17 刑法犯発生から検挙までの期間別検挙状況(昭和56~平成2年)

 このような情勢にかんがみ、警察では「事件に強い警察」確立のため、重要凶悪事件等への的確な対応、捜査力の向上、重要性の高い犯罪への捜査力の重点配分、国民の理解と協力の確保を柱とした施策を積極的に 推進している。
(1) 広域捜査力の強化
 数都道府県にまたがる広域事件においては、広域的な視点に立ち、有機的な連携を保った捜査を行うことが困難であることが多い。こうした問題を解決するため、広域重要事件が発生した際には、警察庁から派遣した広域捜査指導官を現地に駐留させ、捜査の指導、調整を行わせることとしている。また、都道府県警察には、高度な捜査技術と機動力を備えた、広域捜査の中核となる広域機動捜査班が置かれている。
 広域重要事件においては、警察庁や関係都道府県警察の間で捜査情報を共有することが不可欠であることから、広域重要事件における捜査の過程で収集された捜査情報等を警察庁で一元的に管理するとともに、関係都道府県警察の間で必要な情報を伝達することを目的とする大型コンピュータを利用した「捜査・情報総合伝達システム」の整備を推進している。

(2) 捜査活動の科学化の推進
ア コンピュータの活用
 警察庁では、都道府県警察で行う犯罪捜査を支援するため、コンピュータを用いて、次のようなシステムの運用を行っている。
(ア) 自動車ナンバー自動読取システム
 自動車利用犯罪の捜査においては、緊急配備による検問を実施する場合、実際に検問が開始されるまでに時間を要すること、徹底した検問を行えば交通渋滞を引き起こすおそれがあることなどの問題がある。
 警察庁では、これらの問題を解決するため、走行中の自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムを開発し、整備充実に努めている。
(イ) 指紋自動識別システム
 指紋には、「万人不同」、「終生不変」という特性があり、個人識別の絶対的な決め手となることから、犯罪捜査上極めて大きな役割を果たしている。
 警察庁では、コンピュータを用いた精度の高いパターン認識の技術を応用した指紋自動識別システムを開発し、犯罪現場に遺留された指紋から犯人の特定を行う遺留指紋照合業務等に活用している。
 このシステムは、大量の指紋の資料を迅速に自動処理することができるとともに、不鮮明あるいは部分的な指紋からも、該当者を割り出す機能を備えているなど、犯罪捜査に大きく貢献している。
(ウ) 被疑者写真検索システム
 警察庁では、都道府県警察で撮影した被疑者写真を一元的に管理、運用し、犯罪の広域化、スピード化に対応した効率的な活用を図ることを目的としたコンピュータによる被疑者写真検索システムを平成2年度から3箇年計画で全国に整備することとした。このシステムの導入によ り、他の都道府県警察で作成された被疑者写真を迅速に入手することができるようになり、被疑者の検挙に大いに役立つものとなると考えられる。
イ 現場鑑識活動の強化
 聞き込み捜査等の「人からの捜査」が困難になっていることから、犯罪現場等において、各種の鑑識資機材を有効に活用して綿密かつ徹底的な鑑識活動を行い、犯人が遺留した物的資料や痕(こん)跡等から科学的、合理的な捜査を推進していくことが重要になってきている。
 このため、警察では、科学技術の発展に即応した鑑識資機材の研究開発やその整備充実を進めるとともに、現場鑑識活動の中核として機能する機動鑑識隊(班)、現場科学検査班の充実強化を図っている。
 さらに、犯人が遺留したことを意識しないような微量、微細な資料を残さずに発見、採取して、捜査に効果的に活用する「ミクロの鑑識活動(徴物鑑識活動)」を積極的に推進している。
ウ 鑑識資料センターの運用
 警察庁では、微物鑑識活動を強化するため鑑識資料センターを設置している。
 同センターでは、あらかじめ繊維、土砂、ガラス等の各種資料を収集、分析し、製造業者等の付加情報を加えたデータベースを作り、都道府県警察が犯罪現場等から採取した微量、微細な資料の分析データと比較照合することによって、その物の性質や製造業者等を迅速に割り出し、捜査に役立てている。
エ 鑑定の高度化
 鑑識活動によって採取した資料の分析や鑑定の結果は、捜査の手掛かり、証拠として活用されることが多いが、血液、毛髪、覚せい剤、文書、銃器等の鑑定件数は、年々増加するとともに、その内容も複雑多岐にわ たり、高度の専門的知識、技術を必要とするものが多くなってきている。
 このような情勢に対処し、各種の鑑定を一段と信頼性の高いものにするため、警察庁の科学警察研究所や都道府県警察の科学捜査研究所(室)に最新鋭の鑑定機材を計画的に整備するとともに、都道府県警察の鑑定技術職員に対し、科学警察研究所に附置された法科学研修所において、法医学、化学、工学、指紋、足痕(こん)跡、写真等の各専門分野に関する組織的、体系的な技術研修を実施している。

 また、警察庁においては、新しい科学技術を取り入れた鑑定法として、ヒトの細胞核に存在するDNAを分析して個人識別を行うDNA型鑑定法についての研究、開発を進めてきたが、2年にその手法を確立したことから、今後は、これの実施に必要な全国の鑑定体制を整備することとしている(第9章7(1)参照)。なお、今回実用化されたDNA型鑑定法は、これまでの血液型検査と同様に、単に個人の属する型を判定するものであり、特定の遺伝形質の有無やその内容を把握、分析するものではない。 警察では、刑事訴訟法等の規定に従って資料の採取、保管等を厳正に行い、法的問題の生じないよう慎重に推進していくこととしている。
(3) 捜査技術の向上と優れた捜査官の育成
 犯罪の質的変化、捜査環境の悪化等に適切に対応し、国民の信頼にこたえるち密な捜査を推進するためには、常に捜査技術の向上を図るとともに、各種の専門的知識を備えた優れた捜査官を育成しなければならない。このため、警察大学校等において国際犯罪捜査、広域特殊事件捜査等に関する研究や研修を行うとともに、都道府県警察において、若手の捜査官に対し、経験豊富な捜査官がマンツーマンで実践的な教育訓練を行うことにより、新しい捜査手法や技術の研究、開発、長期的視野に立った捜査官の育成と捜査幹部の指揮能力の向上に努めている。
(4) 国際捜査力の強化
ア 国際捜査官の養成、組織体制の整備
 国際犯罪の捜査においては、国際条約のほか、出入国管理、国際捜査共助等に関する内外の法制、言語、慣習を異にする外国人の取扱い、出入国手配、ICPO、外務省等を通じた外国捜査機関への協力要請等に関する特別の知識、手法が要求される。そこで、警察では、警察大学校の附置機関である国際捜査研修所において国際捜査に関する実務研修等を行っており、都道府県警察においても専科教養等を行うなど、国際捜査実務能力を備えた捜査官を養成するための各種の研修を行っている。
 また、アジア地域から来日する外国人が、被疑者や被害者として犯罪に関わったり、事故に遭うなどして、警察と接する機会も増加しており、タガログ語(フィリピンの主要言語)、広東語、タイ語、ウルドゥー語(パキスタンの主要言語)、ベンガル語(バングラデシュの主要言語)等の言語を使用する必要性も高まっている。このため、警察庁では、国際捜査研修所でこれらの言語に関する研修に取り掛かり、都道府県警察におい ても、語学研修に加え各種の言語について通訳の能力を有する者のリストを作成するなどの措置を講じている。
 また、都道府県警察においては、来日外国人による犯罪の急増に適切に対処するため、国際捜査課(室)等の組織の設置、拡充を図るとともに、国際捜査官の増強等を進めている。
イ 国際協力の推進
(ア) 情報、資料の交換
 捜査に必要な情報、資料の交換を外国捜査機関との間で行うにはICPOルート、外交ルート等があるが、過去10年間に警察庁が行った国際犯罪に関する情報の発信、受信の総数は急、増している(表2-11)。

表2-11 国際犯罪に関する情報の発信、受信状況(昭和56~平成2年)

(イ) 外国捜査機関との協力
 国際捜査共助法に基づく協力要請を受けて、警察が外国の刑事事件に関し調査を実施した件数は、2年には、ICPOルートによるものが469件、外交ルートによるものが1件であった(表2-12)。
 また、外国において犯罪を犯した者が、我が国へ逃亡してくるといった事案が発生した場合には、警察は、逃亡被疑者の所在確認等の必要な協力を行っている。
 なお、我が国の警察と外国の捜査機関の捜査権が競合した場合には、

表2-12 外国からの依頼に基づき捜査共助を実施した件数(昭和56~平成2年)

ICPO等を通じて密接な相互協力を推進することにより、その解決を図っている。
(ウ) 各種セミナーの開催
 警察庁では、国際協力事業団(JICA)との共催により、又は単独で、外国の捜査機関の幹部を招き、各種セミナーを開催している。2年10月には、第3回アジア地域組織犯罪対策セミナーが、6月から7月にかけては、東南アジアを中心とした11の国・地域から13人の警察幹部を招いた第11回国際捜査セミナーが、2月には、フィリピン捜査幹部セミナーが開催された。
(5) 国民協力確保方策の推進
 犯罪情勢の変化に対応するためには、捜査活動に対する国民の深い理解と積極的な協力を得ることが必要不可欠である。
 このため、警察では、国民に協力を呼び掛ける方法の一つとして公開捜査を行っており、新聞、テレビ、ラジオ等の報道機関に協力を要請するとともに、人の出入りの多い場所でポスター、チラシ等を掲示、配布するなどの方策を講じている。
 平成2年10月には、全国において「捜査活動等に対する市民協力確保及び指名手配被疑者捜査強化月間」を実施し、ポスター、チラシ等を掲示、配布したほか、都道府県警察の捜査担当課長等がテレビ等に出演するなどして、事件発生時における速やかな通報、聞き込み捜査に対する

協力、事件に関する情報の提供等を呼び掛けた。また、警察庁指定被疑者10人、都道府県警察指定被疑者41人について公開捜査を行い、国民の協力を得て、警察庁指定被疑者及び都道府県警察指定被疑者5人をはじめ、2,179人の指名手配被疑者を検挙した。
 さらに、警察庁及び都道府県警察では、国民の立場に立った刑事警察の運営を推進するために、広く国民と捜査活動等について語り合う「刑事警察について語る会」等の会合が開催されている。
 このほか、捜査の経過、結果等を被害者に通知する被害者連絡制度等を積極的に推進しているほか、告訴、告発の受理、民事介入暴力事案の相談等を通じ、国民の要望にこたえる捜査活動の推進に努めている。


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