第3章 地域住民とともにある警察活動

 警察では、派出所、駐在所等の外勤警察官による地域に根ざした活動や地域住民の期待にこたえた各種の防犯活動を積極的に推進するなど、幅広い活動を展開しており、住みよい地域社会形成の一翼を担っている。
 派出所、駐在所等においては、地域を担当する外勤警察官等が、昼夜を分かたぬ警戒体制を保持しつつ、住民とのふれあいを深めながら、地域社会におけるあらゆる事象に対応した活動を展開し、住民の日常生活の安全と平穏の維持に当たっている。
 また、事件、事故等が発生した場合には、110番通報制度や通信指令室の機能を活用して、迅速、的確な対応を行っているほか、水上警察や鉄道警察等の活動を通じて、あらゆる地域における人命の救助や犯人の検挙等の活動を行っている。
 さらに、安全な地域社会を形成し、維持するため、住民に強い不安感を与えている幼児誘拐犯罪や、オートバイ盗、自転車盗等の住民にとって身近な犯罪に重点を置いた防犯活動を推進するとともに、地域住民による自主防犯活動の促進、警備業等の「安全産業」の健全育成、各種の民間企業、団体との連携による防犯活動の推進等を図っている。また、急速に進む高齢化社会に対しては、高齢者の保護と社会参加を中心とした長寿社会対策を推進している。

1 地域に根ざした警察活動

(1) 地域に密着した外勤警察活動
 外勤警察官は、地域住民の日常生活の安全と平穏を守るため、地域を活動の場として、直接市民と接しながら、昼夜を分かたぬ警戒体制を保持し、街頭におけるパトロールや各家庭、事業所等への巡回連絡等を通じて、犯罪の予防、検挙、交通の指導取締り、少年の補導のほか、迷い子や酔っ払いの保護、困りごと相談等幅広い活動を行っている。
 警察では、これらの活動をより一層効果的に推進するために、平成元年に、20年ぶりに外勤警察運営の基本である外勤警察運営規則の抜本的な改正を行った。
 その主な改正点は、警戒効果が高く住民が気軽に声を掛けやすい派出所前での立番勤務、派出所等に多数の市民が訪れる時間帯に警察官が不在とならないような配置運用、警察用航空機による空からのパトロールの実施等を規定したことである。これらの改正によって、よりきめ細かく効果的な外勤警察活動を推進している。
ア 地域を守る派出所、駐在所
(ア) 「赤い門灯」は安心感のよりどころ
 外勤警察の活動の拠点であるとともに、警察の総合出先機関としての役割を果たしている派出所、駐在所(以下「派出所等」という。)は、全国津々浦々に約1万5,000箇所設置されている。派出所は、主として都市部に置かれ、警察官が交替制により常時警戒に当たっており、また、駐在所は、原則として一人の警察官が家族とともにその駐在所に居住して、地域の安全を守っている。これらの派出所等は、「赤い門灯」を掲げて、いずれも管轄する区域内において地域に密着した活動を行っていることから、市民にとって最も身近な警察活動の拠点として、地域住民や行き交う人々の安心感のよりどころとなっている。
 近年、都市化の進展に伴う地域住民の連帯感の希薄化、核家族化、高齢化等により地域社会が変化している中で、警察に寄せられる住民の要望、意見等は極めて多く、中でも常に街頭にあって住民と接している外勤警察官には、様々な困りごと、要望等が寄せられている。
 派出所等では、これを警察活動に反映させ、地域に溶け込む活動を推進したり、住民にとって真に不安感が強い犯罪や交通事故に直結するおそれのある危険、悪質な違反等に重点を指向した予防検挙活動等に当たるなど、地域住民の期待にこたえ、地域住民とともにある警察活動を推進している。
(イ) 地域住民に安心感を与える警戒活動
 外勤警察官の勤務は、派出所等の所内における立番、見張り等と派出所等の所外におけるパトロール等に分けることができるが、警察に対する世論調査等においては、「常時交番に警察官がいてほしい」、「パトロールを強化してほしい」といったように所内外を問わず、常時警察官の姿が見えることを望む声が高い。警察では、これらの住民の要望にこたえるため、派出所等の勤務員ができるだけ不在とならないよう人員配置や勤務の時間割の見直しを行い、隣接派出所、パトカー等との連携活動を強化しているほか、不在派出所電話転送装置(パトロール等で警察官が不在となる場合に、派出所等を訪れた住民から警察署への直接通報が可能となる通報装置)の設置の促進を図っている。一方、派出所等の警察官は、無線機を携帯して常にパトカー、警察署と連携を取りながら、不審者に対する職務質問を行うなど、きめ細かなパトロールを行っている。また、全国の警察本部や警察署に配置された約2,600台のパトカーや駐在所に配置された約1,100台のミニパトカーは、管内のパトロールや警戒活動を行い、住民の日常生活の中で発生が予想される種々の事案に備え、あるいは発生した事件、事故の初動措置を迅速に行うなど、「動く交番」として活躍している。このようにして外勤警察官は、地域住民の期待にこたえ、事件、事故等を予防すると同時に、地域住民に安心感を与える効果的な警戒活動を推進している。
〔事例〕 秋田県秋田警察署A駐在所のB巡査長は、駐在所管内で、女子児童を対象とした強制猥褻(わいせつ)事件が多発したことから、パトロールの強化を図っていたところ、不審車両を発見した。乗車していた男(21)に対して職務質問を行ったところ、約40件の強制猥褻(わいせつ)事件の犯行を自供した。
イ 地域住民と触れ合い、地域に溶け込む活動
(ア) 身近な相談の機会、巡回連絡
 巡回連絡は、派出所等に勤務する外勤警察官が受持ち区域内の家庭や事業所等を訪問し、地域住民の良き相談相手となって要望や意見をくみ取り警察活動に反映させるとともに、警察からも犯罪や事故の防止等について必要な連絡を行う活動である。
 元年5月に、派出所等の外勤警察官が巡回連絡の際に地域住民から受けた困りごと、要望、意見等をみると、駐車車両、放置自転車対策、暴走族取締りのほか、パトロールの強化や独居高齢者宅への立ち寄り等日常生活に係る身近な問題が多くを占めている。これらの困りごと、要望、意見等の多くは、派出所等の外勤警察官の指導、助言により解決しており、派出所等の外勤警察官だけでは対応できないものについては、交通、防犯、少年、刑事等の担当係との連携の上で、また、警察だけでは措置できないものについては、他の関係機関との連携等によって解決を図っている。
 巡回連絡の際には、家族構成や非常の場合の連絡先等も尋ねており、災害や事故の発生時における緊急連絡や事故防止の指導連絡等に役立てている。最近は、共働き等による昼間不在家庭や居住者の移動の激しいアパート、マンション等の増加等により、警察からの連絡が困難となっているため、派出所等の勤務員は、休日や夕方に巡回連絡を実施するなどして、住民とのコミュニケーションの確保を図っている。
(イ) 地域に密着した「派出所、駐在所連絡協議会」
 警察では、派出所等を単位として、居住者の移動の激しいアパート、マンション等がある地域や事件、事故等が多発している歓楽街等に、「派出所、駐在所連絡協議会」の設置を進めている。この協議会は、所管区内の自治会役員やアパート、マンション等の管理人、商店街の役員等の地域の代表者から構成され、派出所等の勤務員が地域の問題や警察に対する要望、意見等を聴き、また、警察からも防犯、交通安全等に関する必要な助言、指導等を行い、地域ぐるみで犯罪や事故のないまちづくりを進めていこうとするものである。協議会は、元年12月末現在、5,293箇所に設置され、それぞれ地域に密着した活動を行っている。また、協議会が設置されていない派出所等も含めて、その所管区ごとに、地域の抱える問題の中から重要なものを一つずつ順に取り上げ、警察官が地域の住民とともに解決を図っていく「一所管区一事案解決運動」を推進している。
〔事例〕 鹿児島県名瀬警察署A派出所で、連絡協議会を開催した際に、会員から「B商店街が非行少年のたまり場となっている」との話題が提出された。A派出所では、実態を調査するとともに、効果的な補導活動を行うため、商店会と協議を行い、少年のたまり場となる場所、時間帯を中心に商店会と共同でパトロールを実施した。この結果、非行少年のたまり場が解消されたほか、商店街における事件事故も減少した。
(ウ) 独居高齢者等に対する保護活動
 元年12月末現在、外勤警察官が巡回連絡等を通じて把握している65歳以上の独居高齢者は、約85万人で、このうち、事件、事故等の被害者になりやすいなどの理由で保護を要することから、外勤警察官がパトロール等の機会を利用して努めて立ち寄ることとしている独居高齢者は、約12万4,000人となっている。また、高齢者夫婦又は高齢の兄弟姉妹だけで暮らしており、近所に住んでいる近親者もいないなど、犯罪や事故等の被害に遭いやすいと考えられる65歳以上の二人暮らし世帯は、約4万世帯となっている。
 警察では、これらの高齢者が安心して暮らしていくためのささえとなるため、巡回連絡等の際に高齢者世帯を計画的に訪問し、必要に応じて、防犯指導、交通安全指導、困りごと相談、緊急時における連絡方法の教示、関係機関や親族への連絡等のきめ細かな保護活動を推進しているほか、高齢者が困りごと等について気軽に警察に相談することができるように親近感の醸成に努めている(なお、長寿社会総合対策の推進について、3(8)参照)。
(エ) 青少年健全育成のためのスポーツ指導活動等
 外勤警察官は、少年の非行を防止し、その健全な育成に役立てるため、地域の青少年に対し、余暇を利用して、柔剣道をはじめとする各種スポーツや、書道、絵画等の文化活動を通じた青少年の指導活動を行っている。
(オ) 地域の身近な話題を伝える「交番新聞」
 全国の派出所等の約9割に当たる約1万4,700所では、それぞれ独自にミニ広報紙を発行している。これらの広報紙は、外勤警察官の手作りによるもので、管内の事件、事故等の発生状況とその防止策、善行児童の紹介、住民の声等の身近な話題を伝える「交番新聞」として広く地域住民に親しまれ、地域住民とのふれあいを深める上で大きな役割を果たし ている。また、警察庁では、広報紙の内容及び作成技術の向上を図ることなどを目的として、毎年、ミニ広報紙コンクールを実施している。

(2) 様々な保護活動
 警察では、個人の生命、身体を守るため、応急の救護を要する者等について、次のような保護活動を行っている。
ア 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者の保護
 最近5年間に酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等を保護した状況は、表3-1のとおりで、酔っ払いが半数近くを占めている。
 平成元年の被保護者に対する措置の状況は、家族、知人等に引き渡した者が67.5%と最も多く、保護の必要がなくなって保護を解除した者が25.8%、医療機関、福祉施設等の関係機関に引き継いだ者が6.7%となっている。また、保護した精神錯乱者のうち、精神障害のために自身を傷つけ、又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めて知事に通報した者は3,461人、保護した酔っ払いのうち、アルコールの慢性中毒者又はその疑いのある者であると認めて保健所長へ通報した者は1,158人である。

表3-1 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者の保護の状況(昭和60~平成元年)

イ 家出人の発見、保護
(ア) 減少傾向から増加に転じた家出人捜索願の受理件数
 警察では、家出人の生命、身体の安全の確保を図り、家族等の期待にこたえるため、その早期発見、保護に努めている。元年における家出人捜索願の受理件数は、9万2,200件で、前年に比べ1,710件(1.9%)増加した。最近5年間の家出人捜索願の受理件数の推移は、表3-2のとおりで、逐年減少傾向にあったが、元年には増加に転じた。また、犯罪に

表3-2 家出人捜索願の受理件数の推移(昭和60~平成元年)

巻き込まれ、又は自殺するおそれ等がある家出人については、これを特異家出人として受理し、特に迅速な発見、保護に努めているが、元年の件数は、全捜索願受理件数の13.4%を占めている。
(イ) 多い職務質問等による発見
 元年の家出人の発見数(捜索願未受理の家出人を発見した場合を含む。)は、9万4,880人で、前年に比べ1,164人(1.2%)減少した。このうち、特異家出人の発見数は、1万1,666人であった。家出人の発見の端緒別状況は、表3-3のとおりで、自ら帰宅した家出人を除くと、例年同様、警察官の職務質問等によるものが21.4%と最も多い。

表3-3 家出人の発見の端緒別状況(平成元年)

 なお、家出人の大部分は、無事に帰宅し、又は発見されているが、家出中に犯罪を犯した者が2,185人(2.3%)、自殺した者が1,679人(1.8%)、犯罪の被害者となった者が321人(0.3%)いることが注目される。
(3) 国民の立場に立った相談業務の推進
 警察では、国民の様々な相談にこたえるため、困りごと相談、少年相談、消費者被害相談、覚せい剤相談、民事介入暴力相談、交通相談等各種の相談業務を行っている。
 警察では、これらの相談に誠実に対応し、必要な助言等を行うとともに、警察のみでは対応できないものについては、他の適当な行政機関を紹介するなどの措置を講じている。また、これらの相談業務を国民にとってより利用しやすいものとするため、相談受理体制等の整備を図っているほか、相談者の利便とプライバシーに配意した適切な相談業務の推進に努めている。
ア 総合相談室等の設置
 警察本部では、従来、相談の種類ごとに窓口を設置し、相談業務の充実を図ってきたが、その反面、窓口が多数になり、相談者がどこに行けばいいのかわかりにくいという問題も生じてきたため、窓口を一本化した総合相談室を設置した。
 また、国民からの電話による各種の相談に対しては、これまで、「110番」のほか、「ヤング・テレホン・コーナー」、「悪質商法110番」、「困りごと110番」等、相談の種類ごとに各種の相談専用電話を設置して、これに応じてきていたが、相談者の利便を図るため、警察本部の総合相談室に全国統一番号による相談専用電話「#(シャープ)9110番」を設置した。この結果、平成2年4月から、プッシュホンからは全国どこでも「#9110番」を押せば、警察本部の総合相談室に相談ができるようになった。

イ 困りごと相談
 元年における困りごと相談の受理件数は、18万9,041件で、前年に比べ1万6,150件(7.9%)減少した。また、平成元年に受理した困りごと相談の内容は、表3-4のとおりで、「家庭問題」に関するものが最も多く、全体の32.8%を占めている。

表3-4 困りごと相談の内容(平成元年)

 平成元年における困りごと相談の処理状況は、図3-1のとおりである。

図3-1 困りごと相談の処理状況(平成元年)

(4) 遺失物の取扱い
 遺失物(拾得物を含む。以下同じ。)は、主として派出所等の外勤警察官が窓口となって取り扱っている。平成元年に取り扱った遺失届は約276万件で、このうち通貨は約474億円、物品は約576万点であり、拾得届は約412万件で、このうち通貨は約177億円、物品は約833万点であった。拾得届のあった金品のうち、通貨につい ては約73%、物品については約27%がそれぞれ遺失者に返還されている。最近5年間における遺失物の取扱状況は、図3-2のとおりである。

図3-2 遺失物の取扱状況(昭和60~平成元年)

 なお、警察庁においては、増大する遺失物取扱業務に対処し、遺失者等の利便を図り、その権利を保護するため、新たに遺失物取扱規則を制定(元年4月1日施行)し、遺失届、拾得届の受付(受理)を警察署、派出所等ばかりでなく、鉄道警察隊の分駐所等でも行えるようにするなど、遺失者等のニーズにこたえた遺失物業務の推進を図っているところである。
(5) 住民と警察を結ぶ音のかけ橋、警察音楽隊
 警察音楽隊は、皇宮警察及び各都道府県警察に48隊が置かれており、隊員は約1,800人である。そのほとんどの隊が、婦人警察官や交通巡視員等の女性隊員によるカラーガード隊を編成している。
 隊員の多くは、警察業務に従事するかたわら、勤務の合間や非番の日を利用して厳しい訓練を重ねながら、警察が主催する防犯運動、交通安全運動等の行事や市町村等が主催する公的行事に出演しているほか、小、中学校等で開催される音楽教室や交通安全教室での演奏、福祉施設やへき地、島部での慰問演奏、昼休み時間を利用したコンサート等活発な演奏活動を行い、音楽を通じて国民と警察とのふれあいを深め、警察に対する理解と協力を確保する役割を果たしている。
 平成元年には、全国各地で約4,800回の演奏活動を実施しており、聴衆の数は延べ2,000万人にも達している。
 また、警察庁では、昭和31年から毎年、全国主要都市において、全国警察音楽隊演奏会を開催しているが、平成元年4月には、神戸において第34回大会を開催し、30隊、約1,300人が参加して、合同演奏、フロアードリルを行い、地元住民との交流を深めた。

2 事件、事故等に即応する警察活動

(1) 初動警察活動
ア 通信指令室と110番
 通信指令室は、110番通報を受理し、パトカーや派出所等の警察官に対して指令を発するセンターとして、全国の警察本部に置かれており、初動警察活動の中枢として重要な役割を果たしている。
 通信指令室では、殺人、強盗等の犯罪や事故の発生の110番通報を受けると、直ちにパトカーや派出所等の警察官を現場へ急行させ、また、必要に応じて緊急配備を発令したり、他の都道府県の警察本部にも通報するなど、警察官の緊急かつ組織的な動員によって、人命の救助や犯人の早期検挙等に努めている。
 また、昭和61年から毎年1月10日を「110番の日」と定め、この日に合わせ、国民に110番の仕組み、機能等についての広報を行い、この制度に対する理解と協力を求めながら、一層有効かつ積極的な利用の促進を図るとともに、併せて各種相談電話の利用を呼び掛けている。
 平成元年に全国の警察で受理した110番の件数は、約430万件で、前年に比べ約40万件(10.1%)増加した。これは、7.3秒に1回、国民29人に1人の割合で利用されたことになる。過去10年間の110番受理件数の推移は、表3-5のとおりである。

表3-5 110番受理件数の推移(昭和55~平成元年)



イ リスポンス・タイム
 元年の110番集中地域(注)におけるリスポンス・タイム(通信指令室で110番通報を受理してから、警察官が目的地に到着するまでの所要時間をいう。)の全国平均は、5分52秒であった。
(注) 110番集中地域とは、その地域のどこから110番をしても、自動的に警察本部の通信指令室につながる地域のことで、元年4月1日現在、全国の警察署の83.6%に当たる1,041警察署の管轄地域が110番集中地域となっている。110番集中地域外では、110番をすると所轄の警察署につながる。
 刑法犯事件に関するリスポンス・タイムと現場における犯人の検挙との関係をみると、表3-6のとおりで、3分未満に到着した場合には、24.7%を現場で検挙しており、リスポンス・タイムが短ければ短いほど、現場で犯人を検挙する確率が高い。
 なお、自動車台数の急激な増加に伴い、交通渋滞が激しくなり、パト

表3-6 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと現場における検挙の状況(平成元年)

カー等の車両に係るリスポンス・タイムの短縮は年々困難になってきているが、通信指令室では、地図自動現示装置等の最新鋭機器の導入やパトカーの分散配置及び派出所等の警察官への指令の強化を図ることにより、その短縮化に努めている。
(2) 水上警察活動
 近年においては、海上からの覚せい剤等の密輸事犯が目立つほか、高速艇を利用した夜間における養殖魚介類の大量密漁事犯等も依然として跡を絶たない現状にある。また、レジャー人口の増加とレジャースポーツの多様化は、水上(海上を含む。以下同じ。)にも広がり、それに伴い、水上オートバイ、モーターボート、スキューバダイビング等に伴う事故が増加している(第8章3(3)参照)。
 警察では、水上における警察事象に的確に対処するため、全国の水上警察署、臨港警察署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する133警察署に警察用船舶203隻を配備して、パトロール等による警戒、警備活動や各種の事件、事故等の検挙、取締り等に当たるとともに、訪船等による安全指導を積極的に行っている。また、各都道府県における「水上安全条例」の制定と見直しを促す(注)など、海、河川、湖沼等における水上交通の安全確保に努めている。
(注) この結果、平成元年には、滋賀県において「滋賀県琵琶湖等水上交通安全条例」の一部改正が行われた。
 水上警察体制を更に充実、強化するため、今後とも、警察用船舶の大型化、高速化及び装備資機材の高度化、船舶の運用体制の見直しによる警戒力の強化を推進することとしている。また、元年には、山口県及び福岡県の海上で広域にわたる操船訓練を実施したが、同様の訓練を引き続き実施するなど、船舶の広域運用のための基盤づくりに努めることとしている。
 元年の水上警察活動の状況は、犯罪検挙が380人、水難救助等の保護が659人、変死体取扱いが452体、遭難船舶救助が145隻であった。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移は、表3-7のとおりである。

表3-7 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移(昭和60~平成元年)

〔事例1〕 8月23日午前8時19分ころ、「関門橋の下を人がおぼれながら流されている」との届出を受けた山口県下関水上警察署の警察用船舶「あかま」は、直ちに現場海域方向に急行して捜索に当たった。約20分後、下関市長府浜浦町沖の海上を意識不明の状態で漂流中の男性を発見したので、引き上げて、人工呼吸を施すなどして救助した。
〔事例2〕 滋賀県警察は、元年に入ってから琵琶湖におけるプレジャーボート、特に水上オートバイによる衝突事故が増加したことから、水上事故の未然防止を図るため、警察用船舶、パトカー及び警察用航空機との連携による重点的な指導取締りを実施した結果、水上オートバイの無免許操船等40件を検挙した。

(3) 鉄道警察活動
 近年における国民のレジャー指向の高まり、各地におけるイベントの開催等により鉄道利用者は増加の一途をたどっている。こうしたことから、駅、列車等の鉄道施設内において、治安の維持に当たっている鉄道警察隊の任務はますます重要なものとなっている。
 鉄道警察隊は、鉄道沿線を管轄する警察署と連携を図りながら、警ら、立番等を通じて、すり、置引き等の犯罪の予防及び検挙、少年補導、迷い子、家出人の保護、地理案内等を行っている。
 また、主要鉄道路線の犯罪発生状況の分析結果を基に、新幹線や在来線の特急、急行、寝台列車等を重点に警乗を行い、盗難、迷惑行為等の予防及び検挙、キセル乗車の取締り、少年補導、要保護者の保護等を行うとともに、旅客に対して犯罪や事故防止上必要な指導等に努めている。
 さらに、置き石等による列車妨害、踏切事故等の鉄道事故を未然に防止するため、鉄道沿線の警戒警備、踏切における交通の指導取締り等を実施しているほか、沿線住民に対する事故防止の指導、広報や幼稚園児、小学生等を対象とした交通安全教室の開催等の活動を行っている。
 一方、鉄道施設内の治安を維持していくためには、警察と鉄道事業者が一体となって諸対策を講じていく必要がある。そのため、警察では、鉄道事業者との連絡協議会を設置し、定期的に会議を開催するなどして事件、事故等の発生時における迅速な通報や相互に連携してとるべき措置について、意思の疎通を図っている。また、列車事故を想定した共同訓練を行うなど有事に備えている。

〔事例1〕 平成元年5月、鉄道警察隊に寄せられた匿名の投書に基づき、内偵捜査を行った結果、東京駅から入場券で新幹線に乗車して、あらかじめ所持していた定期入場券で京都駅の改札口を出場した会社員3人を詐欺の現行犯で逮捕した(京都)。
〔事例2〕 12月、鉄道警察隊員が新宿駅山手線ホームにおいて、すり犯人を検挙のため張り込み中、挙動不審な男女を発見した。隊員が注視していると、男は、到着した電車に乗車しようとしていた女性客の背後に接着し、ハンドバッグの止め金を外して、その中から現金約7万円が入った財布を抜き取り、素早く近くの女に手渡したので、両人を窃盗の現行犯人で逮捕した(警視庁)。
(4) 警察用航空機の活動
 警察用航空機の運用方式については、従来、特定の事案事象を前提として活動する貸出方式を採っていたが、平成元年度から、陸上におけるパトカー等の活動と同様に、空からのパトロールを基本とした活動とする方式に改めた。
 この結果、交通情報の収集や公害事犯、密漁事犯の監視等は、空からのパトロールを通じて行われることとなった。 また、通信指令室からの指令により警察用航空機が速やかに現場に急行し、パトカー等と連携して犯人の捜索や追跡等の捜査活動、救

難救助活動等に従事するなど、事件事故等により即応しやすい体制となった。
 元年中における警察用航空機の警ら活動での出動回数は、約2,000回であり、そのうちの約300回が犯罪検挙の成果に直接結び付いた。また、救難救助活動では、約710回出動し、約260人を救助した。
〔事例1〕 2月15日、「大喪の礼」警備でパトロール中のヘリコプターが、「女性が川に飛び込んだ」旨の通報を受け、直ちに現場に急行したところ、川の中央付近をうつ伏せになって流れている女性を発見、隊員がワイヤーで降下し、仮死状態の女性を救助した(警視庁)。
〔事例2〕 7月20日、盗難自動車利用による連続ひったくり事件が発生し、通信指令室からの指令により直ちにヘリコプター2機が出動した。約1時間15分後に逃走中の容疑車両を発見し、2機で協力しつつ追跡を行い、地上の警察官を誘導して犯人3人を検挙した(大阪)。

3 安全な地域社会を形成するための施策

(1) 身近な犯罪の防止対策
ア 防犯広報、防犯診断、防犯指導
 警察では、テレビ、ラジオ等のマスメディアを利用したり、パンフレット等を配布することにより、防犯広報を積極的に実施している。
 また、侵入盗等の多発が予想される地域の家庭、事業所等を訪問し、家屋等の窓や出入口等について防犯診断を行って、防犯上の不備、欠陥を指摘し、その改善を促すなどの防犯指導を実施している。
 さらに、(財)全国防犯協会連合会と各都道府県防犯協会との協力を得て、最新の防犯機器、システムを搭載した防犯キャラバン車を活用し、効果的な防犯指導を実施するとともに、地域における防犯活動の活性化を図っている。
〔事例〕 警視庁では、管内に居住又は稼働する13箇国、130人の外国人(外資系会社会社員、留学生等)を招致して、安全と防犯に関するシンポジウムを開催した。国内で犯罪の被害に遭った外国人の体験発表や警察署員による防犯の心得についての講演、意見交換等を行って、外国人の自主防犯意識の高揚を図った。
イ 侵入盗の防止対策
 住民に強い不安感を与える侵入盗の発生を防止するため、侵入盗の発生が多い地域を中心に、52年から「盗犯防止重点地区」を指定しており、平成元年は、全国で825地区(警察庁指定85地区、都道府県警察指定740地区)を指定した。これらの地区においては、地区住民の代表、民間防犯団体の役員、警察署の幹部等で構成される推進協議会が設置され、地域住民と警察とが一体となった盗犯防止のための活動を進めている。
ウ 自動車盗の防止対策
 近年、盗難自動車が極左暴力集団の「テロ、ゲリラ」事件や金融機関対象強盗事件等の凶悪な事件に使用される傾向にあることから、警察では、その防止対策として、自動車のユーザーに対する「キー抜取り、ドアロック」の励行等についての広報啓発活動及び自動車関係業界や駐車場管理者等に対する防犯指導等を推進しているほか、警察庁に「自動車盗難防止対策委員会」を設置し、(社)日本防犯設備協会と協力して新しいキーシステムの開発、普及等の自動車盗難防止対策について検討を行い、運輸省及び(社)日本自動車工業会に対して、自動車盗難防止装置の機能強化等の要請を行った。
エ オートバイ盗、自転車盗の防止対策
 近年、刑法犯認知件数が増加傾向にあるが、オートバイ盗、自転車盗の増加がその大きな要因となっており、これらの犯罪は国民にとって最も身近な犯罪となっている。また、これらの犯罪は初発型非行として単純な動機から少年によって安易に行われることも多いため、警察では、その防止対策を重視し、自転車防犯登録の実施の促進、駐輪場の整備拡大に関する関係機関への働き掛け等の対策を推進することとしている。また、(社)日本自動車工業会に対して、オートバイの盗難防止装置の機能強化等の要請を行った。
 なお、自転車防犯登録は、自転車の盗難防止と被害回復の迅速化を図るため実施されており、元年12月末現在、全保有台数の約6割に当たる約3,692万台が登録されている。
〔事例〕 愛知県警察では、自転車防犯登録協会を通じて防犯登録の拡大を促すとともに、警察署ごとに「自転車、オートバイ盗防止重点地区」を指定し、自治体等の関係機関、団体や地域住民の参加を得て、防犯警戒、自転車等の防犯診断を実施したり、置き去り自転車等の発見、返還活動、市町村に対する駐輪場の整備拡充等の働き掛けを行うなど、多角的な盗犯防止対策を推進した。
(2) 幼児誘拐防止対策
 昭和63年から平成元年にかけて埼玉、東京で、今までに例をみない極めて悪質、残虐な一連の幼児誘拐殺人事件が発生し、この事件を契機として、幼児誘拐犯罪に対する国民の不安感が高まった。そこで、警察では、同種の事犯の再発防止を図るため、保育園、公園等に対する防犯パトロールの強化、児童を持つ家庭を重点とした巡回連絡や防犯指導の実施のほか、イラスト入りのわかりやすい児童向けのパンフレットの配布、紙芝居及び寸劇を活用した防犯教室の開催、町内会、団地自治会等と連携した防犯座談会の開催、(財)全国防犯協会連合会が作成した警察庁監修の防犯映画「誘拐」の上映会の実施、防犯広報車、警察用航空機(ヘリコプター)による防犯広報の実施等を行った。さらに、市町村、教育委員会、私立幼稚園協会等の関係団体に対して協力を要請したり、地域住民による自主防犯パトロール活動を積極的に支援するなどして、この種の犯罪の総合的再発防止対策を行った。
〔事例〕 埼玉県の小学校のPTA等では、地元警察署の指導の下、団地、公園、通園通学路等を重点とした、児童の保護者等による自主防犯パトロールを実施したり、防犯映画「誘拐」等を用いた勉強会を開催するなどして、幼児誘拐犯罪防止のための自主防犯活動を積極的に行った。
(3) 地域、職域における防犯活動
ア 安全なまちづくり
 犯罪が行われにくいまちづくりのためには、建造物等による死角空間を減らし、住民の視線が常に道路等の公共の場所に注がれるような工夫を進める必要がある。
 警察では、(財)都市防犯研究センター等の研究機関と協力して、犯罪が行われにくいまちづくりのため、近隣意識が希薄であると言われている高層集合住宅における防犯対策に関する調査研究等の調査研究活動を進めており、その成果を基に、地域開発等の場において防犯的視点からの提言を行っている。
〔事例〕 山口県警察では、開発中の新興住宅団地を防犯モデル地区に指定し、開発業者、環境設計研究者等の協力を得て、部屋のこぼれ灯や玄関灯による明るい街を確保するため、入居者に対して塀の高さや住宅設備についての協力を呼び掛けたり、防犯ベル、赤色回転灯等の設置を図るなど、住宅地形成の段階から安全なまちづくりを目指した防犯活動を行っている。
イ 防犯協会、防犯連絡所の活動
 地域における防犯活動の担い手である防犯協会(注)は、警察と協力して、地域における犯罪の予防、社会環境の浄化等犯罪のない安全なまちづくりのための活動を行っている。
(注) 防犯協会とは、全国におおむね警察署単位で組織されている地区防犯協会、都道府県単位で組織されている都道府県防犯協会、全国的な組織である(財)全国防犯協会連合会等を総称するものである。
 さらに、最近においては、少年非行や覚せい剤等薬物の乱用が全国的な広がりをみせていることから、従来から実施している侵入盗等の防止を目的とした活動に加え、少年の非行防止と健全育成を目的とした活動及び覚せい剤等薬物の乱用の防止を目的とした活動を積極的に展開している。
 また、地域における民間の自主防犯活動の拠点として設けられている防犯連絡所は、平成元年12月末現在、全国で76万4,052箇所(51世帯に1箇所)設置されており、地域における事件、事故の通報、防犯座談会の開催等の活動を行っているほか、警察や防犯協会が作成した資料を住民に伝達するなど、地域における警察と住民とのパイプ役を果たしている。
 警察では、地域における防犯活動の活性化を促進するとともに、警察の行う防犯対策と地域における防犯活動との有機的な連携を図るため、防犯協会や防犯連絡所の体制の強化や犯罪情勢に応じた効果的な活動についての助言、指導等を行っている。
〔事例〕 長野県では、防犯協会の賛助会員であった職域防犯団体を正会員に組み入れ、新たに団体、企業の参加を得て会員の拡大を図るとともに、防犯協会事務局体制の充実強化を図った。また、防犯協会に広報、防犯、青少年等の部会制度を取り入れ、部会をベースとして防犯ボランティア研究会を開催したり、機関紙の発行を活発化させるなど、組織の活性化と事業活動の拡大を図っている。
ウ 職域防犯団体の活動
 警察では、犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪の場となり又は犯罪のため利用されやすい業種、防犯活動や捜査活動に対して組織的な協力を行うことのできる業種等については、それぞれ職域防犯団体の結成を呼び掛け、これらの組織による自主防犯活動の活性化を図っている。元年12月末における職域防犯団体の結成状況は、表3-8のとおりである。
 警察では、これらの団体に対し、研究会の開催、資料の配布等を通じて、業種に応じた防犯対策等についての助言や協力を行い、活動の促進を図っている。

表3-8 職域防犯団体の結成状況(平成元年12月)

エ 金融機関等における防犯対策
 元年における金融機関対象強盗事件の発生件数は、79件であり、前年に比べ35件(30.7%)減少した。このような事件は、模倣性が強く、続発するおそれがあるだけでなく、社会的影響も大きいことから、警察では、金融機関との連絡会議を開催するほか、パトロール等の際に、「金融機関の防犯基準」に基づき防犯指導を行っている。また、(財)日本防災通信協会等と協力して、管理体制、防犯設備の充実を促進している。
 金融機関の防犯設備の設置状況は、表3-9のとおりであり、逐年設置率が高くなっている。しかしながら、金融機関によっては、依然として設置率が低いところもあり、さらに、防犯設備の設置の促進を図っていくこととしている。

表3-9 金融機関の防犯設備の設置状況(平成元年10月)

 また、最近、金融機関等に設置されている現金自動支払機内の現金をねらった盗難事件が多発していることから、警察では、これらの施設に対するパトロールを強化するとともに、現金自動支払機の設置者、管理者、製造会社のほか、警備業者等を交えた関係団体との連絡会議を積極的に開催し、未然防止に努めている。
 なお、現金自動支払機対象盗難事件では、容易に機械が破壊されている点に問題があり、今後は破壊されにくい現金自動支払機の開発、普及を図っていく必要がある。
〔事例〕 12月、函館市内の銀行に少年(18)が侵入し、カウンター内の女子行員にモデルガンを突き付け、現金500万円を出すよう脅迫した。事態に気付いた支店長代理は、「金を用意するから」と犯人を応接室に誘い込み、時間を稼ぐなどの適切な措置を採ったことから、犯人は、間もなく非常通報によって駆け付けた警察官に現行犯逮捕された(北海道)。
オ 全国防犯運動の実施
 元年の全国防犯運動は、盗難自動車が他の犯罪に利用されることが多いこと、身近な犯罪として国民に強い不安感を与えている侵入盗が依然として多発していることなどにかんがみ、自動車盗、侵入盗等の盗犯の防止を全国統一重点として、10月11日から20日までの10日間実施された。この運動期間中、全国各地で防犯キャラバン、防犯展の開催等の防犯活動が展開され、地域、職域における防犯意識の高揚に大きな役割を果たした。
(4) 警備業の健全育成
ア 安全へ貢献する警備業
 警備業は、その業務が原子力発電所、空港等から一般家庭に至るまでの様々な施設における施設警備、工事現場等における交通誘導警備、祭礼等における雑踏警備、現金、核燃料物質等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及んでおり、国民の自主防犯防災活動を支える「安全産業」として、社会の安全に大きく貢献している。特に、最近は、一般家庭や事務所等に侵入感知機等のセンサーを設置して、基地局において犯罪や事故の発生を警戒し、防止する機械警備業が、急速な発展を遂げており、犯罪の防止等に重要な役割を果たしている。
 平成元年12月末現在、警備業者数は5,248業者、警備員数は23万2,617人で、前年に比べ、352業者、1万3,737人それぞれ増加した。最近5年間の警備業者数、警備員数の推移は、表3-10のとおりで、一貫して増加傾向にある。
 また、元年の警備業者又は警備員の届出による刑法犯認知件数は、全刑法犯認知件数の0.7%に当たる1万2,416件となっている。元年の民間

表3-10 警備業者数、警備員数の推移(昭和60~平成元年)

協力等による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況をみると、「警備業者又は警備員の協力」によるものは、1万946件で、「第三者の協力」によるもの8,737件を上回っている。

イ 警備業者等に対する指導、監督
 警察では、警備業が民間における防犯システムの一環として地域防犯活動、職域防犯活動と並んで重要な役割を果たしていることから、警備業務の実施の適正を確保するため、警備業法に基づき警備業者に対する指導、監督を行うとともに、警備業協会等を通じた行政指導を行うことにより、警備業の健全育成を図っている。
 また、業界の自主的努力を促すためにも、各都道府県警備業協会の法人化を促進してきたが、その結果、元年までに47都道府県すべての警備業協会が法人化された。
ウ 警備員等に対する検定の実施
 警備員等に対する検定制度とは、警備業法に基づき、都道府県公安委員会が警備員又は警備員になろうとする者について、その知識及び能力に関する試験を行い、合格した警備員等が一定水準以上の知識及び能力を有することを公的に認める制度であるが、この制度が社会に定着することによって、警備業者が警備員の効果的な教育に努めるとともに、警備員等が自主的にその知識及び能力の向上に努めることが期待されている。
 検定は、都道府県公安委員会が行う学科試験及び実技試験により判定されるが、国家公安委員会が指定した講習の課程を修了した者については、学科試験及び実技試験が免除されることとされており、現在のところ、(社)全国警備業協会が行う講習と(財)空港保安事業センターが行う研修が、それぞれ指定講習として指定されている。

 元年12月末までに検定に合格した者の数は、1万3,217人で、検定に合格した者は、その旨を証する標章(QGマーク)を用いることができることとされている。
(5) 質屋、古物営業の健全育成
 質屋営業法又は古物営業法により都道府県公安委員会から許可を受けている質屋、古物商等の数の推移は、表3-11のとおりで、質屋は漸減し、古物商は漸増している。

表3-11 許可を受けている質屋、古物商等の数の推移(昭和60~平成元年)

 平成元年に質屋、古物商等が盗品等を発見することなどにより被害者に返還できた件数は、質屋が5,913件、古物商が1,469件である。質屋、古物商等は、その業務を通じて盗品等を扱う機会が多く、民間における防犯システムの一環として重要な役割を果たしており、警察では、全国質屋防犯協力会連合会、全国古物商組合防犯協力会連合会等の関係業界団体と緊密な連携を保ちつつ、その指導、健全育成に努めている。
(6) 調査業の健全化
 探偵社、興信所等の調査業については、化調(ばけちょう)(注)を常習とする業者や暴力団が経営に関与している業者等の悪質な業者による不適正な営業活動が跡を絶たない状況にある。
 警察では、悪質な調査業者に対する取締りに努めるとともに、営業活動の健全化に向けた自主規制を推進するよう働き掛けている。これを受けて、(社)日本調査業協会では、秘密の保持等を定めた業務倫理綱領を制定して協会加盟員に対しその徹底を図るとともに、利用者からの苦情の処理等営業活動の適正化に向けた各種の事業活動を行っている。
(注) 化調(ばけちょう)とは、業界の用語で、調査依頼がないにもかかわらず、調査依頼があったかのように装い、調査対象者に対し、「依頼者には優良な企業であると報告する」などと申し向けたり、これをにおわせたりして、会費、広告費等の名目で金銭を要求することを指す。
(7) 優良な防犯機器の普及、推奨
 侵入盗等に対する自主防犯体制の整備、充実のためには、優良な防犯機器の普及が重要である。
 防犯警報機やホーム・セキュリティ・システムは、近年広く利用されるようになっているが、誤報が多いなどの問題点もある。警察では、その性能の向上と普及に資するため、優良な機器、システムの研究、開発を関係業界等に働き掛けているほか、(社)日本防犯設備協会等と連携しつつ、その性能に関する自主基準づくりや、防犯機器、システムの設置及び整備を行う者に関する資格制度の創設を促進している。
 また、(財)全国防犯協会連合会では、優良な防犯機器の普及を図るため、優良住宅用開き扉錠の型式認定制度を実施し、優良な住宅用開き扉錠を広く一般に推奨している。
(8) 長寿社会総合対策の推進
 警察では、犯罪や事故からの「高齢者の保護」、防犯や交通安全等の面での「高齢者の社会参加」を二本柱とする「長寿社会総合対策要綱」等の名称による警察活動の指針を設けて、地域の実情に応じた長寿社会対策を推進している。
 また、都道府県防犯協会、地区防犯協会等では、高齢者部会を設けるなどにより、高齢者の保護と社会参加を高齢者自身の立場から推進するための活動を行っている。
ア 高齢者の保護
 警察では、高齢者を犯罪や事故から保護するため、巡回連絡等を通じ高齢者宅を訪問し、その実態を把握するとともに、防犯指導を行っている。また、高齢者が犯罪や事故の被害に遭わないよう、シルバーデー、独居高齢者宅訪問日等を設定して、計画的、集中的に巡回訪問等の活動を行っているほか、各種のパンフレットの配布、老人クラブや老人ホーム等における防犯教室、防犯講習会の開催等の積極的な活動を行っている。
〔事例〕 岩手県警察では、高齢者を犯罪や事故の被害から守るため、毎月7日と17日を「トントンパトロールの日」に指定し、外勤警察官等が、各警察署の柔剣道スポーツクラブの子供達と一緒に、老人ホームや独居家庭を慰問したほか、悪質な訪問販売や交通事故の被害防止等を目的とした防犯教室を開催したり、有事の際の電話番号を記録した「ダイヤルメモ」の作成配布を行うなど、高齢者保護のための施策を総合的に推進した。
イ 高齢者の社会参加の推進
 警察では、高齢者による地域に密着した自主防犯活動や環境浄化活動等の社会参加活動を促進しているほか、防犯協会の役職員、防犯連絡所責任者、少年補導員等の選任に当たっても、高齢者への委嘱に配意している。
 また、警察では、世代間の交流を通じ、高齢者がその知識と経験を生かして青少年健全育成活動に当たるための様々な行事等を行っている。
〔事例〕 警視庁では、老人クラブの協力を得て、道路に放置してある自転車に盗難防止の「荷札」を付ける活動を実施したり、小学校で「自転車教室」を開催する際に、「おじいちゃんの自転車点検」と銘打った高齢者と小学生とのふれあいの場を設けるなどして、高齢者の社会参加活動に努めるとともに、「敬老農園」を設けて、高齢者と子供が一緒になって、野菜、草花を育てる活動も広範囲にわたり推進した。
ウ 長寿社会対策パイロット地区活動
 警察では、長寿社会対策の効果的な推進を図るため、昭和62年度から、高齢化が進んでいる地域90地区を「長寿社会対策パイロット地区」に指定している。これらの地区においては、関係機関、団体等と連携して、犯罪や事故の被害となりやすい高齢者を対象とした防犯座談会や防犯教室等を開催し、犯罪や事故の防止について啓発を行うとともに、希望者を募り、防犯運動、交通安全運動等の地域に密着した活動への参加を促進している。

4 協力援助者等に対する救済

(1) 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済
 一般の市民が社会公共のため現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助し、災害(負傷、疾病、障害又は死亡)を受けた場合には、本人やその家族の生活の安定を図るため、その災害の程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 平成元年に、警察官の職務に協力援助して災害を受けた市民は、死者11人(前年比1人増)、受傷者14人(前年比16人減)である。
〔事例〕 大学生(21)ら2人は、電車内で女性客らに足で蹴るなどの暴行を加えている犯人を目撃し、取り押さえようとしたところ、隠し持っていたナイフで切り付けられたが、これにひるむことなく、駆け付けた警察官の犯人逮捕に協力した。その際、全治5日間の傷害を負った。
 この協力援助者2人には、療養給付として約2万3,000円が支給された(埼玉)。
(2) 犯罪被害者等に対する救済
ア 犯罪被害給付制度による救済
 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人や爆弾事件等故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた被害者の遺族又は身体に重大な障害を負った被害者に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が給付金(遺族給付金及び障害給付金をいう。以下同じ。)を支給し、その精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとして創設されたものであり、昭和56年1月1日から実施されている。
 犯罪被害者又は遺族からの給付金の申請及びこれに対する各都道府県公安委員会の裁定等の状況は、制度創設以来9年間に、2,085人に対して総額約45億2,400万円の給付金が支給されている。
イ (財)犯罪被害救援基金の活動
 (財)犯罪被害救援基金は、国の犯罪被害給付制度を補完し、充実させることを目的として、56年5月に設立された。
 同基金は、国民各層から寄附された浄財を基本財産として、犯罪被害遺児に対する奨学事業等の救援事業を行っており、基金設立以来平成元年12月末までに、940人の奨学生に対し、約5億1,400万円の奨学金を支給している。奨学金の月額については、これまで3回にわたり引上げを行い、月額7,000円(小学生)から2万5,000円(大学生)までを支給しているほか、入学一時金として、昭和59年4月から大学入学時に5万円、小学校入学時には7万円を、61年4月からは高等学校及び中学校入学時にそれぞれ3万円を支給している。
 また、同基金では、59年4月から重障害を受けた犯罪被害者に対する見舞金の給付事業も行っており、平成元年12月末までに、30人に対し、1,000万円を支給している。


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