第6章 交通安全と警察活動

1 交通情勢

(1) 道路交通の現況
ア 自動車輸送量の伸び
 昭和62年度の自動車による貨物輸送量は、約2,241億トンキロで、前年度に比べ約79億トンキロ(3.7%)増加し、国内貨物総輸送量の50.2

図6-1 輪送機関別貨物輸送量の推移(昭和53~62年度)

図6-2 輸送機関別旅客輸送量の推移(昭和53~62年度)

%を占めている。過去10年間の輸送機関別貨物輸送量の推移は、図6-1のとおりで、62年度の鉄道による輸送量が53年度に比べ49.2%減少しているのに対し、自動車による輸送量は43.6%の増加となっている。
 62年度の自動車による旅客輸送量は、約5,407億人キロで、前年度に比べ約409億人キロ(8.2%)増加し、国内旅客総輸送量の58.2%を占めている。過去10年間の輸送機関別旅客輸送量の推移は、図6-2のとおりで、62年度の鉄道による輸送量が53年度に比べ10.8%の増加であるのに対し、自動車による輸送量は34.2%の増加となっている。
イ 自動車保有台数の伸びと道路網の整備
 我が国の自動車保有台数は、増加傾向にあり、63年には約5,921万台となっている。また、最近では、軽自動車の増加が特に目立っている。自動車及び原動機付自転車の保有台数の推移は、図6-3のとおりである。

図6-3 自動車及び原動機付自転車の保有台数の推移(昭和50~62年度)

 62年度末の一般国道、都道府県道の舗装済道路延長(簡易舗装を含む。)は約16万2,289キロメートルで、前年度末に比べ1,638キロメートル(1.0%)延長された。過去13年間の舗装済道路延長の推移は、図6-4のとおりである。

図6-4 舗装済道路延長の推移(昭和50~62年度)

ウ 運転免許保有者の増加
 過去14年間の運転免許保有者数の推移は、図6-5、表6-1のとおりで、依然として増加傾向を示し、63年12月末現在、約5,742万人となっている。16歳以上の運転免許適齢人口における免許保有率は59.3%で、男性では約1.3人に1人、女性では約2.4人に1人が免許を保有している。年齢層別では、男女とも20歳代後半(25歳以上29歳以下)の免許保有率が最も高く、男性では95.5%、女性では78.5%となっている。
 最近の特徴的傾向としては、女性運転者と高齢運転者の増加が挙げられる。女性の運転免許保有者数は、54年には約1,149万人であったが、63年には約2,094万人と約1.8倍に増加しており、男性の約1.2倍を大幅に上回っている。また、65歳以上の高齢者の運転免許保有者数も、54年には約83万人であったが、63年には約222万人と約2.7倍に増加している。

図6-5 運転免許保有者数の推移(昭和50~63年)

表6-1 運転免許保有者数の推移(昭和54~63年)

(2)昭和63年の交通事故発生状況
ア 概況
 昭和63年に発生した交通事故は、発生件数が61万4,481件、死者数が1万344人、負傷者数が75万2,845人で、前年に比べ、発生件数は2万3,758件(4.0%)、死者数は997人(10.7%)、負傷者数は3万666人(4.2%)それぞれ増加した。年間死者数が1万人を超えるのは50年以来13年ぶりのことである。過去14年間の交通事故件数の推移は、図6-6のとおりである。

図6-6 交通事故件数の推移(昭和50~63年)

イ 死亡事故の分析
(ア)状態別、年齢層別にみた交通事故死者数
 63年と54年の状態別、年齢層別にみた交通事故死者数は、図6-7、図6-8のとおりで、63年の交通事故死者数を状態別、年齢層別にみると、年間交通事故死者数が最高であった45年以降で死者数が最少の54年に比べ、自動車乗車中の死者数は、各年齢層で増加した。自動二輪車乗車中の死者数は、16歳以上29歳以下の年齢層の増加が著しい。原動機付自転車乗車中の死者数は、70歳以上の年齢層での増加が著しい。自転車乗車中及び歩行中の死者数は、15歳以下の年齢層では減少しているが、70歳以上の年齢層の増加が著しい。
 自動車乗車中の死者数は、54年に比べ、721人(24.0%)増加して3,719人となり、自動二輪車乗車中の死者数は、880人(117.8%)増加して1,627人となり、歩行中の死者数は、79人(2.7%)増加して2,967人となった。
a 自動車乗車中の死亡事故の実態
 63年の自動車乗車中の死者数は、3,719人で、62年に比べ527人(16.5%)増加した。63年の自動車乗車中の死者のうち、シートベルト非着用者は、2,534人であり、特に夜間の自動車乗車中の死者の約7割(1,679人)が非着用者である。63年の自動車乗車中の死者数をシートベルト着用別、昼夜間別からみると、図6-9のとおりである。
b 二輪車乗車中の死亡事故の実態
 二輪車乗車中の死者数の推移は、図6-10のとおりである。63年の二輪車乗車中の死者数を年齢層別にみると、16歳から24歳までが1,526人で、この年齢層で全体の59.6%を占めている。自動二輪車については、16歳から19歳までが46.4%と圧倒的に多く、これに20歳から24歳(28.2%)を加えると、全体の約75%を占めている。一方、原動機付自

図6-7 状態別、年齢層別死者数(昭和63年)

図6-8 状態別、年齢層別死者数(昭和54年)

転車については、16歳から19歳までが26.8%と比較的多いものの、全般に各年齢層間の差が少ない。

図6-9 シートベルト着用別、昼夜間別自動車乗車中の死者数(昭和62、63年)

図6-10 二輪車乗車中の死者数の推移(昭和52~63年)

c 自転車乗車中及び歩行中の死亡事故の実態
 63年の自転車乗車中及び歩行中の死者数を年齢層別にみると、65歳以上の高齢者の死者数が多く、自転車乗車中の死者数は491人で全体の46.3%を占め、歩行中の死者数は1,381人で全体の46.5%を占めている。
(イ) 第1当事者別、道路形状別にみた交通死亡事故の実態
 63年の死亡事故を第1当事者(注)別、道路形状別にみると、図6-11のとおりで、自動車乗車中は、一般単路、カーブの死亡事故件数、歩行中は、一般単路、交差点での死亡事故件数が多い。
(注) 第1当事者とは、当該交通事故に関係した者のうち、過失が最も重いものをいい、過失の程度が同程度の場合は、被害の最も軽いものをいう。

図6-11 第1当事者別、道路形状別死亡事故件数(昭和63年)

(ウ) 時間帯別、年齢層別にみた交通死亡事故の実態
 63年の死亡事故を昼夜間別にみると、前年に比べ、昼間315件(7.8%)、夜間569件(11.5%)それぞれ増加した。過去10年間の昼夜間別の死亡事故件数の推移は、図6-12のとおりで、昼間の死亡事故件数がほぼ横ばいで推移しているのに対し、夜間の死亡事故件数が増加傾向にある。
 生活時間帯の多様化、夜型生活の流行といった生活様式の変化が道路交通に与える影響は、交通事故発生状況にも現れている。

図6-12 昼夜間別の死亡事故件数の推移(昭和54~63年)

 自動車乗車中の死者数を時間帯別にみると、18時から6時までの死者数は、2,383人で、全体の64.1%を占めている。年齢層別にみると、20歳代では、22時から6時までの夜間の時間帯の死者数が多いが、60歳代では、12時から20時までの時間帯の死者数が多く、0時から4時までは極めて少ない。63年の時間帯別、年齢層別による自動車乗車中の死者数 は、図6-13のとおりである。

図6-13 時間帯別、年齢層別自動車乗車中の死者数(昭和63年)

 63年の二輪車乗車中の死者数を時間帯別、年齢層別にみると、図6-14のとおりである。
 63年の歩行中の死者数を時間帯別、年齢層別にみると、図6-15のとおりで、18時をピークとして夕方の死者が多い。年齢層別では、15歳以下では14時から18時、40歳代では22時から4時までの夜間、70歳以上では、18時前後の死者数が多い。

図6-14 時間帯別、年齢層別二輪者乗者中の死者数(昭和63年)

図6-15 時間帯別、年齢層別歩行中の死者数(昭和63年)

(エ) 高齢者に係る交通死亡事故の実態
 63年の高齢者(65歳以上)の死者数は、2,369人で、前年に比べ267人(12.7%)増加し、死亡事故の第1当事者となるケースも増えている。高齢者の交通事故死者数の推移は、図6-16のとおりである。

図6-16 高齢者の交通事故の状況(昭和50~63年)

(3) 大都市地域における交通渋滞
 自動車輸送量、自動車保有台数及び運転免許保有者数の推移から分かるように、自動車交通は一貫して増大しているが、急激な交通需要の増加は、特に大都市地域において深刻な交通渋滞を引き起こしている。
 東京都内の渋滞状況は、図6-17のとおりである。

図6-17 東京都内における渋滞状況(昭和58~63年)

2 国民のニーズに応じた交通警察活動の展開

(1) 国民に身近な交通警察
 自動車交通は、ドアからドアへという交通手段としての利便性から通学、通勤、買物、レジャー等の様々な目的に利用されており、国民の日常生活と切り離せないものとなっている一方で、交通事故、交通渋滞、交通公害等の弊害をもたらす原因になっている。このような自動車交通を扱う行政機関である警察の活動は国民生活に非常に大きな影響を与えるものである。
 警察は、運転者、歩行者等の交通参加者にとって最も身近な行政機関として、住民相談、学識経験者で構成する交通警察懇談会等の機会を通じて国民のニーズを十分に把握し、運転免許、交通規制、交通指導取締り等の交通警察活動に反映させている。
(2) 国民のニーズに応じた交通警察活動の展開
 免許証の更新等のために窓口を訪れる国民に対するサービス向上を図るため、運転免許関係事務の機械化、OA化を推進し、即日交付をはじめとする運転免許証の更新手続の簡素化、迅速化に努めている。昭和63年には、運転者の待ち時間を短縮するため、運転免許証超迅速作成機器の導入を図るとともに、更新手続を簡便に知りたいという運転者の要望に応じるため、免許証の裏面に所要の案内事項を記載した。
 交通規制においては、交通実態を的確に把握し、住民等の意見を十分に勘案して、真に合理的な規制となるよう努めるとともに、従来の規制についてもきめ細かな点検を行っている。また、快適な運転を求めるドライバーのニーズにこたえるため、交通管制システムの高度化及び交通情報提供施設の整備充実による交通情報提供機能の拡大に努めている。
 駐車問題についても、週末等における駐車禁止規制の解除、時間制限駐車区間規制を行うなど、現実の駐車実態に対応したきめ細かな駐車対策を行っている。
 交通指導取締りに当たっては、国民の取締り要望等を踏まえて、街頭活動の一層の強化を図るとともに、飲酒運転、無免許運転、著しい速度超過等の交通事故に直結する悪質、危険な違反態様や幹線道路の交差点等における駐停車違反、暴走族の騒音運転等迷惑性の強い違反態様に最重点を置いた取締りを実施している。
 高速道路は、交通事故や道路工事によって大規模な交通渋滞が頻繁に 生じるので、警察は、交通事故処理を一層迅速化して交通流の早期回復を図るとともに、道路工事時期を調整するなどして高速道路での国民のイライラ運転解消に努めている。

3 体系的な交通安全教育の推進

(1) きめ細かな交通安全教育の推進
ア 段階に応じた交通安全教育
 警察では、学区、団地等地域ごとに、交通事故の被害者となりやすい幼児、子供、高齢者等に重点を置いて、交通安全教室、交通安全講習会等を開催している。
 幼児、子供に対しては、年齢に応じた交通安全教育を推進しているほか、幼児交通安全クラブ、交通少年団等地域組織の育成に努めている。昭和63年9月末現在、全国で約1万7,000の幼児交通安全クラブが組織され、幼児約161万人、保護者約149万人が加入し、また、約4,000の交通少年団が組織され、小学生約80万人、中学生約13万人が加入している。
 高齢者に対しては、高齢者のいる家庭に対する巡回指導を徹底しているほか、高齢者同士の相互啓発により交通安全意識を高揚させるため、全国の老人クラブ、老人ホーム等に交通安全部会等の設置を促すとともに、高齢者に交通安全指導員を委嘱するなどして、高齢者の自主的な交通安全活動を推進している。
 身体障害者に対しては、点字の交通安全パンフレット等を作成、配布するなど、地域における福祉活動の場を利用して、交通安全指導に努めている。
イ 地域交通安全活動のささえ
 地域における交通安全活動を推進するため、交通指導員等の民間有志や交通安全協会等の民間交通安全団体が活動している。交通安全協会は、各警察署単位の地区交通安全協会を中心に、警察と連携して、全国交通安全運動やシートベルト着用推進運動をはじめ、自転車、二輪車教室等各種講習会の開催、交通安全広報の実施、教育資料の作成、配布、優良運転者、交通安全功労者の表彰等幅広い活動を展開している。このほか、二輪車安全普及協会は二輪車運転者の安全教育を、指定自動車教習所協会は初心運転者教育を、交通安全母の会は母親を中心として家庭における安全教育を行うなど、それぞれの立場から交通安全活動を推進している。
 警察では、関係機関と協力して、交通安全指導者に対する研修会の開催や交通事故実態の資料の配布を行うなど、これらの活動が効果的に行われるよう必要な協力を行っている。
(2) 全国交通安全運動
 昭和63年の全国交通安全運動は、4月6日から15日までの間と9月21日から30日までの間、子供と高齢者の交通事故防止、正しい方法によるシートベルト及びヘルメットの着用の徹底、歩行者及び自転車利用者の交通事故防止、若年運転者の無謀運転の防止等を重点として展開され、警察は、この運動の中心となって交通安全教育、街頭指導等の交通安全対策を実施した。
(3) 事業所等における交通安全活動の推進
 一定台数以上の自動車を使用する事業所等で選任されている安全運転管理者及び副安全運転管理者(平成元年3月末現在、約30万箇所の事業所に、安全運転管理者約30万人、副安全運転管理者約4万人)は、安全な運転の確保に留意した運行計画の作成、シートベルトの正しい着用の方法の指導等事業活動に伴う交通安全対策を推進している。
 警察では、これら安全運転管理者等に対して、交通事故防止対策が効果的に推進されるよう、安全運転管理に必要な知識等について講習を実施しており、63年度の実施回数は約2,000回、受講者数は約33万人であった。
 また、都道府県ごとに安全運転管理者等を会員とする安全運転管理者協議会が結成されており、交通安全運動、正しい方法によるシートベルト着用推進運動を積極的に推進するとともに、安全運転管理に関する各種講習会の開催、教育資料の作成等、地域、職域における交通安全思想の普及に努めている。
 さらに、安全運転管理者制度に対する事業主の理解と協力を得るため、道路交通の現状と交通事故の実態、交通事故と企業経営等を内容とする事業主講習会が各地で開催されている。また、安全運転管理者等と事業主が一体となって安全運転管理及び交通安全活動を推進するために、事業主会の組織化が進められ、63年12月末現在、3県で県組織が、18県で地区組織が結成され、活発な活動が行われている。
(4) 自転車安全整備制度の推進
 自転車安全整備制度は、整備不良の自転車を一掃するとともに、自転車の正しい乗り方を普及させるためのものであり、毎年1回、自転車安全整備技能検定が実施されている。昭和63年12月末現在、自転車安全整備士は5万745人、自転車安全整備店は3万595店である。
 なお、点検整備を受けた自転車にはTSマーク(Traffic Safety マーク)を貼(ちよう)付することとされており、また、自転車事故の被害者の救済に資するため、TSマークの貼(ちよう)付された自転車には傷害保険、損害賠償保険が附帯されている。61年4月には、傷害保険の支払対象が拡大され、63年は、40件の事故に対し保険金が支払われている。
(5) 今後の課題
 国民皆免許時代を迎え、道路交通の場は、国民の日常的な社会生活の一部となっている。交通参加者の一人一人が良識と節度を持って安全に行動することこそ交通安全の根幹であり、自発的な安全行動に向けて人々を促していく交通安全教育が最も抜本的な交通安全対策である。そこで、警察庁では、昭和62年度及び63年度において、(財)国際交通安全学会に委託して、「交通安全教育の体系化に関する調査研究」を行った。
 この研究報告では、
○ 交通安全教育が、年齢段階や特性に応じて適切に行われること
○ 一定段階で行われる教育が、それ以前に行われた教育を基礎として、又は相互に関連付けて行われること
○ 地方公共団体、学校、職場を含めた様々な場で行われている教育が、相互補完的に有効に行われること
などの必要性が提言されている。
 警察としては、これらを踏まえて、積極的に関係機関への働き掛けや交通安全に係る民間事業者等に対する協力、援助を行うなど、交通安全教育の体系化を一層推進することとしている。

4 運転者に対する施策の推進

(1) 運転者教育の推進
ア 自動車教習所における教習の充実
(ア)指定自動車教習所における教習体制の強化
 指定自動車教習所は、昭和63年12月末現在、全国で1,523箇所ある。また、63年の指定自動車教習所の卒業者で運転免許試験に合格した者は、約261万人で、合格者全体の94.8%を占めており、指定自動車教習所は、初心運転者教育の中心的役割を果たしている。
 各都道府県公安委員会では、指定自動車教習所に対する指導監督を徹底し、教習体制の充実強化に努めている。
(イ) 指定自動車教習所における教習内容の充実
 オートマチック車による初心運転者の交通事故防止を図るため、更に教習時限を増やしてほしいとの要望が強いことから、現行の教習時限内でオートマチック車の教習時限を2時限増やし、4時限とすることとした。
 また、初心運転者の高速道路(注)上での交通事故防止を図るため、高速教習の積極的推進に努めている。
(注) 高速道路とは、高速自動車国道法第4条第1項に規定する高速自動車国道及び道路交通法施行令第42条第1項に規定する自動車専用道路をいう。
(ウ) 指定外自動車教習所における教習水準の向上
 初心運転者の教育は、都道府県公安委員会の指定を受けていない自動車教習所においても行われており、このような指定外自動車教習所は、63年12月末現在、全国で224箇所(個人指導業、貸しコース業を除く。)ある。
 各都道府県公安委員会は、指定外自動車教習所の実態の把握とこれに対する指導を強化するとともに、指導員等に対する研修会の開催、資料の提供等の協力、援助を積極的に行い、教習水準の向上に努めている。
イ 初心運転者講習の充実
 初心運転者の事故率、違反率は、他の運転者と比べて高いが、これは、運転経験の不足及び運転操作の未熟から危険予知、回避能力が十分備わっていないためであると考えられる。このような初心運転者特有の危険性を改善することを目的として、運転免許取得後1年未満の初心運転者で軽微な違反を犯して一定の基準に達した者を対象に初心運転者講習を行っている。
 初心運転者講習の内容は、初心運転者用の視聴覚教材を利用した安全運転知識の教授、運転適性検査及び実際の走行による運転技能指導であり、63年中の受講者は、約8万5,000人で、全受講対象者の約70%がこの講習を受講した。
ウ 二輪車運転者に対する講習の充実
(ア) 原付免許取得者に対する安全技能講習の充実
 原動機付自転車による交通事故を防止するため、原付技能講習実施団体に対する適切な指導に努めるとともに、施設、体制の充実を図り、原付免許の新規取得者を対象に、原付安全技能講習を行っている。
 その内容は、パネル教材等を活用した危険予知訓練、コース走行、自己診断方式の運転適性検査等で安全運転態度及び安全運転技能の体得を図っている。63年の受講者は、約61万人で、原付免許取得者のほとんどがこの講習を受講している。
(イ) 自動二輪車運転者に対する安全講習の充実
 増加傾向にある自動二輪車の交通事故を防止するため、特に若年の二輪免許新規取得者を対象に、交通機動隊員等自動二輪車の運転に関して専門的な知識を有する者を講師として、道路交通の現状と運転者の社会的責任、安全運転の心構えとその方法等について、二輪免許取得時講習を行っている。63年には、約38万人がこの講習を受講した。
 また、62年7月から、二輪免許保有者を対象に自動二輪車安全運転講習を実施している。この講習は、安全運転に関する学科講習と実際に自動二輪車を運転して行う技能講習から成るものであり、63年には、約2万5,000人が受講した。
エ 更新時講習の充実、改善
(ア) 特別学級の編成と特別講習の推進
 更新時講習においては、その内容の一層の充実に努めており、若年学級、二輪学級、高齢者学級等の特別学級を編成して、運転者の態様に応じた効果的な講習を行い、63年には、約107万人がこの特別学級による講習を受講した。
 また、同様の観点から、運転免許証の更新時とは別の機会に行う特別講習制度を設け、職種、生活環境等が共通である運転者を集めてその特性に応じた効果的な講習を行っており、受講者については更新時講習を受講したものとみなすこととしている。63年には、約90万人がこの講習を受講した。
(イ) 無事故無違反者に対する簡素な講習の実施
 運転者の特性に応じた講習の合理化を図り、運転者の利便に資するため、更新前3年間無事故、無違反で、かつ、更新が2回目以降の運転者に対する更新時講習は、ビデオ等の視聴覚教材の活用、資料の配布、パネル教材の展示等による簡素なものとしている。63年には、約932万人がこの講習を受講した。
(2) 高齢運転者対策の推進
 高齢運転者による交通事故の防止を図るため、更新時講習において、特別学級の一つとして高齢者学級を編成し、高齢運転者の交通事故の実態、高齢運転者にみられる身体的機能の特性等を踏まえた交通安全教育を行っている。
 また、高齢運転者の希望に応じて、実際の走行や模擬運転装置による技能診断及び科学的検査機器を活用した運転適性診断を行い、高齢運転者が自らの運転特性を自覚して安全運転をすることができるよう個別指導を推進している。さらに、昭和63年には、1台で7種類の運転適性診断ができるCRT型運転適性診断機器を開発、導入し、高齢運転者の安全運転指導に活用している。
(3) 優良運転者の優遇と賞揚
 運転者の安全意識を高めるため、長期間無事故、無違反の運転者に対して、各種の賞揚制度を設けており、また、行政処分等について優遇措置を採っている。自動車安全運転センターでは、無事故無違反証明書等を発行するほか、無事故、無違反の期間が1年以上の運転者に対しては、安全運転者であることを示すSDカード(Safe Driver カード)を交付し、安全運転の励行、事業所における優良運転者賞揚のための資料としての活用を呼び掛けている。昭和63年の無事故無違反証明書等の発行件数は約366万件、SDカードの交付件数は約272万件であった。
(4) 自動車安全運転センター業務の充実
 自動車安全運転センターは、道路の交通に起因する障害の防止及び運転免許を受けた者の利便の増進に資するため、交通事故証明業務、運転経歴証明業務等を行っているが、現在、安全運転研修業務の一環として、「安全運転中央研修所」の建設を進めている。「安全運転中央研修所」は、その設置後、自動車の運転に関する高度の技能及び知識を必要とする業務に従事する者に対する研修並びに青少年の運転者の資質の向上を図るための研修施設として中核的機能を果たすことが期待されている。
(5) 危険運転者の排除と教育
 自動車等を運転することが危険であると判断された運転者については、迅速かつ確実な行政処分を行い、道路交通の場から早期に排除することが必要である。最近5年間の運転免許の行政処分件数の推移は、表6-2のとおりで、昭和63年には、約157万件であった。
 また、運転免許の効力の停止を受けた者等に対しては、その危険性を矯正し、自動車等の安全な運転のための意識、態度を育成するための改善教育として、その者の申出により処分者講習を行っている。この講習については、暴走族、二輪車運転者、再受講者等受講者の態様に応じた

表6-2 運転免許の行政処分件数の推移(昭和59~63年)

 特別学級を設けるなど、その効果的な実施に努めている。受講者については、講習終了後の考査成績によって停止等の期間を短縮することとし、講習の改善効果に見合った措置を採っている。63年には、行政処分を受けた者(運転免許を取り消された者を除く。)の88.2%に当たる約133万人がこの講習を受講した。
(6) 今後の運転者対策
 国民皆免許時代において、増加傾向を続ける交通事故に歯止めを掛け、減少傾向に導いていくためには、運転者教育の一層の充実を図り、運転者の資質向上に努めていく必要がある。特に、表6-3、表6-4のとおり、免許取得後1年未満の初心運転者及び取消処分を受けた者等の事故率が他の運転者と比べて極めて高いことが統計上明らかになっており、これら運転者に対する教育の充実を図るための運転免許制度の見直し、講習制度の新設等所要の対策を推進する必要がある。

表6-3 運転経験1年未満の初心運転者と運転経験1年以上の運転者の事故率

表6-4 行政処分を受けた者の処分後の事故率

5 良好な交通環境の確立

(1) 交通安全施設等整備計画の推進
 交通事故の増加に対処するため、昭和41年に制定された「交通安全施設等整備事業に関する緊急措置法」に基づき、交通事故が多発している道路その他緊急に交通の安全を確保する必要がある道路について、総合的な計画の下に交通安全施設等の整備を推進してきたが、引き続き交通安全施設等の整備拡充に努め、安全で円滑な道路交通を確保するため、61年度を初年度とする第4次交通安全施設等整備事業五箇年計画(特定事業(国庫の補助を伴う事業)1,350億円(調整費200億円を含む。)、地方単独事業(国庫の補助を伴わない事業)3,680億円)が策定されている。
 その第3年度に当たる63年度においては、表6-5のとおり、特定事業約196億円、地方単独事業約680億円を実施した。
(2) 都市交通機能の確保
ア 交通管制センター等の整備
 交通管制センターは、コンピュータにより信号機や道路標識、道路標示を広域的に操作するとともに、交通情報を運転者に提供し、都市及びその周辺の交通の流れを安全かつ円滑に整序する施設で、交通管理の中

表6-5 交通安全施設等整備事業実施状況(昭和63年度)

枢を成すものである。昭和63年度には、5の交通管制センターについてコンピュータ等の中央装置の高性能化を図るとともに、12都市に交通管制サブセンターを新設した。
 また、既設の信号機について、交通実態に即応して交通の円滑な流れが確保できるよう、交通量の変化に応じて青信号の時間を自動的に変える地点感応化、同一路線上の複数の信号機を相互に連動させてコントロールする系統化、交通管制センターのコンピュータによって広域的にコントロールする地域制御化等機能の高度化を積極的に推進したほか、夜間等に交通量が減少する地域においては、閑散時半感応化、閑散時押ボタン化等を推進し、合理的な信号制御の実現に努めた。
イ 合理的な交通規制の推進
 道路の交通機能の維持、向上と交通事故、交通渋滞、交通公害等の防止を図るため、道路網全体の中でそれぞれの道路が有する社会的機能、道路の構造、交通安全施設等の整備状況及び交通流、交通量の変化等に応じて、合理的な交通規制を行うように努めている。
 特に、人口3万人以上の都市を重点に、各種の交通規制を有機的に組み合わせて都市全体の交通流等を管理する都市総合交通規制を実施しており、その主要交通規制実施状況は、表6-6のとおりである。
 また、大量公共輸送機関である路線バスの走行の定時性を確保し、マイカー利用者の路線バスへの転換を図ることにより、都市における自動車交通総量を抑制し、過密交通を緩和するために、バス感知式信号機の増設等バス優先対策の推進を行っている。
〔事例〕 大阪府警察では、大阪市内の幹線道路である大正通りの交通渋滞緩和策としてバス利用促進を図るため、車線見直しによるバス専用レーンの設置、右左折レーンの設置、バス感知式信号機の整備、信号機の高性能化、道路標識の大型化等の諸施策を行うほか、バス事業者等に対するバス運行時間及び運行系統の見直し、施設の改善等を働き掛けるなどの総合的交通対策を実施した。この結果、主要交差点間における旅行時間約45%の短縮、駐車車両約54%の減少、バス利用者5.4%の増加等の成果を挙げた。
ウ 関連施策についての先行対策
 過密、混合化した大量交通社会においては、都市構造、道路網、駐車場、大量輸送機関、物流システム等が交通流、交通量に大きな影響を与えている。警察では、都市計画、土地区画整理事業等各種の開発事業、道路や駐車場の整備、大規模施設の建設等について、事前に各種の審議会等に参画し、交通管理面からの必要な指導、提言を行うことなどの先行的都市交通対策を講ずることにより、交通管理上望ましい都市交通が形成され、都市交通問題の根源的解決が図られるように努めている。
エ 道路使用の適正化
 近年、都市内の道路における工事等の道路使用行為は、増加の一途を

表6-6 人口3万人以上の都市の主要交通規制実施状況(昭和62、63年度)

たどっており、交通渋滞等都市内の交通機能の障害の要因となっていることも少なくない。警察では、工事方法の改善、工事の集中化等道路に おける工事の計画的な施行を指導するなどの事前の調整を行い、道路における工事等を原因とする交通渋滞を最小限に抑えるほか、許可に当たっても必要な条件を付するなどして、交通渋滞等の交通障害を防止し、安全で円滑な道路交通を確保するように努めている。
 また、道路交通法上都道府県ごとに1つ指定されることとなっている公益法人である都道府県道路使用適正化センターは、道路の使用等に関する事項について、照会、相談に応じ、あるいは広報啓発活動を行うとともに、警察署長の委託を受けて道路使用許可に関する調査等の事業を行っている。警察としては、都道府県道路使用適正化センターを積極的に活用して、道路使用許可条件の履行状況や原状回復状況等の調査を行い、道路使用の一層の適正化を図ることとしている。
(3) 幹線道路の円滑化
ア 交通安全施設等の整備
 幹線道路は、都市内の主要道路であるとともに都市間を結ぶ道路として社会的、経済的に重要な機能を果たしているが、交通量の増大等に伴い、その機能が低下してきている。そこで、安全で円滑な交通流を確保し、幹線道路としての機能を回復、向上させるため、交通管制センターによる信号機、道路標識等の広域的な操作、交通情報の提供等を行うとともに、刻々と変化する交通実態に即した交通規制を行うための可変標識の設置、信号機の改良、系統化等を推進し、合理的な交通規制や信号制御を行うほか、オーバーヘッド式、オーバーハング式の大型標識を整備し、道路標識の視認性の向上を図った。
イ 交通規制の点検
 交通安全施設等の整備に合わせ、円滑化対策の一環として速度規制その他の交通規制の見直しを進めている。特に、幹線道路における最高速度については、道路交通環境の実態に見合ったものとなるよう適切な速度規制を推進しているところである。昭和63年に行った規制速度の引上げ、引下げの状況は、表6-7のとおりである。

表6-7 幹線道路における規制速度の引上げ、引下げの状況(昭和61~63年度)

 また、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制が長距離にわたって連続する区間においては、道路管理者の協力を得て、避譲帯の設置を促進するなどにより、交通の円滑化に努めている。
ウ 交通ボトルネック解消対策
 道路幅が局地的に狭くなった地点、又は交通容量が他の区間に比べ比較的小さい交差点、橋梁(りょう)等は交通ボトルネックと呼ばれているが、これらは、交通の円滑な流れを阻害し、渋滞発生の原因となっている。
 警察では、交通ボトルネックとなっている箇所については、信号現示の調整、交通規制、マーキング等の見直し等各種施策を集中的に講ずるとともに、警察官等による交通流の整理、誘導等を行い、渋滞の解消に努めている。交差点については、その交通処理を適正に行うため、信号機の適正な運用、交差点における出入りの制御、右折レーンの設置等の対策を積極的に推進するとともに、交差点の形状等に問題がある場合には、その現状を正確に把握し、関係機関に対して、交差点改良等所要の措置を講ずるよう強力に働き掛けている。さらに、トンネル、橋梁(りょう)、踏切等交差点以外で交通ボトルネックとなっている箇所については、その現状を正確に把握し、道路環境の改善を関係機関に働き掛けるほか、状況に応じて踏切信号機の設置等を推進している。
〔事例〕 警視庁では、都内1,360箇所の踏切のうち、交通渋滞の著しい新田堀をはじめとする79箇所の踏切について、踏切信号機(28箇所)を設置するとともに、鉄道事業者に対して踏切遮断時間の短縮及び立体化の促進を働き掛けるなどして、交通渋滞の緩和、イライラ運転の解消に大きな成果を挙げた。
エ 行楽期等における円滑化対策
 ゴールデンウィーク、旧盆期、年末年始等には、行楽、帰省等のため、幹線道路や行楽地周辺の道路において大規模な交通渋滞が発生するので、その発生予測を行い、事前広報を行うとともに、臨時交通規制、交通情報の提供、警察官等による交通整理、道路における工事や作業の抑制等の対策を実施し、その予防、解消に努めている。
(4) 交通事故の防止及び良好な生活環境の保全のための施策
ア 交通事故多発箇所等に対する対策
 交通事故の多発箇所、交通事故発生の危険性の高い交差点等を重点に信号機等の交通安全施設の整備を行い、また、出会い頭事故、歩行者横断事故等の事故類型に応じて、速度規制、一時停止規制、横断歩道の設置等必要な規制を実施している。このほか、交通事故が発生しやすいカーブ等の地点については、いわゆる減速マークを表示し、また追越しのための右側部分はみ出し通行禁止規制を行うなど、重点的な事故防止対策に努めている。
イ 生活ゾーン規制の実施
 住宅地域、学校周辺、高齢者が利用する施設の周辺等の地域を対象に、交通弱者の保護及び良好な生活環境の保全のため、生活ゾーンの区域割りを行い、このゾーンごとに歩行者用道路の設定、通学時間帯における通学路の車両通行止め、大型車通行止め、一方通行等の交通規制を総合的に組み合わせた生活ゾーン規制を実施している。
 また、自転車交通の多い路線については、自転車利用者の通行の安全を図るために必要な交通規制を進めており、昭和63年度末現在、自転車専用通行帯386区間(約576キロメートル)、普通自転車歩道通行可3万7,613区間(約4万6,124キロメートル)となっている。
ウ 交通公害防止対策
 大型車の夜間走行等による幹線道路沿いの騒音、振動等の交通公害の防止を図るため、発進、停止回数を減少させるための広域的な信号制御、大型車を中央寄りに走行させるための通行区分の指定等を実施している。
エ スパイクタイヤ対策
 スパイクタイヤについては、その優れた滑り止め性能及び着脱不要という簡便性によって利用が拡大してきたが、反面、不必要な場合における使用に起因する路面損傷、アスファルト粉じんの発生等の問題が生じている。
 この問題については、除雪や凍結防止のための体制の整備、タイヤの改善等を含め総合的に検討する必要があるが、警察としても、関係機関との協力により、また、通常の街頭活動を通じ、不必要な場合におけるスパイクタイヤの使用自粛の広報、指導活動を行っているほか、冬道における安全運転の方法に関する教育の充実を図るとともに、路面状態等に関する交通情報の提供を行っている。
 なお、63年6月、公害等調整委員会において長野県等の弁護士らと国内大手タイヤメーカー7社との間に調停が成立し、タイヤメーカー7社は平成2年12月末までにスパイクタイヤの製造を中止し、平成3年3月末までに販売を中止することとなった。
(5) 交通情報提供施設等の整備拡充
 交通状況の変化に対応し、適切に交通流の配分、誘導を行うため、交通情報を収集、分析して運転者に提供することは、交通規制の実施、信号制御とあいまって、交通管理上極めて重要である。
 現在、交通情報の提供は、交通管制センター等の活動を通じて収集した情報を基にして、主要な地点に設置されている路側通信設備、フリーパターン式交通情報板等の交通情報提供施設によって行うほか、電話照会に対する回答やテレビ、ラジオ放送を通じても行っている。昭和63年度に(財)日本道路交通情報センターが行った情報の提供状況は、テレビ放送によるものが約6,800回、ラジオ放送によるものが約23万3,600回、電話照会に対する回答が約561万件である。
 また、よりきめ細かな交通情報を広域的に提供するために、複数の交通管制センターのネットワーク化、車両感知器、路側通信設備等の交通情報収集、提供施設の整備充実、交通情報の編集、提供の自動化を促進するほか、AMTICS(Advanced Mobile Traffic Information and Communication System、新自動車交通情報通信システム)、FM音声多重放送による交通情報提供等の新たな手法の実用化を推進している。中でも、AMTICSは、自動車ロケーションシステムと交通情報提供システムの融合した最新のシステムで、交通流、交通量の適切な配分、誘導に大きな効果を上げることが期待されており、警察では、その実用化に向けて積極的に支援することとしている。
 さらに、路外駐車場の利用を促進し、駐車場探しや空き待ち等のための車両の滞留、違法な路上駐車等を抑制するために、交通管制システムと運動して、路外駐車場の満空情報、交通渋滞情報等の交通情報を提供し、空き駐車場への適切な案内、誘導を行う駐車誘導システムの整備に努めている。

〔事例〕 岡山県警察では、交通渋滞の著しい倉敷市において、交通管制システムと駐車誘導システムとを一体化し、迅速な交通情報の収集と適正な信号制御で交通流、交通量の適正な配分、誘導を行うと同時に、リアルタイムに駐車場の満空情報を提供し、交通管理上最適経路による駐車誘導を行った。この結果、駐車場の利用率の向上(入庫台数8%増加、満車継続時間43%増加)、生活道路(市道等)における渋滞の解消等の大きな成果を挙げた。
(6) 大規模交通障害発生時の交通対策
 主要幹線道路において、交通事故、自然災害等による大規模な交通障害が発生した場合には、その影響が短時間のうちに広範囲に及び、関連する他の道路にも著しい障害をもたらすこととなるので、広域的な交通管制を実施して、的確に交通流を配分、誘導する必要がある。このため、各都道府県警察では、あらかじめ事案発生時の交通規制実施計画や広域的なう回誘導計画の策定を進めるとともに、大規模な交通障害の発生に際しては、警察庁、管区警察局、関係都道府県警察と緊密な連携を保ちつつ、通行止め規制、速度規制等事案に即応した臨時交通規制、警察官や交通情報提供施設等によるう回誘導、(財)日本道路交通情報センター等を通じての交通情報の提供等の広域交通管制を実施し、安全で円滑な交通の確保に努めている。

6 交通秩序の確立

(1) 街頭指導活動の強化
 警察官等による街頭交通監視活動及び白バイ、パトカー等による交通機動警ら活動を強化し、交通事故の多発する路線、場所を重点に、危険性、迷惑性の高い違反の未然防止を図った。また、歩行者、特に高齢者、子供、身体障害者や自転車利用者に対し、安全な通行を促すための街頭指導を行った。

表6-8 交通関係法令違反の検挙状況(昭和62、63年)

(2) 効果的な取締りの推進
 警察では、交通秩序を確立し、交通の安全を確保するため、道路交通法、道路運送車両法等の交通関係法令違反について取締りを行っている。昭和63年の交通関係法令違反の検挙状況は、表6-8のとおりである。
 道路交通法違反の取締りについては、飲酒運転、無免許運転、著しい速度超過等の交通事故に直結する悪質、危険な違反態様や幹線道路の交差点等における駐停車違反、暴走族の騒音運転等迷惑性の強い違反態様

表6-9 主な道路交通法違反の取締り状況(昭和59~63年)

に最重点を置いて実施した。最近5年間の主な道路交通法違反の取締り状況は、表6-9のとおりである。
(3) 二輪車に対する街頭指導等の推進
 増加の著しい二輪車事故の抑止を図るため、二輪車に対する街頭活動を強化し、悪質、危険な違反の取締りと併せて、通行方法及び乗車用ヘルメットの着用についての指導取締りを行った。昭和63年の自動二輪車、原動機付自転車の取締り状況は、表6-10のとおりである。

表6-10 自動二輪車、原動機付自転車の取締り状況(昭和62、63年)

(4) 違法駐車車両の排除
 駐停車違反の取締りについては、交通流に障害を及ぼす幹線道路の交差点、横断歩道、バスの停留所等における危険性、迷惑性の高い違反に重点を置いて行った。昭和63年の駐停車違反取締り件数は、1日平均6,686件となっている。また、現場に運転者等がいない違法駐車車両に対しては、違法駐車標章の活用により車両を移動すべき旨等の告知を行うとともに、指定車両移動保管機関の効果的運用により違法駐車車両の移動を強化し、違法駐車車両の早期排除を推進した。
(5) 放置自転車、バイク問題
 放置自転車問題については、警察をはじめとする関係機関が自転車利用者に対する啓発活動、駐輪場の整備、放置自転車の整理、撤去を行い、若干改善の方向にあるが、新たに放置バイク問題が深刻になってきている。警察は、この問題を解決するため、利用者に対する啓発活動、指導、警告を行うとともに、悪質なものについては、駐車違反として取締りを行っている。
(6) 企業ぐるみ違反に対する厳正な措置
ア 使用者等の責任追及
 事業活動に関してなされた過積載、無免許運転及びこれらに起因する事故事件等のいわゆる企業ぐるみ違反については、運転者の責任追及はもとより、自動車の使用者、荷主等の運行管理、労務管理に係る背後責任の追及を徹底するとともに、自動車の使用制限の処分を迅速かつ厳正に行った。使用者等の背後責任の追及状況は、表6-11のとおりであり、自動車の使用制限の処分状況は、表6-12のとおりである。
イ 関係機関等との連携強化
 企業ぐるみ違反の根絶を図るため、関係機関による行政措置や関係業界、団体による指導措置等が適切に講じられるよう、取締り結果等を積極的に通報している。
(7) 交通捜査活動の推進
ア 交通事故事件
 昭和63年の交通事故に係る業務上(重)過失致死傷事件の検挙件数は

表6-11 使用者等の背後責任の追及状況(昭和62、63年)

表6-12 自動車の使用制限の処分状況(昭和62、63年)

56万6,070件、検挙人員は59万576人で、前年に比べ、件数は1万1,407件(2.1%)、人員は1万1,407人(2.0%)それぞれ増加した。
イ ひき逃げ事件
 最近5年間の死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況は、表6-13のとお りで、63年は452件発生したが、うち408件(90.3%)を検挙した。
 逃走の動機としては、依然として飲酒運転、無免許運転等の悪質な交通違反の発覚をおそれたものが多く、全体の約4割を占めている。また、犯行後、車の完全修復を図った上、アリバイ工作を行うなど証拠を隠滅しようとする悪質、巧妙なものが目立っている。

表6-13 死亡ひき逃げ事件の発生、検挙状況(昭和59~63年)

〔事例〕 無免許の少年(19)が、普通乗用自動車を運転中、バイクに衝突し、2人を死亡させ逃走した。徹底的に車当たり捜査を行った末、3月14日、鹿児島県に転居していた被疑者を検挙(兵庫)
ウ 交通特殊事件
 偽装交通事故による自動車保険金詐欺事件等のいわゆる交通特殊事件の検挙状況は、表6-14のとおりで、63年は、3,743件、2,796人を検挙した。こうした交通特殊事件が、依然として多発していることから、2月には「交通特殊事件捜査強化月間」を実施するなど、その捜査を強化した。
〔事例〕 個人病院の院長(59)は、不良タクシー運転手、暴力団、示談屋等と共謀して、交通事故の当事者が負傷していないにもかかわらず、長期間入院していたと偽り、1億3,586万円の保険金をだまし取っていた。2年4箇月に及ぶ長期捜査の末、7月、病院長ら31人を詐欺で逮捕、また、保険金詐欺事件で指名手配中の被疑者に逃走資金を提供した弁護士ら6人を犯人蔵匿、隠避で逮捕(大阪)

表6-14 交通特殊事件の検挙状況(昭和62、63年)

7 暴走族対策の推進

(1) 暴走族の動向
 昭和63年に暴走族として把握されている者の数は、3万6,934人であり、前年に比べ2,003人(5.7%)増加した。また、い集走行回数は、5,713回であり、前年に比べ2,464回(75.8%)の増加となっており、暴走族の動きが活発化してきている。
 これら暴走族の内訳をみると、年齢別では少年が78.1%、成人が21.9%であり、職業別では有職者が59.2%、無職者が25.4%、学生が15.4%である。また、車種別では二輪車が55.7%、四輪車が44.3%となっている。
 暴走族の最近の特徴としては、まず非組織化が進んでいることが挙げられる。50年代初期においては、ほとんどの者がグループに属し、100台を超える大集団による暴走が行われていたが、53年の道路交通法の改正により共同危険行為等が禁止され、取締りが強化されてから、グループに加入しない者の比率が高まってきている。63年は、この傾向が一層強まり、全体の68.9%に当たる2万5,481人がグループに加入しない者となっている。
 また、こうしたことを背景として、深夜、少数でゲリラ的に住宅街等を暴走し、異常に大きな排気騒音により住民を悩ませる爆音暴走行為が多くなってきている。このため、暴走族に関する110番通報が急増し、63年は、8万5,329件に達した。
 さらに、暴走族の凶悪化も進んでおり、63年には、35件の対立抗争事犯を引き起こすなど、悪質な違法行為を敢行した。
 最近5年間のい集走行状況及び対立抗争事犯の発生状況は、表6-15、 表6-16のとおりである。

表6-15 暴走族のい集走行状況(昭和59~63年)

表6-16 暴走族の対立抗争事犯の発生状況(昭和59~63年)

(2) 暴走族に対する取締り状況
 暴走族のい集走行回数が増加傾向にあることから、昭和63年は、暴走族の動きが活発となる8月に、全国一斉の「暴走族追放、取締り強化月間」を実施するなど、暴走族に対する取締りを強化したが、特に、暴走族に関する110番通報等の情報を分析検討して、暴走族が出没しそうな時間、路線等を予測し、あらかじめ警察力を配備して行う「よう撃的取締り」等の取締り手法に力を入れて対処した。また、取締りに当たっては、国民からの取締り要望が強い爆音暴走行為に重点を置き、近接排気騒音測定による整備不良車両の運転禁止違反の検挙を積極的に推進した。
 このように取締りを強力に推進した結果、63年の暴走族事犯の取締り件数は8万5,908件となり、前年に比べ1万9,469件(29.3%)の増加となった。最近5年間の暴走族事犯の法令別検挙状況は、表6-17のとおりであり、法令別では、刑法犯は減少したが、道路交通法違反、特別法犯は増加した。道路交通法違反の中では、整備不良車両の運転禁止違反が最も多く、全体の33.3%を占めている。

表6-17 暴走族事犯の法令別検挙状況(昭和59~63年)

 道路交通法違反のうち、共同危険行為等の禁止違反は、検挙件数が181件、検挙人員が5,256人と依然として多数に上っている。騒音取締りに関しては、整備不良車両の運転禁止違反の検挙件数が7,059件と前年の4.9倍に上り、騒音運転等(急発進、急加速、空ぶかし)の禁止違反についても2,037件の取締りを行った。
 不法改造車両については、6月に、全国一斉の「不法改造等に係る整備不良車両運転の取締り強化月間」を実施するなどして、取締りを強化し、車両の運転者のみならず、改造等を行った業者、車両の所有者等についても徹底した責任追及を行った。
 暴走族に対する共同危険行為等の禁止違反等による運転免許の行政処分は、取消処分1,687件、停止処分1,709件であった。
(3) 暴走をさせない環境づくり
 警察は、関係機関、団体等で構成される暴走族対策会議の中心となって、地域ぐるみの暴走族追放の気運の醸成に努めたほか、い集、走行場所の交通規制等を実施し、暴走をさせない環境づくりを推進した。

8 高速道路の交通管理

(1) 高速道路における交通警察活動
 高速道路交通警察隊は、高速道路における交通指導取締り、交通事故事件の処理、交通実態に即応した交通規制等安全で円滑な高速道路交通を確保するための活動を行っている。また、高速道路交通警察隊は、単に交通警察活動のみならず、高速道路において発生し、又は高速道路を利用した犯罪その他の警察事象に対処するため、緊急配備や警衛、警護等の活動も頻繁に行っており、高速道路の全国ネットワーク化に伴い、高速道路交通警察隊の職務は一層重要なものとなってきている。
(2) 高速道路の交通実態
ア 高速道路の供用状況
 昭和63年には、北陸自動車道、東北横断自動車道(酒田線)、瀬戸中央自動車道等14路線において、20区間、370.4キロメートルが新たに供用され、この結果、高速道路の全供用距離は、50路線5,119.8キロメートルとなった。
イ 高速道路における交通事故発生状況
 63年の高速道路における交通事故については、発生件数が6,636件、死者数が335人、負傷者数が1万1,201人で、前年に比べ、発生件数は825件(14.2%)、死者数は96人(40.2%)、負傷者数は1,216人(12.2%)それぞれ増加した。また、高速自動車国道における1億走行台キロ当たりの交通事故発生件数は、一般道路の約14分の1であるにもかかわらず、死亡事故率(注)は、一般道路の約3.6倍で依然として高い。これは、高速道路においては、高速走行のため、わずかな運転上のミスが事故に結び付きやすく、しかも一たび事故が発生すると、関係車両や死傷者も多数に及ぶ重大事故に発展することが多いためである。最近5年間の高速道路における交通事故等の推移は、図6-18のとおりである。

図6-18 高速道路における交通事故等の推移(昭和51、59~63年)

 なお、高速道路における物損事故は、重大事故の誘因となり、交通を著しく阻害するものであるが、高速自動車国道における発生件数は、2万2,873件であった。
(注) 死亡事故率とは、発生件数に占める死亡事故件数の割合をいう。
(3) 高速道路における安全で円滑な交通の確保
ア 交通実態に即した交通規制の実施と交通安全施設等の整備
 昭和63年に新たに供用された高速道路について、既に供用されている道路の交通規制との整合性や一般道路との関連性等に配慮しつつ、道路構造、気象条件、交通安全施設の整備状況等を総合的に判断し、最高速度規制等所要の交通規制を実施するとともに、非分離区間(注)における中央分離対策に重点を置くよう関係機関に働き掛けた。
 さらに、既に供用されている高速道路においても、交通事故発生状況、交通流の変化、交通安全施設等の整備状況等を踏まえて交通規制の見直しを行った。
 また、地震、積雪、凍結、霧、降雨、強風等の交通事故につながるおそれの大きい自然現象の発生時や交通渋滞、交通事故等の交通障害の発生時には、状況に応じて臨時交通規制を迅速、的確に実施し、交通事故や二次障害の発生防止に努めた。63年の高速道路における臨時交通規制の実施状況は、表6-18のとおりである。
(注) 非分離区間とは、中央分離帯の設置により往復交通が分離されていない区間をいう。

表6-18 高速道路における臨時交通規制の実施状況(昭和63年)

イ 交通情報の収集と提供
 高速道路上における機動警ら活動、高速道路交通警察隊、警察署及び交通管制センターとの連携等により、高速道路及び周辺道路における交通情報を幅広く収集し、ラジオ、テレビ等による広報、白バイ、パトカーによる現場広報、可変情報板の活用等により、必要な交通情報の提供を迅速、的確に行った。
 また、交通障害発生時においては、一般道路との調整を図りつつ必要な交通規制と交通情報の提供を行い、適切なう回誘導に努めた。
ウ 効果的な交通指導取締りの推進
 高速道路における安全で円滑な交通流を確保するため、多角的な事故分析を踏まえ、著しい速度超過、飲酒運転、車間距離不保持、積載重量違反、違法な路肩走行、進路変更禁止等の違反を重点として指導取締りを推進した。63年の高速道路における交通違反取締り状況は、表6-19のとおりである。

表6-19 高速道路における交通違反取締り状況(昭和62、63年)

エ 交通渋滞の早期解消策の推進
 交通渋滞については、その実態の把握や原因の究明に努めるとともに、機動警ら活動による秩序ある交通流の確保及び道路交通環境の整備等を行い、その緩和、解消対策を積極的に進めた。特に、大規模な渋滞が予想される年末年始、行楽期等においては、体制を充実強化し、渋滞情報の収集、提供、交通監視活動の強化、迷惑性の高い路肩走行等の取締りを積極的に推進するなど、渋滞の早期解消に努めた。
 また、既に供用された高速道路では、年々増加する交通量とあいまって道路補修工事等が増え、その都度大きな交通渋滞が発生していることから、工事方法、施工時期、期間等について関係機関とともに見直しを行い、集中工事や夜間工事の採用等により交通渋滞の緩和に努めた。
オ 重大事故発生時における被害の拡大防止と交通流の早期回復
 大規模な多重追突事故、車両火災事故等の重大事案発生時における被害の拡大及び交通の混乱を防止するため、初動措置要領を整備し、早期臨場体制を確立し、迅速、的確な交通規制と実況見分の実施に努めた。
(4) 高速道路交通安全団体の指導育成
 警察では、高速道路交通安全団体の組織化及び活動の活発化を推進し、高速道路における交通事故の防止を図っている。
 高速道路における自主的な交通安全活動を推進するため、高速道路を日常的に利用する運送業者等を中心とした高速道路交通安全協議会等の名称による団体の組織化を促進しており、昭和63年12月末現在、35都府県において35団体が活動している。
 また、(財)全日本交通安全協会は、高速道路網の整備に対応し、全国規模の交通情報等を提供し、高速道路交通安全団体相互の情報交換を促進することを目的として、月刊誌「セイフティ・エクスプレス」を発行している。

9 国際協力の推進

(1) 我が国の交通警察に対する関心の高まり
 現在、世界のいずれの国においても、交通事故の増加、交通渋滞の激化等の深刻な交通問題が発生しており、その防止対策は、経済、社会の発展を図る上で重要な課題となっている。こうした状況を背景として、各国は、我が国が、過密、混合化の進行する厳しい交通環境の中で、どのような交通管制、交通規制の手法により交通の安全と円滑を確保しているのか、運転者管理や交通安全教育をどのように行っているのかなどの点について、大きな関心を示しているところである。
 特に、アジアの各国では、急速な近代化の進展に伴う都市の交通量の増大にもかかわらず、交通安全施設等の整備が立ち遅れ、交通安全教育や運転者教育も十分に行われていないことから、交通事故や交通渋滞が極めて深刻な問題となっており、アジアの先進国である我が国の交通警察に対する関心が非常に高まっている。
(2) 国際協力の実施状況
 外国からの要請により、警察職員等を外国に派遣して専門的な指導を実地で行ったり、外国の警察幹部を我が国に受け入れて研修を行うなどの国際協力は、近年ますます増加する傾向にある。内容的にも、従来は、交通管制等の技術面における協力が中心であったが、最近では、交通安全教育や運転者教育、運転免許制度等を含む交通警察行政全般についての協力も活発に行われるようになった。中でも、アジアの各国については、フィリピン、シンガポール、中国、タイ、インドネシア等の国々に対し、専門家を派遣するなどの協力を行っている。
〔事例〕 中国の「交通管理訓練センター」プロジェクトに対する技術援助
 中国の自動車交通は、近年急速な伸びをみせており、大量の自転車交通とあいまって、その交通管理が社会問題化してきている。このため、中国政府は、経済の発展を図るためには交通管理を適切に行うことが必要不可欠であるとの認識の下に、特に都市交通管理の近代化に取り組んでおり、「交通管理訓練センター」建設プロジェクトを進めている。警察庁では、同政府からの協力要請に基づき、63年11月から関係機関等と連携して同センターに対する専門家の派遣や資機材の提供、同センターからの研修生の受入れ等について同政府に対する協力を開始した。

 また、世界各国の警察幹部職員を対象とする交通警察行政セミナーは、我が国の交通事情、交通警察の組織、活動を紹介するほか、参加各国の交通警察に関する重要な諸問題について、情報の交換、施策の検討を行う場を提供し、各国の交通警察分野における知識と技術の向上に貢献することにより、各国の民生の安定向上と経済の発展に寄与することを目的として実施されているものである。
 このセミナーは、警察庁と国際協力事業団(JICA)が共催し、41年に開始されたものである。49年に開催された第3回セミナーからは隔年ごとに実施されており、63年には第10回セミナーを開催した。第10回までに受け入れた研修員の数は、139人(44箇国)に達している。


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