第3章 地域住民とともにある警察活動

1 地域の安全と平穏を守る警察活動

 外勤警察官は、地域を活動の場として、昼夜を分かたぬ警戒体制を保ち、街頭におけるパトロールや各家庭への巡回連絡等を通じて、犯罪の予防、検挙、交通の指導取締り、少年の補導のほか、迷い子や酔っ払いの保護、困りごと相談等幅広い活動を行って、地域住民の日常生活の安全と平穏を守っている。
(1) 地域を守る派出所、駐在所
ア 「赤い門灯」は安心感のよりどころ
 外勤警察の活動の拠点であるとともに、警察の総合出先機関としての役割を果たしている派出所、駐在所(以下「派出所等」という。)は、全国津々浦々に約1万5,000箇所設置されている。派出所は、主として都市部に置かれ、警察官が交替制により常時警戒に当たっており、また、駐在所は、原則として一人の警察官が家族とともにその駐在所に居住して、地域の安全を守っている。これら派出所等は、いずれも管轄する区域内において地域に密着した活動を行っているところから、市民にとって最も身近な警察活動の拠点として、地域住民や行き交う人々の安心感のよりどころとなっている。
 近年、都市化の進展に伴う地域住民の連帯感の希薄化、核家族化等地域社会が変化している中で、警察に寄せられる住民の要望、意見等は極めて多く、中でも常に街頭にあって住民と接している外勤警察官には、様々な困りごと、要望等が寄せられている。派出所等では、これを警察活動に反映させ、住民と触れ合い、地域に溶け込む活動を推進したり、住民にとって不安感の強い犯罪に重点を指向した予防検挙活動等に当たるなど、地域住民とともにある警察活動を推進している。
イ 派出所等の勤務員の活動
 外勤警察官の活動は、基本的に、派出所等の所内における立番、見張り及び在所、派出所等の所外における警ら(パトロール)等を通じて行われるが、警察に対する世論調査等においては、「常時交番に警察官がいてほしい」、「パトロールを強化してほしい」といったように、そのいずれもの強化を望む声が依然として高い。警察では、これら住民の要望にこたえるため、派出所等の勤務員ができるだけ不在とならないよう人員配置や勤務の時間割の見直しを行い、隣接派出所、警ら用無線自動車(以下「パトカー」という。)等との連携活動を強化しているほか、不在派出所電話転送装置(パトロール等で警察官が不在となる場合において、直ちに派出所等から警察署への通報が可能となる通報装置)の設置の促進を図っている。一方、派出所等の警察官は、無線機を携帯して常にパトカー、警察署と連携を取りながら、きめ細かなパトロールや巡回連絡を行っている。また、全国の警察本部や警察署に配置された約2,600台のパトカーや駐在所に配置された約1,100台のミニパトカーは、管内のパトロールや警戒活動を行い、住民の日常生活の中で発生が予想される種々の事案に備え、あるいは発生した事件、事故の初動措置を迅速に行うなど、「動く交番」として活動している。
〔事例〕 11月10日深夜、長野県小諸警察署A派出所勤務員3人は、パトロール中、空き地に他県ナンバーの不審車両を発見し、車内で仮眠していた男(40)に対し、職務質問を実施した。男がバッグを隠すような素振りをしたことから、不審を抱き、バッグの中身を見せるよう粘り強く説得したところ、男は観念してバッグを開示した。バッグの中から改造けん銃と散弾実砲が発見されたので、銃刀法及び火薬類取締法違反事件被疑者として逮捕し、事後の捜査により密売場所を摘発し、改造けん銃多数を押収した。
(2) 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護
 最近5年間に酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等を保護した状況は、表3-1のとおりで、酔っ払いが半数近くを占めている。

表3-1 酔っ払い、迷い子、精神錯乱者等の保護の状況(昭和59~63年)

 昭和63年の被保護者に対する措置の状況は、家族、知人等に引き渡した者が67.2%と最も多く、保護の必要がなくなって保護を解除した者が26.3%、医療機関、福祉施設等の関係機関に引き継いだ者が6.5%となっている。また、保護した精神錯乱者のうち、精神障害のために自身を傷つけ、又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めて知事に通報した者は3,409人、保護した酔っ払いのうち、アルコールの慢性中毒者又はその疑いのある者であると認めて保健所長へ通報した者は964人である。
(3) 家出人の発見、保護
ア 減少傾向にある家出人捜索願の受理件数
 警察では、家出人の生命、身体の安全の確保を図り、家族等の期待にこたえるため、その早期発見、保護に努めている。昭和63年における家出人捜索願の受理件数は、9万490件で、前年に比べ136件(0.2%)減少した。最近5年間の家出人捜索願の受理件数の推移は、表3-2のとおりで、逐年減少傾向を示している。

表3-2 家出人捜索願の受理件数の推移(昭和59~63年)

 また、犯罪に巻き込まれ、又は自殺するおそれ等がある家出人については、これを特異家出人として受理し、特に迅速な発見、保護に努めているが、63年の件数は、全捜索願受理件数の12.6%を占めている。
イ 家出の原因、動機に多い家庭関係
 63年に家出人捜索願が出された家出人の家出の原因、動機別状況は、表3-3のとおりで、夫婦間の不和、親子間の不和等の「家庭関係」が最も多い。これを男女別にみると、男性では事業不振等の「職業関係」が、女性では「家庭関係」が最も多い。また、10歳代では、「家庭関係」のほか、男性では学校嫌い、学業不振等の「学業関係」が、女性では結婚、恋愛等が絡んだ「異性関係」が多い。

表3-3 家出人の家出の原因、動機別状況(昭和63年)

ウ 多い職務質問等による発見
 63年の家出人の発見数(捜索願未受理を含む。)は、9万6,044人で、前年に比べ715人(0.8%)増加した。このうち、特異家出人の発見数は、1万984人であった。家出人の発見の端緒別状況は、表3-4のとおりで、自ら帰宅した家出人を除くと、例年同様、警察官の職務質問等によるものが21.4%と最も多い。

表3-4 家出人の発見の端緒別状況(昭和63年)

 なお、家出人の大部分は、無事に帰宅し、又は発見されているが、家出中に犯罪を犯した者が2,425人(2.5%)、自殺した者が1,762人(1.8%)、犯罪の被害者となった者が349人(0.4%)いることが注目される。
(4) 自殺の実態
ア 高齢者に高い自殺率
 昭和63年の自殺者数、自殺率(注)を男女別、年齢層別にみると、表3-5のとおりである。自殺者数は、2万3,742人で、前年に比べ718人(2.9%)減少した。これを男女別にみると、男性の自殺者数は、女性の約1.7倍になっている。また、自殺率では、男女とも65歳以上の高齢者が最も高く、高齢者問題の深刻さを示している。
(注) 自殺率とは、同年齢層の人口10万人当たりの自殺者数をいう。

表3-5 男女別、年齢層別自殺者数、自殺率の状況(昭和63年)

イ 自殺の原因、動機に多い病苦等
 63年の自殺の原因、動機別状況は、表3-6のとおりで、「病苦等」が最も多く、次いで「精神障害、アルコール症等」、「家庭問題」の順とな っている。

表3-6 自殺の原因、動機別状況(昭和63年)

ウ 自殺の未然防止
 警察では、巡回連絡等による訪問活動や困りごと相談等を通じて、自殺のおそれのある者を早期に発見し、その悩みや困りごとの解消に努めるとともに、自殺が多発する場所の管理者等に対し、自殺防止のための施設の改善等を働き掛けるなどして、自殺の未然防止に努めている。
(5) 遺失物の取扱い
 遺失物は、主として派出所等の警察官が窓口となって取り扱っている。昭和63年に取り扱った遺失届は約261万件で、このうち通貨は約432億円、物品は約539万点であり、拾得届は約373万件で、このうち通貨は約160億円、物品は約794万点であった。拾得届のあった金品のうち、通貨については約71%、物品については約24%がそれぞれ遺失者に返還されている。最近5年間における遺失物の取扱状況は、図3-1のとおりである。
 なお、警察庁においては、増大する遺失物取扱業務に対処し、遺失者

図3-1 遺失物の取扱状況(昭和59~63年)

等の権利の保護と利便の向上を図るため、遺失者等を発見するためのシステムの構築に努めるなど、その業務の改善を推進している。このため新たに遺失物取扱規則を制定し、平成元年4月1日から施行することとした。

2 ふれあいを深める活動

(1) 身近な相談の機会、巡回連絡
 巡回連絡は、派出所等に勤務する外勤警察官が受持ち区域内の家庭や事業所等を戸別に訪問し、地域住民の良き相談相手となって要望や意見をくみ取り警察活動に反映させるとともに、警察からも犯罪や事故の防止等について必要な連絡を行う活動である。昭和63年5月に、派出所等の外勤警察官が巡回連絡の際に地域住民から受けた困りごと、要望、意見をみると、駐車車両、放置自転車対策、暴走族取締りのほか、パトロールの強化や独居高齢者宅への立ち寄り等日常生活に係る身近な問題が多くを占めている。これらの困りごと、要望、意見の多くは、派出所等の外勤警察官の指導、助言により解決しており、派出所等の外勤警察官だけでは対応できないものについては、交通、防犯、少年、刑事等の担当係との連携の上で、また、警察だけでは措置できないものについては、他の関係機関との連携等によって解決を図っている。
 巡回連絡の際には、家族構成や非常の場合の連絡先等も尋ねており、災害や事故の発生時における緊急連絡や事故防止の指導連絡等に役立てている。最近は、共稼ぎ等による昼間不在家庭や居住者の移動の激しいアパート、マンションの増加等により、警察からの連絡が困難となっているため、派出所等の勤務員は、休日や夕方に巡回連絡を実施するなどして、住民とのコミュニケーションの確保を図っている。
(2) 困りごと相談
 昭和63年における困りごと相談の受理件数は、20万5,191件で、前年に比べ2万4,474件(10.7%)減少した。最近5年間の困りごと相談の

表3-7 困りごと相談の受理件数の推移(昭和59~63年)

表3-8 困りごと相談の内容(昭和63年)

受理件数の推移は、表3-7のとおりである。また、63年に受理した困りごと相談の内容は、表3-8のとおりで、「家庭問題」に関するものが最も多く、全体の36.1%を占めている。
 また、警察では、これらの困りごと等についてできる限りの助言、指導を行い、その解決に努めているが、他の行政機関等にゆだねるべきものについては、その窓口の紹介や引継ぎを行うなど、相談の内容や相手の立場に応じた処理をしている。63年における困りごと相談の処理状況は、図3-2のとおりである。

図3-2 困りごと相談の処理状況(昭和63年)

(3) 地域に密着した「派出所、駐在所連絡協議会」
 警察では、派出所等を単位として、居住者の移動の激しいアパート、マンション等がある地域や事件、事故等が多発している歓楽街等に、「派出所、駐在所連絡協議会」の設置を進めている。この協議会は、受持ち管内の自治会役員やアパート、マンションの管理人、商店街の役員等の地域の代表者から構成され、派出所等の勤務員が管内の問題や警察に対する要望、意見等を聴き、また、警察からも防犯等に関する必要な助言、指導を行い、地域ぐるみで犯罪や事故のないまちづくりを進めていこうとするものである。協議会は、昭和63年12月末現在、4,372箇所に設置され、それぞれ地域に密着した活動を行っている。また、協議会が設置されていない派出所等も含めて、その管轄区域ごとに、地域の抱える問題の中から重要なものを一つずつ順に取り上げ、警察官が地域の住民とともに解決を図っていく「一所管区一事案解決運動」を推進している。
(4) 独居高齢者等に対する保護活動
 昭和63年12月末現在、外勤警察官が巡回連絡等を通じて把握している65歳以上の独居高齢者は、約81万人で、このうち、事件、事故の被害者になりやすいなどの理由で、外勤警察官が警ら等の機会を利用して努めて立ち寄ることとしている保護を要する独居高齢者は、約12万4,000人となっている。また、高齢者夫婦あるいは高齢の兄弟姉妹だけで暮らしており、近所に住んでいる近親者等もなく、犯罪や事故の被害に遭いやすい65歳以上の二人暮らし世帯は、約4万世帯となっている。
 警察では、これらの高齢者が安心して暮らしていくためのささえとなるよう、巡回連絡等の際に高齢者世帯を計画的に訪問し、必要に応じて、防犯指導、困りごと相談、緊急時における連絡方法の教示、関係機関や親族への連絡等のきめ細かな世話活動や保護活動を推進しているほか、高齢者が困りごと等について気軽に警察に相談することができるように親近感の醸成に努めている(なお、長寿社会総合対策の推進について、6(7)参照)。
〔事例〕 愛媛県警察では、独居高齢者等の要保護高齢者に対し、緊急の際に本人や居合わせた人がすぐに連絡を取れるよう、緊急連絡先、掛かり付けの医院、血液型等を記入し、電話機のコード等に取り付けて利用する「シルバーカード」を配布している。既に、6,000近い世帯に配布されており、要保護高齢者の保護や不安感の解消に役立っている。
(5) 青少年健全育成のためのスポーツ指導活動等
 外勤警察官は、少年の非行を防止し、その健全な育成に役立てようと、 地域の青少年に対し、余暇を利用して、柔剣道をはじめとする各種スポーツや、書道、絵画等の文化活動を通じた青少年の指導活動を行っている。
〔事例〕 宮城県大和警察署A駐在所のB巡査部長は、管内の高校生非行グループの父親から相談を受けたことを契機に、少年らと保護者を交え数回に及ぶ話合いを行った。その結果、スポーツ活動を通じて少年らの更生を図ることとし、少年スポーツクラブを結成した。少年らは、B巡査部長の熱意ある指導の下にすっかり立ち直り、マラソン、バドミントン、ストレッチ体操等の活動を積極的に行っている。
(6) 身近な話題を伝える「交番新聞」
 全国の派出所等の約9割では、ミニ広報紙を発行しており、その種類は、約1万4,400に上っている。これらの広報紙は、外勤警察官の手作りによるもので、管内の事件、事故の発生状況とその防止策、善行児童の紹介、住民の声等の身近な話題を伝える「交番新聞」として、地域住民とのふれあいを深める上で大きな役割を果たしている。
(7) 住民と警察を結ぶ音のかけ橋、警察音楽隊
 警察音楽隊は、皇宮警察及び各都道府県警察に48隊が置かれており、隊員は約1,800人である。そのほとんどの隊が、婦人警察官や交通巡視員等の女性隊員によるカラーガード隊を編成している。
 隊員の多くは、警察業務に従事するかたわら、勤務の合間や非番の日を利用して厳しい訓練を重ねながら、警察が主催する防犯運動、交通安全運動等の行事や市町村等が主催する公的行事に出演しているほか、小、中学校等で開催される音楽教室や交通安全教室での演奏、福祉施設やへき地、島部での慰問演奏、昼休み時間を利用したコンサート等活発な演奏活動を行い、音楽を通じて国民と警察とのふれあいを深め、警察に対する理解と協力を確保する役割を果たしている。
 昭和63年には、全国各地で約4,500回の演奏活動を実施しており、聴衆の数は延べ1,700万人にも達している。
 また、警察庁では、31年から毎年、全国主要都市において、全国警察音楽隊演奏会を開催しているが、63年には、5月に広島において第33回大会を開催し、29隊、約1,200人が参加して市中パレード、合同演奏、フロアードリルを行い、地元住民との交流を深めた。

3 初動警察活動

(1) 初動警察活動の中枢、通信指令室

 通信指令室は、110番通報を受理し、パトカーや派出所等の警察官に対して指令を発するセンターとして、全国の警察本部に置かれており、初動警察活動の中枢として重要な役割を果たしている。通信指令室では、殺人、強盗等の犯罪や事故の発生の110番通報を受けると、直ちにパトカーや派出所等の警察官を現場へ急行させ、必要に応じて緊急配備を発令し、また、全国の警察本部にも通報するなど、警察官の緊急かつ組織的な動員によって人命の救助や犯人の早期検挙等に努めている。
 昭和63年に全国の警察で受理した110番の件数は、約390万件で、前年に比べ約21万件(5.7%)増加した。これは、8.1秒に1回、国民31人に1人の割合で利用されたことになる。過去10年間の110番受理件数の推移は、表3-9のとおりである。

表3-9 110番受理件数の推移(昭和54~63年)




(2) リスポンス・タイム

 昭和63年の110番集中地域(注)におけるリスポンス・タイム(通信指令室で110番通報を受理してから、警察官が目的地に到着するまでの所要時間をいう。)の全国平均は、5分30秒であった。
(注) 110番集中地域とは、その地域のどこから110番をしても自動的に警察本部の通信指令室につながる地域のことで、63年4月1日現在、全国の警察署の83.2%に当たる1,035警察署の管轄地域が110番集中地域となっている。110番集中地域外では、110番をすると所轄の警察署につながる。
 刑法犯事件に関するリスポンス・タイムと現場における犯人の検挙との関係をみると、表3-10のとおりで、3分未満に到着した場合には26.6%を現場で検挙しており、リスポンス・タイムが短ければ短いほど、現場で犯人を検挙する確率が高い。

表3-10 110番集中地域におけるリスポンス・タイムと現場における検挙の状況(昭和63年)

 なお、自動車台数の増加に伴い、交通の渋滞が激しくなり、パトカー等の車両に係るリスポンス・タイムの短縮は難しくなってきているが、通信指令室では、地図自動現示装置等の最新鋭機器の導入や派出所等の警察官への指令の強化を図り、その短縮化に努めている。
(3) 「110番の日」
 110番は、事件、事故等の各種事案の早期解決に大きく寄与しており、 また、国民の各種相談に応ずるための相談電話等110番以外の各種警察通報制度も、国民の日常生活における安心感のよりどころとなっている。
 そこで、昭和61年から、毎年1月10日を「110番の日」と定め、この日に合わせ、国民に110番の仕組み、機能等についての広報を行い、この制度に対する理解と協力を求めながら、一層有効かつ積極的な利用の促進を図るとともに、併せて各種相談電話の利用を呼び掛けている。

4 水上警察活動

 近年においては、海上からの覚せい剤等の密輸事犯が目立つほか、高速艇を利用した夜間における養殖魚介類の大量密漁事犯等も依然として跡を絶たない現状にある。また、レジャー人口の増加とレジャースポーツの多様化は、水上(海上を含む。以下同じ。)にも広がり、それに伴い、モーターボート、ボードセーリング、スキューバダイビング等に伴う事故が増加している。
 警察では、水上における警察事象に的確に対処するため、全国の水上警察署、臨港警察署をはじめ、主要な港湾、離島、河川、湖沼等を管轄する133警察署に警察用船舶203隻を配備して、パトロール等による警戒、警備活動や各種事件、事故の検挙、取締り等に当たるとともに、訪船等による安全指導を積極的に行っている。昭和63年9月17日から同年10月2日まで開催されたソウルオリンピックに際しては、関係道府県警察の警察用船舶による特別沿岸警戒を実施し、「テロ、ゲリラ」の防止に当たった。また、各都道府県における「水上安全条例」の制定と見直しを促す(注)など、海、河川、湖沼等における水上交通の安全確保に努めている。
(注) この結果、63年には、山梨県において「富士五湖水上安全条例」の一 部改正が行われた。
 水上警察体制を更に充実、強化するため、今後とも、船舶の大型化、高速化及び装備資機材の高度化、船舶の運用体制の見直しによる警戒力の強化を推進することとしている。また、63年には、瀬戸内海及び日本海で広域にわたる操船訓練を実施したが、同様の訓練を引き続き実施するなど、船舶の広域運用のための基盤づくりに努めることとしている。
 63年の水上警察活動の状況は、犯罪検挙が503人、水難救助等の保護が362人、変死人取扱いが447体、遭難船舶救助が102隻であった。最近5年間の水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移は、表3-11のとおりである。

表3-11 水上警察活動に伴う犯罪検挙、保護等の推移(昭和59~63年)

〔事例〕 8月12日午後1時30分ころ、山形県酒田警察署の警察用船舶「はぐろ」は、パトロール中、「日向川河口の沖合約1キロメート ルの海上を、ゴムボートに乗った2人の男が沖に向かって流されている」との通報を受け、直ちに現場海域に向かって捜索活動に当たったところ、約40分後に、折からの強風で更に沖へ流されている2人を発見し、救助した。

5 鉄道警察活動

 昭和62年4月1日発足した鉄道警察隊は、沖縄県を除く46都道府県警察に設置されており、全国の鉄道交通上の主要駅等を拠点にして、鉄道沿線を所轄する警察署と協力しながら、駅、列車等の鉄道施設における公安の維持に当たっている。
 駅構内等においては、すり、置引き等の犯罪を防止するため、警ら等を実施するとともに、少年補導、迷い子、家出人等の保護や地理案内等を行っている。
 また、置き石等による列車妨害、踏切事故等は、大規模な鉄道事故を引き起こすおそれがあるので、このような事故を防止するため、線路等の警戒警備、踏切における交通指導取締り等を行っているほか、沿線住民に対する協力の呼び掛け、交通安全教室の開催等の活動を実施している。
 一たび鉄道事故が発生した場合には、後続列車の停止手配、人命救助等の諸活動を迅速、的確に行う必要がある。このため、絶えず鉄道事業者等との連携を密にして、事故発生時における迅速な通報等必要な措置を採ることのできる体制の確立を図っているほか、鉄道事業者等との共同による列車事故を想定した訓練を行うことなどにより、有事に備えている。
 さらに、新幹線や在来線の特急、急行、夜行寝台列車等を重点に警乗を行い、盗難、迷惑行為等の予防及び検挙、要保護者の保護等を行うとともに、旅客に対して犯罪や事故の防止上必要な指導等に努めている。
〔事例1〕 6月22日、列車内におけるすり犯人検挙のため、鉄道警察隊員が東海道本線の列車内を私服で警戒中、挙動不審な2人組がグリーン車に入り、帽子掛けに掛けた乗客の背広上着の内ポケットから現金20万円等が入った財布を抜き取ったのを認め、逮捕した。被疑者2人は、それぞれ前科6犯、前科19犯の常習すりであった(神奈川)。
〔事例2〕 7月4日、JR長井線(当時)の踏切において、普通列車と大型観光バスとが衝突し、列車と観光バスの乗客に多数の死傷者が出たとの想定により、鉄道事業者等との合同による大規模事故の訓練を実施した。この訓練には、鉄道警察隊員を含む288人の警察官が参加し、事故発生の受理、非常招集、出動、負傷者の救出、事故状況の把握等本番さながらの訓練を実施した(山形)。

6 安全な地域社会を形成するための施策

(1) 侵入盗等身近な犯罪の防止対策
ア 身近な犯罪の実態
(ア) 侵入盗の状況
 侵入盗は、屋内に侵入するという点において国民の日常生活に脅威を与える最も身近な犯罪で、殺人、強盗等の凶悪事件に移行するおそれも強い。過去10年間の侵入盗の認知件数は、年間30万件前後で推移しているが、犯人の侵入方法別状況は、表3-12のとおりで、各年とも「施錠せず」が最も多く、次いで「ガラス破り」の順となっている。
(イ) 乗物盗の状況
 過去10年間の乗物盗の認知件数の推移は、表3-13のとおりで、逐年増加傾向にあり、昭和63年は、56万8,706件で、前年に比べ6万9,246

表3-12 犯人の侵入方法別状況(昭和54、59、63年)

表3-13 乗物盗の認知件数の推移(昭和54~63年)

件(13.9%)増加した。
 63年における乗物盗のうち自動車盗は、1日平均93.0件発生しているが、最近は、盗難自動車が他の犯罪に利用され、又は他の犯罪の逃走手段として用いられるケースが増加傾向にある。
イ 身近な犯罪の防止対策
(ア) 盗犯防止重点地区活動
 住民に強い不安感を与える侵入盗の発生を防止するため、侵入盗の発生が多い地域を中心に、52年から「盗犯防止重点地区」を指定しており、63年は、全国で822地区(警察庁指定85地区、都道府県警察指定737地区)を指定した。これらの地区においては、地区住民の代表、民間防犯団体の役員、警察署の幹部等で構成される推進協議会が設置され、地域住民と警察とが一体となった盗犯防止のための活動を進めている。
(イ) 防犯広報、防犯診断、防犯指導
 警察では、テレビ、ラジオ等のマスメディアを利用したり、パンフレット等を配布することにより、防犯広報を積極的に実施している。
 また、侵入盗等の多発が予想される地域の家庭、事業所等を訪問し、家屋等の窓や出入口等について防犯診断を行って、防犯上の不備、欠陥を指摘し、その改善を促すなどの防犯指導を実施している。
 さらに、(財)全国防犯協会連合会と各都道府県防犯協会との協力を得て、最新の防犯機器、システムを搭載した防犯キャラバン車を活用し、効果的な防犯指導を実施するとともに、地域における防犯活動の活性化  を図っている。
〔事例〕 埼玉県警察では、防犯指導班専従の婦人警察官3人が、各種の防犯機器や視聴覚器材を積載している防犯キャラバン車「ひまわり号」を活用し、ホーム・セキュリティ・システムをはじめとした優良な防犯機器の紹介、普及に努めているほか、住民の要望に応じて、寸劇による悪質なセールスマンの手口の紹介、痴漢防止のための護身術指導等を行い、住民の自主防犯意識の高揚を図っている。
(ウ) 自動車盗の防止対策
 近年、盗難自動車が極左暴力集団の「テロ、ゲリラ」事件や金融機関対象強盗事件等の凶悪な事件に使用される傾向にあることから、警察では、その防止対策として、自動車のユーザーに対する「キー抜取り、ドアロック」の励行等についての広報啓発活動及び自動車関係業界や駐車場管理者等に対する防犯指導等を推進しているほか、63年4月、警察庁に「自動車盗難防止対策委員会」を設置し、関係機関、団体と協力して新しいキーシステム等の自動車盗難防止対策の開発、普及等について検討を行っている。
(エ) 自転車防犯登録制度
 自転車防犯登録は、自転車の盗難防止と被害回復の迅速化を図るため実施されており、63年12月末現在、全保有台数の約6割に当たる約3,791万台が登録されている。
 63年の盗難被害自転車の回復状況は、表3-14のとおりで、登録車の被害回復率は、未登録車に比べ16.9ポイント高い。

表3-14 盗難被害自転車の回復状況(昭和63年)

(2) 地域、職域における防犯活動

ア 安全なまちづくり

 犯罪が行われにくいまちづくりのためには、建造物等による死角空間を減らし、住民の視線が常に道路等の公共の場所に注がれるような工夫を進める必要がある。
 警察では、犯罪が行われにくいまちづくりのために必要な研究を進めており、その成果を基に、地域開発等の場において、防犯的視点からの提言を積極的に行っている。
〔事例〕 大阪府警察では、(社)照明学会関西支部と合同して、防犯照明及び路上犯罪の実態について調査研究を実施した。この結果、照明の不備が夜間犯罪発生の一因となっていることが判明したことから、大阪市をはじめ府下32市11町1村の各市町村長に対し、防犯照明の設置基準を定めた要綱、要領の制定又は改定、防犯照明の増設等について要請を行った。
イ 防犯協会、防犯連絡所の活動
 地域における防犯活動の担い手である防犯協会(注)は、警察と協力して、地域における犯罪の予防、社会環境の浄化等犯罪のない安全なまちづくりのための活動を行っている。
(注) 防犯協会とは、全国におおむね警察署単位で組織されている地区防犯協会、都道府県単位で組織されている都道府県防犯協会、全国的な組織である(財)全国防犯協会連合会等を総称するものである。
 さらに、最近においては、少年非行や覚せい剤等薬物の乱用が全国的な広がりをみせていることから、従来から実施している侵入盗等の防止を目的とした活動に加え、少年の非行防止と健全育成を目的とした活動及び覚せい剤等薬物の乱用の防止を目的とした活動を積極的に展開している。
 また、地域における民間の自主防犯活動の拠点として設けられている防犯連絡所は、昭和63年12月末現在、全国で79万1,163箇所(50世帯に1箇所)設置されており、地域における事件、事故の通報、防犯座談会の開催等の活動を行っているほか、警察や防犯協会が作成した資料を住民に伝達するなど、地域における警察と住民とのパイプ役を果たしている。
 警察では、地域における防犯活動の活性化を促進するとともに、警察の行う防犯対策と地域における防犯活動との有機的な連携を図るため、防犯協会や防犯連絡所の体制の強化や犯罪情勢に応じた効果的な活動についての助言、指導等を行っている。
〔事例〕 北海道では、住民と行政が一体となった防犯対策をより一層推進するため、平成元年4月1日現在、21市103町17村(全体の66.5%)の議会において「防犯都市宣言」が決議されている。北海道警察では、これらの決議を受けて、地域の防犯協会と協力し、防犯 市民大会、防犯都市宣言記念大会、防犯宣言啓発活動等地域に根ざした防犯活動を積極的に推進し、地域住民の防犯意識の高揚を図っている。
ウ 職域防犯団体の活動
 警察では、犯罪の被害を受けやすい業種、犯罪の場となり又は犯罪のため利用されやすい業種、防犯活動や捜査活動に対して組織的な協力を行うことのできる業種等については、それぞれ職域防犯団体の結成を呼び掛け、これらの組織による自主防犯活動の活性化を図っている。63年12月末における職域防犯団体の結成状況は、表3-15のとおりである。

表3-15 職域防犯団体の結成状況(昭和63年12月)

 警察では、これらの団体に対し、研究会の開催、資料の配布等を通じて、業種に応じた防犯対策等についての助言や協力を行い、活動の促進を図っている。
エ 金融機関における防犯対策
 63年における金融機関対象強盗事件の発生件数は、114件であり、前年に比べ31件(37.3%)増加した。このような事件は、模倣性が強く、続発するおそれがあり、また、社会的影響も大きいことから、警察では、金融機関との連絡会議のほか、防犯診断、防犯パトロール等の際に、「金融機関の防犯基準」に基づき指導を行い、防犯意識の高揚を図るとともに、(財)日本防災通信協会等と協力して、管理体制、防犯設備の充実を促進している。
 金融機関の防犯設備の設置状況は、表3-16のとおりであり、逐年設置率が増加している。しかしながら、金融機関によっては、依然として設置率が低いところもあり、さらに、その促進を図っていくこととしている。

表3-16 金融機関の防犯設備の設置状況(昭和63年10月)

〔事例〕 11月21日、無職少年(19)が、サングラスで変装し、札幌市内の銀行に侵入し、所持していたナイフを窓口カウンター内の女子行員に突き付けて現金を出すよう脅迫した。同女が直ちに非常通報装置のボタンを押すとともに、この状況を認めた支店長自らが「金融機関の防犯基準」に基づいた手順どおり対応したため、犯人は非常通報で駆けつけた警察官に現行犯逮捕された(北海道)。
オ 全国防犯運動の実施
 全国防犯運動は、防犯対策の総合的な推進を図るため、警察及び防犯協会をはじめとする全国の関係団体等が一斉に同一の目標に向かって防犯活動を展開するものであり、52年から毎年行われている。
 63年の全国防犯運動は、盗難自動車が他の犯罪に利用され、又は他の犯罪の逃走手段として用いられるケースが多いこと、身近な犯罪として国民に強い不安感を与えている侵入盗が依然として多発していることなどにかんがみ、自動車盗、侵入盗等の盗犯の防止を最重点とし、また、少年非行が依然として高水準にあること、覚せい剤の年間押収量が史上最高を記録したこと、国民の資産形成志向が高まる中で悪質商法事犯が多発していることなどにかんがみ、都道府県の実情に応じ、少年非行の防止、覚せい剤等薬物の乱用の防止及び悪質商法による被害の防止を重点として、10月11日から20日までの10日間実施された。これに先立ち、東京において全国防犯運動中央大会が開催されたほか、この運動期間中、全国各地で防犯展の開催、街頭防犯広報、防犯診断、少年補導等実質的な防犯活動が積極的に推進され、地域、職域における防犯意識の高揚に大きな役割を果たした。
(3) 警備業の健全育成
ア 警備業の現況
 警備業は、その業務が原子力発電所、空港等から一般家庭に至るまでの様々な施設における施設警備、工事現場等における交通誘導警備、祭礼等における雑踏警備、現金、核燃料物質等の輸送警備、ボディーガード等幅広い分野に及んでおり、国民の自主防犯防災活動を支える「安全産業」として社会に定着している。特に、最近は、ホーム・セキュリティ・システム等の普及にみられるように、一般家庭や事務所等に侵入感知機等のセンサーを設置して、基地局において犯罪や事故の発生を警戒し、防止する機械警備業が急速な発展を遂げており、国民の多種多様な需要にこたえている。
 昭和63年12月末現在、警備業者数は4,896業者、警備員数は21万 8,880人で、前年に比べ、310業者、1万6,269人それぞれ増加した。最近5年間の警備業者数、警備員数の推移は、表3-17のとおりで、一貫して増加傾向にある。

 表3-17 警備業者数、警備員数の推移(昭和59~63年)



イ 警備業の安全への貢献
 警備業は、盗難等の犯罪や事故の発生を警戒し、防止することをその業務としており、その業務を通じ、社会の安全に貢献している。
 63年の警備業者又は警備員の届出による刑法犯認知件数は、全刑法犯認知件数の0.73%に当たる1万1,921件であり、また、63年の民間協力による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況は、表3-18のとおりで、「警備業者又は警備員の協力」によるものは、1万1,501件を占めており、「第三者の協力」によるものを上回っている。

表3-18 民間協力による主たる被疑者特定の端緒別刑法犯検挙状況(昭和63年)

ウ 警備業者等に対する指導、監督
 警察では、警備業が民間における防犯システムの一環として地域防犯活動、職域防犯活動と並んで重要な役割を果たしていることから、警備業務の実施の適正を確保するため、警備業法に基づき警備業者に対する指導、監督を行うとともに、警備業協会等を通じた行政指導を行うことにより、警備業の健全育成を図っている。
 また、業界の自主的努力を促すためにも、各都道府県警備業協会の法人化を促進しているが、63年までに41の都道府県警備業協会が法人化された。
エ 警備員等に対する検定の実施
 警備員等に対する検定制度とは、警備業法に基づき、都道府県公安委員会が警備員又は警備員になろうとする者について、その知識及び能力に関する試験を行い、合格した警備員等が一定水準以上の知識及び能力を有することを公的に認める制度であるが、この制度が社会に定着することによって、警備業者が警備員の効果的な教育に努めるとともに、警備員等が自主的にその知識及び能力の向上に努めることが期待されている。
 検定の種別は、現在、空港保安警備、交通誘導警備、核燃料物質等運搬警備及び貴重品運搬警備の4種別で、それぞれが1級と2級に区分されている。
 検定は、都道府県公安委員会が行う学科試験及び実技試験により判定されるが、国家公安委員会が指定した講習の課程を修了した者については、学科試験及び実技試験が免除されることとされており、現在のところ、(社)全国警備業協会(以下「全警協」という。)が行う講習と(財)空港保安事業センター(以下「センター」という。)が行う研修が、それぞれ指定講習として指定されている。
 63年12月末までに検定に合格した者の数は、9,189人で、このうち、都道府県公安委員会が行う試験を受けて合格した者が665人、全警協の講習の課程を修了して合格した者が8,290人、センターの研修の課程を修了して合格した者が234人となっている。
 検定に合格した者は、その旨を証する標章(QGマーク)を用いることができることとされている。

(4) 質屋、古物営業の健全育成
 質屋営業法又は古物営業法により都道府県公安委員会から許可を受けている質屋、古物商等の数の推移は、表3-19のとおりで、質屋は漸減し、古物商等は漸増している。

表3-19 許可を受けている質屋、古物商等の数の推移(昭和59~63年)

 昭和63年に質屋、古物商等が盗品等を発見することなどにより被害者に返還できた件数は、質屋については7,022件、古物商等については1,411件であり、これらの業者の協力によって犯人を検挙した事例も数多くみられた。このように、質屋、古物商等は、業務を通じて盗品等を扱う機会が多く、民間における防犯システムの一還として重要な役割を果たしていることから、警察では、全国質屋防犯協力会連合会、全国古物商組合防犯協力会連合会等の関係業界と緊密な連携を保ちつつ、その指導、健全育成に努めている。
(5) 調査業の健全化
 探偵社、興信所等の調査業については、化調(ばけちょう)(注)を常習とする業者や暴力団が経営に関与している業者等の悪質な業者による不適正な営業活動が跡を絶たない状況にある。
 警察では、悪質な調査業者に対する取締りに努めるとともに、営業活 動の適正化に向けた自主規制を推進するよう(社)日本調査業協会に働き掛けるなど、調査業の健全化を図っている。
(注) 化調(ばけちょう)とは、業界の用語で、調査依頼がないにもかかわらず、調査依頼があったかのように装い、調査対象者に対し、「依頼者には優良な企業であると報告する」などと申し向けたり、これをにおわせたりして、会費、広告費等の名目で金銭を要求することを指す。
(6) 優良な防犯機器の普及、推奨
 侵入盗等に対する自主防犯体制の整備、充実のためには、優良な防犯機器の普及が重要である。
 近年発展が著しい防犯警報機やホーム・セキュリティ・システムについては、その性能の向上と普及に資するため、優良な機器、システムの研究、開発を関係業界等に働き掛けているほか、(社)日本防犯設備協会等と連携しつつ、その性能に関する自主基準づくりや、防犯機器、システムの設置及び整備を行う者に関する資格制度の創設を促進している。
 また、(財)全国防犯協会連合会では、優良な防犯機器の普及を図るため、優良住宅用開き扉錠の型式認定制度を実施し、優良な住宅用開き扉錠を広く一般に推奨している。
(7) 長寿社会総合対策の推進
 警察では、犯罪や事故からの「高齢者の保護」、防犯や交通安全等の面での「高齢者の社会参加」を二本柱とする「長寿社会総合対策要綱」等の名称による警察活動の指針を設けて、地域の実情に応じた長寿社会対策を推進している。
 また、都道府県防犯協会、地区防犯協会等では、高齢者部会を設けるなどにより、高齢者の保護と社会参加を高齢者自身の立場から推進するための活動を行っている。
ア 高齢者の保護
 警察では、高齢者を犯罪や事故から保護するため、巡回連絡等を通じ高齢者宅を訪問し、その実態を把握するとともに、防犯指導を行っている。昭和63年までに、20の道県警察がシルバーデー、独居高齢者宅訪問日等を設定して、集中的に訪問活動等を行った。また、高齢者が犯罪や事故の被害に遭わないよう、各種のパンフレットを配布しているほか、老人クラブ、老人ホーム等における防犯教室や防犯講習会等を開催している。
〔事例〕 岡山県警察では、高齢者を犯罪や事故の被害から守るため、「高齢者保護強調月間」を設定し、期間中「長寿社会対策モデル地区活動推進大会」を開催したほか、各署において高齢者の一斉訪問活動、座談会、映画会等の開催、緊急連絡カードの作成配布等高齢者保護のための各種の施策を計画的、総合的に推進した。
イ 高齢者の社会参加の推進
 警察では、高齢者による地域に密着した自主防犯活動や環境浄化活動等の社会参加活動を促進しているほか、防犯関係団体の委員等への高齢者の委嘱を推進しており、63年には、防犯協会の役職員に5万4,092人、防犯連絡所責任者に9万2,925人、少年補導員等に6,203人、その他の委員等に7,382人の合計16万602人を委嘱した。
 また、警察では、世代間の交流を通じ、高齢者がその知識と経験を生かして青少年健全育成活動に当たるための様々な行事等を行っているが、63年にこれらに参加した高齢者は、延べ143万863人に上った。
〔事例〕  岩手県警察では、「ViVa!!わが街ベテランとヤングの共感・共動」をキャッチフレーズに、各地域の伝統的行事の伝承活動、清掃や花壇作り等の社会奉仕活動、映画会や懇談会等による情操を豊かにする文化活動等の「高齢者と小中学生のふれあい社会参加活動」を県警察全体の取組として推進した。
ウ 長寿社会対策パイロット地区活動
 警察では、長寿社会対策の効果的な推進を図るため、62年度から、高齢化が進んでいる地域90地区を「長寿社会対策パイロット地区」に指定している。これらの地区においては、関係機関、団体等と連携して、犯罪や事故の被害者となりやすい高齢者を対象とした防犯座談会や防犯教室等を開催し、犯罪や事故の防止について啓発を行うとともに、希望者を募り、防犯運動、交通安全運動等の地域に密着した活動への参加を促進している。

7 協力援助者等に対する救済

(1) 警察官の職務に協力援助した者等に対する救済
 一般の市民が社会公共のため現行犯人の逮捕、人命救助等警察官の職務に協力援助し、災害(負傷、疾病、障害又は死亡)を受けた場合には、本人やその家族の生活の安定を図るため、その災害の程度に応じて国又は都道府県が救済を行っている。
 昭和63年に、警察官の職務に協力援助して災害を受けた市民は、死者10人(前年比6人増)、受傷者30人(前年比7人増)である。
〔事例〕 協力援助者(50)は、「泥棒、捕まえて」という声を聞き、目の前を犯人が走り過ぎるのを見て、追跡し、取り押さえようとしたところ、追い掛けてきた共犯者に阻止され、2人から暴行を受けた。これにひるまず、協力援助者は、駆けつけた警察官とともに2人を逮捕したが、全治2日間の傷害を負った。
 この協力援助者には、療養給付として約1万円が支給されたほか、休業給付として約2万1,000円が支給された(静岡)。
(2) 犯罪被害者等に対する救済
ア 犯罪被害給付制度による救済
 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人や爆弾事件等故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた被害者の遺族又は身体に重大な障害を負った被害者に対して、社会の連帯共助の精神に基づき、国が給付金(遺族給付金及び障害給付金をいう。以下同じ。)を支給し、その精神的、経済的打撃の緩和を図ろうとして創設されたものであり、昭和56年1月1日から実施されている。
 犯罪被害者又は遺族からの給付金の申請及びこれに対する各都道府県公安委員会の裁定等の状況は、制度創設以来8年間に、1,876人に対して総額約40億1.200万円の給付金が支給されている。
〔事例〕 4月3日、中央区内の交差点において、信号待ちをしていた主婦(44)が、精神分裂症のため妄想に駆られた男(20)に、果物ナイフで刺殺された事件で、被害者の長男(20)に対し、517万円の給付金を支給した(東京)。
イ (財)犯罪被害救援基金の活動
(財) 犯罪被害救援基金は、国の犯罪被害給付制度を補完し、充実させることを目的として、56年5月に設立された。
 同基金は、国民各層から寄附された浄財を基本財産として、犯罪被害遺児に対する奨学事業等の救援事業を行っており、基金設立以来63年12月末までに、883人の奨学生に対し、約4億3,000万円の奨学金を支給している。奨学金の月額については、これまで3回にわたり引上げを行い、月額7,000円(小学生)から2万5,000円(大学生)までを支給しているほか、入学一時金として、59年4月から大学入学時に5万円、小学校入学時には7万円を、61年4月からは高等学校及び中学校入学時にもそれぞれ3万円を支給している。
 また、同基金では、重障害を受けた犯罪被害者に対する見舞金の給付事業も行っており、63年12月末までに、27人に対し、915万円を支給している。
〔事例〕 2月10日、厚木市内において、車両通行上のことで注意をしたトラック運転手(43)が、これに激高した男(19)にナイフで刺殺された事件で、被害者の小学生の長女(6)に対し、入学一時金7万円のほか月額7,000円の奨学金を支給している(神奈川)。


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