第2節 暴力団の構造と活動

 警察においては、暴力団を「博徒、的屋等組織又は集団の威力を背景に、集団的に又は常習的に暴力的不法行為を行うおそれがある組織」と定義しており、暴力団は、その高い犯罪性、特有の組織原理、縄張の設定、暴力を背景としての経済目的の追求等を特徴として持っている。

1 犯罪者集団としての暴力団

(1) 暴力団員の高い犯罪性
 暴力団員の検挙人員は、暴力団員の総人員が減少しているにもかかわらず、過去20年間は毎年4~5万人前後で推移している。暴力団員の総人員を100とすると、1年間の暴力団員の検挙人員は、昭和43年には28.1であったが、63年には46.7と大幅に増加している(注)。
(注) 暴力団員を除いた14歳以上の国民における同様の数値は、毎年ほぼ0.5前後である。
 また、服役中の暴力団員は、年々増加の傾向にあり、52年12月末現在では、9,195人で、全受刑者数に占める割合は23.1%であったのが、62年12月末現在では、1万4,077人、全受刑者数に占める割合は30.6%に達している(注)。さらに、暴力団員のうち約90%が犯罪前歴者である。
(注) 53年、63年版「犯罪白書」による。
 また、63年における殺人、強盗等の凶悪犯罪や覚せい剤事犯等の検挙人員に占める暴力団員の比率は、図1-4のとおりであり、高い数値を示している。特に、証人威迫罪と脅迫罪においてその比率が高い。

図1-4 罪種別検挙者数に占める暴力団員の比率(昭和63年)

 具体的事件の態様をみても、例えば、何ら落ち度のない一般市民を銃器発砲事件の巻き添えとして死傷させたり、暴力団排除活動に対する嫌がらせのために、その指導者や弁護士を襲撃したりするなど、凶悪なものが多く、暴力団の自己の目的を遂げるためには手段を選ばないという傾向がうかがわれる。
〔事例1〕 波谷組系暴力団員(25)は、白昼、名古屋市内の繁華街の路上において、売買のあっせんをめぐるトラブルから、対立する暴力団の幹部らに対してけん銃を発砲して、同幹部ら2人を死傷させるとともに、通行中の一般市民1人を巻き添えにして負傷させた。8月29日逮捕(愛知)
〔事例2〕 山口組系暴力団組長(37)ら6人は、投資顧問会社元社長及び同社社員を逮捕、監禁して現金1億円を強取した。その後、両人を殺害し、遺体をコンクリート詰めにして京都府下の山中に埋めた。10月17日逮捕(大阪)
〔事例3〕 60年3月から63年2月までの間、浜松市において地域住民による山口組系一力一家組事務所撤去活動が行われたが、その過程において、一力一家は、住民らに対して様々な嫌がらせや違法行為を行った。62年6月、一力一家幹部が住民側の弁護士をナイフで刺して負傷させ、63年1月にも、一力一家組員が組事務所撤去活動の指導者を包丁で刺して負傷させた。そのほか、一力一家は、住民の自宅及び経営する商店等を、鉄パイプ、金属バット等を用いて襲い、建物の一部を損壊したり、また、日本刀を振り回して住民を威迫するなどの凶悪な犯罪を繰り返し敢行した(静岡)。
(2) 暴力団の悪質性
 以上のことから、暴力団は正に犯罪者集団であることが分かる。さらに、暴力団は、元々犯罪性が高い者が集まったというだけではなく、集団の形成によって、組織的な犯罪の実行を可能とし、また、これへの加入によって個々人の犯罪性が一層助長されるという一面もあり、犯罪の発生に与える影響が極めて大きいということができる。

2 暴力団の組織

(1) 暴力団の組織原理
ア 擬制的血縁関係による結合
 暴力団は、一般に首領を頂点とした封建的家父長制を模した擬制的血縁関係により構成されている。団体の名称が○〇一家となっていたり、首領が親分、輩下が子分、一家内の先輩が兄貴、後輩が舎弟、親分の兄弟分が伯(叔)父などと呼ばれることは、その表れといえる。また、暴力団の各首領が互いに擬制的血縁関係を結び、下部団体の首領が上部団体の首領の子分となることによって、図1-5のような重層的な大規模団体を構成することが多い。

図1-5 大規模な暴力団組織

 暴力団は、このような封建的な身分律に支配された関係や行動を、仁義、義理人情等と称する彼らの独特の虚飾の論理によって正当化しようとしている。
 こうした擬制を採ることにより、一般の法秩序を逸脱した暴力団の行動原理とその集団構造を維持しようとしているのである。
イ 暴力団組織の内部統制
 暴力団の社会にあっては、親分・子分の上下関係は理屈を超えた絶対的なものとされ、親分の命令であれば、理非善悪を問わず、これに従うのが子分としての当然の義務であり、かつ美徳であるとされている。そして、こうした義務や暴力団社会の掟(おきて)に反し、親分の支配や集団の一体性を乱した者に対しては、厳しい制裁を加える一方、親分等の命令に従い組織に貢献した者に対しては、組織内のより高い地位をはじめ相応の報酬を与えるなどして内部秩序を保っている。
 首領等の上位構成員は、このような制裁と報酬を巧みに使って、下位構成員にすべて押し付けることによって、自己の刑事責任の追及を免れようとしているのである。
(ア) 首領等の命令
 昭和60年に科学警察研究所が実施した広域暴力団構成員392人に対する調査によれば、調査対象者のうち、「首領等の命令に絶対に従う」と回答した者が64.0%、「納得すれば従う」と回答した者が20.9%などとなっており、暴力団員の多くは首領等の命令には無条件で服するということが分かる。
(イ) 組織内部における禁止事項
 暴力団は、内部秩序を保つために、各種の禁止事項を設けているが、そのうち主なものとしては、「親分や上位者に反抗したり、迷惑を掛けたりすることの禁止」、「仲間を売ること、密告、裏切りの禁止」、「内部抗争、仲間内のけんかの禁止」、「組織の金の横領の禁止」、「仲間の女に手を出すことの禁止」等が挙げられる。
 なお、これらの禁止事項は、組の綱領等の形で明示されていることが多い。
(ウ) 制裁
 首領等の命令に従わず、また、暴力団組織内部の禁止事項に違反した者に対しては、組織内部において厳しい制裁が科されるのが通常である。特に厳しい制裁としては、リンチ、指詰め、破門、絶縁(注)があるが、このほか、謹慎処分、所払い、罰金等がある。また、禁止事項を遵守せずに逮捕されたり、懲役刑を科せられたりした者に対しては、その制裁として、差し入れ、出所の出迎え、出所祝い等を禁ずることが多い。
(注) 破門、絶縁とは、暴力団社会又は自己が所属する暴力団組織からの追放を意味し、暴力団社会にあっては最も重大な制裁の一つである。
(エ) 報酬
 首領、幹部の命令を遵守し組織に貢献した場合には、組織内で報酬が与えられる。例えば、幹部の命令に従って、対立する団体を襲撃し、また、他人の敢行した犯罪について身代わりで服役しようとし、さらに、警察に検挙されても組織の関与を否定するなどした者に対して、組織が弁護費用の肩代わりや家族に対する生活費の支給を行い、また、刑務所から出所した時に組織内での賞賛と相応の報酬を与えている。
(2) 暴力団の大規模化、系列化
ア 暴力団の大規模化、系列化促進の要因
 山口組、稲川会等の特定の暴力団は、昭和30年代には、大規模な対立抗争を繰り返しながら他の団体を吸収し、その勢力を拡大していった。40年代に入ってからは、警察のいわゆる頂上作戦や資金源犯罪取締りの強化等により、暴力団全体の勢力は減少に向かったものの、資金源活動の多様化や上納金制度の確立を図った大規模暴力団は、中小暴力団を吸収しながら勢力拡大を続け、現在では、前記(第1節2(1))のとおり特定の暴力団による寡占化が一層進展している状況にある。
 大規模暴力団が一層大規模化、系列化を図ろうとする理由としては、一般的には、上位団体に入る上納金の増加、広域的な資金源活動の効率化、他の大規模暴力団に対する優位性の獲得等が挙げられる。なお、山口組が最近一層大規模化した理由の一つとしては、後継組長の座をめぐり、組織内の有力な幹部が競って自派の勢力の拡大を図ったことが挙げられる。
 また、中小暴力団が大規模暴力団の傘下に入ろうとする理由について、前記調査において、メリットとデメリットとの比較考量という形で調査したが、その結果から次のことがうかがわれる。
 大規模暴力団の傘下に入ることから、一般的には、団体の持つ威力の増大、縄張の安定性の向上、資金源活動等の効率化というメリットがある一方、上納金、義理かけ行事のための支出の増加というデメリットがあるとみられる。縄張の安定性が向上することによって対立抗争に備える経費が減少し、なおかつ、団体の持つ威力が増大して資金源活動等が効率化することが、上納金、義理かけ行事のための支出の増加を補って余りあると判断する中小暴力団が多く、そのため、中小暴力団は大規模暴力団の傘下に入ろうとするのである。
 以上のように、暴力団の大規模化、系列化の進展は、暴力団が市民に与える威力の増大、活動範囲の拡大をもたらし、より効率的に市民社会から違法、不当な利益を獲得することができるようにさせ、さらに、上納金制度等で上部団体に入る資金が増加し、上部団体が犯罪を直接敢行する必要が少なくなり、それに対する取締りは困難化してきている。このように、暴力団の社会に与える害悪は一層深刻なものになってきている。
イ 下部団体への上部団体の関与の程度
(ア) 資金源活動と上部団体の関与の程度
 前記調査において、暴力団の合法的資金源活動、非合法資金源活動のそれぞれについて、資金源活動と所属する大規模団体との関係を、「所属する大規模団体による支援や取引があるもの」、「所属団体だけで独自に運営しているもの」などに分類した結果は、表1-1のとおりである。

表1-1 資金源活動と所属する大規模団体との関係

 合法的資金源活動、非合法資金源活動のいずれにおいても、「所属する大規模団体による支援や取引がある」とした者が2割弱であるのに対し、「個別団体だけで独自に運営している」とした者はおおよそ5割であり、その関与の程度は高いものではない。
(イ) 暴力団の諸活動と上部団体の承認の必要性
 下部団体の諸活動に対する上部団体の承認の必要性についてみると、前記調査によれば、「跡目相続」、「解散声明を出すこと」、「縄張の進出、拡大」、「破門状の配布」を挙げる者が多いが、これに対して、「新たな資金源の開拓」、「薬物の密売」を挙げる者は少ない。
 以上のように、大規模団体の上部団体は、下部団体の人事、縄張等組織の基本的な事項については深く関与するものの、下部団体の個別の資金源活動に関与することは少ない。それゆえに、暴力団が大規模化、系列化することは、上部団体を資金源犯罪によって取り締まることを一層困難なものとしている。
(3) 暴力団相互の関係
ア 友誼(ぎ)関係
 暴力団は、自己の縄張を守るためなどから、他団体との間で、首領、幹部同士が擬制的血縁関係を結び義兄弟になって、友誼(ぎ)関係を作り上げたり、また、多数の団体で、その間に生じる日常的なトラブルを解決し、又は大規模団体の進出に共同して対抗するために、親ぼく団体を結成したりしている。
〔事例1〕 昭和45年、反山口組の姿勢を取る共政会(広島県)、合田一家(山口県)等、西日本の有力10団体が、勢力拡大を図る山口組の動きに対抗して、「関西二十日会」を結成した。
〔事例2〕 47年10月に山口組と稲川会の最高幹部同士が義兄弟の関係を結び、三代目山口組組長の死後、59年6月に四代目組長が襲名すると、稲川会会長(現総裁)が山口組組長の後見人となるなどして、東西の大規模暴力団が友誼(ぎ)関係を深めている。
イ 対立関係
 暴力団は、組織の威力を背景に、違法、不当に資金を獲得することをその最大の目的としており、その縄張を拡大し又は守るために、しばしば対立抗争事件を引き起こしている。最近3年間の対立抗争事件の主な原因を分類してみると、表1-2のとおりであり、縄張争いをはじめとする資金源活動に関係する対立抗争事件が28件(全対立抗争事件の34.1%)発生している。

表1-2 対立抗争事件の主な原因(昭和61~63年)

 また、飲酒中のささいな原因によるトラブル等に端を発するものが30件(36.6%)、構成員の処分、組織の移籍、内紛等に端を発するものが10件(12.2%)発生している。暴力団は、自己の権勢を保持するためには「恥辱は必ず償われなければならない」としており、体面を傷つけられれば、それを放置することはできず、このようなささいな原因からでも対立抗争事件へと発展させていくのである。
 このように、暴力団の対立抗争の原因は、暴力団組織に内在しており、暴力団は、組織としての活動を行う限り不可避的に対立抗争事件を発生させるものといえる。
 対立抗争事件の当事者となった団体は、表1-3のとおりであり、山口組をはじめとする指定3団体が大部分を占めている。特に山口組は、一和会との対立抗争事件等もあったことにより、件数で約5割、回数で7割以上となっている。

表1-3 対立抗争事件の当事者となった団体(昭和59~63年)

 このような対立抗争事件によって、一般市民は、いつ巻き添えに遭うか分からず、また、対立抗争事件は、自己の目的達成のために公然と凶悪な行為を反復的に行うものであり、それ自体が法秩序全体への重大な挑戦であるといえ、市民社会へ大きな脅威を与えている。
ウ 義理かけ行事
 暴力団は、襲名披露、組葬をはじめ、結縁、出所祝い等の様々な名目で、義理かけ行事をしばしば開催している。
 義理かけ行事は、暴力団がその勢力を社会一般や他団体に誇示することを目的としており、暴力団員が多数集結することによって、一般市民に多大な恐怖感を与え、法秩序全体への信頼感を揺るがしかねないものである。
 また、義理かけ行事の際には、祝儀、香典等の名目で、下位構成員や友誼(ぎ)団体等から義理かけ行事を主催する首領等へ多額の金銭が集められ、暴力団にとっては資金源活動としての性格も合わせ持っている。
 このように、義理かけ行事は、葬儀等であってもその本来の性質を大きく逸脱した極めて反社会的な行事であり、警察は、その規制に積極的に取り組んでいる。

3 暴力団の人的要素

 暴力団員は、その所属団体内の地位又は所属団体との関係により、首領、幹部及び組員から成る構成員と準構成員とに分類される。準構成員とは、構成員ではないが、暴力団と関係を持ちながら、その組織の威力を背景として暴力的不法行為を行う者、又は暴力団に資金や武器を供給するなどして、その組織の維持、運営に協力若しくは関与する者をいい、これらの者も暴力団組織を支えている。
(1) 暴力団員の実態
 昭和63年末現在の暴力団員の年齢構成は、図1-6のとおりであるが、最近の傾向としては、20歳代後半から30歳代の層が顕著に減少している一方、20歳未満の少年については大幅に増加している。

図1-6 暴力団員の年齢構成(昭和63年)

ア 暴力団への加入者
 暴力団は、毎年少年等多数の者が加入するために、全体としてその勢力を維持している。平成元年2月、警察庁は都道府県警察を通じて、暴力団に加入して2年以内の暴力団員291人を対象に、暴力団への加入過程等について面接調査を行ったが、その結果は以下のとおりである。
 なお、これらの調査対象者の暴力団加入時の年齢については、表1-4のとおりであり、15歳から24歳までに加入した者が約3分の2を占め、青少年が多いことが分かる。

表1-4 暴力団加入時の年齢

(ア) 生育過程
a 家庭環境
 調査対象者が育った家庭環境をその中学生時代についてみると、以下のとおりである。
 経済状態については、「中」と回答した者が約6割、「下」又は「極貧」と回答した者が4割弱となっており、貧しい方へ傾斜しているといえる。
 保護者の態度については、「放任されていた」と回答した者が約半数を占めるが、反対に、「干渉され過ぎた」、「溺(でき)愛された」と回答した者も、合わせて1割を超えている。
b 学歴、職歴
 調査対象者の最終学歴については、中学校卒業と高校中退が多く、合わせて8割を超えている。また、高校又は中学校を卒業、中退等する直前1年間の怠学の経験は、 表1-5のとおりであり、総じて学校生活に適応できなかった者が多数を占めているといえる。
 次に、職歴をみると、9割以上の者が職歴を持ち、そのうち2回以上転職した者が6割弱を数え、職場にも適応できなかった者が多いことがうかがわれる。
c 非行等の経験、検挙歴
 家出歴については、ほぼ3人に1人が家出を経験している。
 また、15歳から18歳当時に行っていた非行等の経験については、表1-6のとおりで、不良的遊びとみられるものを経験している者は多く、さらに、犯罪行為とみられるものを経験している者も相当数いる。

表1-5 怠学の経験

表1-6 非行等の経験(複数選択)

 次に、非行集団への加入経験をみると、中学校在学中に4割を超える者が既に何らかの非行集団に加入しており、これが中学校卒業時から18歳ころまでとなるとほぼ6割となる。この中では、暴走族集団や地域粗暴集団に加入したことのある者が多い。
 最後に、検挙歴については、ほぼ4人に3人が検挙歴を有し、また、ほぼ2人に1人が2回以上の検挙歴を有している。
(イ) 暴力団への加入過程
a 暴力団員との最初の接触
 加入に先立って暴力団員と初めて接触した時の状態は、失業中であった者が約4割を占めている。また、その接触の場所については、飲食店、キャバレー、ゲームセンター、ディスコ等が多い。
 次に、その接触の契機については、表1-7のとおりであり、「知り合いが暴力団員であった」と回答した者が最も多く、次いで「金銭上あるいは生活上の面倒をみてもらった」、「自分から進んで近づいた」の順となっている。

表1-7 暴力団員との最初の接触の契機

b 暴力団加入までの経過
 暴力団員と接触した調査対象者がその後暴力団に加入するまでの経過については、表1-8のとおりで、「誘われるまますぐ加入した」、「一緒に遊んで面白かったので加入した」、「生活の面倒をみてくれたので加入した」と回答した者が多い。
 次に、暴力団への加入目的をみると、「かっこよさへのあこがれ」が最も多く、次いで「当面の生活の維持のため」、「享楽的な生活ができるから」などとなっており、従来からいわれている「義理人情の世界へのあこがれから加入した」という者は少ない。

表1-8 加入までの経過(2項目選択)

イ 暴力団員の生活
 科学警察研究所は、61年に暴力団員の生活構造について調査を実施したが、その結果は以下のとおりである。
(ア) 暴力団員の家計
 家計の主たる維持者は、暴力団員本人(58.5%)、妻・内妻(22.4%)、親兄弟(5.8%)、愛人(2.6%)、その他、不明(10.7%)となっており、少なからぬ暴力団員が、妻・内妻、愛人、親兄弟の助力を得て家計を維持している。
(イ) 暴力団員の仕事
 仕事をしているかどうかをみると、「定期的に仕事をしている」と回答した者は17.0%、「不定期に仕事をしている」と回答した者は25.9%、「仕事はしていない」と回答した者は52.3%、「その他、不明」と回答した者は4.8%となっている。
 主な仕事の内容は、表1-9のとおりであり、一般に、非合法活動や露店商、工員、店員、労務者として働いている者が多い。
 なお、仕事の内容を明確にしなかった者は、「その他、不明」の欄に類別されているが、この中には、非合法活動を仕事としている者が多いとみられる。

表1-9 暴力団員の仕事

(ウ) 暴力団員の生活の中での遊び
 暴力団員の生活の中では、遊びに大きなウエイトが置かれている。暴力団員の遊びの時間と仕事の時間を対比させると、図1-7のとおりであり、遊びの時間を長くとる者は多く、長時間にわたって仕事をする者は少ないといえる。個々の暴力団員について遊びと仕事の時間配分の状況をみると、図1-8のとおりであり、仕事より遊びに時間を掛けている暴力団員が過半数を占めていることが分かる。

図1-7 遊びの時間と仕事の時間の対比

図1-8 遊びと仕事の時間配分

(エ) 暴力団員の納税状況等
 納税状況等の調査に対する調査対象者からの回答によると、暴力団員の納税状況は、所得税を納めている者が約5分の1、住民税を納めている者が約3分の1しかおらず、国民としての義務を履行していない者が多くみられる。
 また、全体の2.4%の者が生活保護を受けていたが、この中には、実際には十分な所得がありながら、それを秘して不正に受給していた者もいた。
(オ) 暴力団員の生活目標
 暴力団員の生活目標を地位別に示すと、首領、幹部では、「将来事業を経営する」、「金をためる」、「極道の世界で出世する」などの目標を挙げる者が多く、組員、準構成員では、「当面の生活費を得る」、「特に目標はなく、ただ何となく過ごしている」を挙げる者が多い。つまり、一般的にいって、地位が上位の者では、暴力団活動による利益の蓄積やその他のメリットの享受が目的となっているとみられるが、下位の者では、当面の生活費の確保や享楽的な生活を送ることなどが目的となっている。
(カ) 暴力団員の享楽的な生活
 以上のように、暴力団員は、仕事の時間は概して短く、逆に遊びへの時間配分が大きく、遊び志向の生活を送っており、犯罪活動を通じての功利的な生活目標の達成を目指している。また、税金を納めないなど、国民としての義務を履行していない。これらのことを総合して、暴力団員の生活を一言で形容するならば、正に「享楽的な生活」ということができる。
(2) 企業舎弟
 暴力団の準構成員として、暴力団の威力を背景としつつ、合法企業の形態をもって各種の利権をあさる者がおり、企業舎弟と呼ばれている。彼らは、暴力団につながる者であり、暴力団を利用する見返りとして資金を提供しているほか、暴力団が市民生活や企業取引のトラブルに介入、関与するための情報を集める触角の役目を担っているとみられる。このような企業舎弟は、暴力団の元組長や会社ゴロ等がなっている場合が多い。
〔事例〕 大手不動産会社社長(54)は、けん銃の不法所持で逮捕されたが、このけん銃は、昔から付き合いのあった山口組最高幹部から手渡されたものであった。10月10日逮捕(大阪)
(3) 検挙活動による組織離脱と復帰
ア 検挙による暴力団員の組織離脱促進
 昭和63年6月に警察が検挙した暴力団員4,233人を対象として、その後の処分の状況について、63年12月末現在で調査した結果によると、調査対象者のうち、3,304人が起訴され、このうち、3,133人に第1審判決が下され、2,031人(検挙人員の48.0%)に対し懲役刑又は禁錮(こ)刑(執行猶与付きを含む。)が科されている。残りの者については、罰金、科料等となっている。また、調査対象者のうち115人が家庭裁判所の処分を受けて施設に収容されている。そして、服役しなかった者のうちの相当数が組織にとどまっているとみられる。
 また、服役した暴力団員の出所後の組織復帰の状況についてみると、例えば、九州管区警察局内で62年に仮出獄となった暴力団員304人について、仮出獄後の組織復帰の有無について調査したところ、63年11月末現在で151人(49.7%)が組織復帰している。
イ 解散した暴力団の再編成
 58年に、科学警察研究所が、54年1月から56年12月末までの3年間に解散した暴力団のうち95団体について再編成の状況を調査したところ、暴力団として再編成した団体が15団体、再編成準備中とみられる団体が7団体となっており、合計22団体が解散後2~5年で再編成を果たしたか、再編成の準備をしているとみられる。
 また、解散した暴力団の構成員の解散後の動向について、団体単位でみると、95団体中、一部まとまって他の団体に加入したものが34団体、ほぼ全部まとまって他の団体に加入したものが15団体あり、さらに、団体解散後離散した構成員についても、その相当数が他の団体に加入しているものとみられる。

4 暴力団における資金の流れ

(1) 暴力団の資金源活動
 暴力団は、その団体の勢力を及ぼし、安定的に資金を獲得するため、一定の地域(対象、利権の面で限定されることがある。)に対する支配権を持っており、これを縄張と呼んでいる。縄張の大小は、当該暴力団の勢力やその首領の権威、権力を左右する最たるものといえる。したがって、どの暴力団も、縄張の拡張を図ろうとし、また、自己の縄張を守ろうとしてしばしば対立抗争事件を引き起こしている。
ア 暴力団の収入
 警察庁が平成元年に行った調査(注)では、暴力団全体の年間収入は、その資金獲得の手段、態様から推定する方法によると、総額約1兆3,019億円となっている。その内訳は図1-9のとおりであり、非合法な収入が80.3%を占め、暴力団はその資金の大半を違法な活動に依存していることが分かる。他方、暴力団全体の年間収入を個別に生活程度等から推定する方法によると、総額約1兆1,830億円となっている。両方の調査結果からみると、暴力団全体の年間収入は総額1兆数千億円に上るものとみられる。
(注) 警察庁では、暴力団の資金源等の実態を明らかにするために、平成元年2月、全国の都道府県警察を通じて、次の2つの調査を行った。
[1] 暴力団員の収入及び資産に関する調査
 全国の暴力団のうち、平均的規模の団体241団体を選び、その中から、資産、収入等が比較的よく把握されている暴力団員917人を選んで、平均収入及び主な資産等について、捜査員が調査した。
[2] 暴力団の資金源に関する調査
 本調査は、捜査員が行った次の3つの調査から成る。(i)前記の241の調査対象団体の全暴力団員について、いかなる手段、態様によって資金を獲得しているかを調査した。(ii)前記の調査対象団体の全暴力団員について、これらの者が経営し、又は経営に関与している企業数を調査した。(iii)全国警察が平成元年2月に検挙した暴力団員について、犯罪によってその者が得た収入を調査した。
 手段、態様から推定する方法は、調査[1]及び[2]の結果に基づき、主な資金獲得の手段、態様から暴力団全体の年間収入を計算し、それらを合算したものである。個別に生活程度等から推定する方法は、調査[1]の結果に基づいて計算した。推定の方法が違うため、両者の結果は必ずしも一致しない。

図1-9 暴力団の年間収入の内訳

イ 伝統的な資金源活動
 覚せい剤の密売、賭博(とばく)、ノミ行為、みかじめ料等といった伝統的な資金源活動による収入が暴力団の全収入に占める割合は、依然として高く、50%以上に上っている。
(ア) 覚せい剤
 覚せい剤は、韓国、台湾等の密造組織から仕入れる際の価格が1グラム当たり数千円程度であるのに対して、末端乱用者に渡る際の値段は1グラム当たり十数万円と、売却益が非常に大きく、また、覚せい剤の密輸、密売組織は暴力団によって牛耳られているため、覚せい剤によってもたらされる違法な資金の大半が暴力団に流入しているものとみられる。これは、毎年覚せい剤事犯による検挙人員の50%前後、特に譲渡事犯については60%前後が暴力団員によって占められていることからもうかがわれる(なお、覚せい剤事犯については、第5章1(2)参照)。
 覚せい剤は、約4,535億円(全収入の34.8%)の収入をもたらしており、依然として暴力団最大の資金源になっているとみられる。
(イ) 賭博(とばく)、ノミ行為
 暴力団は、賭博(とばく)場を現在でも開帳するほか、ゲーム機賭博(とばく)にも関与し、賭博(とばく)による収入は依然として暴力団の有力な資金源となっている。また、競輪、競馬、競艇、オートレースの公営競技におけるノミ行為も、暴力団の大きな資金源となっている。公営競技場からのノミ屋、暴力団の排除を推進した結果、場内でのノミ行為は大幅に減少しているが、場外でのノミ行為は、依然として跡を絶たない状況にある(なお、ノミ行為事犯については、第5章2(4)参照)。
(ウ) みかじめ料
 暴力団は、風俗営業等の業者に対し、みかじめ料、用心棒代、守料、カスリ、ショバ代等の様々な名目で不当な金銭の提供や法外な価格での物品の購入、リースを強要するなどして、資金獲得を図っている。嫌がらせをされたりすることを恐れて要求に従う業者が少なくないことから、みかじめ料は暴力団の安定的な資金源となっている。
 石川県警察が昭和63年9月に県内の1,500店の風俗営業者等(県内全営業者の26.4%)を対象に、みかじめ料等に関するアンケート調査を実施したが、その結果は表1-10のとおりである。なお、この調査は、その性質上回収率が50.8%と極めて低く、このことも考慮する必要がある。

表1-10 石川県におけるみかじめ料等の支払状況

〔事例〕 山口組系暴力団幹部(48)は、富士山五合目で営業する写真業者に対し、みかじめ料の名目で金銭の提供を要求して、2年間で現金約500万円を喝取した。11月1日逮捕(山梨)
ウ 新しい形態の資金源活動
 近年、暴力団は、資金源活動の内容をますます多様化、巧妙化させており、新しい形態の資金源活動として民事介入暴力、企業対象暴力等を多発させている。
(ア) 民事介入暴力
 民事介入暴力とは、一般市民の日常生活や経済取引に介入、関与して違法、不当な利益の獲得を図るもので、民事取引を仮装することによって警察の取締りを免れようとしているものである。暴力団が伝統的な資金源活動にとどまっている限りは、特定の市民を対象とするものであるが、民事介入暴力においては、すべての人が暴力団の被害者となる可能性がある点で、一般市民の受ける影響はより大きいのである。
 また、民事介入暴力は、暴力団を自己の債権取立て等に利用しようとする者の存在によって一層助長されているが、これらの暴力団の利用者も、結局は、暴力団の被害を受ける結果になるということが多い。
 民事介入暴力に対して、警察は、積極的に相談活動を推進しており、最近5年間の相談の類型別受理状況は、図1-10のとおりで、金銭貸借に絡むもの、交通事故の示談等に絡むものが上位を占めている。大都市を中心とする地価の高騰を背景に「地上げ」等が横行し、一時は不動産絡みの事犯が大きく増加したものの、現在は地価高騰の沈静化を受けて減少に転じている。

図1-10 民事介入暴力相談の類型別受理状況(昭和59~63年)

〔事例1〕 山口組系暴力団準構成員(51)ら7人は、「地上げ」目的でビルを買い取った後、同ビルからの立ち退きを拒んで営業を継続していた会社を追い出そうと図り、同ビル内の空き部屋、通路等を鉄パイプ等で破壊して騒音を発生させたり、社名表示案内板を投棄したりするなどして、同社の営業を妨害した。11月16日逮捕(京都)
〔事例2〕 交通事故の被害に遭った男(37)は、自己の被害の程度から600万円くらいが保険金としては妥当な額だと知りながら、暴力団の威力を利用してこれを上回る保険金を得る目的で、知り合いの全丁字家連合会系暴力団組員(42)に保険会社との交渉を依頼した。その結果、約1080万円の保険金を得たものの、その報酬としての180万円の支払いに加えて、61年5月、同組員から「休業補償など水増しして請求したんだ。俺が警察にいえば大変なことになるぞ」などと脅迫され、現金550万円を喝取された(北海道)。
(イ) 企業対象暴力
 日本経済は企業活動を中心として展開されており、企業が生み出す利益は巨額であるため、企業を対象とする犯罪は、個人を対象とする犯罪とは比較にならないほどの大きな利益をもたらす。このため、企業から違法、不当な利益を得ようと暗躍する者(総会屋等)は古くから存在しているが、近年、その手口は悪質、巧妙化しており、政治活動や社会運動を仮装、標ぼうする社会運動等標ぼうゴロも出現するに至っている。
a 総会屋等
 総会屋、新聞ゴロ、会社ゴロ等(以下「総会屋等」という。)は、株主権の行使や報道等に名を借りて、また、企業のスキャンダル等を利用して、企業から違法、不当な利益の獲得を図ろうとする者である。総会屋等は、本来、必ずしも暴力団と関係のある存在ではなかったが、近年、総会屋等の取締りが強化されるに従い、また、暴力団の資金源が多様化してくるに従い、両者の結び付きが強まってきている。
 特に、総会屋についてみると、56年10月の利益供与の禁止規定を新設する商法の改正によって、その勢力は著しく減少し、改正商法施行前には約6,300人いた総会屋は、63年12月末現在、1,331人となっている。
 しかし、現在活動している多くの総会屋は、何らかの形で暴力団と関係を持ち、暴力団を利用しながら巧妙に企業に対して資金提供を要求するなど、一層悪質化している。
〔事例〕 大手計測器メーカーの総務部長(50)ら2人は、会社の経理を操作して裏金を作り、株主総会を平穏に終了させるために大物総会屋(40)ら2人に現金350万円を支払い、商法に違反して利益を供与した。2月25日逮捕(警視庁)
b 社会運動等標ぼうゴロ
 社会運動等標ぼうゴロには、同和運動を仮装、標ぼうする者による企業対象暴力(エセ同和行為)と、右翼活動等の政治活動を仮装、標ぼうする政治活動標ぼうゴロとがあり、企業等に対して、社会運動や政治活動に名を借りて、機関紙(誌)の購入代金、活動への賛助金、地域対策費等の名目で違法、不当な要求を行い、その手段として街宣車を使っての街頭宣伝活動を行うこともある。
 社会運動等標ぼうゴロも、総会屋等と同様に、暴力団との結び付きを強めている。
 63年に警察庁が実施した企業犯罪リスクの調査によると、回答のあった事業所のうち、社会運動等標ぼうゴロから違法、不当な要求を受けたことのあるものは多く、要求を態様別にみると、金品の要求を受けたことのあるものが約4分の1、機関紙(誌)の購入又は機関紙(誌)への広告掲載要求を受けたことのあるものが約2割、下請、物品の購入、リースの要求を受けたものが1割弱などとなっており、社会運動等標ぼうゴロの活動の広がりがうかがわれる。
エ 合法的な資金源
 暴力団の総収入における合法的な収入の占める割合は、次第に高まってきており、暴力団が社会により浸透しつつあることを示している。
 合法的な資金獲得活動の態様も、金融業、建設業、不動産業をはじめとする様々な事業分野の企業を経営するなど多岐にわたっている。しかし、合法的な企業の形態を取っていても、暴力団組織の威力を背景にした活動を行うことが多く、むしろ暴力団の隠れみのになっていることが多い。
(2) 暴力団組織内部の資金の流れ
ア 下位構成員から上位構成員への資金の流れ
 暴力団組織内部の下位構成員から上位構成員への資金の流れは、主に上納金制度を通じて行われている。
 上納金制度とは、暴力団の組織の維持、運営に要する資金あるいは首領、幹部自らの生活費や遊興費を賄うために、構成員から定期的に一定額を組織に納めさせる制度であり、系列内の上位団体に対しても行われ、暴力団に広くみられるものである。ある大規模暴力団の上納金の流れは、図1-11のとおりで、毎月何億円という現金が組織の中枢幹部の下に集められているといわれている。
 この結果、首領、幹部は、自ら検挙される危険を冒してまで資金獲得のための犯罪を敢行する必要がなくなったことから、これらの者に対する検挙、課税、没収等が困難化してきている。
 なお、大規模暴力団の首領クラスは、一等地に豪邸を構え、また、高級外車を保有するなど、一般市民からは不自然と思われるようなぜいたくな生活を送っているが、これは、上納金制度に負うところが大きいのである。

図1-11 ある大規模暴力団の上納金の流れ(1箇月単位)

 また、襲名披露、組葬、出所祝い等各種の義理かけ行事においては、祝儀、香典等の名目で、組織内部においても相当の資金が下位構成員から上位構成員に対して贈与されているが、これも上納金と同じような意味合いを持っている。
イ 上位構成員から下位構成員への資金の流れ
 暴力団社会においては、末端の構成員は自力で生活費を得るのが原則であり、通常は、首領、幹部等の上位構成員が下位構成員等の生活の面倒をみることはない。しかし、専ら対立抗争事件等の際に、組のために先頭に立って襲撃を敢行したりする役割を担う者については、日ごろから首領等が生活の面倒をみたりすることがある。いわば、これは暴力団が暴力を維持するための費用である。
 また、暴力団事務所等に部屋住み等として居住して首領の雑用等を専ら処理する者は、資金獲得のための活動を行うことができないので、首領等から小遣い等の名目で金銭が渡されるのが通常である。

5 暴力団事務所

 一般に、暴力団事務所においては、組織の勢力を誇示し、付近住民を威嚇する代紋及び組看板がその正面に掲出されており、また、その周囲には、対立抗争に備えて絶えず周囲の状況を監視するため、モニターカメラや投光機までもが設置されている。さらに、建物内部には、代紋等が描かれた提灯(ちようちん)や構成員、歴代組長等の名札のほか、綱領等が掲げられており、それによって組織内の一体感を高めている。
 そして、暴力団事務所には、多数の組員が常に出入りし、当番組員が交代で泊まり込んでいる。暴力団事務所は、その組織の指揮命令、連絡の中枢としての機能を持ち、さらには犯罪の謀議の場ともなっている。
 このように、暴力団事務所は暴力団活動の拠点であり、その存在自体が付近住民を脅かしているだけではなく、特に対立抗争時には攻撃目標になり、地域に不安と危険を与えている。
 暴力団事務所は、昭和63年4月末現在、全国に約4,000箇所存在している。


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