2010年APECの成功に向けて

12010年APECをめぐる諸情勢

1 2010年APECをめぐる諸情勢

 2010年APEC(アジア太平洋経済協力)は、首脳会議が平成22年11月13日及び14日、閣僚会議が同月10日及び11日、それぞれ横浜市において開催されます。また、関連閣僚会合が同年6月上旬から11月にかけて順次、全国7か所で開催されます。
 2010年APEC首脳会議の最大の特徴は、北海道洞爺湖サミットとは異なり、首都圈の都市部で開催されることです。APECをめぐっては、依然として厳しい国際テロ情勢に加え、反グローバリズムを掲げる過激な勢力等による大規模な暴動の発生が懸念されること、21の国と地域から多数の要人が来日すること、公共交通機関等のソフトターゲットに対するテロや市街地で行われる抗議活動に周囲の野次馬が突如加わることによる大規模な混乱等が危惧されることなどから、北海道洞爺湖サミット警備以上に困難な大警備となります。
 そこで、警察としては、テロリストや反グローバリズムを掲げる過激な勢力等の実態等について情報収集に努めるほか、大規模な特別派遣に向けて部隊の実戦的な訓練を行うとともに、国民の理解と協力の確保に向けた広報活動を行うなど、組織の総力を挙げた取組みを推進していくこととしています。
2010年APEC首脳会議等の開催地
2010年APEC首脳会議等の開催地
2010年APEC首脳会議等の開催地
2010年APEC首脳会議等の開催地

2 国際テロ情勢

 アル・カーイダを始めとするイスラム過激派から米国の同盟国とみなされ、オサマ・ビンラディンやアイマン・アル・ザワヒリのものとされる声明でテロの標的として名指しされている我が国において、アジア太平洋地域の首脳や閣僚が一堂に会するAPECが開催されます。
 13年9月11日の米国における同時多発テロ事件以降、世界各地において米国権益に対するテロが発生しており、21年12月には、米国旅客機を標的としたテロ未遂事件が発生しました。我が国にも米国関連施設が多数存在していますが、現在米国において拘束中のアル・カーイダ幹部ハリド・シェイク・モハメドが、東京の米国大使館を破壊する計画等に関与したと供述していたこと等にかんがみれば、APEC開催を機に、これらの施設を標的としたテロが発生することが懸念されます。
 また、17年7月、英国におけるグレンイーグルズサミット期間中に、ロンドンにおいて同時多発テロ事件が発生したことや、16年3月、総選挙を3日後に控えたスペイン・マドリードにおいて、同時多発列車爆破テロ事件が発生したことにかんがみれば、APEC首脳会議等の開催地に限らず、それ以外の場所や公共交通機関等のソフトターゲットを標的としたテロ攻撃が行われる可能性も否定できません。
 さらに、我が国には、イスラム諸国からの入国者が多数滞在して各地でコミュニティを形成していることから、今後、イスラム過激派が、こうしたコミュニティを悪用し、資金や資機材の調達を図るとともに、様々な機会を通じて若者等の過激化に関与することも懸念されます。
マドリードにおける爆破テロによって破壊された列車(16年3月)(時事)
マドリードにおける爆破テロによって破壊された列車(16年3月)(時事)

3 国内外で連携を強める反グローバリズムを掲げる過激な勢力等

 海外の反グローバリズムを掲げる過激な勢力等は、最近の各種国際会議に合わせ、開催都市や会場周辺で大規模なデモに取り組んでおり、その過程で一部が暴徒化し、警察部隊と衝突するなど過激な抗議行動を引き起こしています。
 一方、国内の勢力は、北海道洞爺湖サミット開催に伴って、海外の過激な勢力等と連携し、デモ等の抗議行動を行いましたが、サミットの終了後も人的ネットワークを存続させ、市民団体や労働組合との連携を強化し、また、国内外の国際会議への対抗行動やインターネット等を通じて、海外の過激な勢力との交流を深めています。
 APECに向けては、21年3月25日の開催地決定以降、国内の反グローバリズムを掲げる過激な勢力の一部が、既に抗議行動への取組みを示唆しており、これら勢力が各種国際会議に伴い、海外の過激な勢力と連携して、集会やデモを始めとする様々な活動を行うものとみられ、その過程で、道路封鎖や暴動等の過激な抗議行動を引き起こすことも懸念されます。
 現に、アジアで開催された韓国・釜山APEC(17年11月)においては、会場周辺で約3万人がデモ行進を行い、一部の参加者が警察部隊と衝突しました。
韓国・釜山APECで警察部隊と衝突するデモ隊(17年11月) 首脳会議会場に向かうデモ隊を放水により阻止する警察部隊(17年11月、釜山)
韓国・釜山APECで警察部隊と衝突するデモ隊(17年11月) 首脳会議会場に向かうデモ隊を放水により
阻止する警察部隊(17年11月、釜山)

4 海外の反グローバリズムを掲げる過激な勢力等との連携を強め「APEC粉砕」を主張する過激派

 過激派は、APECを「米日帝のアジア・太平洋支配のためのAPEC」ととらえるとともに、「戦争と貧困を拡大する横浜APEC粉砕」と主張しており、各派とも、22年の最大闘争課題としてその「反対」闘争に取り組むものとみられます。中でも、革労協反主流派等は、会議関連施設、在日米軍施設等を標的とした「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすことが懸念されます。
 また、最近の過激派は、反グローバリズム運動が主要テーマとする貧困問題等を闘争課題に掲げ、同運動に取り組む団体の組織、活動に介入したり、セクト色を巧みに隠して反グローバリズム運動に取り組んだりしています。特に、共産主義者同盟(統一委員会)、JRCL(日本革命的共産主義者同盟)等は、海外で開催される国際会議への抗議行動を通じ、海外の反グローバリズムを掲げる過激な勢力との連携を強めています。また、中核派(党中央)も、国際連帯活動の一環として海外の労働組合と交流を深めていることなどから、「APEC反対」闘争では、これら海外の団体を受け入れ、過激な抗議行動に取り組むことが予想されます。
過激派による北海道洞爺湖サミット反対行動(20年6月、東京)
過激派による北海道洞爺湖サミット反対行動(20年6月、東京)

5 領土問題等をとらえ諸外国への抗議活動に執拗に取り組む右翼

 右翼は、中国、韓国、ロシアに対する領土問題等をとらえた批判活動のほか、一部は、米国に対し、原爆投下等をとらえた批判活動に執拗に取り組んでいます。
 APECを機に、右翼は、これらの取組みを活発化させ、その過程で、各国要人及び関係施設に対するテロ等重大事件を引き起こすことが懸念されます。

22010年APEC対策

1 警備諸対策

(1)体制の構築

 警察では、21年11月20日、警察庁に次長を長とする「2010年APEC警備対策委員会」を設置しました。また、首脳・閣僚会議、エネルギー大臣会合の開催地を管轄する神奈川県警察、福井県警察が、それぞれAPEC対策課を設置したほか、その他のすべての都道府県警察において警備連絡室等を設置して体制を確立し、全国一体となって諸対策を推進しています。    
第1回2010年APEC警備対策委員会
第1回2010年APEC警備対策委員会

(2)基本方針

 今回のAPEC警備では、国民の理解と協力を得て、国内外の要人の身辺の安全と行事の円滑な遂行の確保、テロ等違法行為の未然防止を図ることを基本方針としています。特に、今回のAPECでは、首脳会議が首都圏で開催されるほか、多数の会合が全国で開催され、市民生活や経済活動等へ影響が及ぶことから、国民の理解と協力を得て警備諸対策を推進することとしています。
警護車列訓練
警護車列訓練

(3)部隊の対処能力の向上

 警察では、反グローバリズムを掲げる過激な勢力等による大規模なデモや暴動への対処を念頭に置き、デモ規制、火炎瓶や投石への対応等を目的とした実戦的訓練を行っています。
治安警備訓練
治安警備訓練

(4)関係機関、事業者との連携

 警察では、テロ等不法行為の未然防止に向けて、関係行政機関と緊密に連携し、水際対策、公共交通機関対策、重要インフラ対策等の各種対策を進めています。
 これらの対策を遂行するに当たっては、自主警備活動の推進、警戒意識の向上等事業者の関与が不可欠であることから、神奈川県警察において「APEC首脳会議対策協力会」を設置するなど、各都道府県警察においては、関係行政機関や鉄道、バス、電力等の事業者を交えた協議会を設置したり、これらの事業者等を対象とするセミナーを開催するなど官民を挙げた取組みを進めています。また、こうした関係機関、事業者と共同し、駅、港湾、大規模商業施設等において、NBCテロ、爆弾テロ等の大規模な対処訓練を行い、これを的確に広報することにより、国民の意識向上にも努めています。
 また、21年の米国及び韓国に対するサイバー攻撃事案にみられるように、サイバーテロの脅威は現実となっており、APECの機会をとらえてサイバーテロが敢行される可能性は否定できません。警察では、その未然防止のため、重要インフラ事業者等に対する個別訪問や協議会における情報交換を通じて基幹システム等の安全確保について必要な助言を行い、重要インフラ事業者等と緊密な連携を確立するとともに、万が一、サイバーテロが発生した場合には、重要インフラ事業者等と連携して対処することとしています。
 さらに、APECの各会合開催地を管轄する都道府県警察では、自治体と緊密に連携し、行事内容等の検討に当たって安全面からのアドバイスを行うなど、会議の安全かつ円滑な遂行に向けた取組みを進めています。
APEC首脳会議対策協力会(11月、神奈川)
APEC首脳会議対策協力会(11月、神奈川)

(5)地域住民等の理解と協力の確保

 多数の首脳や閣僚が来日するAPEC警備においては、全国各地で多数の警察官による警戒や検問等を実施するほか、首脳や閣僚が立ち寄る場所の周辺では交通総量抑制や交通規制等を行うなど、長期間、広範囲にわたる厳重な警戒を行う必要があります。そのためには、地域住民の理解と協力が不可欠であることから、警察では、あらゆる機会を通じて関係市町村の首長等や住民の代表者との協議を行い、これによって、APEC警備に関する理解と協力の確保に努めています。

(6)外国治安情報機関との連携

 警察庁では、北海道洞爺湖サミット警備における外国治安情報機関との協力関係を踏まえつつ、APECに向け、近年に大規模警備を担当した国の治安機関との意見交換を推進しています。   
北海道洞爺湖サミットに反対するデモ(20年7月、北海道)
北海道洞爺湖サミットに反対するデモ(20年7月、北海道)

2 国際テロ対策

 警察では、緊迫した国際テロ情勢の中、アジア太平洋地域の首脳や閣僚が一堂に会するAPECの開催国としての治安責任を果たすべく、国内外の治安情報機関等との連携を一層緊密化し、テロ関連情報の収集・分析を強化するなどして、不審点の徹底解明等を推進することとしています。
 また、テロリストの入国を阻止するため、入国管理局や税関等関係機関と連携して、国際海空港における水際対策を強化するほか、テロに関する不審情報を確実に入手するため、爆発物原料取扱業者、旅館業者、不動産業者等、テロリストが犯行の準備段階において利用する可能性のある施設の管理者に対して、警察への協力を要請するなど、テロの未然防止に万全を期することとしています。

3 反グローバリズムを掲げる過激な勢力等及び過激派・右翼対策

 警察では、反グローバリズムを掲げる過激な勢力等による違法事案や過激派や右翼による「テロ、ゲリラ」事件の未然防止のため、情報収集活動、事件捜査等を推進しているほか、過激派の非公然アジトの摘発、活動資金の枯渇等を目的とした各種対策を推進することとしています。
 また、海外の反グローバリズムを掲げる過激な勢力等の来日が予想されることから、関係省庁、関係機関等との緊密な連携・協力を図り、隙のない水際対策を講じることとしています。各開催地においては、会議場はもとより、要人や宿泊施設、過激派や右翼等の攻撃対象となり得る施設等に対する警戒を強化し、「テロ、ゲリラ」事件、右翼による接近、徘徊事案の未然防止を図るとともに、右翼の街頭宣伝車対策を的確に実施することとしています。また、違法事案が発生した際には、徹底した取締りを行うこととしています。
韓国大統領来日に際し街頭宣伝活動を行う右翼団体(6月、東京) 2009年APEC首脳会議(11月、シンガポール)(時事)
韓国大統領来日に際し
街頭宣伝活動を行う右翼団体(6月、東京)
2009年APEC首脳会議(11月、シンガポール)(時事)