有事に伴う警察の対応

1情報収集と捜査の徹底等

 国際テロは、一たび発生すれば多くの犠牲者が出ることから、テロ対策の要諦はその未然防止にあると言えます。テロの未然防止のためには、幅広い情報を収集し、それを的確に分析して諸対策に活用することが不可欠です。また、テロは極めて秘匿性の高い行為であり、テロの実行に向けた準備は秘密裏に行われるため、収集される関連情報のほとんどは断片的なものです。このため、情報の蓄積と総合的な分析が必要となります。
 そこで、警察では、警察庁国際テロリズム対策課を中心に外国治安情報機関等との連携を一層緊密化するなど、テロ関連情報の収集・分析を強化しているほか、こうした分析結果を重要施設の警戒警備を始めとした諸対策に活用しています。また、警察は、邦人や我が国の権益に関係する重大テロ事件等が国外で発生した場合等に国際テロリズム緊急展開班(TRT-2:Terrorism Response Team-Tactical Wing for Overseas)を派遣し、当該事案に関する情報収集、現地当局に対する捜査支援等を行っています。
国際テロリズムの緊急展開斑(TRT-2)

2水際対策の強化

 周囲を海に囲まれた我が国においてテロリスト等の入国を防ぐためには、国際空港・港湾において出入国審査、輸出入貨物の検査等の水際対策を的確に推進することが重要です。政府は、平成16年1月、内閣官房に空港・港湾水際危機管理チームを設置し、関係行政機関等が行う水際対策の強化に必要な調整を図るとともに各種訓練を実施しています。
 また、出入国管理及び難民認定法の改正により、19年2月から旅客等に関する情報の事前報告が航空機及び船舶の長に義務付けられ、事前旅客情報システム(APIS)(注1)は、より実効性のあるシステムとなりました。あわせて、外国人が入国する際において、指紋等の個人識別情報を提供することが義務化されたことにより、同年11月に外国人個人識別情報認証システム(NBICS)(注2)の運用が開始されました。警察では、水際対策の更なる強化を図るため、指紋を偽装するなどして入国しようとする外国人への対策について、法務省と連携しています。
(注1)航空機で来日する旅客及び乗員に関する情報と関係省庁が保有する要注意人物に係る情報を入国前に照合するシステム
(注2)来日する外国人に入国審査の際に提供させた個人識別情報と関係省庁が保有する要注意人物に係る情報を照合するシステム

3関係省庁との緊密な連携

 テロ対策に万全を期するため、警察では、関係省庁、地方自治体、関係機関等との緊密な連携に努めています。
 犯罪対策閣僚会議で策定された「犯罪に強い社会の実現のための行動計画2008」において、国、地方自治体及び関係機関が緊密に連携して、総合的なテロ対策を推進するとともに、国民の理解と協力を得て、官民が一体となって「あらゆるテロを許さない」という共通の理念の下、テロに強い社会の実現を目指すこととされました。また、そのための具体的取組みとして、外国治安情報機関との情報交換の拡大等による情報収集・分析機能の強化、テロの「兆し」に係る情報の提供を確実に受けられるようにするための民間事業者に対する働き掛けの強化等が盛り込まれました。警察においても、同計画の内容を踏まえ、関係省庁等と更に強力に連携し、これらの取組みを推進しています。
 例えば、法律で義務付けられた書面の提出を受けることなく劇物を販売した化学物質の販売事業者を、毒物及び劇物取締法違反容疑で検挙したことを受け、厚生労働省、農林水産省及び経済産業省は、都道府県知事等に対して、爆発物の原料の管理強化を更に徹底することを求める通知・通達を発出しました。これらの関係省庁の取組みを踏まえて、警察から関係業界団体及び薬局開設者等個々の事業者に対して働き掛けを行うなど、関係省庁が連携して諸対策を講じているところです。
 また、警察庁・都道府県警察と防衛省・自衛隊との連携に努めるとともに、重大テロ等が発生した場合に備え、対処態勢の強化を図っています。17年から21年末までの間に、全国の都道府県警察が、それぞれ対応する陸上自衛隊の師団等との間で、共同実動訓練を実施しました。今後も各地でこれらの訓練を重ね、防衛省・自衛隊との緊密な連携の強化を図っていくこととしています。
爆発物の原材料物質に係る管理者対策の概要
爆発物の原材料物質に係る管理者対策の概要
爆発物の原材料物質に係る管理者対策の概要

陸上自衛隊との共同実動訓練(1月、兵庫)
陸上自衛隊との共同実動訓練(1月、兵庫)

4重要施設の警戒等

 警察では、原子力発電所や総理大臣官邸等我が国の重要施設、米国関連施設、鉄道等の公共交通機関等に対し、効果的かつ効率的な警戒警備を実施しています。
 鉄道等の公共交通機関の警戒に当たっては、国土交通省等の関係機関や事業者等との緊密な連携に努め、これらの者等がメンバーとなっている鉄道テロ対策連絡会議に警察庁がオブザーバーとして参画し、必要な助言や情報交換等を行っています。
重要施設の警戒状況
重要施設の警戒状況

5NBCテロ対策

 NBCテロが発生した場合に迅速・的確に対処するため、9都道府県警察(北海道・宮城・警視庁・千葉・神奈川・愛知・大阪・広島・福岡)に、高度な装備資機材を配備したNBCテロ対応専門部隊を設置しているほか、その他の府県警察には、必要な装備資機材を配備したNBCテロ対策班を設置しています。これらの部隊は、平素から実戦的訓練等により対処能力の向上に努めています。
 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の改正に伴い、18年8月から、経済産業省、文部科学省等の関係機関と緊密に連携し、原子力関連施設に対する警察庁職員による立入検査を実施しています。
 また、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の改正に伴い、20年9月から、厚生労働省と緊密に連携し、警察庁職員による特定病原体等所持者等の事務所又は事業所に対する立入検査を実施しています。
生物化学テロ訓練状況
生物化学テロ訓練状況

6特殊部隊等の充実強化

 警察では、ハイジャック、重要施設占拠事案等の重大テロ事件を鎮圧するため、サブマシンガン、自動小銃、ライフル、特殊閃光弾、ヘリコプター等の装備や機動力を備えた特殊部隊(SAT:Special Assault Team)を八都道府県警察(北海道・警視庁・千葉・神奈川・愛知・大阪・福岡・沖縄)に設置しています。
 また、全国の機動隊に編成されている銃器対策部隊の装備資機材の充実強化、実戦的訓練の実施等により対処能力の向上を図っています。
特殊部隊訓練状況
特殊部隊訓練状況

7スカイ・マーシャルの運用

 警察では、ハイジャック対策を強化するため、国土交通省等の関係省庁や航空会社と緊密に連携して、スカイ・マーシャルの的確な運用を図っています。

8武力攻撃事態等への対処

 武力攻撃事態等や緊急対処事態への対処については、平素からの備えが重要であることから、都道府県警察は、武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法)に基づく都道府県及び市町村の国民保護計画の作成・変更作業に積極的に参画しています。
 また、武力攻撃事態等や緊急対処事態において、国民保護措置等を迅速かつ的確に実施できるよう、内閣官房や各都道府県が主催する国民保護訓練(「平成21年度兵庫県国民保護共同実動訓練」等)に参加し、被害情報等の収集、住民の避難要領等について検討を行うなど、事態発生時における連携強化に努めています。

9サイバーテロ対策

 情報システムや情報通信ネットワークが国民生活や社会経済活動に深く浸透している状況の下、公共性の高い社会基盤である重要インフラに対するサイバーテロが発生すれば、国民生活や社会経済活動に甚大な被害を与えることとなります。21年7月には、米国・韓国の政府機関等に対するサイバー攻撃が発生し、その際、我が国に所在するコンピュータも悪用されていたことが判明するなど、サイバーテロの脅威はますます現実のものとなっています。警察は、サイバーテロの未然防止及び発生時における的確な対処のため、平素から、重要インフラ事業者等への個別訪問、サイバーテロ対策協議会等を通じ、重要インフラ事業者等との連携に努めています。また、事案が発生した場合には、関係省庁や、被害を受けた重要インフラ事業者等と連携して、被害拡大防止と事件検挙に当たることとしています。
24時間体制でサイバーテロの予兆把握に当たるサイバーフォース
24時間体制でサイバーテロの
予兆把握に当たるサイバーフォース
10 新型インフルエンザ対策
 近年、強毒性の新型インフルエンザの発生が危惧され、その対応が国際的な課題となっています。
 政府は、17年12月に「新型インフルエンザ対策行動計画」を策定するなど、新型インフルエンザ対策を進めており、警察庁及び都道府県警察においても、20年に「新型インフルエンザ対策行動計画」を策定しました。
 また、強毒性の新型インフルエンザの発生時においても、警察庁がその機能を維持できるよう、流行時に継続する業務と縮小・中断する業務の仕分け、人員計画の整備等必要な事項を定めた「警察庁新型インフルエンザ対応業務継続計画」を21年12月に策定し、各都道府県警察においても早期に業務継続計画を策定することとしています。
 また、21年4月以降、新型インフルエンザ(A/H1N1)が国内外で発生したことに伴い、警察では、関係機関と連携し、警察庁及び都道府県警察の行動計画等に即し、国際空港等における警戒活動の強化等の水際対策の支援を行ったほか、事態の推移に応じ、医療機関等における警戒活動等の医療活動の支援等の社会秩序の維持を始めとした諸対策を実施してきました。
 今後も、新型インフルエンザが発生した場合には、治安の確保に必要な警察活動を維持しつつ、各種混乱に伴う不測の事態にも的確に対処することとしています。
停留施設の警戒に当たる機動隊(5月、千葉)
停留施設の警戒に当たる機動隊(5月、千葉)