1平成16年台風23号
16年10月に発生した台風23号による豪雨と強風により、近畿・四国地方を中心に、死者・行方不明者98人、負傷者約650人、全壊家屋約770戸に上る被害が発生しました。
特に被害の大きかった兵庫県や京都府では、河川が氾濫するなどして、多くの住民等が孤立状態となりました。兵庫県警察や京都府警察では、機動隊等を投入し、被災者の救出救助活動や、行方不明者の捜索等を行いました。
こうした中、京都府舞鶴市では、由良川の氾濫により観光バスが水没す事案が発生しましたが、京都府警察の機動隊が関係機関と連携し、観光バスの屋根等に避難していた乗客等全員を救助しました。
観光バス屋上に孤立した乗客を救助する機動隊(京都府舞鶴市)(産経新聞社提供)
2平成16年新潟県中越地震
16年10月23日(土)午後5時56分ころ、新潟県中越地方を震源とするマグニチュード6.8の直下型地震が発生し、同県川口町で震度7、小千谷市、山古志村、小国町で震度6強を記録、新潟県を中心に死者68人、負傷者約4,800人に上る被害が発生しました。
新潟県警察では、33都府県警察から広域緊急援助隊等の派遣を得て、被災者の救出救助等の活動を行いました。
新潟県中越地震では、山間部において甚大な被害が発生し、道路の損壊や土砂崩れは6,500箇所を超えました。警察は、道路が寸断され、孤立状態となった山古志村に、警察航空隊のヘリコプター等により広域緊急援助隊を輸送し、被災住民の救出活動を行いました。また、「村内で連絡がとれない者がいる。」との情報に基づいて、倒壊家屋の一斉捜索を行うとともに、寝たきりの老人や妊婦など100人を超える住民をヘリコプターで長岡市内の避難所等に搬送しました。
こうした活動の中、新潟県警察航空隊のヘリコプターが、長岡市妙見堰付近の土砂崩落現場において白い破片様の物を発見、ヘリコプターから降下したレンジャー隊員が、発災当初から行方不明となっていた母子3人の車両の一部であることを確認しました。警視庁の災害救助犬の捜索によって車内に生存者がいることが分かり、消防等の関係機関と連携して救出救助活動に当たった結果、男児1人を4日ぶりに救出しました。
このほか、新潟県警察と25都府県警察の女性警察官等により「ゆきつばき隊」を編成し、避難所生活を送る被災者のため、エコノミークラス症候群対策等の医療情報、犯罪にあわないための防犯指導等を内容とする「県警ゆきつばき隊安全ニュース」を作成するなどの活動を行いました。隊員の中には、阪神・淡路大震災の際に「のじぎくパトロール隊」に属した兵庫県警察の女性警察官も含まれていました。また、「毘沙門隊」と命名したパトロール隊を編成し、被災地域におけるパトカーによる警戒警ら活動を実施しました。
この地震を契機に、警察では、更に高い救出救助能力を有するエキスパートチームとして、12都道府県警察の広域緊急援助隊に特別救助班(P-REX)を新たに設置しました。
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警察ヘリコプターによる住民の救出活動
(新潟県山古志村) |
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生存者を発見した警視庁の災害救助犬
(新潟県長岡市) |
避難住民に声を掛ける「ゆきつばき隊」
3JR西日本福知山線列車事故
17年4月25日(月)午前9時18分ころ、兵庫県尼崎市のJR西日本福知山線において、7両編成の快速列車が急カーブ区間を通過する際、前5両が脱線し、うち先頭2両が沿線のマンション1階部分に衝突、死者107人、負傷者555人に上る被害が発生しました。
兵庫県警察では、突発重大事案対策本部を設置し、近畿5府県警察から、延べ約170人の広域緊急援助隊の派遣を得て、救出救助活動を実施しました。
救出救助現場は、車両が複雑にマンションに食い込む困難な状況にありましたが、マンションの崩落を防ぎながら車両を切断するなどして、救出救助に当たりました。
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車両とマンションに挟まれた乗客を救助する広域緊急援助隊
(兵庫県尼崎市) |
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車両内の乗客を救助する広域緊急援助隊
(兵庫県尼崎市) |
4平成19年能登半島地震
19年3月25日(日)午前9時41分ころ、石川県能登半島沖を震源とするマグニチュード6.9の地震が発生し、同県七尾市、輪島市、穴水町で震度6強、志賀町、中能登町等で震度6弱を記録、石川県を中心に死者1人、負傷者約360人等に上る被害が発生しました。
石川県警察では、新潟、岐阜、福井及び愛知の各県警察から広域緊急援助隊等の派遣を得て、被災者の救出救助や行方不明者の捜索等の活動を行うとともに、安否確認を行うため、家屋の倒壊被害の激しかった輪島市門前町を中心に世帯への訪問活動を行いました。
また、女性警察官等で編成した被災者支援隊を避難所等に派遣して、「交換ポスト」や「交換日記」を活用した相談活動や被災者の心のケア等の対策に当たりました。さらに、道路寸断により孤立状態となった地区から避難した住民に対しては、警察官や警察航空隊ヘリコプターが撮影した同地区のビデオを上映するなどして、住民の不安感を和らげることに努めました。こうした活動に対して、被災者や家族の方々から感謝の手紙や折り紙が警察に届けられました。
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倒壊家屋での救出活動
(石川県輪島市) |
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安否確認のため訪問活動を行う広域緊急援助隊
(石川県輪島市) |
避難住民に声をかける女性警察官(石川県輪島市)
5平成19年新潟県中越沖地震
19年7月16日(月)午前10時13分ころ、新潟県上中越沖を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生し、同県柏崎市、刈羽村、長岡市、長野県飯綱町で震度6強、新潟県上越市、小千谷市、出雲崎町で震度6弱を記録、新潟県を中心に死者15人、負傷者約2,350人に上る被害が発生しました。
新潟県警察では、8都県警察から広域緊急援助隊等の派遣を得て、被災者の救出救助・避難誘導、行方不明者の捜索等の活動を行いました。
新潟県中越沖地震では、阪神・淡路大震災と同様、被災者が倒壊家屋の下敷きとなる現場が数多くあったことから、警察は、特別救助班を中心とした広域緊急援助隊等を被害の大きかった柏崎市に投入し、伸縮式画像探索機、ファイバースコープ、高性能チェーンソー等の資機材を用いて、1人でも多くの被災者を救出すべく活動しました。こうした救出部隊の現場の活動状況は、警察の通信対策を専門とする機動警察通信隊により、リアルタイムにその映像が警察庁や内閣総理大臣官邸に配信されました。
このほか、新潟県中越地震の際に活躍した「ゆきつばき隊」と「毘沙門隊」を編成し、被災者の支援活動や被災地の警戒活動等に当たりました。「ゆきつばき隊」には、臨床心理士の資格を持つ職員を含めるなど中越地震の経験を生かし、体制の強化を図りました。
また、主要交差点にサインカーや交通整理のための警察官を配置するなどして、災害応急対策のための緊急通行車両の通行確保や交通事故防止に力を注ぎました。
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救出救助活動を行う広域緊急援助隊特別救助班
(新潟県柏崎市) |
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機動警察通信隊が撮影した映像を伝送する衛星通信車
(新潟県柏崎市) |
交差点において整理・誘導活動を行う交通機動隊員(新潟県柏崎市)
6平成20年岩手・宮城内陸地震
20年6月14日(土)午前8時43分ころ、岩手県内陸南部を震源とするマグニチュード7.2の地震が発生し、同県奥州市、宮城県栗原市で震度6強、宮城県大崎市で震度6弱を記録、宮城県・岩手県を中心に死者13人、行方不明者10人、負傷者約450人に上る被害が発生しました。
宮城・岩手の両県警察では、16都道県警察から広域緊急援助隊等の派遣を得て、被災者の救出救助、行方不明者の捜索等の活動を行いました。
この地震では、山間部において大きな被害が生じました。特に、土砂災害が多く発生し、山の形が変わるほどの土砂崩れや道路の損壊、橋の落下等が至るところで発生しました。
地震発生当時、震源付近の山間部には、温泉宿泊客やハイキング、渓流釣りのための入山者が多く、道路が寸断されたことによる孤立事案や土砂崩れによる生き埋め、落石による被害等が発生しました。警察は、余震等に伴う土砂崩落やせき止め湖の決壊等の二次災害の危険性が高い中、広域緊急援助隊等を警察航空隊や自衛隊のヘリコプターで現場に派遣し、被災者の救出や行方不明者の捜索活動を行いました。
岩手県一関市では、国道342号に架かる祭畤大橋が崩落し、30数人が立ち往生する事態となりましたが、千葉県警察航空隊のヘリコプターが関係機関と連携し、すべての方を救出しました。また、宮城県栗原市における行方不明者の捜索活動では、泥まみれになりながらのバケツリレーや1本のロープに命を預けての崖下への降下等、捜索活動は正に自然との闘いとなりました。
これらの部隊の活動状況は、ヘリコプターで派遣された機動警察通信隊により、衛星を活用した映像通信システムを用いて警察庁や内閣総理大臣官邸に配信されました。
このほか、被災者の方々の心のケア等の支援に万全を期すため、女性警察官を中心に、宮城県警察では「栗駒シャクナゲ隊」を、岩手県警察では「イーハトーブ隊」を編成して、相談所の開設や避難所訪問活動等を行いました。
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崩落した橋(岩手県一関市) |
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崩落した吊り橋(宮城県栗原市) |
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寸断された国道342号(岩手県一関市) |
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土砂崩れにより通行不能となった道路
(宮城県栗原市) |
被災現場に向かう広域緊急援助隊(宮城県栗原市)
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バケツリレーで土砂を搬出する機動隊員(宮城県栗原市) |
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ロープを使用して降下する広域緊急援助隊(宮城県栗原市) |
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避難所を訪問する
岩手県警察「イーハトーブ隊」 |
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広報チラシにより安全情報を発信する
宮城県警察「栗駒シャクナゲ隊」 |
1設置
広域緊急援助隊は、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、大規模災害発生時において、迅速・的確な災害警備活動を行うために、都道府県を越えて広域的に即応でき、かつ高度な救出救助能力と自活能力を有する災害対策の専門部隊として、7年6月に全国の都道府県警察に設置されました。
同隊は、救出救助を行う警備部隊、緊急交通路の確保等を行う交通部隊、検視や遺族等への安否情報の提供等を行う刑事部隊で構成されており、現在は全国約4,700人の警察官、警察職員が隊員に指定されています。同隊は大規模災害が発生した場合に被災地の都道府県公安委員会の援助の要求に基づいて派遣され、被災地の都道府県警察と連携して、各種の災害警備活動に当たることとしています。
2特別救助班(P-REX:Police Team of Rescue Experts)の設置
特別救助班は、新潟県中越地震の教訓を踏まえ、17年4月、全国12都道府県警察の域緊急援助隊に、極めて高度な救出救助能力を有する専門部隊として設置されました。
現在は、全国で約200人の警察官が隊員に指定されており、被災者を捜索・救出救助するための各種装備資機材を備え、新潟県中越沖地震、岩手・宮城内陸地震等の震災現場のほか、台風による土砂崩れ、列車の脱線事故等の現場に派遣されるなどして困難な救出救助活動の先頭に立って活動しています。
3各種訓練の実施
広域緊急援助隊は、毎年、各管区警察局ごとに合同訓練を行っているほか、各都道府県警察においても、平素から厳しい訓練を重ねるなど、救出救助技術の向上に励んでいます。中でも、特別救助班は、廃屋、廃車等を利用した実戦的訓練や消防救助機動部隊等の関係機関との合同訓練等を積極的に行っています。
土砂に埋もれた車内からの救出訓練を行う特別救助班(9月、大阪)