北海道洞爺湖サミットの成功に向けて

北海道洞爺湖サミットをめぐる諸情勢

 主要8か国(G8)及び1機関の首脳等が参加する主要国首脳会議(サミット)が、本年7月7日から9日までの間、北海道洞爺湖地域において開催されます。また、外務大臣会議、財務大臣会議等のサミット関連の閣僚会議が全国各地で開催されます。今回のサミットは、これまで我が国で開催されたサミットとは異なり、こうした閣僚会議が全国各地で多数開催されることに加え、
○ 平成13年の米国における同時多発テロ事件以降、我が国で初めて開催されるサミットであること。
○ 反グローバリズムを掲げる団体による暴動が大きな脅威となっていること。
○ G8各国以外にも、中国を始めとする様々な国の要人の参加が見込まれること。
が特徴として挙げられます。

北海道洞爺湖サミット等の開催地 北海道洞爺湖サミット等の開催地 北海道洞爺湖サミット等の開催地
北海道洞爺湖サミット等の開催地 北海道洞爺湖サミット等の開催地 北海道洞爺湖サミット等の開催地
北海道洞爺湖サミット等の開催地 北海道洞爺湖サミット等の開催地 北海道洞爺湖サミット等の開催地
 主要国の首脳が一堂に会するサミットは、国際テロの格好の攻撃対象であり、今回のサミットに際して、我が国がテロの標的となるおそれがあるほか、過激派や右翼による「テロ、ゲリラ」事件や反グローバリズムを掲げる団体によるデモ等に伴う違法行為の発生も懸念されます。 
 警察では、このような厳しい情勢を踏まえ、全国から多くの部隊を北海道へ特別派遣するなど、組織の総力を挙げた取組みを推進することとしています。
北海道洞爺湖サミットの会場となるザ・ウィンザーホテル洞爺
北海道洞爺湖サミットの会場となるザ・ウィンザーホテル洞爺

1国際テロの情勢

 我が国は、イスラム過激派から米国の同盟国とみなされ、テロの標的として名指しされており、北海道洞爺湖サミットが開催される機会にテロが発生する可能性があります。
 過去にも、17年7月、英国におけるグレンイーグルズ・サミットの開催期間中には、ロンドンで同時多発テロ事件が発生したほか、16年3月には、スペイン・マドリードでも、同時多発列車爆破テロ事件が発生しており、サミット開催地の北海道だけでなく、それ以外の地域や公共交通機関等をねらうテロにも警戒する必要があります。
 また、米国における同時多発テロ事件以降、世界各地において米国権益に対するテロが発生しており、19年9月には、ドイツにおいて、米軍基地・フランクフルト国際空港等に対する同時爆破テロ計画が摘発されました。我が国にも米国関連施設が多数存在するところ、現在米国で拘束中のアル・カーイダ幹部ハリド・シェイク・モハメドが、「在日米国大使館を破壊する計画等に関与した」と供述していたことが明らかとなったことなどから、これらの施設を標的としたテロが発生することも懸念されます。

2北海道洞爺湖サミットに向けて盛り上がりが予想される反グローバリズム運動

  13年のジェノバ・サミット以降、サミット開催時に反グローバリズムを掲げる大規模なデモ等が行われ、その過程で、参加者の一部が暴徒化し、多数の負傷者や逮捕者が出ています。19年6月にドイツで開催されたハイリゲンダム・サミットの際も、ドイツ国内外の反グローバリズムを掲げる団体により、集会や抗議デモ等が行われました。会場の近郊都市ロストックで行われたデモ(主催者発表8万人)では、全身を黒装束でまとったいわゆるブラック・ブロックと呼ばれるグループを含む約3,000人が暴徒化し、警察部隊に対する火炎瓶や石の投てき、車両等への放火を行いました。また、サミット会場周辺では、抗議行動の参加者による座込み等によって道路や鉄道が封鎖され、各国代表団の一部が予定ルートの変更を強いられるなどの事態も発生しました。一連の抗議行動で、日本人1人を含む約1,100人がドイツ警察により身柄を拘束されました。日本の反グローバリズムを掲げる団体等も、集会や抗議デモに参加しました。
 一部の反グローバリズムを掲げる団体は、ホームページで、「G8反対」、「サミット中止」等を訴え、北海道洞爺湖サミットに対する抗議行動への参加を呼び掛けています。こうした団体は、ハイリゲンダム・サミットにおいて道路封鎖等の妨害行動を組織した海外の活動家を招いて講演会を開催するなど、北海道洞爺湖サミットに向けた活動を活発化させています。
 北海道洞爺湖サミットをめぐっては、国内外の反グローバリズムを掲げる団体が連携して、集会、デモを始めとする様々な活動を行うものとみられ、その過程で暴動等の発生が懸念されます。
座込みによってサミット会場に通じる道路を封鎖するデモ隊(6月、ドイツ)(時事)
座込みによってサミット会場に通じる道路を封鎖するデモ隊(6月、ドイツ)(時事)

3「サミット粉砕」を主張し、反グローバリズムを掲げる団体への浸透を図る過激派

 過激派は、北海道洞爺湖サミットを「帝国主義・超大国間の支配と利害調整を第一にした陰謀会議」等とみなし、機関紙等でその「粉砕・爆砕」を主張し、反対闘争に取り組む姿勢を明らかにしました。
 近年の過激派は、将来の共産主義革命に備えるため組織の維持・拡大をねらい、警戒心を持たれないように暴力性を隠して反グローバリズム運動の主要テーマである、貧困問題や環境問題に取り組んでいます。さらにその過程で、反グローバリズムを掲げる団体との連携を強め、これらの団体の組織運営に浸透・介入し、主導する動きを見せています。
 特に、共産主義者同盟(統一委員会)、JRCL、黒ヘルグループ等は、海外で開催される国際会議の抗議行動に参加するなどして、海外の団体との連携を強め、ハイリゲンダム・サミットでも、黒ヘルグループの活動家が抗議行動に参加しています。こうしたグループは、海外の団体との間で構築した共闘関係をいかして、北海道洞爺湖サミットでも過激な抗議行動に取り組むことが懸念されます。
 また、革労協反主流派は、12年の九州・沖縄サミットの際、米軍横田基地に向け飛翔弾を発射する事件を引き起こしており、北海道洞爺湖サミットに対しても「爆砕」を主張していることから、「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすおそれがあります。
ロストック市内のデモにおいて反対派による放火により炎上する車両(6月、ドイツ)(時事)
ロストック市内のデモにおいて反対派による放火により炎上する車両(6月、ドイツ)(時事)
海外の労働団体が参加したデモ(11月、東京)
海外の労働団体が参加したデモ(11月、東京)
「沖縄サミット粉砕」を主張してデモ行進する過激派 (12年7月、沖縄)
「沖縄サミット粉砕」を主張してデモ行進する過激派 (12年7月、沖縄)

4領土問題等をとらえ諸外国への批判活動等に活発に取り組む右翼

 右翼は、北方領土問題等をめぐりロシア批判を展開しているほか、一部の右翼はヤルタ・ポツダム体制(注)打倒の立場から米国批判にも取り組んでいます。
 北海道洞爺湖サミット開催時には、G8各国以外にも中国、韓国等、様々な国の要人が来日するものとみられることから、街頭宣伝活動や宿泊先等への接近・徘徊事案等の発生が予想されます。また、情勢の推移によっては、「テロ、ゲリラ」事件を引き起こすことも懸念されます。
 (注)ヤルタ・ポツダム体制
第2次世界大戦末期の昭和20年2月、ソ連(当時)クリミア半島に所在するヤルタに米英ソ3か国の首脳が集まり、ソ連の対日参戦とその条件等を決定するとともに、同年7月には、ベルリン近郊のポツダムにおいて、同3か国の首脳により日本の降伏条件を示すポツダム宣言が決定された。一部の右翼は、両会議後の国際社会の体制を「米ソ2大大国による世界支配体制」(ヤルタ・ポツダム体制)として批判している。
フラトコフ・ロシア首相来日に伴う右翼による街頭宣伝活動(2月、東京)
フラトコフ・ロシア首相来日に伴う右翼による街頭宣伝活動(2月、東京)

警備諸対策

1態勢の構築

 警察では、19年7月3日、警察庁に次長を長とする「北海道洞爺湖サミット等警備対策委員会」を設置しました。また、北海道、京都府、大阪府警察が、それぞれサミット対策課を設置したほか、その他のすべての都県警察においても警備連絡室等を設置するなど、全国警察一体となって対策を進めています。
第2回北海道洞爺湖サミット等警備対策委員会
第2回北海道洞爺湖サミット等警備対策委員会

2基本方針

 今回のサミット警備の基本方針は、
○ 国内外要人の身辺の安全と行事の円滑な遂行の確保
○ 国際テロの未然防止
○ 記者団、随員等の安全かつ円滑な移動の確保
です。
合同訓練
合同訓練

3部隊の対処能力の向上

 反グローバリズムを掲げる過激な勢力によるデモ等に対処するため、複数の都道府県警察が合同して実戦的訓練を行うなど、部隊の練度向上に努めています。
警護訓練
警護訓練

4関係機関、事業者との連携

 テロ等を未然に防止するため、関係行政機関、公共交通機関、重要インフラ事業者等と緊密に連携し、各種協議会、セミナー、合同訓練を行うなど官民を挙げた取組みを進めています。
合同訓練
合同訓練

5地域住民等の理解と協力を得るための取組み

 サミット警備では、警察官による警戒や検問、交通規制等、長期間、広範囲にわたる厳重な警戒を行う必要があります。そのためには、地域住民の理解と協力が不可欠です。
 警察では、あらゆる機会を通じて、関係市町村長や地域住民と協議を行い、サミット警備に関する理解と協力を求めています。
地域住民等に対する説明会(12月、北海道)
地域住民等に対する説明会(12月、北海道)

6外国治安機関との連携

 警察庁では、ドイツ、フランス、オーストラリア、香港等近年に大規模警備を担当した国や地域の治安機関幹部との意見交換を行っています。
ドイツ連邦刑事庁長官と意見交換
ドイツ連邦刑事庁長官と意見交換

国際テロ対策

1国内外関係機関との連携

 警察では、外国治安情報機関等との連携をより緊密にし、テロ関連情報の収集や分析を強化しているほか、不審な情報については、総合的に分析し、徹底した解明を行っています。
 また、テロリストの入国を阻止するため、入管法の改正に伴い19年11月に導入された外国人個人識別情報認証システム(BICS)を活用し、関係機関と連携して国際海空港での水際対策を強化しています。
外国人個人識別情報認証システム(11月、千葉)(時事)
外国人個人識別情報認証システム(11月、千葉)(時事)

2国民の協力を確保するための取組み

 17年の英国・ロンドンにおける同時多発テロ事件等を踏まえて、テロの標的とされるおそれのある公共交通機関等に警戒を呼び掛けているほか、テロに関する不審情報を確実に入手するため、テロリストが犯行の準備段階において利用する可能性のある爆発物原材料取扱業者、旅館業者、不動産業者等に対し、警察への協力を要請しています。

過激派・右翼・反グローバリズム運動対策

 警察は、過激派や右翼による「テロ、ゲリラ」事件や、反グローバリズムを掲げる団体のデモ等に伴う違法事案の未然防止のための情報収集や、過激派の非公然アジトを摘発するためのアパートやマンションに対するローラーを推進しています。
 また、関係省庁や関係機関と緊密な連携をとり、管理者対策、水際対策等を積極的に講じています。
 北海道洞爺湖地域や各閣僚会議の開催地では、要人の行先地や宿泊施設、また、過激派や右翼等の攻撃対象となり得る施設等に対する警戒を強化し、「テロ、ゲリラ」事件、右翼による接近、徘徊事案の未然防止を図るとともに、右翼の街頭宣伝車対策を実施します。また、違法事案が発生した際には、徹底した取締りを行うこととしています。
過激派アジト発見にご協力ください。 過激派アジト発見にご協力ください。
過激派アジト発見にご協力ください。 過激派アジト発見にご協力ください。

サイバーテロ対策

 サミット開催の機会をねらったサイバーテロの発生に備えて、警察では、重要インフラ事業者等のシステム管理者と緊密な連携を図り、基幹システムの安全確保について必要な助言を行っています。また、万一サイバーテロが発生した際には、的確に対処できる態勢を確立するため、都道府県警察において、重要インフラ事業者等との共同訓練を実施しています。
重要インフラ事業者連絡協議会(11月、兵庫)
重要インフラ事業者連絡協議会(11月、兵庫)