各種社会事象を敏感にとらえて取り組まれた大衆運動

1憲法改正問題を基軸に盛り上げを図った平和運動

 平成19年中の平和運動は、憲法改正問題を基軸に、憲法改正手続を定める国民投票法制定や海上自衛隊によるインド洋での給油活動を実施するための新法案の国会審議等をとらえて取り組まれました。
 労働組合、大衆団体等は、憲法改正問題をめぐり、国民投票法の成立を前にした同年4月、「改憲手続き法案の廃案をめざす」などと訴え、都内・日比谷野外大音楽堂において、抗議集会、デモに取り組みました。(主催者発表5,000人)
 また、労働組合、大衆団体等は、テロ対策特別措置法の期限切れに伴う、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を実施するための新法案の国会審議等をとらえ、「憲法違反のテロ特措法の延長・新法反対」等と訴え、同年10月、都内・日比谷野外大音楽堂において、抗議集会、デモに取り組みました。(主催者発表3,500人)
 今後も引き続き、労働組合、大衆団体を中心に、憲法改正問題を基軸として、平和運動が取り組まれるものとみられます。

憲法改正反対デモ行進(5月、東京)(共同)
憲法改正反対デモ行進(5月、東京)(共同)

2核燃料サイクル、耐震問題等をとらえた反原発運動

 反原発運動では、19年中、核燃料サイクル事業の推進や原発トラブルをとらえた抗議集会、デモが取り組まれました。
 核燃料サイクル事業をめぐっては、同年1月に、高知県東洋町の町長が全国で初めて高レベル放射性廃棄物最終処分場候補地に応募したことから反対運動が盛り上がり、同年4月の町長選挙では、誘致反対派の候補が前町長に大差を付けて当選しました。
 原発トラブルをめぐっては、同年3月、北陸電力株式会社が志賀原発1号機(石川県志賀町)で11年に臨界事故が発生したことを隠ぺいしていたことが発覚し、その後の調査により、国内の他の原発でも過去のデータ改ざんやトラブルの隠ぺいが行われていたことが判明しました。また、19年7月16日の新潟県中越沖地震の影響により、東京電力の発表によれば、新潟県柏崎市所在の柏崎刈羽原発で放射性物質の漏えいを含む約50件のトラブルが発生しました。反原発団体は、こうした電力会社の体質を批判する抗議行動や国内の原発の耐震性の見直し等を求める集会、デモに取り組みました。
 今後は、青森県六ヶ所村に所在する日本原燃株式会社再処理工場本格稼働を始めとする核燃料サイクル事業の推進や、柏崎刈羽原発の運転再開(現在再開の見通しは未定)をとらえて、各種団体等による反原発運動が取り組まれるものとみられます。

3国際的な連携の下、日本にも定着しつつある反グローバリズム運動

 11年のWTO第3回閣僚会議(米国・シアトル)以降顕在化した反グローバリズム運動については、我が国においても、海外の反グローバリズム団体の関連組織が各地に結成されるとともに、人権問題、環境問題等に取り組むNGOや労働組合、農民団体等が反グローバリズム運動に取り組むなど、広く定着しつつあります。これらの団体は、海外の活動家との交流やインターネットの利用により、国際的な連携を強めています。
 19年中は、国内においては、同年5月に京都市で開催されたアジア開発銀行年次総会に際して、「大規模開発事業の中止」等を訴え、抗議集会やデモに取り組み、これにアジア諸国を中心に多数の海外の団体が参加しました。
 海外においては、同年6月のドイツでのハイリゲンダム・サミット、同年9月のオーストラリアでのシドニーAPEC首脳会議に対する抗議行動等に、国内の反グローバリズム団体等が参加しました。
 本年は、反グローバリズム運動に取り組む団体が、北海道洞爺湖サミットをめぐって、国内外の団体間の連携を一層強めつつ、様々な取組みを活発化させるものとみられます。
APECへの抗議デモ(9月、シドニー)(時事)
APECへの抗議デモ(9月、シドニー)(時事)

4過激さを増す海外から波及した環境保護運動

 南極海における日本の調査捕鯨に対し執拗に妨害行為を繰り返している米国の環境保護団体シーシェパードは、19年2月、南極海において、日本の調査捕鯨船に対し、発煙筒や酪酸入りの瓶を投てきしたり、その所有船舶を衝突させるなどの危険な妨害行為を繰り返し、調査捕鯨船の乗員2名が負傷しました。同年5月末に開催された国際捕鯨委員会(IWC)の年次会議では、調査捕鯨船に対する過激な抗議行動への規制を求める決議が全会一致で採択されましたが、同団体は、その後もウェブサイト等において、「引き続き妨害行為を行う」、「秘密の戦略を用意している」などと主張しています。
 過去に日本国内の動物実験施設への侵入事件等を引き起こした英国の動物愛護団体ストップ・ハンティンドン・アニマル・クルエルティ(SHAC)は、引き続き、ウェブサイトにおいて、動物実験受託会社HLS社との取引企業として日系企業等を掲載し、これらに対し、メールやデモによる抗議を呼び掛けたほか、横断幕や拡声器等を使用した抗議を行うなどの活動を展開しました。
 今後も、これらの団体は、引き続き、過激な抗議行動を展開することが懸念されます。
調査捕鯨船に接近するシーシェパード(2月、南極海)
調査捕鯨船に接近するシーシェパード(2月、南極海)