反社会的な本質に変化のないオウム真理教

1教団の路線対立をめぐる動向

 オウム真理教(以下「教団」という。)は、平成17年末ころから、麻原彰晃こと松本智津夫(以下「松本」という。)の影響力の払拭を装う上祐史浩(以下「上祐」という。)代表を支持する派閥と、松本への絶対的帰依を強調する執行部の間で意見対立が顕在化していました。上祐は、19年3月、信者64人と共に、新団体設立に向け「アーレフ(注)から脱会する」と表明し、同年5月には信者163人の新団体「ひかりの輪」(以下「上祐派」という。)を設立しました。これにより、教団は、多数を占める主流派と上祐派に分裂しました。
 主流派では、野田成人正悟師が、上祐の脱会後に新代表に就任すると表明していましたが、同派幹部30数人で構成される「合同会議」(18年7月発足)はこれを認めず、野田成人正悟師、村岡達子正悟師等を「旧役員」として執行部から排除しました。「合同会議」は、本年3月末までに規約改正等、組織運営の枠組み作りを行うとし、6人の師クラスの幹部から成る「運営準備委員会」を19年4月に設置しました。その後は、同委員会が、実質的な組織運営を行っています。また、路線面では、拠点施設内で、1松本が唱えるマントラを流す、2松本の説法を収録したビデオテープや著書等を用いた修行を行う、3松本の脳波を信者の脳に流す装置とされるPSI(通称ヘッドギア)や松本の写真を保管している、4集中セミナーで、松本への帰依を誓う詞章を信者に繰り返し唱えさせるなど、松本に対する絶対的帰依を求め、「原点回帰」を進めています。
 一方、上祐派では、上祐が松本との決別を強調していますが、地下鉄サリン事件以前からの信者が多数を占め、また、松本の教えが内包された教材を使用するなどしています。
 今後、主流派は、指導体制が不安定であるものの、「原点回帰」路線を一層進め、上祐派は、形の上では松本色の希薄化に努めるものとみられます。

 (注)元年に宗教法人の認証を受けたオウム真理教は、7年、東京地裁の宗教法人法に基づく解散命令が出された後も宗教団体としての活動を継続。12年1月に団体名を「アレフ」と改称した後、15年2月には、「アーレフ」と再度改称しました。

上祐派の「ひかりの輪」設立等について報道する各紙(毎日新聞、読売新聞、神奈川新聞)
上祐派の「ひかりの輪」設立等について報道する各紙(毎日新聞、読売新聞、神奈川新聞)
「オウム真理教」の現勢
「オウム真理教」の現勢

2組織拡大に向けた動向

 教団では、15都道府県に29か所の拠点施設を有しています。また、依然として多数の信者用居住施設を維持しており、出家信者は、これら施設に居住し、閉鎖的な活動を続けています。
 無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律によって教団に義務付けられた報告による両派の信者数は約1,000人ですが、信者の活動状況等から、教団の信者数は約1,500人とみられます。信者が従前の1,650人から減少したのは、教団の運営方針に不満を抱いたり、教団の前途を悲観した信者の脱会が相次いだりしたことが原因とみられます。しかし、両派は、インターネットのウェブサイト、ヨガサークルの活動等を通じた信者獲得を図り、組織拡大に取り組んでいます。
オウム真理教関係特別手配被疑者(年齢は平成19年11月現在)
オウム真理教関係特別手配被疑者(年齢は平成19年11月現在)

3オウム真理教に対する諸対策の推進

1特別手配被疑者の追跡捜査の推進

 教団が松本の指示の下に敢行した地下鉄サリン事件から12年が経過しました。警察は、地下鉄サリン事件以降、全国警察を挙げて教団のテロ事件等に対する捜査を強力に推進し、これまでに、松本を始めとする教団幹部及び信者合わせて500人以上を検挙しました。
 しかし、警察庁指定特別手配被疑者である平田信、高橋克也及び菊地直子の3人は依然として逃走中であることから、警察は、3人の発見検挙を最優先課題の1つとし、広く国民からの協力を得ながら、全国警察の総力を結集して捜査を推進しています。

2組織的違法行為の厳正な取締りの推進

 警察は、教団信者による組織的違法行為に対する厳正な取締りを推進しています。その結果、19年は、「失業等給付金詐欺事件」(6月、大阪)と2件の「教団施設確保を目的とした賃借権詐欺事件」(8月、福岡、9月、埼玉)の3件で4人を検挙するとともに、5都府県延べ18か所の教団施設等を捜索して、パソコン、ハードディスク等関係資料約1,850点を押収しました。このうち「教団施設確保を目的とした賃借権詐欺事件」では、教団名を伏せた上、用途を偽って物件を借り上げ、同所を教団の活動拠点として使用していたことが判明しており、教団の欺瞞的な組織体質が明らかとなりました。
 警察としては、引き続き、教団信者による組織的違法行為に対する厳正な取締りを行っていくこととしています。
オウム真理教施設の捜索状況
オウム真理教施設の捜索状況