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1 イスラム過激派の動向と国際テロの脅威
 平成13年9月11日の米国における同時多発テロ事件以降、世界各国でテロ対策が強化されているにもかかわらず、イスラム過激派が世界各地でテロを敢行しており、12年の九州・沖縄サミット開催時と比較してイスラム過激派によるテロの脅威は格段に高くなっています。
 特に、アル・カーイダは、反米ジハード(聖戦)の象徴として存在し、全世界のイスラム教徒に対して、米国及びその同盟国等に対するジハードを煽るメッセージを発信し続けています。
 現在、このアル・カーイダのジハード思想やオサマ・ビンラディンの声明等に影響を受けて、アル・カーイダの中核(指導部)と直接の関係を有しない各地のテロ組織等が、テロの敢行を企図する傾向がみられます。これらのテロ組織等は、独自の見地から個々のテロを行っている可能性があり、このことは、テロ対策上の新たな懸案事項となっています。
 また、欧米等の非イスラム諸国で生まれ又は育ちながら、何らかの影響で過激化し、自らが居住している国で、イスラム過激派が標的とする諸国の権益をねらってテロを敢行する、いわゆるホームグローン・テロリスト(国内育ちのテロリスト)の危険性が各国で認識されているところです。


オサマ・ビンラディンとされる者の声明

2 我が国における国際テロの脅威
 イスラム過激派を中心とした国際テロの脅威が高まる中、我が国は、アル・カーイダを始めとするイスラム過激派から米国の同盟国とみなされており、オサマ・ビンラディンやアイマン・アル・ザワヒリとされる者が発した声明等において、テロの標的として名指しされています。また、我が国には、イスラム過激派がテロの対象としてきた米国関連施設が多数存在し、これらを標的としたテロが発生することも懸念されます。
 こうした中、アル・カーイダ関係者が我が国に不法に入出国を繰り返し、我が国に潜伏していた実態が明らかとなりました。さらに、現在、米国で拘束中のアル・カーイダ幹部ハリド・シェイク・モハメドが、在日本米国大使館を破壊する計画等に関与したと供述していたことが明らかになりました。
 また、我が国には、イスラム諸国出身者が多数滞在して各地でコミュニティを形成していることから、今後、イスラム過激派が、こうしたコミュニティを悪用し、資金や資機材の調達を図るとともに、様々な機会を通じて若者等の過激化に関与することが懸念されます。
 さらに、海外において、現実に我が国の国民や権益がテロの標的となる事案が発生しているほか、我が国の権益等が直接の標的ではない場合であっても、海外にいる邦人がテロに巻き込まれたことがあります。


アフガニスタンにおける自爆テロ事件(平成19年6月)(時事)

空港に車が突入したテロ事件(平成19年6月、英国)(時事)
3 平成20年北海道洞爺湖サミットをめぐる国際テロの脅威
 サミットは、アル・カーイダ幹部等から名指しで非難されている主要国の首脳が一堂に会することから、テロリストにとって格好の攻撃対象であり、サミット開催の機会をねらって我が国がテロの標的となる可能性も否定できません。
 過去にも、17年7月、英国におけるグレンイーグルズ・サミットの開催時にロンドンにおける同時多発テロ事件(56人死亡)が発生したほか、16年3月には、スペイン総選挙の3日前にスペイン・マドリードにおける同時多発列車爆破テロ事件(191人死亡)が発生しており、サミット会場を直接ねらうテロだけでなく、公共交通機関等をねらうテロにも警戒する必要があります。

グレンイーグルズ・サミット開催時に発生したロンドンにおける同時多発テロ事件(平成17年7月、英国)(時事)

1 日本赤軍

 日本赤軍は、サミットに関連して過去にテロ事件を2度引き起こしています。
 一度目は、東京サミットが開催された直後の昭和61年5月、インドネシアのジャカルタにおいて、我が国と米国の大使館に手製弾を撃ち込み、カナダ大使館前の駐車場でレンタカーを爆破しました。
 2度目は、イタリアでヴェネチア・サミットが開催中の62年6月、ローマにおいて、米国と英国の大使館に手製弾を撃ち込み、米国大使館脇でレンタカーを爆破しました。
 両事件とも、重傷者はいませんでしたが、多数の死傷者を出す可能性があった強力な爆発物が使用されました。
 捜査の結果、日本赤軍メンバーの城崎勉らがこれらの事件に関与していたことが判明しました。 
 日本赤軍は、平成7年以降、世界各地でメンバーの検挙が相次ぎ、特に9年2月には、レバノンにおいてメンバー5人が一斉検挙され、さらに12年11月には、我が国へ密かに帰国していた最高幹部の重信房子が検挙されました。しかし、日本赤軍は、依然として武装闘争を放棄しておらず、また、7人のメンバーが逃亡中であることから、サミットに向けた動向には注意を要します。

2 「よど号」グループ

 「よど号」グループについては、現在、ハイジャック犯人5人及び妻子4人が北朝鮮にとどまっているとみられ(注)、そのうち3人に対し、日本人を拉致した容疑で逮捕状が発せられています。同グループは北朝鮮当局との密接な関係を基盤に、グループ全員の帰国を目指して、機関紙、インターネット等を通じ、盛んに自己の主張を訴えています。
 また、過去には、ハイジャック犯人の1人が他人に成りすまして我が国に潜入して、逮捕されており、今後も不法な手段による帰国や我が国の国益を害する行為を行うことも否定できず、サミットに向けた動向には注意を要します。

(注) そのうち、犯人1人及び妻1人は死亡したとされていますが、真偽は確認できていません。

 警察では、警察庁国際テロリズム対策課を中心に外国治安情報機関等との連携を一層緊密化するなど、テロ関連情報の収集・分析を強化しているほか、収集した情報の総合的な分析結果を活用し、不審点の徹底解明等を推進しています。また、国際テロリストの潜入や、武器等テロの手段となり得る物の不正な輸入を防止するため、関係機関と連携し、国際空港・港湾における水際対策等を推進しています。
 さらに、警察は、国外で邦人や我が国の権益に関係する重大テロ事件が発生した場合等に、「国際テロリズム緊急展開班」(TRT-2:Terrorism Response Team-Tactical Wing for Overseas)を派遣し、当該事案に関する情報収集、現地当局に対する捜査支援等を行っています。
 また、国際テロ対策は、国際社会が直面する喫緊の課題であり、世界各国の連携・協力が必要です。こうした観点から、G8や国連等の場において、政府首脳間、治安担当大臣間、警察機関相互間等で諸対策の活発な議論がされています。警察庁も、これら国際会議に積極的に出席しており、19年5月にドイツで開催された司法・内務大臣会議には、警察庁次長が出席し、テロ対策や国際組織犯罪対策についての我が国の取組み状況を発表するとともに、共同声明や行動計画の起草に参画しました。
 加えて、警察庁では、テロ事件の捜査技術に関するノウハウの提供を積極的に行うため、7年度以降、国際協力機構(JICA)との共催により、開発途上国のテロ対策実務担当者を招致し、「国際テロ事件捜査セミナー」を開催しているほか、テロ対策に関する地域協力を推進するため、8年度以降、外務省との共催により、東南アジア諸国等からテロ対策担当者を招き、「地域テロ対策協議」を開催しています。
 このほか、我が国は、国連安全保障理事会決議第1373号等で求められているテロリスト等の資産凍結にも積極的に取り組んでおり、警察庁は、機動的な資産凍結の実施のために設置された「テロリスト等に対する資産凍結等に係る関係省庁連絡会議」に参画しています。我が国では、524のテロ関連個人
・団体を資産凍結対象としています。

平成16年8月、従来のTRTを発展的に改組し、現地治安機関に対してより広範囲の支援活動を行う能力を持つTRT-2を発足させた。