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我が国の治安を脅かす不法入国・不法滞在事犯
1 巧妙化・潜在化する不法入国・不法滞在事犯

 近年、警察及び海上保安庁が検挙した集団密航事件の件数は、平成九年以降、大幅な減少傾向にあります。他方、偽造旅券等を使用した不法入国事件の検挙件数は、増加傾向にあり、国際空港や港湾における水際対策が重要な課題となっています。
 こうした中、警察は、旅券や外国人登録証明書等の各種身分証明書を偽造し、不法入国や不法残留の事実を隠ぺいして、合法滞在を偽装しようとする不法滞在者に販売する偽造工場を摘発しています。また、政治団体代表らが介在した偽装結婚事件や、犯罪収益等を不正送金する地下銀行事件も検挙しています。こうした活動を通じて、警察では、国内に拠点を置く外国人犯罪組織の拡大の防止に努めています。
 国内外の犯罪組織が連携した不法入国・不法滞在事犯は、その形態や手口の巧妙化・多様化が進んでおり、更に潜在化、定着化することが懸念されることから、今後とも厳正な取締りを行うこととしています。
【事例】
神奈川県警察では、一八年四月一三日までに、歓楽街で働く外国人女性の偽装結婚をあっせんしていた政治団体代表とその幹部ら日本人男性四人、偽装結婚を依頼した中国人女性二人、偽装結婚をした日本人男性二人及びフィリピン人女性二人の計一〇人を電磁的公正証書原本不実記録・同供用罪等で逮捕しました。
 逮捕された政治団体の代表は、外国人が日本人の配偶者になると就労活動が自由になり、永住資格も得やすくなる点に着目し、我が国にいる外国人の援助活動を行う団体を名乗りながら、横浜市内の歓楽街のスナックに通い、ホステスとして働く外国人女性に偽装結婚の話を持ち掛けるなどして、約二四〇人の偽装結婚や在留資格変更手続の仲介をしていました。

入管法違反送致件数・人員の推移
2 不法滞在者に対する取締りの強化

 我が国の不法滞在者数は、約二二万人と言われ、依然として高い数字で推移しています。
 こうした中で、一五年一二月、犯罪対策閣僚会議は、外国人犯罪の温床となる不法滞在者を二〇年末までに半減させるとの目標を定めました。警察では、この政府目標の達成のため、全国警察で一七年九月から開始した入管法第六五条の活用拡大、入国管理局との合同摘発や集中取締りを積極的に実施してきました。この結果、一八年中、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)違反は、一〇、五六二件、九、一九六人を検挙し、そのほかに、入管法第六五条の規定に基づき、七、六八八人を逮捕後に入国警備官に引き渡しました。これらを合わせると一八、二五〇件、一六、八八四人となります。(暫定値)近年、外国に本拠を置く国際犯罪組織が我が国に進出するとともに、国内に居住する不法滞在者が犯罪組織を形成し、凶悪化、全国への拡散化といった傾向が顕著になっており、治安悪化の大きな要因となっています。
 また、偽造旅券の売買や偽装結婚を図る外国人は後を絶たない状況にあることから、こうした不法滞在を助長する犯罪についても引き続き厳正な取締りを行うこととしています。
 警察としては、関係機関と緊密に連携し、悪質な事案に対する重点的な取締りや退去強制の効率化等の諸対策を推進しており、今後とも、良好な治安を確保し、平穏かつ適法に滞在している外国人に対する無用の警戒感を払しょくすべく、不法入国・不法滞在者対策の的確な実施に努めることとしています。
【事例】
愛知県警察では、一八年六月、名古屋税関から、外国人登録証明書用の偽造用ホログラムシールが隠匿された中国からの国際速達郵便があるとの通報を受け、所要の捜査を行ったところ、愛知県内のアパートに所在する偽造工場を突き止め、同年一〇月六日、同所や郵便物の送付先を一斉摘発するとともに、同年一二月六日までに、旅券・外国人登録証明書等を偽造・販売していた中国人三人、インドネシア人二人の計五人を逮捕しました。
 逮捕された中国人らは、偽造した外国人登録証明書や旅券を、セットで二万四、〇〇〇円から四万二、〇〇〇円で販売していました。
 本件では、中国やインドネシアなどの偽造旅券の表紙六一二枚や、偽造の素材として用意された全国の一八九自治体の公印の印影等を記録した電磁的記録媒体が押収されています。

偽造工場からの押収品(10月、愛知)