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ロシア及び中国による対日有害活動等
1 依然として情報活動を活発に展開するロシア

 ロシアのプーチン大統領は、平成一七年一二月、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の流れをくむ対外情報庁(SVR)は世界で最も有効に機能している機関であり、政策決定過程で諜報活動が重要であると述べました。また、同大統領が一八年五月に行った年次教書演説では、「国の経済発展は主としてその科学と技術の優位性によって決まる。残念ながら、今日ロシア工業において使用されている大半の機械設備は、先進レベルから数十年単位で立ち遅れている」などと述べて、自国産業の弱点を克服するためには、「国家が国外での現代テクノロジーの獲得においても助力を与えなければならない」と指摘するなど、国家が先端科学技術分野に早急かつ積極的に関与していく必要性を力説し、その導入に熱意を示しています。
 こうした中、警視庁公安部は、一六年四月ころから一七年一〇月ころにかけて、元日本人会社員が、在日ロシア通商代表部員の工作を受け、同人が勤務していた先端科学技術企業が所有し、その管理下にあった「VOA素子」を盗み出し、これをロシア通商代表部員に提供した事実を明らかにして、一八年八月一〇日、両名を窃盗罪で東京地方検察庁へ書類送致しました。この事件は、一七年一〇月、在日ロシア通商代表部員が、元日本人会社員から、元会社員が勤務していた会社の先端科学技術に関する機密情報等を不正に入手し、同会社員に多額の報酬を交付していた背任事件の検挙に続くロシアによる諜報事件です。
 こうした事例が示すとおり、ロシア情報機関は、現在も我が国において違法な情報収集活動を継続しているとみられます。警察は、こうした犯罪により、我が国の国益が損なわれることのないよう、今後も、違法行為に対しては厳正な取締りを行うこととしています。

 
在日ロシア通商代表部員らによる窃盗事件を報道する各紙(八月一〇日、
読売新聞・東京新聞・産経新聞、八月一一日、産経新聞)
 
2 軍事大国・科学立国を目指し情報収集を図る中国

 中国は、一八年三月、一八年度の国防予算が前年比約一四・七%増の二、八三八億元(約四兆一、一〇〇億円)に上ると発表しました。 これで元年度以来、一八年連続二けた増となります。
 中国は、「国防費の財政支出比率はここ数年七%台を保っており、中国の国防予算が経済成長に沿ったものである」と強調しました。かし、曹剛川国防部長は、一七年に軍の傘下で開発・打ち上げに成功した有人宇宙船「神舟六号」などについて、「特定の開発費は国防費に含まれていない」と指摘しており、弾道ミサイルやレーダーなど先端科学技術を用いた兵器の研究開発費は、科学分野等に振り分けられているものとみられ、実際の軍事費は、公表額の二、三倍に達していると指摘されています。
 また同年一〇月、中国は、今後五年間の宇宙開発の国家戦略を掲げた「二〇〇六年中国の宇宙」と題する白書を発表しました。この白書では、「新世代の運搬ロケット技術開発」及び「衛星利用測位システム(GPS)構築」を優先項目に掲げ、軍事転用できる分野に力を注ぐ姿勢を強く打ち出しています。
 中国は、一八年三月の第一〇期全国人民代表大会(全人代)第四回会議において、温家宝首相が、「科学技術の発展加速をより際立った戦略的地位におかなければならない」、「国の重要科学技術インフラ及び幾つかの産業技術研究・開発実験施設を建設する」と演説し、今年の中央財政の科学技術向け投入額を前年比一九・二%増の七一六億元(約一兆三七〇億円)と発表するなど、更なる科学立国を目指しています。
 中国は、科学立国の実現のためには、我が国からの技術移転が必要不可欠であるとの認識を持っており、先端科学技術の習得のため、多数の学者、技術者、留学生、代表団等を我が国に派遣し、多面的かつ活発な情報収集活動を行っているものとみられます。また、このような派遣者や在日公館員等を介し、我が国の先端科学技術関係者等に対する幅広い働き掛けを強め、我が国からの技術移転等の拡大を図っているものとみられます。
 さらに、中国の情報収集活動は極めて巧妙であり、多数の中国人が、些末で断片的と思われる情報を収集していることが多いため、情報収集活動が行われていることが認識されにくいという特徴があります。
 これらの活動に関連して、違法行為が行われる可能性が否定できないことから、警察としては平素から情報収集に努めるとともに、違法行為に対しては、厳正な取締りを行うこととしています。

中国の有人宇宙船「神舟六号」の打ち上げ (時事)
全国人民代表大会(全人代)(共同)
 
3 大量破壊兵器関連物資等の不正輸出

一 最近の国際情勢

 一八年二月、第三回アジア不拡散協議(ASTOP‐Ⅲ)が東京で開催され、アジアにおける不拡散体制の強化に向けた意見交換が行われ、北朝鮮による大量破壊兵器関連物資等の拡散が、アジア地域のみならず国際社会全体に対する脅威であること、北朝鮮の核問題の平和的解決を目指す枠組みである六者会合のプロセスを支持すること等について、参加各国の意見の一致をみました。
 米国のブッシュ大統領とロシアのプーチン大統領は、同年七月のサンクトペテルブルク・サミットに際し、当地で会談し、テロリストによる核物質の取得の防止等を内容とする「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」を発表し、各国に参加を呼び掛けました。また、両国首脳は、会談後発表した共同声明の中で、北朝鮮の弾道ミサイル発射に対し「深刻な懸念」を表明し、ミサイル発射の凍結と六者会合への復帰を求めました。
 警察は、大量破壊兵器関連物資等の拡散が国際社会における重大な脅威となっている情勢を踏まえ、国際的な取組みにも積極的に参画しているところであり、同年四月四日から同月六日にかけて、オーストラリアのダーウィンで実施された同国主催の大量破壊兵器の拡散に対する安全保障構想( P S I : Proliferation Security Initiative) による航空阻止に係る実動訓練に、我が国の警察職員として初めて、警視庁のNBCテロ捜査隊員等が参加し、オーストラリアの税関職員等と共同して、航空機内における大量破壊兵器関連物資等の検知等を行いました。

二 北朝鮮のミサイル又は大量破壊兵器計画に関連する資金の移転防止措置

 一八年九月一九日、我が国は、国際連合安全保障理事会決議第一六九五号及び閣議了解「北朝鮮のミサイル又は大量破壊兵器計画に関連する資金の移転を防止する等の措置について」に基づき、資金移転防止措置の対象者に指定された北朝鮮のミサイル又は大量破壊兵器計画に関連する者(一五団体・一個人)に対し、資金の移転を防止する措置を講じました。
 なお、資金移転防止措置の対象者については、これまで米国が選定していた北朝鮮関連の一二団体・一個人のほか、警察による過去の北朝鮮向け大量破壊兵器関連物資等の不正輸出事件の捜査を通じて明らかになった三団体を加えたものです。

オーストラリア政府主催のPSI航空阻止訓練