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  プーチン大統領は、2000年(平成12年)5月、「強いロシアの復活」を目標に掲げて大統領に就任し、「国家が国内資源を監督し、経済再生につなげるべきである」とする自作論文を国政に反映させ、世界最大の生産量と埋蔵量の天然ガス、世界第2位の産油量を誇る石油等の資源関連企業に政府の関与を強め、旧ソ連崩壊後の弱体化した国内経済を立て直しました。
  また、近年、高値で推移する原油価格の追い風を受け、外貨収入が著しく増大した結果、国家財政基盤の改善も進み、旧ソ連時代に「軍事超大国」であったロシアが、「資源超大国」となって、再び世界に強い影響力を及ぼしつつあります。
  こうした情勢の下、経済的に自信を回復したロシアは、積極的な首脳外交を展開し、2006年(18年)5月の年次教書演説では、
核戦力の増強を宣言し、「強い軍事力を持つことにより、ロシアへの圧力は小さくなる」との姿勢を明確にしました。今後は、経済外交を重視し、世界経済の中でロシアの存在感を強めていくものとみられます。
  我が国との関係においては、2005年(17年)11月、プーチン大統領が5年ぶりに来日しましたが、日露間の最大の懸案である北方領土問題の解決には至らず、むしろロシアは、領土問題に関してヤルタ会談等を根拠とした「ロシアの北方領土領有は、第二次世界大戦の結果」とする旧ソ連と同様の歴史観を示しています。
  他方、我が国との経済交流を活発化させたいロシアは、プーチン大統領が来日した際、多くのロシア経済界関係者を我が国に派遣して、民間の経済会議に参加させるとともに、我が国の経済関係者に対して、ロシアへの企業進出、投資の活性化等を呼び掛けるなど、経済交流の強化を求める姿勢を明らかにしました。
  こうしたロシアの強気な姿勢は、国内政策にも反映されています。現在の政権与党に有利とされる選挙制度改革、地方自治体首長の大統領任命制の導入、非政府組織(NGO)への支援等を規制する法令の施行、連邦保安庁(FSB)や軍に対し強権を付与する「テロリズム対策に関する連邦法」の導入等、中央政府機関に権力を集中させる動きを強めており、こうした傾向は、当面続くものとみられています。 


シベリアの油田(時事)

  ロシアの情報機関員は、旧ソ連崩壊後も各国において外交官等を装って諜報活動を活発に展開していることが明らかになっています。我が国においても、過去、旧ソ連及びロシアの情報機関員によると認められる諜報事件を十数件検挙しており、このうち旧ソ連が崩壊した1991年(3年)以降は8件を検挙しています。こうした諜報活動は、冷戦期のイデオロギー対立に根ざした特有の動向ではなく、ロシアが、日米間の軍事動向や我が国の内外政策のみならず、先端科学技術にも依然として強い関心を示し、我が国に諜報活動の重点を置いていることを示すものといえます。
  諜報活動の対象は、先端科学技術製品から、当該製品の製造工程が分かる資料、研究中の新技術の将来性等にまで及び、その製品等の種類も汎用性の高いものから、用途の限られたものまで多岐にわたっています。
  ロシアは、先進諸国の先端科学技術を積極的に導入する姿勢を示しており、プーチン大統領が2006年(18年)5月に行った年次教書演説では、「国の経済発展は主としてその科学と技術の優位性によって決まる。残念ながら、今日ロシア工業において使用されている大半の機械設備は、先進レベルから数年単位ではなく数十年単位で立ち遅れている」などと述べて、自国産業の弱点を克服するためには、「国家が国外での現代的テクノロジーの獲得においても助力を与えなければならない」と指摘するなど、国家が早急かつ積極的に関与していく必要性を力説しています。
  専門家等によると、ロシアの科学技術力は、軍事用途を目的として研究が続けられてきた分野、つまり、軍需産業、原子力、宇宙開発等の分野では、相当に高度であるとされているものの、民生品の分野では、欧米先進諸国に比べて遅れているという指摘もあります。
  今後、ロシアは、先進諸国の企業の誘致活動、合弁・技術提携、買収等を活発化させ、自国の企業に対し財政支援を行い、積極的な先端科学技術の導入を推進していくものとみられますが、他方、情報機関員の違法情報収集活動による先端科学技術の移転工作も、並行して活発に展開していく可能性があります。
  ロシアでは、経済成長を背景とした国家税収の増加が、情報機関員の海外における各種諜報活動を活発化させることも懸念されます。これまでのように在日ロシア大使館員や在日ロシア通商代表部員を装った情報機関員が違法行為を行う可能性があるほか、今後、活発化する日露間の経済交流を通じて、経済代表団、我が国に進出する企業の社員等を装った情報機関員が、企業間提携、技術交流等を口実とした各種諜報活動を展開する可能性があります。


ロシア軍戦略ミサイル(時事)

ロシア戦略爆撃機(時事)

ロシア軍の戦車部隊(時事)

① 黒羽・ウドヴィン事件
      (1997年(平成9年)警視庁)
  ロシア対外情報庁(SVR)に所属する非合法機関員が、1965年(昭和40年)ころに福島県内から失踪した黒羽一郎という男性になりすまし、我が国内外で30年以上にわたり各種の情報収集活動を行っていた事件です。

② チェルヌィーフ事件
      (1997年(平成9年)警視庁)
  我が国の民間企業の代表取締役が、在日ロシア通商代表部員らから多額の報酬を得て、7年間にわたって、コンピュータ・ソフトウェアの仕様書、科学技術関係機関の発行する軍事関係資料等を旧ソ連及びロシアに提供していた事件です。

③ ボガチョンコフ事件
       (2000年(平成12年)警視庁・神奈川)
  海上自衛隊三等海佐が在日ロシア大使館に勤務する海軍武官から工作を受け、現金等の報酬を得て、海上自衛隊内の秘密文書の写しと数十点の内部資料をロシアに提供していた事件です。

④ シェルコノゴフ事件
       (2002年(平成14年)警視庁)

  元在日ロシア通商代表部員が、1999年(平成11年)10月、都内の飲食店において、防衛関連会社社長に対し、米国政府から供与された防衛秘密であるレーザー誘導ミサイル(「スパロー」)及び赤外線誘導ミサイル(「サイドワインダー」)の仕様書等を要求した事件です。

⑤ サベリエフ事件
       (2005年(平成17年)警視庁)

  在日ロシア通商代表部員が、2004年(16年)9月ころから2005年(17年)5月ころにかけて、日本人会社員から、その勤務先の会社の先端科学技術に関する機密情報等を不正に入手し、対価として日本人会社員に多額の報酬を支払っていた事件です。

⑥ 在日ロシア通商代表部員らによる窃盗事件
        (2006年(平成18年)警視庁)
  在日ロシア通商代表部員の工作を受けた日本人の元会社員が、その勤務先の企業が所有するミサイルの制御や誘導に転用できる「VOA素子」を窃取し、これを在日ロシア通商代表部員に提供した事件です。


押収された情報収集の道具  

押収された資料

押収された仕様書


押収された半導体の一部