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1 科学立国を目指す中国
  中国は、2005年(平成17年)10月、2度目となる有人宇宙船「神舟6号」の打ち上げに成功しました。中国の宇宙開発は、軍によって進められており、その情報は機密扱いで予算も公表されていません。「神舟」の命名者である江沢民前総書記は、2002年(14年)3月、「神舟3号」の打ち上げ時に、「国防の現代化に重要な意義がある」と演説し、宇宙開発の目的が、軍事力の向上にあることを示唆しました。ロケット開発に使われた技術は、そのままミサイルに転用可能であるなど、宇宙開発とミサイル開発は、表裏一体の関係にあるものとみられ、宇宙開発の名目で進められる軍事技術の開発に対する警戒が広がっています。
  また、中国は、1992年(4年)9月、全国の省・軍の幹部に対し、「中国共産党中央7号文件」を配布し、対外情報活動の強化等について指示をしたと言われており、現在もこの指示にのっとり積極的な情報収集を行っているものとみられています。2005年(17年)10月に開催された中国共産党第16期中央委員会第5回全体会議において採択された「新5カ年計画」と題する今後5年間の国民経済及び社会の発展に関する基本方針の中で、科学技術教育の発展を国の競争力向上の決定的要素と位置付けており、更に高水準の科学立国を目指しているものとみられます。

2 活発に展開される対日諸工作
  中国は、科学立国の建設のためには、我が国からの技術移転が必要不可欠と認識しており、先端科学技術の習得のため、多数の学者、技術者、留学生、代表団等を我が国に派遣し、多面的かつ活発な情報収集活動を行っているものとみられます。また、これらの目的で来日した中国人、在日中国大使館員等を介して、我が国の技術者等に対する幅広い工作を活発に行っており、我が国からの技術移転の拡大を図っているものとみられます。
  しかも、中国の情報収集活動は極めて巧妙であり、多数の中国人が、断片的で些末であると思われる情報を収集していることが多いため、情報収集活動が行われていることが認識されにくいという特徴があるとみられます。
  警察は、平素から情報収集に努めるとともに、違法行為に対しては、厳正な取締りを行うこととしています。


「神舟6号」の打ち上げ(時事)

先端技術獲得を指示した「中国共産党中央7号文件」(共同)

  中国による諸工作の一端が、これまで警察が検挙した「汪養然事件」や「横田基地中ソスパイ事件」で明らかにされています。

① 汪養然事件
      (1976年(昭和51年)警視庁)
  香港において貿易商社3社を経営し、手広く中国貿易を行っていた香港在住中国人、汪養然は、1971年(46年)ころ、中国情報機関員から、「香港において中国と取引する中国人業者は、祖国の建設と祖国防衛に協力する義務がある」と迫られ、中国との貿易取引を継続する見返りとして、我が国において軍事・産業技術等の情報収集活動を行うよう指示されました。以後、汪養然は、貿易業務を装って頻繁に来日し、内妻宅を活動拠点にして日本人協力者数人を利用しながら、中ソ国境地図等の旧ソ連関係情報、外国の航空機エンジン等の軍事関係情報、我が国の政治・経済・産業技術に関する情報等の幅広い情報収集活動を行っていた事件です。

② 横田基地中ソスパイ事件
     (1987年(昭和62年)警視庁)

  在日旧ソ連大使館員の工作を受けた中国人の男と、中国公司関係者から工作を受けた親中団体幹部が、在日米軍横田基地従業員及び軍事評論家らと共に、約8年間にわたり、米空軍戦闘機や輸送機のテクニカル・オーダー(技術指示書)等の在日米空軍の資料を窃取し、多額の報酬を得て旧ソ連及び中国に売却していた諜報事件です。親中団体幹部は、中国人の男からテクニカル・オーダーを購入する話を持ち掛けられ、訪中の際に中国公司関係者にテクニカル・オーダーの一覧を渡し、1980年(55年)ころから、訪中の都度、中国人の男から買い取ったテクニカル・オーダーを中国に売却していた事件です。
この事件では、中国人の男の自宅から諜報通信受信用タイムテーブル、マイクロフィルム等が発見されています。


押収されたマイクロフィルム

中露合同演習でミサイルを発射する中国海軍(時事)