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2 最近の国際テロ情勢


1 国際テロ情勢

 2001年(13年)9月の「米国同時多発テロ事件」以降、各国政府がテロ対策を強化しているにもかかわらず、イスラム過激派が世界各地でテロを敢行するなど、その脅威は依然として高い状況にあります。中でも、オサマ・ビンラディン率いる「アル・カーイダ」は、イラクへの武力行使を支持した国々や親米湾岸・アラブ諸国を非難し、全世界のイスラム教徒に向けてジハード(聖戦)を呼び掛ける声明を繰り返し発しており、他のイスラム過激派に影響を与えています。
 中東では、2003年(15年)5月、サウジアラビア・リヤドの外国人居住区に対する自爆テロ事件が発生したほか、2004年(16年)にも、同国で外国人居住区や米国総領事館が襲撃されるテロ事件が発生しました。また、レバノンでは、2005年(17年)2月、ベイルートで爆弾テロ事件が発生し、ハリリ前首相が暗殺されました。イラクでは、同年4月に移行政府が発足した後も、テロが相次いで発生しています。
 東南アジアでは、「アル・カーイダ」と関係を有するとされるイスラム過激派「ジェマア・イスラミア」が、インドネシアにおいて複数の大規模・無差別テロを敢行し、また、フィリピンの複数のイスラム過激派と連携していることが指摘されています。
 欧州では、2004年(16年)3月、スペイン・マドリードで、複数の列車が同時に爆破され、191人が死亡、1,600人以上が負傷しました。ロシアでは、同年8月、2機の国内線航空機が同時に爆破され、90人が死亡したほか、同年9月には、北オセチア共和国の学校が占拠され、銃や爆発物等で約330人が死亡、700人以上が負傷しました。
 英国では、2005年(17年)7月、グレンイーグルズにおいて主要国首脳会議(サミット)が開催されている中、ロンドン中心部において、鉄道やバスを標的とした4件の爆発が連続して発生し、56人が死亡、約700人が負傷するテロ事件が発生しました。ロンドンでは、その2週間後にも同様のテロ事件が発生しました(死傷者なし)。これらのテロ事件は、欧州の主要国に居住する若者が過激化し、実行したものであり、各国に衝撃を与えました。
 アフリカでは、2002年(14年)4月に、チュニジア・ジェルバ島のシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)の近くで車両が爆発したテロ事件、同年11月に、ケニア・モンバサにおけるユダヤ系ホテルに対する車両による自爆テロ事件、2003年(15年)5月にモロッコ・カサブランカの計5か所で、爆弾がほぼ同時に爆発したテロ事件が発生しているほか、エジプトでは、2004年(16年)10月にタバで、2005年(17年)7月にはシャルム・エル・シェイクで連続爆弾テロ事件が発生するなど、多数の死傷者を伴う大規模・無差別テロが各地で発生しています。

スペイン・マドリードにおける同時多発列車爆破テロ事件
(2004年(平成16年)3月)(時事)
英国・ロンドンにおける同時多発テロ事件
(2005年(平成17年)7月)(時事)
2 イラク情勢

 2003年(15年)3月、米国等によるイラクに対する武力行使が開始され、翌4月、首都バグダッドが陥落し、フセイン政権は事実上崩壊しました。ブッシュ米国大統領は、同年5月、イラクにおける主要な戦闘の終結を宣言しました。
 その後、2004年(16年)6月には主権委譲が行われ、イラク暫定政府が発足しましたが、主権委譲を前にして治安は悪化し、外国人を対象とした人質事件も多発しました。
 2005年(17年)1月には暫定国民議会選挙が実施され、同年4月には移行政府が発足しました。しかし、イラクの治安は依然として安定せず、同政府発足後も、同政府や米軍に対する反感、宗派間の対立等を背景に、米軍等の駐留外国軍、治安部隊等イラク移行政府の関係者、同国の政党幹部等を対象とした武装グループによるテロ事件が頻発しています。
 現在、イラクでは、アブ・ムサブ・アル・ザルカウィのような外国人テロリストのほか、旧フセイン政権関係者等のスンニ派武装勢力が活発に活動しているとみられ、イスラム過激派の活動が最も盛んな地域の一つとなっています。こうした中、ザルカウィが、2004年(16年)10月、オサマ・ビンラディンとの連携を明確にするなどの動向もあり、イラク情勢が今後、国際社会の治安情勢に与える影響が注目されます。

3 東南アジアのテロ情勢

 イスラム過激派のテロ・ネットワークは、今やアジアを含む世界各地に拡大しているとみられており、東南アジア地域においても、「ジェマア・イスラミア」を始めとするイスラム過激派によるテロ事件が頻発しています。

(1)「ジェマア・イスラミア」の動向

 「ジェマア・イスラミア」は、インドネシア人らにより1993年(5年)ころに設立されたとみられるイスラム過激派組織で、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン南部、タイ南部にまたがる広大なイスラム国家の建設を目的に、国境を越えて東南アジア一帯を活動拠点としているとみられます。「ジェマア・イスラミア」は、オサマ・ビンラディン率いる「アル・カーイダ」とも関係を有しているとされており、東南アジアに存在するイスラム過激派組織の中で、大規模・無差別テロを行う危険性の最も高い組織です。
 これまで、「ジェマア・イスラミア」又はその幹部が関与したとみられる主なテロ事件は次のとおりです。

 インドネシア・バリ島における爆弾テロ事件(2002年(平成14年)10月12日)
 インドネシア・バリ島において、バーやディスコが連続して爆破され、邦人2人を含む202人が死亡、300人以上が負傷しました。インドネシア当局は、主犯格を含む容疑者を逮捕し、犯行に「ジェマア・イスラミア」が関与していたと発表しました。犠牲者の多くはオーストラリア人ら外国人観光客でした。
 事件の首謀者とされる「ジェマア・イスラミア」幹部通称ハンバリ(リドゥアン・イサムディン)は、2003年(15年)8月11日、タイにおいて拘束されました。

インドネシア・バリ島における爆弾テロ事件
(2002年(平成14年)10月)
 インドネシア・ジャカルタにおける米国系大型ホテルに対する自動車爆弾による自爆テロ事件(2003年(平成15年)8月5日)
 インドネシア・ジャカルタにおいて、米国系大型ホテルが自動車爆弾による自爆テロの標的とされ、12人が死亡、150人以上が負傷しました。
 インドネシア・ジャカルタにおける豪州大使館前爆弾テロ事件(2004年(平成16年)9月9日)
 インドネシア・ジャカルタのオーストラリア大使館前で、走行中の小型トラックが爆発し、11人が死亡、180人以上が負傷しました。

インドネシア・ジャカルタにおける豪州大使館前爆弾テロ事件
(2004年(平成16年)9月)
 インドネシア・バリ島における同時多発テロ事件(2005年(平成17年)10月1日)
 バリ島の3か所のレストランで自爆テロによる爆発が発生、邦人1人を含む23人が死亡、140人以上が負傷しました。

(2)フィリピンのテロ情勢

 フィリピンでは、南部を中心に、同国からの分離独立と、イスラム国家の樹立を目的としたイスラム過激派組織が活発に活動しています。
 同国南部のミンダナオ島に支配地域を有する「モロ・イスラム解放戦線」は、政府との間で激しい戦闘を展開していましたが、2003年(15年)7月に政府と停戦協定を締結し、現在は和平交渉を進めています。しかし、この和平交渉に反対する同組織の一部は、他のイスラム過激派等と連携し、同国内におけるテロ活動に関与するなど、引き続き、活発に活動しているとみられます。
 同じくフィリピン南部を活動拠点とし、同国におけるイスラム国家の樹立を目指して活動するイスラム過激派「アブ・サヤフ・グループ」は、近年の政府による掃討作戦により、その勢力は減退しているとみられていますが、依然として、軍や警察等に対する襲撃事件、「ミンダナオ島ダバオ国際空港における爆弾テロ事件」のような爆弾テロ事件等を引き起こしています。
 また、近年、イスラム教への改宗者で構成され、マニラ首都圏を中心に活動しているとみられる組織のテロへの関与が指摘されています。
 なお、近年、これらの組織は、相互に、また、「ジェマア・イスラミア」との間で、連携を強化しているといわれています。

ミンダナオ島ダバオ国際空港における爆弾テロ事件
ミンダナオ島ダバオ国際空港における爆弾テロ事件
(2003年(平成15年)3月)(時事)
(3)タイ南部のテロ情勢

 タイ南部は、イスラム教徒が多数居住しており、歴史的に分離独立運動が活発な地域とされています。
 2004年(16年)1月以降、タイでは、治安当局者等をねらった襲撃事件が相次いでおり、これまでに1,000人以上が死亡したとされています。この背景としては、分離独立運動のほか、犯罪組織等による利権争い、中央政府への反発等が指摘されています。
 2005年(17年)2月及び4月には、自動車爆弾によるテロ事件や、これまで襲撃事件等が発生していた同国南部3県以外の地域の国際空港に対するテロ事件が発生するなど、これまでみられなかった手法を用いたり、これまでと異なる地域や対象を標的としたりする傾向がみられ、国際テロ組織の関与が懸念されています。

4 NBCテロの脅威

 近年、核・生物・化学物質を使用したテロの脅威が高まっています。2001年(13年)には、米国で炭疽(たんそ)菌事件が発生したほか、2002年(14年)には、「アル・カーイダ」メンバーの米国人が、放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」(ダーティ・ボム)によって米国を攻撃する計画を立てていたことが明らかとなっています。2003年(15年)1月には、英国・ロンドンにおいて、北アフリカ系とみられるイスラム過激派グループが、猛毒リシン関連物質を所持していたことが判明しています。2004年(16年)2月には、米国・ワシントンにおいて、上院院内総務事務所からリシンが発見される事案が発生しています。
 「アル・カーイダ」等の国際テロ組織が、NBCテロに関心を有していることは度々指摘されており、今後もNBCテロ関連事案が発生する可能性があります。


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