第2期目を迎えたプーチン政権下では、中央集権体制が強化されるとともに、治安・情報機関の権限、影響力の拡大が続いています。 こうした中、プーチン大統領は平成16年7月に行われた「力の省庁(国防省、内務省、連邦保安庁(FSB)、対外情報庁(SVR)等の権力機関)」の新任将校に対する演説で、SVRの課題として、「国家の戦略的な決定を下す上で確実な基礎となるのは信頼に足る情報である」と訓示しました。これまでもプーチン大統領は、国家戦略における対外諜報活動の重要性を指摘してきたところであり、ロシアによる諜報活動は、今後更に活発化していくものとみられます。 諸外国においては、ノルウェー(1月)、リトアニア(2月、7月)、エストニア(3月)、ラトビア(4月)、スロバキア(5月)でロシア外交官等が諜報活動の容疑等で国外退去処分となりました。また2月には、カタールにおいて元チェチェン共和国大統領代行の暗殺容疑でロシア情報機関員が逮捕され、依然としてロシアが非合法活動を展開している実態が明らかにされました。 我が国においても、12年9月、14年3月にロシアによる諜報事件を検挙しており、ロシア情報機関員は、依然として情報活動を活発に行っているものとみられます。警察としては、諜報事案に的確に対処するため、情報の収集や分析能力を強化し、違法行為には法律に照らし厳正に対処していきます。
16年11月、国籍不明の潜水艦が我が国領海に侵入し、海上自衛隊に「海上警備行動」が発令される事案が発生しました。中国は後日、訓練航行中の中国原子力潜水艦が技術的原因から、誤って石垣水道に入ったものと説明しました。このほかにも、日本近海では、中国の海洋調査船などの活発な活動が確認されています。 一般に海洋開発には高い科学技術が必要と言われますが、中国は15年に、初の有人宇宙飛行に成功した実績が示すように、その科学技術水準は、科学先進国の域に達していると言っても過言ではありません。しかし、中国は現在もなお、「科学技術、教育による国家振興の発展戦略」を掲げ、挙国一体となり、更なる科学立国を目指しており、これまで同様、我が国の先端科学技術に注目しています。 中国は先端技術の習得のため、多数の学者、技術者及び留学生や代表団等を我が国に派遣し、多面的かつ活発な情報収集活動を行っているものと見られます。また、これらの目的で来日した中国人や、在日公館員等を介して、先端企業関係者等に対する幅広い働き掛けを強め、我が国からの技術移転等の拡大を図っています。 これらの活動には違法行為が混在する可能性も否定できないことから、警察としては平素から情報収集に努めるとともに、違法行為に対しては、厳正な取締りを行うこととしています。
15年12月、リビアは自国の大量破壊兵器計画の廃棄を決定しましたが、その後、この決定等を契機として、核物質や関連機材を取引する世界的なネットワーク(いわゆる核の闇市場)の存在が明らかになりました。 国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、この核の闇市場に関連した国は世界で30か国以上に上ると述べ、大量破壊兵器の拡散の現状が明らかとなりました。 16年5月、北朝鮮は、サリンの原料にもなるシアン化ナトリウム70トンをタイ王国の会社から入手しようとしましたが、関係国の当局により、その輸出が阻止されました。その一方、15年6月から9月にかけては、シアン化ナトリウム107トンを韓国から中国経由で輸入していたことが明らかになりました。 一方、不拡散に関する取組みとしては、5月、ブッシュ米国大統領が、国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器関連物資等の拡散を阻止するために、参加国が共同して採り得る措置を検討しようとする、「拡散に対する安全保障構想(PSI:Proliferation Security Initiative)」を提唱し、日本を含めた関係国が参加して、これに基づく会合を開催したり、海上阻止訓練等を行っています。16年10月には、日本において海上阻止訓練を実施したほか、これに連携する形で、警察等関係機関が、東京港において輸出管理訓練を実施しました。 15年9月、第58回国連総会の一般演説で、ブッシュ米国大統領は、国内の現行法で対処するPSIの弱点を解消するため、大量破壊兵器関連物資等の非合法化、国際基準に合致した厳格な輸出管理、大量破壊兵器の製造につながる物資の各国内での保全等を骨子とした、大量破壊兵器不拡散体制強化のための国連安保理決議の採択を求め、16年4月には、安保理決議第1540号が採択されました。 さらに、6月に米国で開催されたシーアイランド・サミットでは、「不拡散に関するG8行動計画」が採択され、国際的に進められている不拡散に関する各種の取組みを強化し、拡大していくことが合意されました。 警察は、大量破壊兵器の拡散が国際安全保障上の懸念事項となっている状況にかんがみ、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出事案に対し、所要の対策を講じています。 特に、14年4月、日本版「キャッチ・オール規制」が導入されて以降は、これまで同規制に係る違反を2件検挙しています。