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2 様々な形態で展開される北朝鮮の対日有害活動


1 北朝鮮の対日諸工作

(1)北朝鮮の対日諸工作

  北朝鮮は、平成16年中、「朝鮮中央通信」や「平壌放送」、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」等のメディアを通じ、我が国単独で経済制裁を行うことを可能にした外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律の施行について、「報復には報復で、強硬には超強硬で」、「日本の経済制裁を宣戦布告と見なし、断固たる自衛的措置を取っていく」などの辛辣な表現で強い反発を示しました。また、特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法の施行については、「我が共和国を孤立させ、総聯を抹殺し、朝日関係を対決の局面に追い込むための反共和国・反総聯法だ」、「日本の右翼保守勢力が我が共和国に対して無差別の制裁を加えるこ とをねらった悪法をついに採択するという犯罪を犯した」などとして非難し、「いかなる制裁行為も、わが方に対する宣戦布告と見なす」との立場を示して、盛んにけん制を繰り返しました。
 また、小泉首相が、国連安保理常任理事国入りを目指す決意を表明したことについては、「日本が一日も早く処理、解決すべき重要な問題は、国連安保理常任理事国への進出ではなく、過去の清算によって国際的信頼を築くことである」と強調しました。

(2)朝鮮総聯を介した対日諸工作

 朝鮮総聯は、「金正日国防委員長生誕記念日(2月16日)」、「朝鮮民主主義人民共和国創建記念日(9月9日)」等の節目をとらえた朝鮮総聯中央の慶祝行事に日本人名士や北朝鮮の主張に同調する日本人を招待したり、時宜をとらえて、地方本部の朝鮮総聯幹部が、地方自治体の首長等を訪問するなどして、北朝鮮及び朝鮮総聯に対する理解を求め、日朝国交正常化の早期実現や朝鮮学校に対する教育助成金の増額等を要請するなどしました。
 特に、16年中は、小泉首相の再訪朝と日朝首脳会談(5月22日)の結果を受けて、朝鮮総聯が対日諸工作を活発化させる動きがみられました。
 小泉首相の再訪朝直後に開催された「朝鮮総聯第20回全体大会(5月28日、29日)」において、徐萬述議長は、大会報告で、日朝首脳会談に際して小泉首相が、「今まで朝鮮との関係でよくないことがあったことに対して遺憾の意を示し、朝日平壌宣言履行の過程を通じて敵対関係を協調関係に作り上げ、両国間の関係を正常化していく意思を明らかにした」、「これから日本は反朝鮮『制裁法』発動を中止し、在日朝鮮人たちを差別しないと確言した」などとした上で、「これは、朝日両国関係を取り巻く環境の転換を意味する」と高く評価しました。
 このように、北朝鮮は、我が国に対して、朝鮮総聯を介した間接的な諸工作を展開しており、日本国内における北朝鮮に有利な世論の醸成、北朝鮮の主張に同調する日本人の結集(組織化)等を図っています。
 なお、朝鮮総聯に関連して、大阪朝鮮総聯会館内にある「大阪府同胞生活相談所」の所長らが、弁護士資格がないのに交通事故の示談交渉等を行ったとして、大阪府警察は、7月、同人らを弁護士法違反で逮捕するとともに、関係先を捜索しました。

「朝鮮総聯第20回全体大会」(5月、東京)(時事)
「朝鮮総聯第20回全体大会」(5月、東京)(時事)


2 万景峰92号の入港をめぐる動向等

(1)万景峰92号をめぐる過去の違法事案

  北朝鮮と日本を結ぶ北朝鮮船籍の貨客船万景峰92号は、在日朝鮮人が訪朝する際の足として利用される一方で、これまでに、不正送金や不正輸出、工作員の送り込み等、在日朝鮮人社会と北朝鮮を結ぶ裏の役割も担っているのではないかとの指摘がなされており、実際に、同船をめぐっては、過去幾つかの事件が摘発されています。

 東京都内の貿易商社が、北朝鮮の貿易会社に対し、輸出貿易管理令で輸出規制されている開放回路式自給式潜水用具の部分品(スクーバ用高圧空気容器用ダブルバルブ2、415個)を通商産業大臣(当時)の輸出許可を受けずに、8年3月29日ころから10月7日ころまでの間、新潟西港から万景峰92号に船積みし、北朝鮮・元山港向け輸出したとして、社長ら被疑者2人を外国為替及び外国貿易管理法違反で逮捕しました。
 公正証書原本不実記載・同行使並びに出入国管理及び難民認定法違反(不法在留罪)事件で検挙した在日朝鮮人は、朝鮮労働党統一戦線部所属の在日地下党工作員として、韓国軍人に対する獲得工作等の対南工作活動に従事していましたが、統一戦線部からの指示・命令は、文書の形で、専ら万景峰92号の船長を経由して伝達され、同人等が訪船して直接受領したり、朝鮮総聯中央関係者を介して受領していました。また、統一戦線部指導担当幹部が、万景峰92号の乗員として乗船してきた場合には、同船内で直接指導を受けていたことも明らかとなりました。
 東京都内の機械メーカーが、過去数回、北朝鮮に対して粉砕装置及び周辺機器の輸出を行いました。このうち、6年3月に行われたジェットミル(超微粉砕機)の輸出は、朝鮮総聯傘下団体である在日本朝鮮人科学技術協会を仲介させ、北朝鮮国内の塗料会社を最終需要者としており、同機が新潟西港に搬入された直後に万景峰92号が入港していることから、同船が利用された可能性があります(本件の外国為替及び外国貿易管理法並びに関税法違反については、時効が成立)。

(2)万景峰92号入出港時の動向等

 万景峰92号は、15年中に約7か月にわたって運行を中断しましたが、その後、再開し、現在は以前の状況に戻りつつあります。16年中は、計16回、新潟西港へ入港し、15年中の運行回数10回を大幅に上回りました。
 しかし、入港に反対し、又は厳しい対応を求める声は依然として高い状態にあります。入出港に際しては、海上保安庁、入国管理局及び税関による合同サーチが実施されていますが、不正送金や不正輸出、接岸中における不審な訪船者は現在のところ確認されていません。
 一方、2月には外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律の施行、6月には特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法の施行等、経済制裁を実現するための法案の整備が進められました。

万景峰92号
万景峰92号


3 過去のスパイ事件

  我が国においては、戦後約50件の北朝鮮関係の諜報事件が検挙されています。
 16年10月、大阪府警察は、大阪市内在住の在日韓国人を、出入国管理及び難民認定法違反及び外国人登録法違反で検挙しまし た。同人は、我が国から北朝鮮へ密出国した疑いがあることや、自宅から乱数表等が押収されいることなどから、我が国において、かつて北朝鮮工作員として活動していた疑いが認められています。
 警察は、こうした北朝鮮による活動を、我が国の国益を害し、国民の生命・身体にも危険を及ぼす治安上重大な問題であると認識しており、今後、特に、外国治安情報機関との緊密な情報交換を実施し、北朝鮮による諜報活動に関する情報を入手し、その分析を進め、その実態を把握するとともに、工作員の検挙に全力を尽くすこととしています。


4 対日諸工作の今後の見通し

  北朝鮮は、今後とも、時宜をとらえた対日非難を継続するとともに、「過去の清算」を最優先させた国交正常化への協力要請や朝鮮総聯の活動に対する理解者の獲得等を企図して、直接又は朝鮮総聯を介した諸工作を活発に展開するものとみられます。また、朝鮮総聯も、最近の日朝関係を「両国関係をめぐる環境の大転換を意味する」と評価しており、今後、これを追い風として、積極的な対日工作に出てくるものとみられています。警察は、こうした諸工作を通じて行われる違法行為に対して、情報収集活動を強化するとともに、徹底した取締りに努めることとしています。


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