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2 警察の対応


1 体制の強化

  近年、国際テロ対策は、国際社会が共通して取り組むべき重要かつ喫緊の課題となっています。特に、イスラム過激派によるテロへの対策は、世界各国で焦眉の急となっており、我が国としても、治安維持上重大な関心を払っています。一方、北朝鮮による日本人拉致容疑事案や不審船事案、諜報事案等の対日有害活動や大量破壊兵器関連物資等の拡散も大きな問題となっています。
 このような問題に的確に対処するため、警察庁においては、16年4月、警備局に外事情報部を設置するとともに、従前外事課に置かれていた国際テロ対策室を国際テロリズム対策課に発展的に改組しました。
 外事情報部においては、外国治安情報機関等との連絡の緊密化等を通じた質の高い情報の入手、関連情報の有機的統合、分析を行うなど、情報収集、分析機能の更なる強化を図っているほか、海外で国際テロが発生した場合においては、これに迅速、的確に対応すべく対処態勢を強化することとしています。また、北朝鮮工作員による各種違法行為、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出、不法入国・不法滞在事犯等についても、関連情報の収集や取締りを強化することとしています。
 さらに、警察庁では、8年に発生した「在ペルー日本国大使公邸占拠事件」の教訓を踏まえて10年に設置された「国際テロ緊急展開チーム(TRT: Terrorism Response Team)」を、より広範囲の支援活動を行う能力を持つ「国際テロリズム緊急展開班(TRT-2:Terrorism Response Team-Tactical Wing for Overseas)」に改組し、16年8月に発足させました。
 TRT-2は、邦人の生命、身体及び財産並びに我が国の重大な利益を害し、又は害するおそれのあるテロに係る事案が発生した場合、国際的な捜査協力を必要とするテロが発生した場合等に、国際テロに関する捜査や鑑識、人質交渉等に関して専門性を有する警察職員等を警察庁長官の決定に基づいて派遣し、当該事案に関する情報収集、現地治安情報機関等への捜査支援等を行うもので、9月の「インドネシア・ジャカルタにおける豪州大使館前爆弾テロ事件」及び10月の「イラクにおける邦人人質殺害事件」に際し、派遣されました。


2 情報収集と捜査の徹底等

  テロは、一たび発生すると大きな被害を生じさせることから、テロ対策の要諦は、その未然防止にあり、そのためには情報収集及び捜査の徹底等が不可欠です。テロの実行に向けた準備は秘密裏に行われるため、テロに関する情報のほとんどは断片的であり、個々の情報のみではその真偽や情報としての価値を判断することが困難な場合が多く、情報の蓄積と総合的な分析が必要となります。警察は、外国治安情報機関等との緊密な協力関係から、多種多様なテロ関連情報を交換・分析し、専門的な意見交換を重ねています。また、「米国における同時多発テロ事件」後、都道府県警察レベルでのパワーシフトにより、テロ関連情報の収集の強化や積極的な事件化を図るとともに、警察庁で情報の集約、総合的な分析を行い、分析結果を具体的な捜査活動、警戒警備活動に結び付け、テロの未然防止に全力で取り組んでいます。
 さらに、今後、イスラム過激派がテロを引き起こす際に、我が国においてイスラム諸国出身者が形成しているコミュニティを悪用する可能性が懸念されます。このため、警察は、不審動向に関する情報収集、不審点の徹底解明、伏在するテロ関連事案等の剔抉検挙を推進しています。


3 水際対策の強化

  テロリストの入国を防ぐためには、国際空港・港湾で、出入国審査、輸出入貨物の検査等の水際対策を的確に推進することが極めて重要です。このため、政府は、15年12月、現場における関係各機関の連携強化を図り、政府一体となった危機管理を実現するため「空港・港湾水際危機管理チーム」を設置、国際空港・港湾に「空港・港湾危機管理(担当)官」を置くことなどを決定しました。この空港危機管理(担当)官及び一部の港湾危機管理担当官には、都道府県警察の警察官が充てられており、これらを中心に各種事案を想定した訓練を実施するなど、関係機関と緊密な連携強化を図りつつ、水際対策の強化に努めています。
 また、16年6月には、バイオメトリクス(生体情報)を活用した出入国管理に関して、関係省庁が連携し、その推進を図るため、犯罪対策閣僚会議幹事会の下にワーキングチームが設置されたところであり、警察庁においては、同チーム等と連携を図りつつ、制度的、技術的な検討を精力的に行っています。

関西国際空港内での警戒活動(大阪)
関西国際空港内での警戒活動(大阪)


4 関係省庁との協力

  警察では、重大テロ等対策に関し、関係省庁との連携の強化を図っています。
 政府では、12月、内閣官房長官を本部長とする「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」において、「テロの未然防止に関する行動計画」を取りまとめたところであり、警察庁は関係省庁と連携してテロの未然防止等に資する諸対策を強力に推進していきます。
 そのほかの関係省庁との連携として、防衛庁・自衛隊とは、平素から重大テロ等が発生した場合には、必要に応じ、装備資機材の貸与、警察部隊の輸送支援等を要請するな ど、十分な連携の下で事態に対処することとしています。また、14年11月から、関係都道府県警察とこれに対応する陸上自衛隊の師団等との間で治安出動に際しての連携等に関する共同図上訓練を実施しており、同訓練の成果を踏まえ、16年9月、「治安出動の際における武装工作員等事案への共同対処のための指針」を作成しました。
 また、海上保安庁とは、「米国における同時多発テロ事件」以降、緊密に連携して原子力発電所に対する警戒警備に当たっており、15年6月からは、関係道県警察とこれに対応する管区海上保安本部等との間で、原子力発電所の警備に係る共同訓練を実施しています。

自衛隊との共同図上訓練(千葉)
自衛隊との共同図上訓練(千葉)


5 重要施設の警戒等

  テロ未然防止対策として、重要施設の警戒警備を的確に実施することは極めて重要です。警察では、組織の総合力を発揮して関連情報の収集・分析を行い、情勢に応じた警備計画を立案し、効果的かつ効率的な警戒警備を実施しています。
 自衛隊のイラク派遣等の諸情勢を踏まえ、総理大臣官邸や空港等の我が国重要施設及び米国関連施設等のほか、16年3月の「スペイン・マドリードにおける同時多発列車爆破テロ事件」の発生に伴い、新幹線を始めとする鉄道駅等に対する警戒警備の強化を図っています。

東京駅での警戒活動(東京)
東京駅での警戒活動(東京)


6 生物化学テロ対策

  警察では、生物化学テロの未然防止を図るため、関連物質の不自然な取引等に関する情報収集、生物・化学兵器に転用可能な物質を管理する事業者に対する盗難防止対策等の指導、生物・化学剤の空中散布に使用されるおそれのある小型航空機の盗難防止対策、保健・医療機関等との緊密な連携等を推進しています。
 また、万一、生物化学テロが発生した場合に迅速・的確な現場対処を図るため、8都道府県警察(北海道、宮城、警視庁、神奈川、愛知、大阪、広島、福岡)に、高度な装備資機材を配備したNBCテロ対応専門部隊を設置しているほか、全国の機動隊等にもNBCテロ対策班を設置しており、引き続き、体制の強化や装備資機材の充実を図り、生物化学テロ発生時における警察の現場対処能力の更なる向上を図っています。

NBCテロ対応専門部隊の訓練(東京)
NBCテロ対応専門部隊の訓練(東京)


7 特殊部隊等の充実強化

  警察では、ハイジャック、重要施設占拠事案等の重大テロ事件、組織的な犯行や強力な武器が使用される事件等を鎮圧するための特殊部隊(SAT)を、7都道府県警察(北海道、警視庁、千葉、神奈川、愛知、大阪、福岡)に設置しています。SATには、ライフル銃、自動小銃等の特殊銃、特殊閃光弾、作戦用ヘリコプター等が配備されており、実戦的訓練を重ね、部隊活動能力の充実強化に努めています。また、全国機動隊に銃器対策部隊を編成し、重要施設の警戒警備、銃器等を使用した事案への対処に当たっています。銃器対策部隊には、サブマシンガン、ライフル銃、防弾衣、防弾楯、耐弾仕様の装甲警備車等が配備されています。

特殊部隊(SAT)の訓練
特殊部隊(SAT)の訓練


8 スカイ・マーシャルの実施

  「米国における同時多発テロ事件」以降、航空機をハイジャックしての自爆テロの脅威が高まり、諸外国では、地上における航空保安対策の強化のみならず、スカイ・マーシャルが導入・強化されています。
 このような情勢を踏まえ、警察では、我が国の民間航空機へのスカイ・マーシャルの早期実施に向け、国土交通省等の関係省庁や航空業界との調整を進め、その結果、12月に開催された「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」の決定を踏まえ、スカイ・マーシャルの運用を開始しました。


9 サイバーテロ対策

  情報システムや情報通信ネットワークが国民生活や社会経済活動に深く浸透している状況の下、16年8月には、中央省庁等のウェブサーバに対して大規模なサイバー攻撃が敢行されるなどの事案が発生しており、これらサイバー攻撃が重要インフラ事業者等の基幹システムに対して行われれば、その被害は甚大なものとなり、国民生活や社会経済活動に多大な影響を与えます。
 このため、警察では、サイバーテロの未然防止、事案発生時の被害拡大防止及び事件検挙を目的に、警察庁に「サイバーテロ対策推進室」を、各都道府県警察に「サイバーテロ対策プロジェクト」を設置するなどしてサイバーテロ対策を推進しています。特に、都道府県警察では、重要インフラ事業者等を個別に訪問するなどして、情報システムの実態把握や情報セキュリティに関する助言・要請、事案発生時等における証拠保全措置の要請等を行い、連携強化に努めています。
 また、事案発生時においては、警察庁、関係管区警察局及び関係都道府県警察に「サイバーテロ対処本部」を設置するなどして、被害の拡大防止と事件捜査に当たることとしています。
 今後とも、高度化するサイバー攻撃手法に対応するため、装備資機材の高度化、情報の収集・分析能力の強化、要員の能力向上のための教育訓練等を行い、緊急対処及び捜査活動のための体制の充実・強化に努めることとしています。

サイバーフォース(機動的技術部隊)
サイバーフォース(機動的技術部隊)


10 国際協力の推進に向けた取組み

  国際テロ対策は、国際社会が直面する重要かつ喫緊の課題であり、国際会議において諸対策について活発な議論がなされ、警察庁も、これらの会議に積極的に出席しています。16年1月にタイ・バンコクで開催された「国境を越える犯罪に関するASEAN+3閣僚会議」には、国家公安委員会委員長が出席し、テロ等国境を越える犯罪と闘うために、各国が協力することなどを内容とする共同コミュニケを採択しました。
 2月にインドネシア・バリで開催された「豪・インドネシア共催テロ対策閣僚会議」には、警察庁次長が外務副大臣とともに出席し、テロの脅威と地域的対応、法執行機関の協力、法的枠組みの強化について議論しました。
 5月に米国・ワシントンDCで開催された「G8司法・内務閣僚級会合」には、警察庁次長が検事総長とともに出席し、テロ及び犯罪行為の防止、国境及び移動の安全確保、サイバー犯罪の防止とサイバー捜査の推進等について議論しました。
 6月に米国・シーアイランドで開催された「第30回主要国首脳会議」では、「海外渡航をより安全で容易にするためのG8行動計画(SAFTI:安全かつ容易な海外渡航イニシアティブ)」が採択されました。
 また、我が国は、テロリスト等の資産凍結等にも積極的に取り組んでおり、「テロリスト等に対する資産凍結等に係る関係省庁連絡会議」に警察庁も参画しています。12月末現在、我が国では、469のテロ関連個人・ 団体を資産凍結等の対象としています。
 このほか、テロ事件の捜査技術に関するノウハウの提供のため、7年度以降、国際協力事業団(現・国際協力機構(JICA))と共催で、開発途上国のテロ対策実務担当者を招へいし、「国際テロ事件捜査セミナー」を開催しているほか、テロ対策に関する地域協力を推進するため、8年度以降、外務省と共催で、「地域テロ対策協議」を開催しています。

「G8司法・内務閣僚級会合」に参加する漆間警察庁次長(当時、左から2人目)(5月、米国)(時事)
「G8司法・内務閣僚級会合」に参加する漆間警察庁次長(当時、左から2人目)
(5月、米国)(時事)

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