表紙・目次 はじめに 第1章 警備警察50年の歩み 第2章 警備情勢の推移 第3章 警備情勢の展望と警察の対応 資料編

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不法入国・不法滞在に係る諸問題
1 治安に影響を及ぼす大量の不法滞在者

1 出入国管理制度の概況

 ポツダム宣言の受諾により、昭和20年9月、出入国管理が連合国軍最高司令官の指揮監督下に入り、外国人の入国についても連合国軍最高司令官の許可が必要となりました。
 その後、入国制限が緩和されたことを受け、25年、戦前から続いた警察主導の管理方式から、外務省の外局として「出入国管理庁」(現入国管理局)を設置し、入国管理行政を一元的に行うことになりました。続いて26年「出入国管理令」が制定され、27年には、平和条約の発効に伴い、法律としての効力を認められ、同年8月からは所管庁を法務省に移し、組織名も「入国管理局」に改められました。56年には、難民の地位に関する条約等への加入に伴う一部改正が行われ、「出入国管理及び難民認定法」(以下「入管法」という。)と改められました。
 その後、平成元年に、在留資格の整備、不法就労助長罪の新設等を内容とする改正が行われ、9年には集団密航に対する罪の新設等の改正、10年には旅券の定義についての改正、11年には不法在留罪の新設、上陸拒否期間の延長、再入国許可の有効期間の延長についての改正、13年には上陸拒否・退去強制についての改正、15年には追加改正がそれぞれ行われました。


2 入管法違反の推移

 昭和20年代から30年代にかけては、韓国からの不法入国事件が最も多く、摘発された事件の大半を占め、特に21年には朝鮮半島からの不法入国者が後を絶たず、1万7、000人以上を検挙しました。40年代に入って、韓国以外の東南アジア諸国等からの短期入国者による資格外活動と不法残留事件が増加し始め、50年代以降も同傾向で推移しています。
 特に、60年代からは、いわゆるバブル経済期において、国内における労働市場の逼迫とそれに伴う国内賃金の上昇を背景として、多数の外国人が就労を目的として来日し、その流れは、最近における我が国の厳しい経済情勢にもかかわらず、依然として来日を望む外国人が後を絶たない状況にあります。
 外国人入国者数の推移をみると、戦後の我が国の復興、国際交流の活発化、国際航空路線の新規開設・増便等に伴って、法務省が統計を取り始めた25年には約1万8、000人であったのが、53年には100万人、59年には200万人、平成2年には300万人、8年には400万人、12年には500万人を突破しています。
 こうした国際化の進展の中、法務省入国管理局の電算統計に基づく推計によれば、我が国の不法残留者数は、統計を取り始めた平成2年には10万6、497人であったのが、4年には20万人を超え、5年の29万8、646人をピークに若干の減少傾向を示しつつも、15年1月1日現在22万552人と、依然として20万人以上の大量の不法残留者が滞留しています(図1参照)。
 加えて、正規の入国ではなく、密航等の手段により不法に入国し、そのまま本邦に在留する不法在留者が計上不可能であることから、不法滞在者は相当な数に上るとみられます。
 これら不法滞在者のほとんどは不法に就労しているとみられますが、不法就労よりも効率的に利益を得る手段として犯罪に手を染める者もおり、さらに、地縁、血縁等によって我が国国内で犯罪グループを形成し、あるいは我が国の暴力団や外国に本拠を置く国際犯罪組織と連携を図るなど、大量の不法滞在者の存在は来日外国人による各種犯罪の温床になっていると指摘され、我が国の治安に重大な影響を与えています。
 こうした情勢の下、警察における入管法違反の検挙人員は、昭和20年代から30年代前半までは1、000人台、40年代から50年代までは1、000人以下で推移していたのに対し、60年代以降急激に増加し、平成15年には、9、579人を検挙しました(図2参照)。
図1:不法残留者数の推移
図2:入管法違反送致件数・人員の推移

2 多発した集団密航事件

 密航事件については、前述したとおり、昭和21年には朝鮮半島からの不法入国者が後を絶たず、1万7、000人以上を検挙しました。また25年の朝鮮動乱とこれに続く韓国の不安定な国内情勢により、30年代前半までは、韓国からの密航事犯が多く、おおむね50年ころまで続いていたものの、韓国経済の復興、日韓国交の正常化等によって減少しました。
 これと相前後して、インドシナ難民であるボートピープルの流出が始まり、その受け入れを1万人枠を超えて推進した結果、これに乗じた偽装難民事件がみられるようになりました。
 平成元年5月、長崎県に107人の偽装ボートピープルを乗せた船が漂着したのを皮切りに、偽装難民事件が多発し、同年10月までに22件2、804人が漂着し、調査の結果、これらのほとんどは難民を偽装した中国人又は中国に居住するベトナム華僑であることが分かり、不法入国者として退去強制されました。
 警察庁では、2年から、警察及び海上保安庁が検挙した集団密航事件の検挙件数・人員の統計を取り始め、2年には1件15人の検挙でしたが、4年には急増し、9年には73件1、360人を検挙しました。
 集団密航者の大半は中国人で、こうした集団密航事件の多くには「蛇頭」と呼ばれる中国の密航請負組織の介在がみられました。
 密航請負組織は、相当の請負料を目的として、送り出し国での密航者の勧誘、引率、搬送、船舶や偽造旅券の調達、行き先国での密航者の隠匿、不法就労の斡旋等を分業により行い、集団密航事件多発の大きな要因となっています。また、請負料の取り立てをめぐって、殺人等の凶悪事件を引き起こしたり、受入組織を我が国国内に構築して広域的に活動し、一部では暴力団員との連携もみられました。
 船舶による集団密航事件は、9年をピークに減少傾向となり、密航用に仕立てた船舶で大量の密航者を搬送する手法は影を潜め、より発見されにくい少人数による密航、コンテナに潜伏する密航等が中心となりつつあり、犯行の巧妙化がみられます。
 一方、偽変造旅券を使用した不法入国事案については、昭和50年以前にはほとんどみられませんでしたが、最近では、偽変造技術の発達等により、航空機を利用して入国審査時に偽変造旅券の行使を看破されずに不法入国し、不法在留する外国人の検挙が急増する傾向にあります。

蛇頭が密航者の監視に使用した凶器、戒具等
蛇頭が密航者の監視に使用した凶器、戒具等
(平成10年7月、千葉)

3 不法滞在を助長する文書偽造事件等の多発

 前述したように昭和40年代に入り、東南アジア諸国等からの短期入国者による不法就労活動と不法残留事件が増加し始めました。
 また、外国人に対する技術指導を日本で効果的に行う必要性から56年に始まった「研修制度」、58年に政府の基本方針として提唱された「留学生受入れ10万人計画」等の各種制度・在留資格を専ら本邦での就労を目的に入国の手段として悪用し、不法に就労している実態が顕在化し、不法就労問題が深刻化しました。これを受けて平成4年、警察庁、法務省、厚生労働省の3省庁は、「不法就労外国人対策等関係局長連絡会議」、「不法就労外国人対策等協議会」を発足させ、定期的に情報交換を行い、合同摘発の実施等不法就労対策に資する具体的取組みを行っています。
 不法滞在を助長する文書偽造事件等については、日本人との婚姻関係を偽装する偽装結婚事案、中国残留孤児の家族を偽装する事案、旅券や外国人登録証明書を偽造して売買する「偽造工場」事案、在留資格認定証明書の交付申請書類の虚偽申請事案、不法滞在外国人が我が国の旅券を不正に取得する事案、犯罪収益等を不正に送金する「地下銀行」事案等を相次いで摘発した結果、その多くが暴力団や各種偽造ブローカー等が営利目的で組織的に引き起こしたものでした。
 とりわけ、最近、偽変造旅券を使用して入国し不法に在留していた外国人の検挙事案と正規の在留資格を取得して入国してきた研修生や留学・就学生等が失踪し不法就労している事案が多発しており、それらの背後には、偽造ブローカー、国外送り出し組織、国内での引き抜き・職業斡旋ブローカー等犯罪組織の暗躍がみられました。

【事例1】

 埼玉県警察では、東京入国管理局と連携し、平成16年3月、東京都内で日本語学校を経営していた会社役員を有印私文書偽造・同行使罪他8件で送致するとともに、関連被疑者9人を有印公文書偽造等で検挙し、25人を出入国管理及び難民認定法違反(不法残留等)で入管収容しました。
 本件は、同会社役員が、偽造文書を行使して大量の中国人を違法に呼び寄せていたもので、その手口としては、就学生を偽装、稼働先を偽装、家族滞在を偽装、短期商用ビザの不正取得、偽装結婚等多岐にわたり、現在まで判明しているだけで1、400余人の不法入国(企図者を含む)、在留に関与したことが確認されています。

【事例2】

 愛知県警察では、平成16年5月、岐阜県岐阜市所在の偽造工場を摘発し、パソコン等の偽造機材等約400点を押収するとともに、主犯格の中国人男性ほか偽造組織関係者の中国人男女7人を検挙しました。
 本件では、全国で初めて、外国人登録証明書の偽造用ホログラムシール、プラスチック板を外国人登録証明書の大きさに切り取る型抜き器、偽造用素材集として全国93自治体の公印の印影や運転免許証等の様式を記録した電磁記録媒体が押収されました。なお、偽造された外国人登録証明書と旅券は、セットで3万5、000円から5万円で販売されていました。

虚偽の申請文書を作成するために使用されたパソコン等
虚偽の申請文書を作成するために使用されたパソコン等
(平成15年11月、埼玉)

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